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本当の初恋は、その直後に待っていた。近所の美容院で見習いをしていた娘だ。通学途中、駅へと向かう俺は、美容院に向かう彼女とすれ違う。一目惚れってやつだな。
一週間、二週間。すれ違いのまま過ぎていく日々。俺の恋心はその度募っていく。三週間目、俺は気付いた。彼女は火曜日、姿を見せない。もしかして? 俺の勘が冴えた。
俺の生まれたその町は、美容院が多くて有名だ。一度数えた事がある。二百メートル程の商店街の中、確か二十は越えていた筈。二十二か三だった。
俺は一軒一軒美容院を覗いてみた。嬉しい事に、美容院は大抵がガラス窓。中を覗くとすぐに彼女と出会えた。
けれどすぐには声を掛けられない。いきなり店に乗り込むなんて恥ずかしいだろ? だから俺は店が閉まる時間を調べて、彼女を待ち伏せた。一人では恥ずかしいからな、当時仲がよかった男を誘ったんだ。それが間違いの始まりだ。
あいつとは夜のツーリング仲間で、バンド仲間でもあった。残念な事に、高校のクラスメートでもあったよ。あいつの面影が生きている限り、俺は同窓会にも顔を出せない。今でも嫌なんだ。あいつには会いたくないんだ。本人がいようがいまいが、面影だけにも会いたくない。
俺は彼女から電話番号を聞く事に成功した。単純に嬉しかったよ。当時は携帯なんてなかった。正確にいうと登場はしていた。けれど今よりもあり得ない程大きく、ポケットの中に入れる事も出来ない。持っている人なんて見た事なかった。
俺はあまり頭がよくなかった。家に帰るまで電話番号を覚えていられる自信がなかったんだ。だからあいつにも覚えて貰う事にした。あいつの頭がよかったからじゃない。現にあいつは大バカだったしな。保険だよ。一人で覚えるより、二人で覚える方が確実だろ? それもまた、間違いの一つだ。
結果からいうと、一人で覚える事が出来たよ。俺だけじゃない。あいつも覚えていたそうだ。俺はその時確認さえしなかった。自分が覚えていた事自体に大喜びだったからな。
不安要素が全くなかった訳じゃない。彼女に声を掛け喜んでいた俺は、気付いていたのに気付いていない振りをし、その記憶を頭の片隅に追いやっていた。
俺との出会い以前に、彼女はあいつと出会っていた。電車の中、同じ車両に乗っていたそうだ。互いにその印象を覚えていた。あの夜、そんな偶然に二人は興奮していた。
俺はその日の内に電話をした。彼女は喜んでいた。デートの約束もした。デートをし、付き合う事にもなった。嬉しかった。幸せの始まり。同じ日の夜にもう一つの恋物語が始まっていたとも知らずにな。




