前触れ。
ジャンルが何なのかよくわかんないので分類してません。
月明かりのない、薄暗い夜のことだった。
ひゅっ、ごつん。
ひゅっ、がつん。
何かが風を切る音と、重く打ち据えるような音が街灯の光も届かない路地裏に響く。
「やめ゛、でぇっ! いだい! いだい゛のお゛!」
絶叫。悲痛な声。
冷えたアスファルトの上。倒れ伏した少女は、襲い来る痛みから逃れようと必死に手を伸ばす。
なんで、どうして私がこんな目に?
痛みで意識を手放しかければ、今度はその痛みに引き戻される。
淡々と振り下ろされる狂気が、下半身に痛みを与えては感覚を奪っていく。
ひゅっ、がつん。べちゃり。
ひゅっ、ごつん。べちゃり。
聞き慣れない音。耳障りな水音。
冷たくて、熱くて、痛くて。逃げ出したいのに、身体がいうことをきいてくれない。
自分の下半身がどうなってしまっているのかなんて、考えたくもないけれど、多分、きっと、もう――。
「戻らないねー、もう。ダメになっちゃったね?」
耳元で囁かれた言葉に、背筋が跳ねる。
「もう走れないし、歩けないし、立てないかもね」
明るい声色。
友人にでも語りかけるかのように。
得体の知れない襲撃者は、楽し気に言葉を続ける。
「でも、いらないならいいよね。置いていけばさ。せっかく、手伝ったげたんだし」
暗がりと、目深に被ったフードに隠れた顔が、確かに笑った。
痛みと涙で滲む視界の中で、確かに。
「よかったね。いらない足、置いていけて」
くすくすと、小さく笑い声が聞こえて。
それが、ゆっくりと遠ざかっていく。
その言葉が、どういう意味だったのか。
どうして自分が、こんな目に遭わなければならなかったのか。
何ひとつとしてわからないまま、小さくなっていく笑い声に引っ張られるように、少女の意識は闇へと落ちていく。
「――またいらなくなったら、貰いにくるからね」
そんな言葉が聞こえたような、聞こえなかったような気がしたのが最後。
静寂が訪れた路地裏で、少女はひっそりと意識を断った。