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爆炎の賢者の風魔法  作者: 山司
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予定通り

▪️▪️▪️▪️




「まさか、こんな落とし穴が有るとはな……」


「申し訳ありません。情報収集不足でした……」





王都を出発したティアリル達一行は、基本的に街の無い、人目に付かないルートを進んでいる。


出発時は王都に潜入しているであろう共和国のスパイに見つからない様に夜間飛行を行ったが、翌日の夜は王国内の国境付近で一泊し、共和国に入ってからは日中の移動に切り替えている。



そして、最初の壊滅目標である、共和国軍南部方面司令部の在る、サウサミンの街への情報収集を行う為の拠点ポイントに辿り着いた。


そこは、サウサミンの街周辺の共和国軍駐屯地からも距離があり、哨戒機すら基本飛んで来ない程の人里離れた湖畔の森だったのだが、着陸から程なく、周囲を囲まれてしまっていた……





「……結構な人数が居るみたいだが、有名な“山賊団”か何かなのか?」


ティアリルの言葉の通り、“敵”は共和国軍では無い。

数台の自動車に乗った山賊の様だった。


サウサミンへの諜報活動に出発すべく食堂に集まっていたメンバーの1人、アンが答える。


「おそらくですが、“火炎旅団”と名乗る盗賊団ではないかと思われます。

共和国内を移動して周っている盗賊団です。


情報では50人程のグループではないかと推測されています」


「なら、今居るのは半分くらいか?逃すと厄介だな……」


コックピットからスインの機内放送が響く。


「ティアリル殿、聞こえますでしょうか?

周囲のゴロツキ共が、『さっさと出て来なきゃ、ヘリを爆破する』ってほざいてます!!」


「仕方ない……。只の脅しだろうが、共和国軍に情報が行っても面倒だしな……。


メイム、コックピットのメンバーには、一応、拠点ポイントを変更する場合に備えて、そのまま、待機しといて貰ってくれ。


レティさんは、諜報担当者に此処から出発する場合と第二ポイントから出発する場合と両方との指示をしといてくれ」


「ティアリル様、もしかしてお一人で相手をされるのですか?」


「ああ。倒す分には問題無いが、隠れてるヤツらが多いと取り逃がす可能性があるから、その場合はポイントを移動する」


「ティアリル殿、其れでしたらコックピットの人員だけ残して私達も戦闘に参加します。

私達の戦闘力をティアリル殿に見て頂く良い機会でしょうから」


「…………まあ、いいか。分かった、じゃあそうしよう」







「……ぐはぁ!!」


「このガキ、よくも!!ぎゃああ!!」



盗賊達の銃弾が飛び交う中、左手に黄色の分厚い本を、右手に剣を持ったメイムが、全身に雷を迸らせて、縦横無尽に駆け回り、盗賊を次々と斬り伏せて行く。


“ロイヤルガードの雷光姫”、その二つ名に恥じない猛威を奮っていた……


強いて言うなら、服装が鎧でも騎士服でも無く、メイド服な事が若干“ロイヤルガード”らしくない……


しかし、ロイヤルガードの女性最強と云われるだけの実力を見せていた。




リティとダンストンは共に同じ戦法を取っていた。

左手の黄色い本で雷の盾を作って、剣で斬る。


雷の盾は盗賊達の小銃の連射も全く受け付けていない。

2人に限らず帯剣している兵はこの戦法を取る者が多い。



アン達、近衛騎士団 ロイヤルガード 第7隊所属の諜報担当メンバーは、盗賊達と同じく、赤い本と銃器を持って戦闘していた。


しかし、盗賊団とは動きが違う。


要所要所で、火魔法を使った高速移動をし、銃も乱射では無く、1発1発確実に当てている。



ティアリルは結局何もする事も無く、戦闘開始から十数分で、30人程の盗賊は鎮圧された……






▪️▪️▪️▪️





「…………じゃあ、捕らえたヤツらは結局大した情報は持って無かったのか……」


「はい、残念ながら……」



諜報活動の開始は明日に延期して、諜報担当には先ずは盗賊団の残党狩りと盗賊達からの情報収集をして貰った。

結果は残念ながら大した情報は無かった様だが、唯一の収穫は10台の自動車だ。


本来の予定では、ティアリルが飛行魔法で近く迄運んで、そこからは徒歩での移動だったが、自動車が有るなら此処から自動車で街まで行って帰りだけティアリルの飛行魔法を使う方が早い。


「仕方ない。自動車が手に入っただけ儲けモノか。


分かった。じゃあ、明日から本来の情報収集を行って貰って、3日後に予定ポイントで結果を教えてくれ」


「了解しました」


騎士式の敬礼をして、報告に来たリティとアンがティアリルの部屋を出る。

唯一残った世話係のメイムが訊ねてくる。



「ティアリル様。アンさん達が自動車で向われるなら、ティアリル様の出発は如何なさいますか?」


「オレも予定通り、明日の朝出る。

オレ1人なら飛んで行っても見つかる心配は無いからな」


「…………お一人で大丈夫ですか?」


「問題無いだろう。

情報収集と言ってもオレがする事は街を見て歩くだけだからな」


「…………せめて、私だけでも護衛に付いた方が……」


「…………今日の動きを見た感じ、メイムならオレの飛行に耐えられるかもしれないが、2人だと目立つからな。

特にメイムを連れて歩いていたら目立ちそうだ」




メイム ポートムは近衛騎士団 ロイヤルガード総隊長ゴメス ポートムの娘だ。


しかし、ムキムキゴツゴツの父親の要素は一切無い。

珍しい桃色の髪に完璧と言って良い程の整った顔立ち、16歳と云う若さにも関わらず服の上からでも分かるプロポーションの良さ。


街を歩けば、男性のみならず女性も思わず目を向けてしまう程の美しさだ。



こんなメイムを連れて歩こうモノなら、注目を集めて仕方ない。

もしかしたら、不要な因縁を付けかけられない。


しかし、メイム自身にはそんな自覚は全く無かった。

環境が良かったのだ。いや、悪かったと云うべきか。


12歳と云う若さでロイヤルガードとなり、早々に第3隊に配属された。

第3隊は殆どが女性の部隊だ。


そして、任務もアフロディーテの護衛だった。


アフロディーテはメイムに勝るとも劣らない美人で尚且つ王女だ。

メイムよりも遥かに目立ってくれていたのだ。



その為、ティアリルの『メイムを連れて歩くと目立つ』と、云う言葉も正確に理解して居なかった。

ティアリルの言葉を『足手纏い』と受け取ったのだ。




「…………ティアリル様、宜しければ、一手、お手合わせ頂けないでしょうか……」



『足手纏いでは無いと認めて欲しい』と云う思いからメイムはそう言った。


しかし、ティアリルも勘違いをした。

メイムの言葉を、『対人戦なら私の方が強い』と言っていると思ったのだ。


「良いだろう……」






盗賊との戦いと同じく、メイド服に剣を下げて立つメイム。

いつも通りの格好に、“コダチ”を一本だけ下げて立つティアリル。


そして、何故か全員集まってガヤガヤ言っているギャラリー…………


皆、ロイヤルガードの誇る“雷光姫”相手に、ティアリルがどの様に戦うのか興味津々なのだ。




「では、参ります」


左手に本を右手に剣を持ち構えるメイム。

其れを見て、ティアリルも“左手に本を持って”、右手にコダチを抜く。


「…………我が身を雷と成せ“ライティケーション”!!」




雷魔法“ライティケーション”。

有名だが、使い手の非常に少ない魔法だ。


自分自身を雷と化して圧倒的な速度を得る魔法。

使い手が少ないのも至極当然で、その速さ故に制御が出来ず、肉体への負担も尋常では無い。


この魔法を使いこなす事が、メイムが“雷光姫”の二つ名で呼ばれる所以だ。




「いつでも良い。掛かって来い」


メイムは一瞬、怪訝な表情をする。

ティアリルは、“何の魔法名も口にして居ない”からだ。


しかし、相手は英雄“爆炎の魔導師 マトゥエナ老師”の弟子、“爆炎の賢者”だ。

気を引き締め直して、強く踏み込み、一気に斬り掛かる!!


だが、メイムの雷速の一閃はティアリルの横を通過して空を斬った。



「!!メイムの一撃を魔法も無しで避けた?!」


「いいえ、ティアリル殿は動いて居ません!!」


「じゃあ、逸らしたんですか?一体どうやって?!」



ギャラリー達の言う様に、“メイム自身”がティアリルから逸れて剣を振っていた。

この状況に最も驚いていたのはメイム本人だ。



「今のは一体…………。もしかして、“完全無詠唱魔法”?そんな、不可能なんじゃ……」


「“完全無詠唱魔法”じゃない。カラクリは教えないけどな。

ところで、もう終わりか?」


「!!まだです!!」


しかし、その後の2撃目、3撃目もメイム自身の身体が押し流されて攻撃が逸れて行く。


「くっ!!それなら!!

…………雷よ貫け“サンダーアロー”!!」


一旦、距離を取ったメイムから、全身の雷が消え、代わりに生み出された10数本の雷の矢が、ティアリルに殺到する。しかし……



ヒュンヒュンヒュンッ


雷の矢もメイムと同じく、ティアリルから逸れて飛んで行った……



「“ライティケーション”は解くべきじゃ無かったな……」


雷化すら操るメイムの目には、高速で迫って来るティアリルが見えていた。途中までは……


目を逸らせたつもりは無い。しかし、ティアリルが突然“消えた”のだ。


「オレの勝ちで良いか?」


後ろから掛かった声と共に、首筋にコダチの峰が当てられていた……



「…………はい、参りました……」


メイムの降参の言葉にコダチを仕舞おうとしたティアリルは、不意に後ろから迫った殺気に飛び上がった!!


ジャンプしながら振り向くと、其処には剣を振り抜いて立つリティの姿が有った。


“空中に着地した”ティアリルはリティを睨む。



「リティさん、どう言うつもりだ?」


怒気の含んだティアリルの言葉を全く意に介した様子も無くリティは答える。


「メイムから聞きました。

何でも、明日はティアリル殿は“お一人”で偵察に向かわれるとか……。


本来なら、私が同行する予定でしたよね?」


笑顔だが、笑顔ではあるが、その奥にはティアリルとは比べ物にならない程の怒気が含まれていた……



「そ、其れは自動車が手に入ったんだから、リティさんは他のメンバーの指揮を取る為に一緒に自動車で…………」


ティアリルの怒りなど一瞬で消し飛び、思わず言い訳じみた言い方で答えて仕舞う程、リティの笑顔は怖かった……



「メイムが勝てば良しと思っていましたが…………


ティアリル殿、貴方が如何に強くとも、今の様な奇襲や暗殺の危険も有ります。

戦闘以外での単独行動は容認出来ません」


「…………分かった。なら、メイム…………ではなく、リティさんと予定通り同行する」


ティアリルは、飛行魔法での移動を考え、「メイムと同行する」と言い掛けて、寸でのところで、“正解”を答える事が出来た……



「はい、ちゃんと予定通りであれば問題ありません。

其れにしても、やはり、魔法名すら言われずに魔法を使っておられるのですね」


「其れについては教えるつもりは無い」


「分かりました。詮索はしません。では、明日は自動車で一緒に向かいましょう。

予定通りに……」


「ああ、予定通りな……」





リティは「詮索はしない」と言ったが、言ったのはリティだ。

夕食時には、今日の盗賊団騒ぎよりも、ティアリルVSメイムの話題の方が盛り上がり、スインとルティにしつこく質問された。


やられた当のメイムを含め、全員興味があり、誰一人、そんな2人を止める者は居なかったが無視を決め込んだ。


しかし、最も厄介だったのは、諜報員の鏡といえる諜報担当リーダーのアンだ。

彼女は、「情報料はカラダで支払う」と、風呂にもベッドにもやって来たのだ……


幼い頃から山奥で師匠のマトゥエナ老師と男の2人暮らし、その後も男の1人暮らしだったティアリルには、鍵を掛けると云う習慣が無かったのが災いした……


しかし、アンに教えると言う事は、ハティオール王国に教えると言うのと同義だ。

ティアリルは、アンの大人の魅力にグッと歯を食いしばって耐えたのだった…………





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