『対話──魔族の姫と“裏切られし者”』
第7話
『対話──魔族の姫と“裏切られし者”』
王都での“教師・安藤”への復讐を果たした俺たちは、ルナの案内で北東の渓谷地帯へと足を進めていた。
目的はただ一つ。
【異世界召喚】の真実──この世界と俺たちを繋いだ“根幹”の情報を手に入れるため。
「……なぜ“魔族”と接触を?」
学院での出来事以来、参謀となったルナが静かに問いかける。
「連中が敵だったのは、あくまで“王国視点”だ。
真実を知りたいなら、あらゆる立場の声を聞く必要がある」
「……論理的ね。だが、魔族は危険よ。特に“あの姫”は」
「構わない。危険を恐れていては、復讐も、正義も、何も手に入らない」
(そして俺は、もう──“失うもの”なんてない)
⸻
辿り着いたのは、かつて戦火で崩壊した魔族の旧都“カルメナ”。
その中心に、黒い礼服のような戦装束を纏い、椅子に腰掛けていた一人の少女。
──漆黒の髪、紅玉のような瞳。そして、圧倒的な存在感。
「……あら、来たのね。“人間の裏切り者”さん」
彼女の名は──
ユリシア=ル=ネフェリム
大戦で人類を幾度となく打ち破った、魔族最強の姫君。
そして今は、滅んだ一族の生き残り。
「俺の名はノクス。……用件は一つ、“召喚術式の核”について教えてもらいたい」
「ふふ……“交換条件”もなしに、情報をくれてやるほど私は甘くないわよ?」
「分かってる。だからこそ──取引をしに来た」
俺は背後に立つルナに目配せをする。
「魔族を迫害した王国の腐敗情報。
そして、召喚された者たちが捨てられている事実。
それを暴いて欲しいと願うなら、俺たちを使え」
一瞬、沈黙が流れる。
やがてユリシアは立ち上がり、俺の目の前まで歩み寄ってくる。
「面白い男ね。“人間のくせに”対等な目で私を見るなんて」
「そっちが対等に話す気があるならな」
見上げるような視線。ユリシアは、ふっと微笑んだ。
「いいわ。まずは“お試し”。情報の一部を渡す代わりに──一つ、依頼があるの」
「依頼?」
「“反逆の勇者”を討ってちょうだい」
その名に、俺とルナは顔をしかめた。
「勇者……? まさか、“勇者パーティの裏切り者”の話は本当だったのか?」
「本当よ。あの人間、召喚されてからこちらの勢力に擦り寄ってきては、“情報”を売り、私たちを欺いていた」
「……裏切られたのは、お前の方か」
「そう。だから罰を与えるわ。“裏切り者には、裏切り者の裁きを”──ふさわしいと思わない?」
俺はゆっくりと頷いた。
「受けてやるさ。だが、その勇者は……まさか、“アイツ”じゃないだろうな」
ユリシアは微笑んだまま言う。
「ええ。“勇者・一ノ瀬 翼”──今や王国の英雄、貴方の元クラスメイト」
俺の中で、再び黒い炎が燃え上がった。
(……一番憎んでいた奴の名前が、ようやく出てきた)
次回予告(第8話)
『反逆の勇者──クラスメイトへの裏切りと、勇者の“本当の顔”』
召喚された英雄、一ノ瀬 翼。
その裏で行われた“売国”と“私欲”。
ノクスの復讐劇が、最も深い因縁へと触れていく──!