防衛衆と異形
ヒロイン自体は登場しておりますが、出番はまだ先になります。今しばらくお待ちください。
大吉は腹を抱えて、今にも笑い転げんばかりに、笑っている。そのまましばらく笑っていたが、やがてひとしきり笑い終えたのか、その笑い声は段々と小さくなっていく。
だかその顔には笑顔を浮かべたままだ。
「度胸か!いいぞ、度胸があるやつは好きだ!」
そういって白悠に笑顔を向ける。先程までの怒気が嘘のように上機嫌だ。
「とんだ不良品を押し付けられたかと思ったが、中々どうして面白いじゃねぇか。お前シュウとかいったな?どんな字を書く?」
(よし!勝った!)
大吉の反応に勝利を確信し、白悠は内心ガッツポーズをする。
「白いに悠久の悠と書きます。」
「ほう、良い名前じゃねぇか。」
そういって白悠の名前の漢字を呟く。そして再度白悠に視線を向ける。その目は白悠を真っ直ぐに見据えていた。
「はっきし言ってお前は、あんま防衛衆に向いてねぇと思ってた。体を鍛えてる様子もなければ、武器も使えないと言うし、肝心の五行も素人ですらねぇ。」
ぼろくその評価である。だが大吉の評価は概ね正しいため白悠は反論出来ずにいた。
「だが、確かにお前自身が言う通り度胸がある。それに少しばかり頭も回るみてぇだ。いいぜ、気に入った。白悠!お前を防衛衆の一員として歓迎する!」
そういうと大吉は立ち上がり、白悠に向かって右手を差し出す。
白悠も立ち上がると笑顔で右手を差し出し、2人は握手を交わす。
「強力な五行使い云々の件も、忘れんなよ?」
そして釘も刺されるのだった。
握手を解いたのち、2人は座り直す。その際に大吉が白悠に座布団を差し出してくれた。これまでは畳の上に直だった為、地味にありがたい。
「さて白悠、お前はどれくらい防衛衆について知ってる?」
「正直に言えば、何も知らないです。」
斡旋所にて防衛衆について紹介された際、自らが出来る仕事が無いと言われて焦っていた白悠は、防衛衆について反射的に飛びついた。白悠が悪い部分もあるが、防衛衆について何も説明せず、この仕事を紹介した橘という女性も色々とおかしい。
順番が前後するが、今ここで白悠は大吉から防衛衆について教えてもらおうと思っていた。
白悠の返事に大吉は呆れた表情を浮かべた。白悠は防衛衆について斡旋所では何の説明も無かった事を話す。
「随分といい加減な対応だな?あの菊川の野郎にしては対応がいい加減過ぎるような…」
「実は最初は橘という女性に対応してもらって。」
「橘ぁ!?なる程道理でな。菊川の野郎、さては押し付けられたな。」
大吉は橘について話してくれた。どうもこの橘という女性、斡旋所の中でも悪評が多い事で有名らしい。対応がいい加減な上に自分の事情や好みで仕事を紹介する為、トラブルが絶えないという。
白悠は斡旋所でのやり取りをもう一度、詳細に誰が何をしたのかまで話をする。
「わかった。おそらくだか、菊川はお前の五行適性について伏せたのは確実だが、防衛衆について何も知らないとは思ってもみないだろう。橘からは防衛衆の希望者が来たとしか聞かされてないんじゃないか?」
大吉から斡旋所のシステムについて説明される。斡旋所は基本的にはハロー〇ークと同じように雇用側と求職者のマッチングを行う。しかし国営という関係上、防衛衆や役所などの国関係の仕事を優先的に紹介するようになっているようだ。紹介数にはノルマがあり、採用となると紹介した職員に賞与が出るようだ。
白悠は橘のボーナスに利用された形らしい。もしかしたら、紹介出来る仕事が無いというのも嘘かもしれない
(あのヤロー!)
橘は女性なので、正確にはアマと言うべきだか、白悠は橘に対する怒りを募らせる。
そんな白悠に大吉は同情するような視線を向けた。
「ま、しょうがねぇよ。元気だせ。順番は前後しちまったが、俺から防衛衆について説明しよう。」
そういうと大吉は防衛衆について説明してくれる。
防衛衆は国営の組織だ。異形と呼ばれる人間に害をなす存在を討伐する役目を持った者達。一部例外はあるかま基本的には志願者によって構成さらている。
現在の人員は50名。正しこれは総数であり、後方支援を行う人員も込みの数のため、実動部隊はこれよりも少ない。更に傷病で戦えない人員も含めると実動部隊は30名程になるという。
主に国の周辺に現れる異形と呼ばれる、人に危害を加える魔物を定期的に、あるいは突発的に討伐し、周辺地域の安全を守る。それが防衛衆という仕事の概要だ。
戦いを生業とする為怪我や死人が多い危険な職業である。その為就きたいと思うものも少ない上に、怪我や死亡での脱退も多い事から常に人員不足となっている。
それに加えて最近では予算が減らされているようである。予算が減らされた理由を大吉は教えてくれなかったが不機嫌そうな顔をしていた為、余程面白くない理由なのだろう。
白悠は防衛衆については大まかな内容は理解した。そして次に最も重要な疑問を口にする。
「大吉さん、異形って何ですか?」
「お前、本気で言ってるのか?」
ギョッとした様な表情をしている。余程非常識な事を聞いたらしい。
「白悠、お前どうやってこの国に来たんだよ?」
それは白悠自身が知りたい内容だ。だがそんな疑問を口にする訳にもいかなかった。
大吉の口ぶりから察するに、この国にやってくる過程で遭遇する事が普通らしい。
「途中までは歩きで、運良くこの国に向かう馬車に遭遇して乗せてもらえました。」
考えていた設定を答える。
「道中で遭遇しなかったのか?何かこう、変なのと。」
そもそも道中が嘘である以上遭遇のしようがない。
「いいえ、しませんでした。」
「ほう?それは運が良かったな。普通は大なり小なり遭遇するもんなんだが?」
ふーむ、と大吉は何か考えるような素振りをした後、異形について語り始めた。
異形とはいつからいるかも分からない、人間に害を成す存在だ。魔物と呼ばれることもあるらしい。人間への被害もピンからキリであり、畑を荒らされるといった軽いものから国一つを滅ぼすという災厄級まである。流石に国一つが滅びる程の規模は中々無いものの、小規模な村一つが無くなるのは珍しい話でも無いようだ。
異形と呼ばれる理由は文字通り、通常の人間や動物とは異なる形をしている事から異形と呼ばれるらしい。。
大吉曰く、口で説明するのが難しい独特の姿をしているそうだ。
この国の周辺にいる異形は、放置をすれば街道を行く人々や、周辺にある街や村を襲い、最悪滅ぼしてしまう程の危険な個体も少なくないという。
「以上がおおまかな異形の内容だ。」
「良く分かりました。ありがとうございます。」
白悠は素直に礼を述べる。
「さてともう一度練兵場に戻るぞ。お前を正式に迎え入れる事を伝えなきゃならんからな。」
大吉は立ち上がると、戸を引き、歩き始めた。白悠もその後についていく。
白悠の防衛衆での日々が始まろうとしていた。