『森で拾った小さな精霊──最弱と呼ばれた男に初めて差し伸べられた手』
仲間を増やす為に前回後書に書いた次回予告と異なります!
第3話:
『森で拾った小さな精霊──最弱と呼ばれた男に初めて差し伸べられた手』
翌朝、俺は森へと向かっていた。
昨夜倒した“沼喰い”の騒ぎが村で広まり、どうやら「外から来た奴が退治した」と噂になっているらしい。
俺はまだ名を名乗っていない。
それでいい。今はまだ、目立つべきじゃない。
力をつけて、確実に――“復讐”の時を待つ。
(もっと強くなる……必要がある)
グラムの話では、魔剣の力を完全に使いこなすには“魂の回路”を広げる必要がある。その方法の一つが、精霊との契約だという。
「……精霊か。ゲームでしか見たことねぇけど、本当にいるのか?」
『いる。だが普通の奴には見えない。お前の【鑑定】があれば、可能性はある』
それを信じ、俺は“古代樹の森”と呼ばれる禁足地へ足を踏み入れた。
薄暗い森。どこか空気が異質だ。小動物の気配すらない。
「……なんだ、この静けさ」
だが、突然。
「ぅ……うぅ……や、やめてぇ……っ!」
小さな泣き声が、森の奥から聞こえた。
俺は駆け出す。
木々を掻き分けた先で、俺の目に映ったのは――
小さな少女の姿。
体長はせいぜい30センチほど。白銀の髪、透き通るような翅を持ち、浮かぶように逃げ惑っている。
その子を追い詰めるのは、巨大な魔獣【影喰い】。
「間に合えッ!!」
咄嗟に、俺はグラムを抜いた。
『魔剣スキル:瞬撃【シャドウバースト】発動!』
黒い斬撃が一直線に走り、魔獣を一閃する。
「きゃ……!」
少女は地に落ちかけたが、俺が駆け寄ってすぐに抱きかかえる。
「大丈夫か……? 怪我は……」
「…………」
怯えたその少女――いや、小精霊は、俺を見つめたまま小さく頷いた。
「……ありがとう。た、助けてくれたの……?」
「ああ。間に合ってよかった」
「こんな、ちっぽけな私を……あなた、本当に……人間、なの?」
「そうだよ。だけど、他の人間とはちょっと違うかもな」
俺がそう答えると、彼女はぺこりと頭を下げた。
「私はリュミエル。癒しと契約の小精霊。ずっと……ずっと、一人だったの」
その言葉に、俺の胸が少しだけ痛んだ。
一人だった? それは俺も同じだ。
誰にも期待されず、必要とされず、異世界で見捨てられた存在。
けれど、目の前のこの小さな存在は、俺の中の“なにか”を温めてくれる気がした。
「なあ、リュミエル。お前……俺と組まないか?」
「え……?」
「お前が一人で寂しいなら、俺と一緒にいろよ。俺も、お前の力が必要だ。……強くなって、成し遂げたいことがあるんだ」
そう言った俺に、リュミエルはしばらく黙ってから、にっこりと笑った。
「……うん。あなたとなら、きっと……怖くない」
そして、ふわりと俺の肩に乗ってきた。
『契約成立──小精霊との精霊契約を確認』
同時に、ステータスが更新される。
⸻
【スキル:癒しの風Lv1/魔力共有Lv1/精霊通信Lv1】
【パッシブ:精霊再生/マナ循環】
⸻
「……すげぇ。これが……俺の力」
『小さいが、なかなか優秀だな。いい補佐ができたじゃねぇか、相棒』
俺は、リュミエルの髪を優しく撫でた。
「……よし、これで第一歩は揃った。次は──復讐の準備だ」
そう呟いたときだった。
「おーい! あんたか!? あの魔物を倒したっていう旅人は!」
森の外から聞こえてきた叫び声に、俺は静かに顔を上げる。
その声の主の名前は──絢瀬美琴。
かつて俺を“ゴミ”呼ばわりし、追い詰めた女剣士。
そして、今では王都で“奴隷落ち”したという噂の裏切り者。
(──会いに来たか。今度は、俺がお前を“選別”する番だ)
次回予告(第4話)
『再会と対面──かつての高慢女剣士が俺に跪いた日』
異世界での力の差が、かつての上下関係を塗り替える。
最弱と呼ばれた男が、裏切った女に下す“選択”とは──?