共和国滅亡への歩み
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リティ達が『“爆炎の魔導師”は人間じゃなくてバケモノなんだね。へぇ〜……』と、思ってから10日が経った。
その間に共和国は、甚大な被害を被っていた。
本部に続いて海軍第1基地と第2基地を失い、実質海軍を失った。
3ヶ所の北部警戒砦を失い、北原への守りを失った。
西部方面司令部を失い、西部方面軍は機能しなくなった。
首都近郊の5つの基地を失い、首都は丸裸になった。
この状況が突き付けられる度に、プデト共和国上層部では国外に脱出しようと云う者が大勢いたが、その悉くが飛行機やヘリの墜落によって命を落とした。
そして、その無責任に逃げ出そうとした者達の所為で、共和国は降伏を決断する事も出来なかった……
首相を含む多くの議員が行方不明で、国の意思決定たる議会を開く事すら出来ない。
仮に開いても、人数が足りず、過半数の賛成が得られないのだから意味が無い。
民主制の為、序列が存在しない事が、共和国の逃げ場を失わせていた……
更に、有事の際の臨時決定権者ももう居ない。
共和国軍元帥と共和国中央防衛軍大将は、急遽行った北部警戒砦への視察の際に行方不明になっている。
南部方面軍、西部方面軍、海軍の各大将達も行方不明。
最早、軍の降伏宣言に名前を使える者すら居ない状況だった。
共和国内は、首都を含めて国中大混乱だ。
報道では、ハティオール王国との戦争に、“爆炎の賢者”と呼ばれる、“爆炎の魔導師”の弟子が戦線に投入されて、共和国軍が多大なダメージを受けていると言っているが、たった1人の“戦闘魔法使い”の所為で国が傾くなど誰も想像出来なかった。
しかし、現実問題として“爆炎の賢者 ティアリル マトゥエナ”の魔の手は既に首都にも指先を掛けていたのだった…………
「其れにしても、ティアリル殿が味方になってくれて本当に良かったですよ。
もしも、姫様と一緒にティアリル殿との交渉に行った時に団長が気絶させてくれずにティアリル殿に斬り掛かっていたらと思うとゾッとします」
首都攻撃の作戦会議の為、全員揃って夕食を取っていると不意に思い出した様にスインが言って来た。
プデト共和国首都壊滅作戦も大詰めだ。
ティアリルとの出会いを思い出したのだろう。
「スインさん、ロイヤルガードのあんたがそんな弱腰で良いのか?
もしかしたら、此れから、オレよりももっと厄介なヤツを相手にしなきゃいけないかもしれないんだぞ?」
「え?首都防衛軍にそんなヤツが居ましたか?」
みんなワイワイと食事をしていたが、不意にティアリルが真剣な顔で不吉な事を言った為、全員がスインとの会話に耳を傾けた。
「いや、もう少し先の話しだ。
ラーン王がどう云った形で戦争を終わらせるのかは知らないが、共和国の領地に全く手を出さないと云う事は無いだろう。
大山脈には鉱山も多いから最低でも山脈の北側迄は国土を拡げる筈だ。
そうなったらプデト共和国の西、フェル・ネテム王国と隣接する事になる。
フェル・ネテム王国には、“氷結”が居る」
「!!“十二人の大魔導師 トゥエルウィザード 氷結の魔導師 氷の女王 ヘフト ファン ネテム”ですね」
リティが、フェル・ネテム王国の真の支配者と言われる大魔導師の名を口にした。
「ああ。“時間さえも凍らせる”と言われる、じーさんと同じ“十二人の大魔導師 トゥエルウィザード”のバケモノだな。
嘘か本当か、70を過ぎている筈なのに、見た目は10代の様らしいな」
バッ!!
「…………な、何ですか?
言っておきますが、私はちゃんと20代ですからね!!」
ティアリルの言葉に全員がミルクを見た。
一体何が『ちゃんと』なのかは分からない。
ミルクは見た目12、3歳だ。
「まあ、オレも会った事は無いから、実際にどうかは分からないが、魔力の高い人間は、長生きで若く見える事が多いからな」
そう言いつつも、ティアリルのミルクへの視線は外れていない。
何故なら、“若く見える”のは老化が遅いだけで、“成長が遅い”訳では無いからだ。
ミルクの見た目年齢には適応されない。
「じーさんも100歳は余裕で超えてただろうし、ゴライオスおじさんもラーン王と同年代には見えなかっただろ?」
「……確かに父上は、大分若造りでしたね」
リティの言葉にルティも頷く。
「話しが逸れたが、要はスインさん達は此れから大変かもしれないから頑張れって事だ」
「ティアリル殿以上のヤツが相手じゃ、オレなんか肉の壁にもなんないですよ……」
夢も希望も無い話しはさておいて、本題の首都壊滅の作戦内容だ。
と、言っても今まで通り、ティアリルが魔法で攻撃、他の者はヘリを守りつつ、次のポイントへ移動だ。
唯一の違いは今回が最後の攻撃目標の為、ティアリルを回収後は、そのまま王都に向かって帰還すると言う事だけだ。
今迄は、移動が半日、待機が半日を繰り返して、魔力が満タンの運転手を1チーム維持して交代していたが、後は帰るだけなので昼夜交代で運転してさっさと帰る予定になっている。
油断は禁物だが、帰る分にはいざと云う時はティアリルの魔法で帰れば済むことだ。
一通りの話しが終わった後で若干だが全員気持ちが浮き足立っている。
たった10数名で一国を落とし、戦争を終結させようとしていたのだ。
全員が命を捨てる覚悟で来ていた。
その任務が間もなく終わろうとしている。
其れも最高の結果と言って良い形でだ。
浮かれてしまうのも仕方がない。
しかし、其れは危険だ。
「全員に言っておく。
色んな物語で良く出て来るセリフだが、『家に帰るまでが遠足だ』。
完全に追い詰められている共和国が形振り構わずとんでもない事をする可能性も。
帰還途中に偶然、北原から迷い出て来たドラゴンに遭遇してしまう可能性も。
たまたま、旅行中のトゥエルウィザードに出会って、遊び半分で撃墜される可能性も。
ゼロじゃない。
最後の最後まで絶対に気を抜かない様に」
「「「!!はい!!」」」
なんだかんだで、ティアリルはしっかりとこのチームを纏めていた。
そして、“プデト共和国首都壊滅作戦”最後の戦いが首都プデテーオを舞台に始まろうとしていた…………
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最後の戦いは終わった。
何の事は無い、ティアリルは結局、サウサミンの街を壊滅させた『破滅の絶対真空 ディストラクション アブソルネス ヴァキュアリー』を首都でも使って一撃で壊滅させたのだ。
サウサミンの街を全て覆って使った事で周囲迄破壊し尽くしてしまったので、首都では半分くらいを覆う範囲で使ったが、結果、街は跡形も無くなった。
今まで同様に超高空から魔法を放った為、誰も気付かず迎撃部隊がやって来る事も無く終了した。
そんなティアリルが今、何をしているかと云うと……
「ダンストンさん、その機械はもう少し奥に。
アンさん達のソレは薬品類だから、そっちの棚にラベルをコッチにちゃんと向けてから固定してくれ」
結局、全然使わなかった機材や材料をティアリルの部屋や実験室に運び込んでいた……
「ティアリル殿……
そんなに慌てて運び込まなくても、陛下がティアリル殿に、物資を返せとは言わないと思いますが…………」
「リティさん、勘違いして貰っては困る!!
例えラーン王が返せと言っても返すつもりは無い!!
だが、みんなが降りたら此れを全部、自分で仕舞わないといけなくなるだろ?」
「…………我々、ロイヤルガードは便利屋では無いんですが……」
「作戦行動中の物資の運搬はロイヤルガードの仕事の内だ。
言ったろ?『家に帰るまでが遠足だ』って。
だから、まだ、みんなオレの指揮下の筈だ」
「隊長、良いじゃないですか。
立つ鳥跡を濁さずって言いますし、ちゃんと片付けて降りれば」
「流石、ダンストンさんは話しが分かるな。
リティさんもダンストンさんを見習ってキビキビ運んでくれ」
「はぁ〜〜……。分かりました。
運び込ませたのは私ですから、ちゃんと片付けます…………」
ティアリル達を乗せたフェンリルは、ハティオール王国領内に帰って来た。
途中、ハティオール王国軍を発見したが、最前線はサウサミンの街跡地辺り迄来ていたので、ティアリルが王城に戻って来た際の報告を受けて進軍したのだろう。
今回の作戦も、今夜の飛行で明日の午前中には王都に到着して終了だ。
「……ところでティアリル殿、王都に戻られたら、このフェンリルはどうされるのですか?」
このフェンリルで取る最後の晩餐となる夕食を全員で取っていた時、ダンストンから質問が入った。
「今のところ使い道はないし、オレは運転出来ないけど、とりあえず山に持って帰るかな?」
「そうですか、勿体無いですが仕方ないですね。
フェンリルを動かそうと思ったら運転手を3人は雇わないといけませんし、陛下からの褒賞品を売る訳にもいきませんしね」
「ダンストンさん、もしも金に困ったらオレは売るぞ?
ただ、金に困ってないから売らないだけで」
「しかし、陛下からの褒賞品を売られるのは大変な不敬ですし、フェンリルだと分かれば買い手が付かないでしょう」
「そんなの他の国に売るか、バラして部品で売れば良いだろ?
幸い、オレは航空機をバラすのは超得意だからな」
「バラすのですか?
フェンリルは1年以上掛けて建造された超高級機なんですけど……」
「ダンストンさん、そんなに残念そうにしなくてもオレはそうそう金に困る事は無いから心配する事はあんまり無いだろう」
「ティアリルさんは、お強いだけで無く、お金持ちなんですか?」
ティアリルとダンストンの会話にアンが目を輝かせて割って入って来た。
「…………アンさんには言いたく無い……」
「そんな!!」
悲しげなアンに、大きな溜息と共に答えたのはリティだ。
「アン、何言ってるの。
ティアリル殿はマトゥエナ老師の後継者なのだから、国王陛下よりもお金持ちに決まってるでしょ」
「!!陛下よりも?!どう云う事?」
「何で第7の貴方が知らないの?」
「だって、マトゥエナ老師の事は、近衛騎士団 ロイヤルガード 第7隊じゃあ、禁忌だもの。
マトゥエナ老師に関しては、詮索も調査も一切禁止だったから何も知らないわ」
「そうなの?マトゥエナ老師はお若い頃から世界中で活躍されて、世界中の国々から莫大な報奨金を数え切れない程、受け取られているから、世界でも10指に入るくらいのお金持ちよ」
「リティさん、人ん家の台所事情を堂々と言うのはあんまり関心しないな」
「は!!すいません、つい、当たり前の事だと思ってしまって……」
「ティアリル殿、その大金はもしかして、あの家にあるんですか?
留守にして大丈夫なんですか?」
ティアリルの家に行った事のあるスインが聞いて来る。
スインの目には鍵すら掛けていない、とても無防備な家にしか見えていなかったからだ。
「ああ、大丈夫だろ?
あの家はじーさんが金庫代わりに建てた家だから、ちょっとやそっとの爆撃じゃあビクともしないし、金目のモノを目指して侵入したら生きて出られないだろうしな。
まあ、食器や絨毯を盗んでも其れなりの金になるだろうから、その時は買い替えないといけないけどな」
「……ティアリル殿……
ちょっと聞くのが怖いんですけど、爆撃されても平気ってティアリル殿の家の黒い壁ってもしかして……」
「ああ、多分、想像通り、黒竜の鱗だよ。
じーさんが昔狩った黒竜の鱗を使ってるらしい」
「!!やっぱり!!
じゃあ、盗みになんか入らなくても、壁を削って帰れば大儲けじゃないですか!!」
「どうやって?」
「え?」
「どうやって、削るんだ?
絵本とかになってる、じーさんの暗黒竜退治の物語、本当らしいぞ?
じーさんの魔法すら効かなくて、体内に入って退治したらしい。
あの壁もじーさんが全力で魔力を込めた手刀で何ヶ月も掛けて少しずつ削ったらしい。
あの壁を削れるくらいの魔法が使えるなら、泥棒なんてしないだろ」
「な、なるほど……」
「残念……」
言い出しっぺのスインだけで無く、アンまで残念がっている……
いや、声には出さないが、何人か残念がっていた……
「なんか、どうでも良い話しになったな。
まあ、ダンストンさん、簡単に売る事は無いから」
「そうですか。
ですが、逆にそれだけ金が有るなら運転手を雇っても良いんじゃないですか?」
「いや、誰があんな山の上に住みたがるんだよ。
其れに、オレは移動にヘリは必要無い。
まあ、人の住んで無い所に長期の調査なんかに行く可能性もあるから移動用の別荘として使う可能性があるくらいだ。
その時には、電気を通す為に誰か雇うかもしれないけどな」
「ティアリル様!!その必要はありません!!」
何故か力強い言葉と共に、ルティが立ち上がった!!
「私がティアリル様に着いて行きますから!!」
「いや、長期で出掛ける時って言ったろ?
任務じゃ無いのにロイヤルガードが長期間、王都を空ける訳にはいかないだろ?」
「いいえ、長期で出掛ける時に着いて行くと言っているのではありません!!
私はロイヤルガードを退団して、此れから先、ずっとティアリル様に着いて行きます!!」
「!!ルティ、一体何を!!」
ルティの突然の発言にリティが凄まじい動揺をする中、アンが恐怖の表情でティアリルに聞いて来た。
「ティアリルさん、もしかして、また“アノ恐ろしい魔法”を?!」
「いや、オレは何もして無い……」
「リティ姉上、お世話になりました。
私は明日、王都に着いてからはティアリル様の元に行きますので早々に荷物を纏めて家を出ます!!」
「な、そんな急に……」
「ちょ〜〜っと待ったぁ〜〜!!
ルティ!!また抜け駆けする気?!
ティアリル様!!私もロイヤルガードを退団して着いて行きます!!
もちろん、一生着いて行きます!!」
混乱するリティに今度はメイムが爆弾発言を投下する。
「な!!メイムまで!!2人共、一体何を言ってるんだ!!
そんな、簡単にロイヤルガードを退団するなどと!!
其れに、ティアリル殿には、スティート姫様と云う方がいらっしゃるんだぞ!!」
大きな声を上げるリティに、ルティは自信満々に腰に手を当てて言い放った。
「リティ姉上、問題ありません!!
今回の任務が終われば、近衛騎士団 ロイヤルガード 第3隊は、警護対象がエイクレス殿下に変更になって男性中心の部隊に再編成される筈です。
なので、私が退団しても影響はありません!!
其れと、スティート姫様についてもティアリル様から幻獣の巫女のお力を借りられるだけで、ご婚約やご結婚はされないとハッキリ聞いています!!」
「!!ティアリル殿は私にはこの世界にしがらみは作らないと……」
ルティの言葉に動揺するリティに、ルティは更なる追い討ちを掛ける。
「私も最初はそう言われましたが、其れも問題ありません!!
が!!姉上には教えません!!」
「!!え、なんで?!」
ルティの言葉に動揺しまくりだったリティが、不意に普通に質問した為、ルティも一瞬固まってしまい、そのまま明後日の方を向いて、
「…………リティ姉上には、ロイヤルガード隊長としての大切なお務めが有りますから、下手な希望を与えるのが忍びないからです……」
と言った。
「ルティ…………。
さっきは第3隊は再編成だと言って、副隊長のメイムも知っていて、その理由はどうなの?」
「…………メイム、貴方も何か言って!!」
「え?!私?…………隊長は……その…………ハティオール家を継がれないといけませんし……」
「!!そう!!姉上、それです!!」
「なんですか、その取って付けた理由は!!」
「なら正直に言います!!
姉上が居るとキャラが被るからです!!
見た目も名前も!!
もしも、将来、ティアリル様に『4年前のリティと同じだな』とか思われたらイヤだからです!!」
「そんな事は……」
「あり得ます。
私のブラジャーは、4年前の姉上と同じサイズです」
「……………………」
リティ、ルティ姉妹プラスメイムのやり取りをワタワタ聞いていた一同だったが静まり返る。
みんな思ったのだ、「あり得るかも……」と…………
「なあ、どうでも良いが、オレの意見は?」
「…………ともかく、先ずは陛下に全て報告して、この話しは其れからにしましょう……」
「いや、だから、オレの意見は?」
▪️▪️▪️▪️
ハティオール王国 謁見の間
「……ティアリル マトゥエナ殿、報告は聞いた。
此度の成果、見事としか言いようが無い。
流石は“爆炎の魔導師 マトゥエナ老師”の弟子、“爆炎の賢者”の名に恥じぬ活躍だ。
今夜は祝勝の宴を用意してある。
その場で、今回の報酬である、スティートを与えよう………
と、思っておったのだが…………
ティアリル殿、メイムとルティの話しは、どう云う事なのだ?」
威厳有る雰囲気でティアリルを迎えたラーン王だったが、不意に困った様な顔に変わった。
そして…………
「どう云う事とは?」
「メイムとルティは、本日付けで近衛騎士団 ロイヤルガードを退団し、ティアリル殿と共に暮らすと言っておる。
スティート1人では不満だと言う事か?」
「…………ラーン王、オレはスティート姫を幻獣の巫女として欲しいと言った筈だ。
もしかして、リティさん達がみんな、オレがスティート姫と婚約するだの結婚するだの言っていたのは、ラーン王がそう言ったからなのか?」
「…………そうで在るよな…………。
いや、ワシもティアリル殿と同じ様に考えていたのだが……」
歯切れの悪いラーン王。
すると、またもや、奥の垂れ幕の裏からスティート姫が現れた…………
「ティアリル様。
ティアリル様は、お姉様の命が欲しいと仰られた筈、其れは、つまり、その……
け、結婚をその、すると云う事では無いのですか?
其れとも、其れとも!!
わ、私がお姉様よりも、その、女性としての魅力が無いからですか?」
「…………ラーン王…………」
「いや、ワシではなく…………。
おそらくだが…………
アフロディーテが勘違いをしていて、スティートは其れをそのまま勘違いしたのではないかと思うのだ…………」
「…………スティート姫、オレがアフロディーテ姫に言ったのは、幻獣世界ルシオンに行く為に幻獣の巫女の力が欲しいと言ったんだ。
幻獣世界ルシオンに行けば、もう二度とこの世界テワイリアには戻って来られないかもしれない。
だから、命をくれと言ったんだ」
「其れは分かっています」
「だったら……」
「ですから、お姉様は幻獣世界ルシオンでティアリル様と2人きりで添い遂げると仰られていたんです。
2人の他に人は居ないのだからと。
私もそう思っていました…………」
「…………そう云う事か……」
「なのに……
なのに……
私だけで無く、メイムとルティまで!!
私と云うモノがありながら!!」
「…………ラーン王、助けてくれ……」
「ティアリル殿、其れは無理だ。
スティートは、巷で噂の“雷光姫”の片割れなのだ。
ワシでは殺されてしまう」
「……“雷光姫”の片割れ。
そうか、メイムの言っていた“雷光姫”の真相っていうのはそう云う事か……」
「ティアリル様!!決闘です!!
ティアリル様が勝てば、メイムとルティとの事も認めましょう!!
しかし!!
私が勝てば、金輪際、他の女性との関係は認めません!!」
「ラーン王、オレは今、猛烈にラーン王の教育にモノ申したい……」
「すまん、ワシも何故こうなったのか分からんのだ……」
『オレは女難の相でも出てるのか……』
そんな事を思いながら、スティートの後を着いて中庭にやって来た……
「ティアリル様、私は武器を使いませんが遠慮なく使って頂いて結構です」
そう言って、左手に黄色い雷属性の契約の書を持って構えるスティート……
『いや…………今更言われても、取りに行くとは言えないだろ……』
「オレも素手で良い……」
大きな溜息と共に、ティアリルも左手にエメラルドグリーンの風属性の契約の書を持って立つ。
「……………………」
「いいぞ、好きなタイミングで攻めて来て」
「…………後悔なさいませんよう……
…………全てを喰らえ“ライトニングフィスト”……」
右手に雷を纏わせた拳を引き絞り、ヒラヒラのドレスを靡かせながら突っ込んで来るスティート。かなりのスピードだが真正面だ。
ティアリルは“常時展開”している”不可侵の風 シークレッドネス ブリーズ”でスティートを左に逸らそうとして異変に気付く。
『!!“不可侵”が喰われた?!』
慌てて避けるティアリル。だが、僅かにシャツを掠められる。
大きく距離を取ったティアリルは、掠ったシャツを見る……
「…………手に纏った雷で物質を焼き、魔法を魔力に変えて吸い取る魔法か……」
「流石です、たった一合で見抜かれるとは。
ですが、魔法名すら聞こえませんでしたが、いつの間に防御魔法を?」
「さて、いつだろうな?」
「なら、全て喰らいます。
そうすれば、もう一度使われるでしょう!!」
再度、突っ込んで来るスティートに対して、ティアリルはスティートの膝を指差して、スティートに向かって走る。
ティアリルの指示を受けた“シークレッドネス ブリーズ”はスティートの膝を目指して伸びたが、スティートは、迫って来る“透明なナニか”に気付いて飛び上がる。
そこを走って来たティアリルの飛び蹴りが狙うが、寸での所でスティートは身体を捻って躱す。
しかし、向きを変えてスティートの膝を追っていた“シークレッドネス ブリーズ”に足を取られて前のめる。
次の瞬間、飛び蹴りの後、“空中に立ったまま”だったティアリルに顔面を蹴り上げられて吹っ飛んだ!!
鼻血を出して吹っ飛びながらも、なんとか空中で体勢を立て直して着地し、立ち上がった瞬間、背後から回された手のひらが目の前に有った!!
「……“ルサセリーション ブリーズ”……」
眼前で放たれた魔法に歯を食いしばったスティートだったが、一向に痛みも衝撃も来ない……
むしろ、先程蹴られた顔の痛みが引いて行く……
自分が回復されている事に気付いたスティートは、ガバッと後ろを振り向いた。
頭一つ背の高いティアリルを見上げて目が合う……
「オレの勝ちで良いか?スティート姫」
「……はい、参りました……。
其れと、私の事はスティートとそのままお呼び下さい、ティアリル様……」
そう言ったスティートは、そのまま、ティアリルの胸にしな垂れた…………
「…………流石だなティアリル殿。
ワシには其方が何をしたのかさっぱり分からん……」
「私にも分かりません陛下……。
しかし、メイムもそうやって…………」
「ゴメスさん、人を女垂らしの様な目で見るのは辞めてくれ……
オレは今迄、女性から言い寄られても全て断って来たんだ。
だが、ルティに盲点を突かれてしまって、メイムにも其れがバレてしまったから断るに断れなくなったんだ」
「ほぅ、では、メイムとは仕方なくだと仰るのか?」
「オレはまだメイムに指一本触れていない。
気に入らないなら、ゴメスさんが自分で諦めさせてくれ」
「!!いや、其れはダメです!!
そんな事をしたらメイムに嫌われてしまいます!!
其れに、メイムが生まれて初めて男を好きになったと言って来たのに邪魔をする事など出来ません!!」
「だったら、どうしろと言うんだ……」
「…………父親と云うのは複雑なのです……」
「ティアリル殿、ワシは快くスティートを送り出そう。
妾も何人囲おうと一向に構わん。
『英雄、色を好む』と云うしな。ワッハッハ…………」
ゴメスとは正反対の嬉しそうなラーン王に、ティアリルは『もしかして、押し付けられたのか?』と思ったが、口には出さなかった……
今、声に出せば、ピッタリとくっついたスティートに聴こえてしまって面倒な事になりそうだったからだ……
夜の祝勝パーティーで、ティアリルの活躍はハティオール王国全土に放送された。
花々しい内容と僅か18名でやり遂げた人智を超えた所業にハティオール王国は大いに湧いた。
そして、放送の最後を締め括る様に、スティートとメイム、ルティとの婚約が発表された。
もちろん、ティアリルには無許可だ。
暗躍するラーン王が、ゴメスとリティを言い包め、スティート、メイム、ルティを唆したのだろう。
こうして一生独身を貫く予定だったティアリルは、一夜にして、『ハティオール王国一の女垂らし』のレッテルを全王国民に張られたのだった…………