改変の連続による呪いの変化量
検証で忙しいというのに、警察から取り調べを受けました。
私に関わった人間の多くが不審な死を遂げており、殺人や自殺幇助を疑われたようです。
最初は誤魔化したり、白を切ることも考えたのですが、拘束時間が長引くのは避けたかったのですべて正直に話しました。
事情を知った警察の方々は、途端に胡散臭い反応をしていました。
オカルトに傾倒した私を、頭のおかしい人間であると見なしたのでしょう。
正直に話したのが功を奏したのか、すぐに解放してもらえました。
法律上、今の私は不能犯や迷信犯に該当するそうです。
検証の過程でほとんど意図的に人を死なせていますが、現代科学で呪いを証明することはできません。
検証自体は安全な行為ばかりですし、死ぬまでに日数を要します。
私が正当な手段で逮捕されることはまずないかと思います。
ただし「読むと死ぬ話」の効力は本物です。
警察もさすがに無視できないですし、今後も私をマークし続けるはずです。
呪いに勘付いた第三者が強奪に来る可能性だってあります。
これからは自衛も意識していくつもりです。
前置きが長くなりましたが本題に入ります。
今回は「読むと死ぬ話」をどこまで改変すると呪いが失われるのかを調べます。
検証には前回作成した「改変版」を使用し、これをベースに加筆修正を繰り返して進めていきます。
改変を担当するバイトの方々には、具体的にどういった変更を加えたのかも確認します。
トップバッターは森田さんです。
「改変版」を読んだ森田さんは、中盤に数千文字のオリジナルシーンを追加してくれました。
前後の展開を変えず、元は省略されていた展開を詳細に書いた形です。
さらに冗長と判断したいくつかのシーンを丸々削除しました。
これを「改変版2」と呼称します。
森田さんは数日後に自分の首を切り裂いて死にました。
二番手の根岸さんには「改変版2」を読んでもらい、オリジナルキャラクターを追加してもらいました。
本人の説明によると、シリアスなシーンをぶち壊す愉快なピエロらしいです。
元々のストーリー展開を考えた場合、明らかに不要どころか邪魔な役回りですが、今回の検証においては素晴らしい判断です。
これを「改変版3」と呼称します。
根岸さんは二日後に自分の首を滅多刺しにして死にました。
このことから「改変版2」の呪いは保たれていたと考えられます。
三番手の小室さんには「改変版3」を読ませた後、さらに大幅な改変をするよう指示しました。
指示を受けた小室さんは、まず舞台を中華風の異世界に変更しました。
さらに独自の特殊能力を採用し、濃密なバトルシーンを元の文章より多くなるほど追加しました。
もはやジャンルごと変わったそのバージョンを「改変版4」を呼称します。
小室さんは四日後に自分の舌を引き抜いて死にました。
このことから「改変版3」の呪いは保たれていたと考えられます。
四番手の船井さんには「改変版3」を読ませた後、原形が完全に無くなるほどの改変を頼みました。
アマチュア作家の船井さんは大いに張り切り、これまで以上に大胆な加筆修正を行ってくれました。
説明を聞いた限りだと、確かに原形は失われていました。
ベースである「翻訳版」や「改変版」の面影は全く感じられません。
おそらく文章量としては一割も残っていないでしょう。
これを「改変版4」と呼称します。
船井さんは半日後にタクシーに轢かれて死にました。
この後、私は「改変版4」を複数のアルバイトに読ませましたが、誰も死にませんでした。
つまり呪いが保たれていたのは「改変版3」までだったようです。
以上のことから、かなり大幅な改変でも「読むと死ぬ話」は効果を発揮することが分かりました。
ただし改変を繰り返すたびに死亡時期と死因が乱れました。
正確に使用するなら、なるべく改変を加えないのが良いようです。