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プロローグ

     プロローグ


 この世界は狂っている。俺がそれを正しているんだ。どうして誰も気付かない? 多勢に無勢は愚か者の証だろ? 多数決なんてクズの言い訳じゃねぇか・・・・


 俺が何したって言うんだ! 放せよ! おい! ふざけるなッ! 俺はな、今まで警察の世話になるような事はしてねぇんだよ! 法律違反は一度もねぇしな! 交通違反切符だって切られてねぇんだぞ! 見せてやるよ。ちょっと待ってろ。ゴールドだぞ! 今財布を出すからよ。おいっ! やめろって、放せよ!

 分かった・・・・ おとなしくするって。だから放せって言ってんだよ! 悪い事なんてしてねえって! 本当だよ! 俺が嘘ついたことがあるか? 頼むよ・・・・ 今メシの途中なんだよ。テレビ見て風呂入って寝るんだよ。邪魔しないでくれよ。・・・・頼むからよ。

 こんな事して許されると思ってるのか? おい! いい加減にしろよな! こっちが下手に出てれば調子に乗りやがってよ! そっちがその気ならいいよ! 出るとこ出てやろうじゃねえかよ! こっちはな! 知ってんだぞ! てめぇらなんかクビだぞ! 有名な弁護士呼んでやるからよ。ビックリすんぞ。テレビにも出てくる有名人だかんな! 後で泣きついても知らねぇからな! 絶対許してやんねぇぞ! 覚悟しとけよな。俺は何もしてねぇんだぞ! 分かったから放せよ! 痛ぇって言ってんだよ!


 テレビカメラの前で騒ぎ立てる彼は、世間の注目を一身に浴びていた。コンビニ内での大量殺人事件。警察の包囲から逃げ出した彼は、自宅に隠れていた所を逮捕された。大声で叫ぶ彼の言葉は、誰の心にも届かない。全てが大嘘で、その場の感情を吐き出している言葉に過ぎない。

 彼が世間を騒がせたのは、二度目になる。一度目はヒーローとしてもてはやされ、二度目は凶悪犯として忌み嫌われている。

 彼はこの国で最悪の事件を犯してしまった。

 彼は最後まで気付いていなかったが、私は一度、彼がヒーローになる前に出会っている。彼のバンドのライヴ、その同じステージに立っていた。対バン相手で彼と同じベースを弾いていた。その時に少しの会話もしている。少しシャイな、人当たりのいい人だった。私は彼のライヴを見て、彼のファンになった。彼がヒーローになったあの日のライヴも観に行っている。

 そんな彼に私が興味を抱くのは当然として、私でなくともこれ程の事件を起こした彼に興味を抱く人は多い事だろう。しかし当初、私はこの仕事に乗り気ではなかった。

 彼を以前から知っていた事が知り合いの出版社の耳に入り、無理やり押し付けられている。仕事にもお金にも困っていた私には断る事が出来ず、曖昧な気持ちのまま仕事を始める事となった。

 仕事をしたくない理由は簡単だ。遠い過去の話とはいえ、知り合いの事を本にするのは抵抗がある。仲のいい相手で、世間的にもいい意味で認められているのならまだしも、全くの逆だ。正確には知り合いでもないのだけれど。彼は私を覚えていなかったのだから。

 嫌な事件を起こした嫌な人間の事を考えるのはいい気分ではない。私までもが嫌な人間になってしまう。そしてきっと、そんな本を読むのは嫌な人間しかいないだろうと考えていた。正直言って、彼が起こした事件、その後の態度、明かされる過去の出来事、知れば知る程彼を嫌いになる。私が知っている彼の姿は、私だけが知っている幻のように思えてならない。

 そんな私だったが、彼の話を直接聞き、その心が変化した。彼は確かに最悪の凶悪犯だ。しかし彼は、普通の人間でもある。彼を庇護するつもりはない。彼がした事は、どんな言葉を並べても許されない。

 ここで述べている明らかになったという過去の出来事は、テレビなどで取り上げられている噂に過ぎない。本当の過去が彼の話の中にどれ程存在しているかは不安だが、ある程度の下調べは済ませている。彼が語った過去にどれだけの意味があるのか、私には分からない。しかし、テレビの言葉よりはマシかも知れない。テレビでの話は、その殆どが噂に過ぎない。真実なんて、ほんの少しも隠されていないように感じられる。

 彼がどんな人間であるのか、どんな人生を送ってきたのか、本当に近い彼の事を少しでも多くの人に知って貰いたいと思い、この本を書く決意をした。報道されている彼の姿とは違う、実在する彼の姿を見て欲しい。その思いから、彼の言葉をそのままに記している。彼の息遣い、感情の起伏を感じて貰えれば幸いだ。そこにはきっと、彼の真実が隠されているのだから。どうかそこを読み取っていただければと感じる。

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