『お前には期待していない──最弱と呼ばれた鑑定士、異世界に立つ』
第1話:『お前には期待していない──最弱と呼ばれた鑑定士、異世界に立つ』
目の前が白く染まっていく中、俺の意識はどこか遠くに引きずられていった。
まるで夢の中を漂っているような、不思議な感覚だった。
「ようこそ、勇者たちよ!」
声が響いた瞬間、視界が一気に開ける。
そこには、金色の装飾が施された大広間。豪奢なシャンデリアと、大理石の床。俺たちの目の前には、王とおぼしき人物と数名の兵士たちがいた。
「な、なにこれ……マジで異世界転移じゃん……!」
ざわつくクラスメイトたち。
周囲を見渡すと、俺を含めたクラス全員が揃っている。教室にいたはずの俺たちは、今、ファンタジーRPGのような世界に召喚されたらしい。
「異世界召喚……チートとかあるやつ……?」
「うおっ、マジで来たのかよ……やべぇテンション上がってきた!」
「皆さんは、我が国を脅かす『魔王』を討つために、この世界に呼ばれました」
厳かに語る王の言葉に、誰もが息を呑む。
そして始まった“適性診断”。この世界では、召喚された人間に「職業」と「固有スキル」が与えられるらしい。
次々と光に包まれ、仲間たちの頭上に情報が浮かび上がる。
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【職業:聖騎士】
【スキル:神聖剣Lv3・自己再生Lv2】
「おおっ、俺すげえ! これ勇者パーティのメインだろ!」
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【職業:賢者】
【スキル:大賢者の叡智・魔力増幅Lv4】
「ふふん、頭脳派は俺に任せろ」
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誰もが強力な職を得て、興奮と歓喜の声を上げる。
そして、俺──佐藤和馬の番が来た。
頭上に表示された職業とスキルを見て、周囲の空気が一変する。
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【職業:アイテム鑑定士】
【スキル:鑑定Lv1・識別Lv1】
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「……は?」
「何それ、鑑定士って……地味すぎない?」
「鑑定って、ただアイテムの説明見るだけだろ? 戦闘スキルすらねーじゃん!」
「いやマジで空気読めよ、こんな大事な時に最弱職とか……」
クラスの空気は一気に冷たくなる。
王の表情にも、露骨に「失望」の色が浮かんでいた。
「……彼は不要です。辺境の村にでも送り、労働でもさせておいてください」
それが、王の言葉だった。
仲間たちは俺の目を見ることもせず、まるで“バグ”でも見たかのように視線を逸らした。
──誰も、俺に期待していなかった。
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◆ ◆ ◆
「ったくよ……マジでクソみてぇな人生だな、俺」
馬車に揺られながら、俺はそう呟いた。
行き先は辺境の村。魔王どころかモンスターすらあまり出ない、忘れられた地。戦力外通告を受けた俺は、護衛すらつけられず、ただ放り出されたのだった。
(……けど、これで終わる俺じゃねえ)
【鑑定】──このスキルには、まだ俺にしか知らない“裏”があった。
異世界に来てから、俺は気づいていた。
普通の鑑定士がただアイテムの性能を見るだけなのに対して、
俺の【鑑定】は、アイテムの“心”が見える。
──いや、正確には「アイテムと会話ができる」。
それに気づいたのは、村に着いた初日の夜だった。
村の納屋の隅に転がっていた、錆びついた一本の剣。
俺がその剣に触れた瞬間、頭の中に声が響いた。
『……ようやく、俺の声が聞こえる奴が来たか』
俺は驚いて、思わず尻餅をついた。
「な、なんだ今の……? 剣が、喋った……?」
『俺はかつて、魔王に仕えていた伝説の魔剣【グラム】。この百年、誰にも使われず、捨てられていた。だが、お前には見えるんだな。俺の本質が』
それが、すべての始まりだった。
そして次の日。納屋の地下に隠されていた宝箱からは、喋る盾、喋る指輪、喋る杖が次々と見つかり──
すべてが言った。
『お前にしか、俺たちは力を貸さない』
辺境の村で、俺だけに語りかける“伝説の装備”たち。
──最弱と言われたアイテム鑑定士。だが今、俺の足元には、世界を変える力が転がっている。
「……上等じゃねぇか。見てろよ、クラスの連中。お前らが笑った“最弱”が、世界をひっくり返してやる」
そしてその言葉通り、俺はこの村から世界最強への道を歩き出す。
次回予告(第2話):
『魔剣グラムのチュートリアル──“相棒”は元・魔王の右腕だった!?』