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爆炎の賢者の風魔法  作者: 山司
1/89

旅立ち

▪️▪️▪️▪️





かつて、この世界は数多の魔法で溢れていた。



魔法で育てた野菜を食い、魔法で作った火で暖を取り、魔法で作った水を飲むのは今も変わらないが、かつては、時間も空間も心も身体も全て魔法で自由自在に出来たのだ。


しかし、現在は5属性の魔法しか存在しない。

火、水、風、雷、樹の5属性だけだ。


原因は、この世界とは異なる2つの世界の影響だ。



1つは、この世界テワイリアと重なる様に別の次元に存在していると言われている、異世界チキュウだ。


この世界には、時折、そのチキュウから人や物が“落ちて来る”。


そして、“落ちて来た者”達が、この世界に“科学”と云うモノを持ち込んだ……


雷魔法で、機械を動かし人々は雷魔法無しでは生活が出来なくなる程、機械に頼って生きる様になった……


火魔法で、鉄を飛ばして誰でも空を飛べる様になり、鉄を飛ばして誰でも人が殺せる様になった……


此れによって、世界中の人々は、“雷魔法と火魔法だけを大量に使う”様になって行った。



もう1つは、空の彼方に在る“翠の月”、幻獣世界ルシオンだ。


そもそも、どうやって魔法を使うのか。


先ず、ルシオンの幻獣と契約の儀式を行う。

成功すると、“契約の書”を呼び出す事が出来る様になる。


この“契約の書”に、“契約した幻獣の属性に合った効果”を書き込むと、魔法名と呪文が現れる。

そして、魔力を込めながら、呪文を読む、若しくは思い浮かべて、魔法名を言うと、込めた魔力によって幻獣の力を借り、魔法が発動する。


呪文と魔法名は幻獣が決めているので、同じ呪文でも違う魔法名だったり、同じ魔法名でも違う効果だったりする。


つまり、魔法は幻獣に魔力を渡す見返りとして使う事が出来るのだ。


なので、送った魔力の何割かは幻獣の取り分になる。

幻獣との親和性が高いと、この“幻獣の取り分”をより少なくして、効率良く魔法が使えると言われている。


幻獣は、この魔法を使う時の魔力を喰って成長する。


幻獣は魔法が使われれば使われる程、この“自分の取り分”の魔力で強くなる。

チキュウ人の影響で、雷魔法と火魔法が大量に使われた事で、幻獣達のパワーバランスが大きく変わってしまった。


雷の幻獣 エディエードと火の幻獣 ルガーネル、2体の幻獣の争いが発端となって、幻獣戦争が起こったのだ……



結果、幻獣はたった5体になってしまった……


争いの発端となった、エディエードとルガーネル、人々が生きる為に必須な為に強大な力を持っていた、樹の幻獣 シーエンドゥー、水の幻獣 イーアナック。そして、かつて最強の幻獣であった、風の幻獣 エルティトゥ。



5体の幻獣達は、別々の大陸に住み、不干渉となった。


此れにより、世界には5属性の魔法のみとなり、幻獣達の関係性の悪さから、複数の属性の魔法を使う事も出来なくなった……



此れが現在の世界の常識だ…………





▪️▪️▪️▪️





ドンドンドンッ


「ごめんくださぁ〜い……」


若い男の声が木すら生えていない程の山の高所に響く。

其処には、周りの下草と岩だけの景色に全くそぐわない、3階建の真っ黒な建物があった……



「…………お留守でしょうか……」


ノックをした若い男に向けて、寒さ対策で分厚いコートを着てはいるが、一眼で高貴な身分だと分かる20歳前後の美しい女性が声を掛ける。


「そうですねぇ……。

インターフォンも無い様なので、単に聴こえていないだけかもしれませんが……」


「その家は留守だぞ」



不意に後方から掛かった声に、女性を含む家の前にいた5人の男女は一斉に振り向き、女性を守る様に男性の3人は腰の剣に手を掛ける。


「やめなさい!!


申し訳ありません。

あの……失礼ですが、もしかして貴方様が、“爆炎の賢者 ティアリル マトゥエナ”様でしょうか?」


「違います」


本人も違うと言っているが、とても“賢者”には見えない。

着崩したワイシャツに7分のズボン……


もう春とはいえ、此処は高山、日陰にはまだ雪が残っている。

とても、“賢い者”の格好とは言えなかった。


「失礼しました。

えっと、貴方様は此方のお宅にどう言った御用件でいらっしゃったのでしょうか?」


「自分の家に帰って来ただけだけど?」


「え?!先程、この家は留守だと……」


「その家にはオレが一人で住んでる。

そして、オレは今、此処に居るから、その家は留守だ。


どうでも良いが、邪魔だから帰ってくれないか?」


「!!あの、此方はティアリル マトゥエナ様のお宅では無いと言う事でしょうか?」


「合ってるけど?」


「え?!先程、貴方様はティアリル様では無いと、そして、此処は貴方様のお宅だと……」


「オレは、ティアリル マトゥエナだが、“爆炎の賢者”では無い。

だから、同姓同名の別の人だろう。納得したら帰ってくれ」


「オイ!!貴様!!さっきから聞いてれば、偉そうに!!

この方は、ハティオール王国の王女アフロディーテ ハティオール様だぞ!!」



ティアリルのぞんざいな態度に扉を叩いていた若い男が、憤慨する。


知らなかったとは言え、アフロディーテは持って生まれた気品がある。

其れに4人もの護衛が付いているのだ。

身分が高い事くらいは誰でも予想出来るだろう。



「…………アフロディーテ ハティオール姫?あの、アフロディーテ姫か?

“幻獣の巫女 アフロディーテ ハティオール姫”なのか?!」


先程までの面倒くさそうな態度とは、打って変わって非常に近いティアリルの顔にアフロディーテは、赤くなってオドオドしている。



ティアリルは、格好はだらしないが、顔は整っている。

100人居れば80人くらいは認めるルックスだ。


「この!!無礼者!!姫様から離れろ!!………うぐ?!」


若い男、スインが剣を抜こうとしたところを、護衛の1人が振り向き様に腹部に1発、気絶させる。

そして、その護衛が今度は声を掛けて来た。


「ティアリル殿、私は近衛騎士団 ロイヤルガードの1人、ゴメス ポートムと申します。

宜しければアフロディーテ姫のお話を聞いて頂けないでしょうか……」


「…………そうだな、相手が“幻獣の巫女”ならば、聞こう……」





▪️▪️▪️▪️





ビルの様な見た目に反して、アフロディーテ達が通された部屋は、ログハウスの様な毛皮の絨毯に、一枚板のテーブル、丸太の椅子に暖炉の有る部屋だった。


暖炉の上にポットを置いて、ティーセットを持って来る、ティアリルに、


「お茶のご用意は私が致しますので、姫様のお話を聞いて頂けますでしょうか」


と、護衛の1人の女性が進み出た。

茶器を渡して、ティアリルが座ったのを見ると、アフロディーテも姿勢を正す。



「改めまして、私はハティオール王国第1王女アフロディーテ ハティオールと申します。

この度は、“爆炎の賢者 ティアリル マトゥエナ様”にハティオール王国にお力添え頂きたく参りました」


「ああ〜……。そうだった……。

最初に言ったが、オレは“爆炎の賢者”じゃない。


誰かがそう言ったのか、“じーさんの所為”で、そう言われてるのかは知らないが、オレはじーさんと違って、火魔法は使えない。


オレの属性は“風魔法”だ。


だから、人違いじゃないかと言っているんだが?」


「?“風魔法”ですか?」


「そうだ。もし、じーさんの弟子だろうから来たなら、空振りだ。

オレはじーさんから火魔法を受け継いでない」


「いえ、確かにマトゥエナ老師の御高名は知っておりますし、私も幼い頃にお会いした事も御座いますが、今回、伺ったのは、此処数年の貴方様のお噂を耳にしたからです。


曰く、イーサン砦を占拠した帝国兵を砦ごと焼き払ったとか……。

更に、エタン山を根城にしていた山賊を山ごと消し去ったとか……。

ウンバス島の海賊を島ごと海に沈めたとか……。


何れも信じがたい事ですが、実際に砦も山も島も無くなっていました……


此れらの事は全て、老師が亡くなられた後の出来事です。

ティアリル様が行われたのでは?」


「…………まあ、そうだな……」


「無知故に、“風魔法”は飛行魔法くらいしか私には分かりませんが、其れほどのお力が有ると云う事。

何卒、王国を御守り頂けないでしょうか……」


「…………共和国との戦争に参加しろと?」


「…………はい……。


ご存知かもしれませんが、先日、北の国境が抜かれました。

平和条約の一方的な破棄から、ほんの一週間の事です。


陸軍の善戦によって、何とか主要都市への爆撃機の侵入は防げていますが、地上戦で徐々に押し込まれているのが現状です。


打開するには、“圧倒的な突破力”が必要なのです」


ティアリルに考える時間を与える為だろうタイミングで、護衛がお茶を配る。


ティアリルは、「どうも……」と言ってお茶を一口、大きな溜め息を付いた……



「…………つまり、お姫様は、オレに共和国軍に突っ込んで行って、そのまま、首都を壊滅させて来いと……」


「!!いえ!!いいえ!!そこ迄は言っておりません。

前線を押し戻す突破口になって頂ければと……」


「其れで、どうやって戦争を終わらせるんだ?」


「え?!」


「国境まで敵軍を押し戻したとして、そのまま、国境で争い続けるのか?


…………この辺りには時折、オオカミの群れが来る。

集団を潰す方法は2つ。頭を潰すか皆殺しだ。


潰さずに追い返したならば、より大きな群れになってまたやって来るだけだ。


ハッキリ言って、オレは人間がオオカミよりも賢いとは到底思えない。

共和国の様に頭が複数有って、何度も再生するなら、本来なら皆殺しが望ましいと思っている」


「…………しかし、共和国にも何の罪も無い民も大勢居ます……」


「その、“何の罪も無い民”がトップに立って戦争を仕掛けて来たんじゃないのか?」


「!!」


「お姫様は、共和国の良い所は何処だと思う?」


「え?!…………全ての人が平等だと云う事でしょうか?」


「なら、王国の良い所は?」


「…………生まれた時から責任を持つべく育った者が治める事でしょうか?」


「何方も違うな。


共和国の良い所は、頭が取り替え放題な事。

王国の良い所は、頭さえ守り切れば死なない事だ。


つまり、王国が共和国と戦争をするなら、王を守り切り、新たな首相が出て来なくなる迄、叩き潰すしかない」


「そんな……」


「姫様、失礼ながら、ティアリル殿のご意見は、言い方は乱暴ですが、事実です。

もし、姫様の仰る様に、戦線のみを押し戻し其処で持久戦になれば、我が国も共和国も疲弊して行く事でしょう。


そうすれば、今度は別の国からの侵略を受けてしまいかねない。


共和国の上層部は其れでも良いのです。

ティアリル殿の言われる様に、“頭を挿げ替えて逃げれば良い”、自身の財産だけを持って……


しかし、王国はどれ程苦しくとも、陛下や殿下が最後の時を迎える迄、戦い続けなければならないのです……」


「!!…………共和国を滅ぼす以外に生き残る道は無いと……」


「其れも、早期にな。


で、どうするんだ?

前線を押し戻すだけでその後は手伝わなくても良いか、共和国の首都の壊滅なら報酬次第では手伝っても良い」


「!!ティアリル殿、少し待って頂きたい。

先ず、共和国の首都壊滅の場合にどれ程の戦力が必要かと、報酬が何を御所望なのかを先に教えて頂きたい」


「ん?国の存亡が掛かっているのに、ケチるのか?」


「いや、そうでは無い。

先程、貴公が仰っていた様に、防衛の戦力を大きく減らす訳にはいかんし、報酬に関しても無い袖は振れん。


内容によっては持ち帰って検討する必要も有る」


「…………まあ、そうか。


戦力は、大型ヘリが一機。此れはオレの要望に合わせて改造して貰う。


人員は、十分な情報が有るなら、ヘリの運転手と身の回りの世話係が1人づつ居れば良い。

情報が足りなければ、情報収集要員が3人から10人くらいは必要かもな」


「!!たった10数人で、首都を落としに行かれるのですか?」


「お姫様、ちゃんと聞いてたか?

情報が十分ならそんなに要らない」


「いえ、そうですが。

10数人でも余りにも少な過ぎるのでは……」


「ティアリル殿、戦力は自分以外は必要無いと?」


「ああ、十分に情報が有ればな」


「情報とはどの様なモノでしょうか?」


「敵の配置と戦力。幹部や上層部の居場所。共和国の正確な地図、地形や地質。過去の天気や天気の予測なんかだな」


「なるほど……。

残念ながら、現在の情報網では全ては把握出来ていないと思われるので、情報収集要員も必要ですね。


では、報酬の方は?」


「アフロディーテ姫だ」


「「ええぇ〜〜〜……!!」」


「言っておくが、女としてや、姫としてじゃ無い。

“幻獣の巫女”としてだ」


「!!そ、そうで、そうですよね!!

最初から、そ、そう言われてましたもんね!!」


「え、ええ、そうですな。

幻獣の巫女ならばと、話しを聞いて下さいましたからな」


「…………何故、そんなに動揺してるんだ……」


先程迄の真剣な雰囲気は全く無い。

突然、人形劇の様にぎこちなく、意味不明な動きで、顎もガクガクさせて喋り出した……。


アフロディーテとゴメスの不思議なダンスに大きく溜め息を吐いて、お茶汲みをしていた女性の護衛がティアリルに告げた。


「陛下から、どの様な手段を用いても、ティアリル殿を連れて来る様にと仰せつかっておりまして、姫様と団長は、最後の手段として、姫様の女性の魅力で籠絡しようとお考えだった様でして……」


「…………で、オレが報酬にお姫様を寄越せと言ったから、そう云う想像をしたと……」


「ええ、姫様はお立場も有り純潔ですし、団長は幼少の頃から姫様を娘の様に可愛がられておられまして……」


「リティ!!ティアリル様、失礼致しました。

ティアリル様は私の幻獣の巫女の力で、風の幻獣 エルティトゥ様とお話しをされたいと云う事ですよね?」


「いや、違う」


「ええぇ〜〜!!ち、違うのですか?!では、やっぱり!!」


「やっぱり何だよ……。多分勘違いだろうが……。


オレは幻獣の巫女の力で、幻獣世界ルシオンに行きたいんだ」


「!!幻獣世界ルシオンに行きたい?!」


「ああ、そうだ。幻獣の巫女アールアーの伝承は知っているか?」


「ええ、幻獣戦争を終結されたと云う……」


「ああ、その伝承ではアールアーは、幻獣世界に赴いて幻獣の争いを止めたとなっている」


「ええ、確かに……」


「だが、戻って来た記述は無い。

つまり、幻獣世界ルシオンに行った場合、帰って来れない可能性がある。

だから、お姫様自身が欲しいと言ったんだ」


「…………二度と戻って来れない可能性がある……だから、“私の命ごと”報酬として要望されると云う事ですね……」


「そう云う事だ」


「分かりました。そのお話しお受け致します」


「姫様!!」


「ゴメス、私の命1つで国が護れるならば安い代償でしょう。

此れは王家に生まれた者の務めです。


其れに、アールアー様の伝承は幻獣戦争の終結のお話しです。

その後、戻って来られて普通に暮らしたから物語になっていないだけかもしれませんし」


「しかし!!」


「ゴメス、私は人を見る目は有るつもりです。

ティアリル様のお話しは、まるで雲を掴む様な内容でしたが、嘘偽りは一切有りませんでした。


この方ならば、必ずやハティオール王国を救って下さいます。


ティアリル様。

私し、ハティオール王国第1王女 アフロディーテ ハティオールの名を持って。

幻獣の巫女 アフロディーテ ハティオールの命を報酬に、プデト共和国の首都壊滅による戦争の終結を依頼致します」


「分かった、引き受けよう。


なら、必要な物と大型ヘリの内容を書き出して来るから少し待って…………。


リティさんだったか?悪いが、メシの用意を頼む。

ゴメスさん、ヘリにまだ人員が残ってるなら、呼んでくれ。

1階は好きに使ってくれて良いから今日は泊まって、準備の内容を詰めて帰ってくれ」


「畏まりました」


「承知した。しかし、姫様は……」


「私も残ります。決断出来る者が必要な場合もあるでしょう」


「分かりました。

リティは食事の準備を。モントーはスインを叩き起こして、ダンストン達を呼んで荷物を持って来てくれ」


「は!!」


「じゃあ、風呂もキッチンも好きに使ってくれて良いから、しばらく待っていてくれ。

但し、絶対に上の階には上がって来るなよ。命の保証はしないからな……」



『命の保証はしない』と言いながら、とても楽しそうな笑みを浮かべて部屋を出て行くティアリルに、アフロディーテが、「上の階には一体何が……」と、フラフラついて行きそうなっているのをゴメスが慌てて止める。



「姫様、絶対に上がってはいけません!!


ティアリル殿も“爆炎の賢者”と云われる程の方ですが、此処は元々はマトゥエナ老師の家の筈、どんな罠や危険物が有るか分かりません!!


良いですか!!絶対の上がってはいけませんよ!!」



ゴメスの厳しい注意に、アフロディーテはもちろん“上階に上がった”。

何処の世界でも、『絶対に押すな!!』は『押せ!!』と、云う意味なのだ……


しかし、この“ゴメスの言付けを守らなかった”事で、彼女の運命は大きく変わってしまう……






▪️▪️▪️▪️






食事を終えて、リティがお茶を配ってから、ティアリルは数枚の紙束をアフロディーテに渡す。

『プデト共和国壊滅作戦資料』と書かれた紙束だ。



「じゃあ、先ずは1枚目からだ。1枚目と2枚目は必要な情報が書かれている。

さっきは簡単に言ったが、土地の情報は、3枚目の地図に印が付けてある地域全てだ。


此れを踏まえて情報収集の人数と人員を決めて欲しい」


「…………分かりました。ゴメス、どうですか?」


「はい、作戦開始迄、情報を集め続ければティアリル殿の言われる様に10人未満でも可能かとは思いますが、敵上層部の居場所に関しては密偵がどれ程掴んでいるかによると思われます」


「では、情報収集要員は10名用意しておき、状況に合わせて密偵部隊にも合流して貰うと云う事で宜しいでしょうか?」


「…………密偵は情報収集要員が接触し次第、撤収出来る様にさせておいてくれ。


オレの攻撃が始まった時点で、逃げる事は難しいだろうからな。

但し、二重スパイの可能性も有るから、情報収集要員が人事移動の命令書を持って行く事にしておいてくれ」


「なるほど……。ティアリル殿は、作戦指揮の知識もお有りとは……」


「知識だけだ。

オレは単独行動しかした事が無いから、情報収集要員にも指揮能力の有る者を1人は入れておいてくれ」


「了解した。


先程、姫様とも話し合い、作戦の指揮は準備も含めリティに任せる事になった。

リティは若いが近衛騎士団第3隊の隊長を務めている。現場の指揮能力も高い」


「ロイヤルガードの仕組みは知らないが、ゴメスさんはもしかして筆頭なのか?じゃあ……」


「ああ、総隊長を仰せつかっている。

ティアリル殿のお考えの通り、“臨時全軍指揮権”も持っている。

なので、此処で決まった軍事行動は、“王国軍の”決定事項だ」


「そうか、分かった。

ならリティさん、此処には書いて無いが人員に関しては、3つ要求が有る。

“裏切らない者”、“逃げ足の速い者”、“命を捨てる覚悟の有る者”だ。


“裏切らない者”は当然として、“逃げ足の速い者”と“命を捨てる覚悟の有る者”は、オレは作戦時刻になったら“味方が残って居ようとも作戦を決行する”からだ。


時間通り、若しくは予定よりも早く行動出来なければ巻き込んで殺す事になる。


其れを踏まえて人選をしてくれ」


「了解致しました」


「じゃあ、次に物資だ。一通り目を通して入手が困難な物が有るか?」


「…………いえ、全て問題無いとは思いますが、この辺りの機材と、この大量の小麦粉は一体……」


「機材は、一つづつ使い方を説明するのが面倒だから、用意してくれれば良い。

小麦粉は保険だから、使わなければそのまま返すからその量を準備してくれ」


「…………分かりました。全てご用意致します」


「最後は大型ヘリの図面だが、此れが1番時間が掛かるだろう。どれ位で出来る?」


「「「な!!」」」


大型ヘリの図面、其れは最早ヘリと云うよりも空飛ぶビルの様な内容だった。


全長30m、中には生活スペースや、無駄に頑丈そうな部屋、要望のあった物資を詰め込んでも遥かに余りそうな倉庫、そして、6機のプロペラはなんと収納ギミックまで付いている。



「ティアリル殿、此れ程のモノを作るとなると何ヶ月掛かるか……。

其れに、この大きさでは、“運転手1人の魔力”ではとても飛ばせません」


「いえ、ゴメスちょっと待って…………。


ティアリル様、ゴメスが言った様にこの大きさでは、運転手1人と云うのは難しいです。

運転手が3人になっても問題はありませんか?」


「ああ、その分の食料を増やしてくれれば問題無い」


「ならば、この設計よりも倉庫が3m程狭くなった場合は如何でしょうか?」


「な?!姫様、まさか……」


「ええ、フェンリルを使えば……」


「しかし、あれは万が一の時の陛下の脱出の為の……」


「お父様は“どの様な手段を用いても”と仰られました。

其れに、どうせお父様は逃げません」


「確かにそうかもしれませんが……。

しかし、姫様やエイクレス殿下、スティート姫様は……」


「私も逃げませんし、エイクレスやスティートを逃すならば、あんなに目立つ物は使いません。


失礼致しました、ティアリル様。其れで、倉庫の削減は可能でしょうか?」


「高さは問題無いのか?」


「はい、高さはこの設計図よりも1m高いです」


「なら、倉庫を2mと、この実験室を1m短くしてくれ」


「畏まりました……。実験室?」


「ああ、現地のモノが実際に使えるか試す必要があるからな」


「…………ええっと……。そうなのですね。


ゴメス、問題はこのプロペラの収納ギミックだと思いますが、どれ位で出来ると思いますか?」


「…………やはり、フェンリルを使われるのですね……。


そうですな、恐らく1週間あれば……」


「ならば、何としても1週間で完成させて下さい。


ティアリル様、1週間お時間を頂ければ全てご用意致します」


「分かった。なら、5日後に行こう。

王都に行けばいいか?」


「はい、では5日後に王城でお待ちしております」




アフロディーテの差し出した手を握り返すティアリル……


しかし、この約束が果たされる事は無かった…………






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