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女王蜘蛛ナルボンヌ⑶

 「…ん、ここは…?」


モモは目を覚ました。天井は、サッコンとの戦いでいた同じ鍾乳石で出来ていた。モモが体を起こすと、顔の右半面に彫られた入れ墨と、赤い瞳を持つ、オレンジベージュのセンターパートヘアに、Tシャツ、フィッシングベストのストリートスタイル。まるで人気アイドルグループにダンサーでいそうな体格の男性が足を組んで、対面のソファに腰掛けていた。


「あなたは…?」

「はじめましてだね、聖女モモ。」

「私の名前…」

「キミ達とサッコンの戦いは見せてもらったよ。俺はフォニュリアード。モモは、グリンボルトの瘴気にあたって気を失っていたみたいだけど、ずっと防御障壁が働いていたみたいだね。術者はかなり魔力を消費したはずだ。…あの、銀髪のパラディンあたりかな?」


(防御障壁…?あ、ラウルからもらったピアス!ラウルが、護ってくれたんだ…っ)


思わずガーネットピアスに触れるモモ。と、同時に蘇る記憶。


「トルチェ…サッコンに刺された女の人は…」

「ああ、あの黒魔法使いか。さぁ、どうなかったかな。」

「…っ」


(私があの時狙われていたのに、刺されるのは私だったのに…)


モモの瞳に涙が溢れる。溢れて頬を伝う涙をフォニュリアードに掬われた。


「ねぇ、人間の涙って血液の一種だって知ってる⁇」

「…?」


(血液の中で血球が取り除かれてるって話…?)


フォニュリアードはモモの涙をペロリと口にした。


「甘い。…へぇ」


不適な笑みを浮かべながら、ギシっと音を立て、モモの隣に腰掛けた。


「聖女モモか、聖属性のランクでも上位だろうね。

黒髪に黒い瞳、アイボリーの肌、変な事聞くけど、モモはこの世界の人間?」


この、フォニュリアードの言葉にギクっとモモは彼に目を合わせず体を震わせた。


「…別に取って食ったりしないよ。

俺が会った人間に、モモのタイプが居なかったから気になっただけ。」


(そんなのっ、言えない!しかも魔物相手にっ!!

それよりココからどうやって逃げるか考えないと…)


モモは俯いたまま、ワンピースの裾を握りしめた。


「だんまりか。いいけど。モモの事、ここから出す気はないよ。サッコンもキミの涙に触れて気付いたんだろうね。剣士に斬られた脚、治っていたよ。彼に再生能力はないからね。」

「え…⁇」


(私の涙でサッコンの脚が⁇

ロイドは確か3本斬ったはず…)


モモが顔を上げると、すかさずフォニュリアードは、顎に手を添え自分の眼をモモに合わせる。


(あ、眼逸らせないっ…)


「こんな奇特な女性、二度はお目にかけられないだろうな。

聖女モモ、俺の女に…」


フォニュリアードの眼が赤く光った。モモはフォニュリアードの腕を掴んで抵抗をするも、びくともしない。


その時、部屋の扉が勢いよく開いた。


「!?」


モモの顎を押さえるフォニュリアードの力が弱まったのを期にモモはその手を振り払う。頭がガンガンした。何かの術をかけられていたのだろうか。


「…命だけは見逃してやったのに戻ってくるとはな、サッコン。俺の邪魔をしてタダで済むと思っているのか?」


扉の前にはネイビーブルーのアップバングヘアに、黒のTシャツ、エスニック風のサニエルパンツ姿のサッコンが息を切らして立っていた。よく見ると、蜘蛛化した時の脚にあたるのか、左手の小指だけ、第一関節分だけなかった。


「…その聖女は今のナルボンヌ様に必要な物だ。返してもらう。」

「ふっ。ナルボンヌ様に?

あの方は闇の力に手を出した。あれはその副作用、おまえの様に俺は忠誠心深くはないからな。自業自得だ。

それに、彼女を献上したからと言って、どうなる。理性のないただの魔物に二人とも狩られるだけじゃないのか?

この娘は俺が大事に育ててやるさ、邪魔をするなら次はないぞ。」


フォニュリアードはモモの両手を後ろ手に糸で縛ると、結界の中に閉じ込めた。


「ちょっと!!出してっ!!」

「ここで、おイタしないで待っていろ。こいつを片付けてからゆっくり相手をしてあげるからな。」


モモに甘い声でそう告げると、フォニュリアードはサッコンに衝撃波で先制攻撃。サッコンの体は通路挟んだ壁にめり込んだ。


「がっ…は…」


部屋の扉がゆっくり閉まり、モモは1人部屋に残された。

すると、モモの胸元が白く光り、小さくなってルキスが現れた。


「大丈夫、モモ?」


ルキスがモモの両手を縛る糸を解こうとするが、引っ張っても伸びるばかり。


「ルキスー、解けそう?」

「アタシじゃムリーっ。伸びてばかりで切れないわっ。」


モモを閉じ込める糸の結界も、両手の自由を奪う糸も、見た目程キツイものではなく、伸縮性のある糸の束だった。


「ボクナラ切れるヨ」


どこからか、魔物の声が響いた。辺りを見廻しても魔物の姿はない。モモとルキスは互いにの顔を見合わせた。


「コッチダヨ!下!!」


その声にモモとルキスは足元に目をやると、小さな赤いアラネアがいた。


『わっ…』


モモとルキスが声を揃えて驚いた。


「赤色のアラネア…?最初に会った…ウコン?」

「モモ、惜しいわ。ウッコンだったはずよ。」


すかさずモモの間違いにツッコミを入れるルキス。


「ソウ、ウッコンダヨ。ネェ、ボクト、取引シナイ?」


現れたウッコンは全身に血が滲んで、もはや、模様なのか、怪我なのかわからない状態だった。




―――――――――― ☆ ――――――――――




 モルネード王国、王宮内、王の間では、ラインハルトが国王ブラスベルトに、一時撤退し体制を整える旨など、アラネアの巣討伐における一連を報告していた。

この報告に同席していた宰相ラッツィは息をのんだ。


「一体どうなっているのだ、魔物の人化?猛毒化変異に突如現れる瘴気の陣。もはや我が国の軍事力だけでは対応し切れない領域になりつつあります。この世界は滅亡の道を行くしかないのか…」


熱くなるラッツィをラインハルトが諌める。


「そうならない様、聖蛇ナーガ様がモモ殿を我が国に遣わして下さったのではありませんか。」

「しかし殿下!今その化身であるモモ殿は魔物の手中ではありませぬか!」

「…っ」


ラッツィの言葉にラインハルトは声を詰まらせた。


「…ここで熱く語っても意味はない。ラッツィ、ラインハルトも手は尽くしている。重症の黒魔法使い殿は医師団に任せ、おまえは我が国全軍の指揮を執り、必ず聖女殿を救い出すのだ。近衛師団も使う事を許可する。」


近衛師団、モルネード王国の精鋭騎士団で主にダンと同じ魔法剣士で構成され、武術の心得もある。更に、団長、副団長は妖精を使役している。


「こ、近衛師団も…?陛下、それでは陛下の御身が…」


ラッツィが意見する中、扉がノックされた。


「入れ。」


現れたのは、近衛師団副団長のダリアだった。ダリアは近衛師団唯一の女性騎士であり、月の妖精を使役し、鉄扇を武器に持つ武闘派タイプだ。


「近衛師団副団長ダリア、ただ今参りました。」

「ダリア、すまないがラインハルトの指揮の下に暫く入って貰いたい。詳細はラインハルトから聞いてくれ。」

「承知致しました。…ちなみに暫くとの期間は?」

「アラネアの巣討伐と、王妃暗殺の件が片付くまでだ。」

「へ、陛下、両件を殿下に一任していたのですか?あまりにも…」

王妃が関わっている事件は通例なら近衛師団が受け持つが、犯人の目的を聞き出す役目は負ったものの、近衛師団側にはそれ以上の指示を陛下から下っていなかった。

「ダリア、今おまえが赴く地にはピーニャコルダ王国の第二王子ラウルがいる。」

「は、…それは」

「以上だ。」


これ以上の質疑応答は不要とばかりにブラスベルトはダリアを一蹴した。最後の陛下の一言、これはラウル王子の監視だった。王妃暗殺の件に、ピーニャコルダ王国の絡みがあると判断した陛下は、このモルネード王国に身を置くラウル王子に何か通じていないかと考えたのだ。ただ、憶測で外交的にもすぐに動くわけには行かない、この為、あえてラインハルトに指揮を執せていた。

国王の考えを知ったラインハルトは、拳を握りしめ王の間を後にし、シュピツ村へ伝波鳥を飛ばした。


「ラウル…早まるなよ…」


ラインハルトは背後の視線に振り返った。


「…何か言いたそうだな、ダリア副団長。」

「恐れながら、今、何を飛ばされたのですか?」

「…貴女の監視には私も入るのか。」

「ラウル王子と殿下は旧知の仲ですので…」


やれやれと言わんばかりにラインハルトはため息をついた。


「陛下も、貴女もラウルの何を知っているというのだ。断言してもいい、ラウル王子は自国と我が国が戦争になる要因には決してならない。

…今の伝波鳥はカーティスへだ。私が今から戻るとな。

他に何かあるか?」

「…いえ。」

「ダリア副団長にはシズウェル騎士団長及びカーティス竜騎士団長を指揮し、シュピツ村に蔓延る魔物討伐を任せる。

私は一足先に戻るが問題あるか?」

「いえ、私も隊を整えシュピツ村へ出立致します。状況は各騎士団長に。」


ダリアはラインハルトに敬礼した。


「よろしく頼む。」


ラインハルトは数名の騎士団員と共に、城下にあるナーガ像を目指した。





「申し訳ありません、陛下。ラインハルト殿下に私は…」


ラッツィは深々と頭を下げた。

国王ブラスベルトは腰掛けていた椅子から立ち上がり、南西、シュピツ村の方角に目を向けた。


「気にするな。其方の言う事も一理ある。ここ数年の魔物の脅威は計り知れない。魔物独自の変化とはとても考えにくい。何か大きな闇の力が関係しているのか、伝説とされている魔族の力が人間の世界を脅かしているのか…」

「ま、魔族…ですか。」

「私の憶測だ。どちらにせよ、我々の力だけでは人々の暮らしを、世界を守る事は難しい時代を迎えているな…」


城下では、今日も平和に時間が流れている。しかし、王国南西のシュピツ村上空には紫黒い暗雲が垂れ込めていた。




―――――――――― ☆ ――――――――――





「よし!体力も魔力も回復した!!いつでもいいよ、ラウル!」


そう元気な声を上げたのはダンだった。


「俺達もいいぞ。アイテムも補充出来た。」


ダンに続いてレンダー、ロイド、他のメンバーも頷いた。

すると、ラウルは異空間収納から小瓶を四つ取り出した。


「ジュウト、シュア、クアラ、ロイド、これを渡しておく。」


ラウルは、A白魔法使いのジュウト、シュア、A黒魔法使いのクアラに虹色の液体が入った小瓶を。S剣士ロイドにはダークグリーンの液体が入った小瓶をそれぞれ渡した。


「え?これっ…サランの朝露?」


ジュウトが驚く。


「初めて見た…綺麗な虹色。」


クアラも驚きを隠せないでいた。


「こっちは、アネルだ…俺も見るのは二度目だが、ラウル、これはどこで…?」

「俺も冒険者だぜ?サーリンゼルカで以前ダンと集めたものだよ。合成はツテがあってな。これからの戦いで使ってくれ。タイミングは任せる。」


 ラウルがジュウト達に渡した、サランの朝露は飲むと魔力完全回復する、聖地サーリンゼルカでしか手に入れられないサランという植物の葉の朝露だ。市場には出回らない代物で、たまに高ランクの旅商人が売ってるくらいで、滅多にお目にかかれるものでもなかった。

ロイドに渡したアネルとはテチョの実と、聖地サーリンゼルカに生息するフェネルという植物の葉を合成したものだ。テチョの実はダークグリーンの果実でほぼ果汁。食べると言うより飲む果物だ。合成されて出来る液体には範囲で状態異常回復効果がある。


「よし、井戸はもう崩壊してるから、西の森から入るんだな!」


ザックがそう言い、ラウル一行が出発しようとすると、竜騎士団員達に取り囲まれた。騎士の1人がラウルの前に立ち塞がる。


「ラウル殿、殿下が戻られるまでどうか、お留まりを…」

「ラウル殿、私からもお願い申し上げる。」


続いて、聖属性魔法師団長ルークも頭を下げた。

ラインハルトから伝波鳥を受け取った竜騎士団長カーティスが急ぎ駆け寄って来る。


「今、殿下がお戻りになられる、もう少しだけ待ってくれ。」


普段ラウルに対してぞんざいな態度を取るカーティスまで頭を下げてきた。ラウルは一呼吸おいた。


「…わかった。」


ラウルの返事と共にダンとザックの士気が一気に下がった。


(類友かっ…)


その場にいたメンバーの誰もが二人の落ち込み方を見て思った。そんな和んだ空気も一変する。


「なんか、瘴気が濃くなってきてないか?」

「ああ、西の森からか?」


咳込む騎士達が空を見上げたその時、淀み行く空気と、紫黒い暗雲がシュピツ村上空を覆った。


「なんだっ…これ?」

「どうなってる?」


西の森へ抜ける村の入り口は霧が深くなっていた。

ランクの低い騎士達が次々に倒れていく。


「みんな!!瘴気を吸うな!!口と鼻を覆うんだ!!」


騎士団長シズウェルが叫ぶ。と、同時にザックが防御障壁を展開しラウル一行を包んだ。聖属性魔法師団も次々に防御障壁を展開。

そこへ、師団員と共にラインハルトが戻ってきた。


「すまない、遅くなった。」

「まぁ、色々と後手に回ったが指揮するには悪くないタイミングだな。」


息を整えているラインハルトに、ラウルが親指を立て西の森側を指した。立ち籠めていた瘴気が風により少しずつ晴れていく先に現れたのは…


「アラネアと…ブラッドウルフに…」

「ジャイアントバイゾンだ!!それも5体はいるぞ…」


休憩していた騎士団員達が戦闘体制に入る。

ジャイアントバイゾンはオスの成獣で体長3m、体重2トンにもなる鋭い両角を持つ魔物で、1体を倒すのにAランク冒険者なら十人がかりで倒す大物だ。


「こ、これだけの魔物の数…」


騎士達はたじろいだ。今までの討伐では経験のない圧倒的な魔物の数に。しかも毒化変異を遂げている個体達だ。攻撃を受ければ毒に冒される、聖水を使用しても効果は十分程度。到底十分では片付けられる数ではなかった。


「ラウル、俺が思っていた状況と大きく変わった。おまえ達はモモ殿救出に向かってくれ、師団員は何人必要だ?」


ラインハルトも、モモ救出に加わる予定だったが、西の森からの瘴気に、魔物の大群来襲に焦りを見せた。

ラウルはそんなラインハルトの肩をバンっと叩いた。


「しっかりしろ、指揮官!こっちにはレンダーも、ザックもいる。回復にはジュウトとシュア。攻撃にはロイドにクアラもだ。師団員はいらない。」


ラウルに名指しされたメンバー達は頷いた。


「こっちにはダンを置いていく。」

「?」

「マ…マジか?」


ラウルの言葉にダンもラインハルトも驚いた。


「ラウルっ!おれもモモ…」

「ダン、おまえ何体いける?」

「え?…あ、まぁ範囲で20はいけるか…」

「だろ、おまえは範囲攻撃が出来るし、アクアもウェンティもいる。ラインハルトを助けてやってくれ。」


ラウルはダンの両肩に手を置いて話すが、ダンは俯いてしまった。


「いいのか、ラウル。ダンは大事な攻撃力だぞ。女王とぶつかれるのか?」

「多分な、ロイドが鍵握ってる。なぁ、ロイド。」


急に振られたロイドだったが、ラウルの言葉の意図にすぐ反応した。


「あぁ、ダンの分まで暴れてやるさ、このクトネシリカがな。」


と、クトネシリカを握りしめたロイドだったが心中穏やかではなかった。


(…勝手にモモ様からいただいたピアスで覚醒したと思ってるけど、大丈夫かなぁ…?)




 ラウルに頭をクシャっと撫でられるダン。


「やれるな、ダン。ラインハルトなら大丈夫だ。俺の親友だぞ?おまえは好きに暴れていいから。」


親友だぞ。その言葉にラインハルトは陛下にはラウルの監視を、本人からは信頼を、板挟みに胸が痛んだ。

だが、この国の王子として、陛下の命に反する事は出来ない。


「わかった…。おれ、ここに残るよ。」

「ありがとう、ダン。」

「頭ぐしゃぐしゃにすんなよー」


ダンの決意にラウルは優しく微笑んだ。

この二人のやり取りをじっと見ていたクアラ。


「ん?どうかしたかクアラ、…ヨダレ。垂れてるぞ?」


クアラの様子がおかしい事に気づいたレンダー、慌ててクアラは涎を拭き取り背を向ける。


「だ、大丈夫!!すみません!」

(いけないっ、私ったらつい、ラウルさんとダンさんのやり取りをイケナイ目で…萌え…)


不敵な笑みが止まらない黒魔法使い、Aランク、クアラ。実は腐女子である。




 「ヨイチはいるか。」

「はい、御前に殿下。」

「おまえは地上に残れ。地下の戦況確認には伝波アイテムをラウルに渡してほしい。」

「承知致しました。」


ラインハルトがヨイチに指示した伝波アイテムとは、現地の映像、音声をリアルタイムで報告出来るブローチタイプのアイテムだ。ヨイチが、ラウルの左胸に伝波アイテムを付ける。


「どうかしたか?」


ラインハルトの浮かない表情を目にしたラウル、自分のしている事がラウルの監視だという後ろめたさに心が痛んでいた。


「あ、いや。無事に戻ってこいよ。」


ラインハルトはラウルの胸に力強く拳をあてた。


「これより俺達は、西の森からかアラネアの巣に入り、聖女モモ殿を救出し、巣の掃討を行なう!」

「おお!!」


 ラウルの号令に、レンダー、ロイド、ザック、クアラ、ジュウト、シュアが応えた。

ロイドを先頭にラウル一行は西の森へ走り出した。ロイドはクトネシリカを一振りし、シュピツ村、西の森へ続く入り口に近づく魔物達に斬撃を飛ばし蹴散らす。続いてクアラが、爆発系魔法〝トルネード・エクスプジョン”を詠唱。ロイドとクアラの連携で押し寄せる魔物の群れの約4割を撃破した。


「す、すごいっ!たった二人でこの攻撃力…」


騎士達がその威力に圧倒される。

爆風によって巻き起こる砂煙の中に七人の姿は消えて行った。


「我々も冒険者達に負けていられないぞ!!

これから近衛師団副団長も援軍を率いて合流する!

騎士団、竜騎士団の班に各二名、師団員を配置!

対魔物討伐班と、瘴気の陣搜索班に分かれ任務を全うせよ!!以上!」


ラインハルトの指揮に騎士団長シズウェル、竜騎士団長カーティス、聖属性魔法師団長ルークは素早く任務遂行に移る。

シズウェル、カーティスは対魔物討伐へ。ルークは瘴気の陣搜索及び浄化にあたった。


「魔物一匹たりとも村へ入れるな!!」


シズウェルの号令と共に地上では魔物対騎士達の戦闘が火蓋を切った。主に剣技を用いる騎士団と、竜を操り竜技と剣技、魔法で戦う竜騎士団。


「なぁ、オレは?」


出遅れたダンがラインハルトに指示を委ねる。


「ダンは我々の切り札だ。しばらく戦況を見て、我々が不利と判断したら出てくれ、頼んだぞ。」


ラインハルトはダンの肩にポンと手を置いた。


「わかった!!」



 戦闘が開始され数刻。シュピツ村のナーガ像前に近衛師団副団長ダリアが率いる援軍がナーガ神殿より転移してきた。

遠目からでも確認出来るその激闘、魔物の数にダリアも近衛師団員達もたじろいだ。


「なんなんだ…あの魔物の数…」

「騎士団達の討伐とは…我々のレベルを遥かに超えているのでは…」


ダリアが砂煙の中からラインハルトの姿を見つけた。


「殿下!お待たせして申し訳ありません。」

「ダリア副団長、貴殿ら近衛師団は聖属性魔法師団長ルークと共に西の森へ瘴気の陣、浄化の援護を頼む。ルーク達はすでに東入り口から森に入った。魔物は毒化変異を遂げている、気をつけろよ。」

「は!!」

(…とは言ったものの、西の森へはしばらく近衛師団は討伐に行っていない。毒化変異した魔物を相手にもしばらくしていないが…)


ダリアは今までに経験のない戦況に息をのんだ。だが副団長が怯んでいては近衛師団全体の士気に関わる。


「近衛師団諸君、我々はこれより、西の森へ向かい聖属性魔法師団と合流する!!毒化変異した魔物に気をつけろ!!私に続け!!」

「おおー!!」


ダリアは鉄扇をバッと広げ、村の東の入り口から続く近衛師団達と共に西の森へ向かった。




 西の森。木々が一層生茂り、日差しも僅かな森の奥にラウル一行の姿があった。ラウル達の前には暗い闇の口が大きく開いている。淀む空気にまとわりつく瘴気。普通の人間なら3分と保たず意識を失ってしまうだろう。ラウルはクアラとロイド、レンダーはジュウト、ザックはシュアをパラディン職はそれぞれ防御障壁を展開していた。


〝ルミナス”


ラウル一行はそれぞれ唱え、7つの光の雫が洞窟内を照らす。


「行くぞ。」




――――――――― ☆ ――――――――――





アラネアの巣、フォニュリアードの部屋。


「ボクト、取引シナイ?」


ポタポタと、血の滴る体を引きずりながらウッコンがモモに取引を持ち掛けた。


「なんなのコイツ、血だらけの体で取引?」


小人化から人型に変身したルキスは、そう言うとウッコンを踏みつけようと足を降ろす。


「ワワッ、チョット、ヤメテヨ!イジワルナ、妖精ダナ!」


意地悪という言葉にカチンと来たルキス、近くにあった分厚い本を手にし、上に掲げながら


「魔物に意地悪なんて言われたくないわぁ!!潰すっ!!」


バンバンと地に本を叩きつけた。


「ワワッ!ワーッ」


逃げるウッコン、追うルキス。その攻防を見ていたモモは思わず吹き出した。


「モモーっ、笑ってないで手伝って!」


「アハハっ、でも私出れないんだもん、どうしたら…」

「ハーッ、ダカラ、取引、シヨウッテ、言ってルンダケド?」

「取引?」


モモが檻の糸を掴み、ウッコンの言葉に耳を貸す。


「ダメよ、モモ!魔物との取引なんて信用出来ないわよ!」

「……まぁ、聞くだけ聞いてみようかな。」

「ホラ、ご主人様ハ、コウ言ってルヨ、妖精サン」

「モモーー。」


お人好しにも程があると言いたげなルキスは肩を落とした。


「で?何を取引するの?」


モモは改めてウッコンに体を向けた。


「簡単ナ話ダヨ。キミガ、ボクノ、傷ヲ治シテ、クレタラ、コノ檻カラ、出シテアゲル。」

「わかったわ、じゃあ…」


ウッコンの要求をあっさり受け入れたモモにルキスは驚きのあまり持っていた分厚い本を落としてしまった。


「な、何言ってるのモモ、コレを治したら私達殺されるか、逃げられるかに決まっているじゃない!!」


ルキス怒り心頭。


「でもルキス、このままだと何も出来ないし、私的にはさっきの人よりウッコンの方が…。さっきの人私の涙舐めて何か言っていて、気持ち悪かったし…。ウッコンはそんな事しないよね?」


モモの問いに、ウッコンは全身で答えた。


(えー…モモの基準、命じゃないのー?)


ルキス呆れ顔。


「ほら、ウッコンもこう言ってるし、色々痛々しいし、ルキス、ダメ?」


確かに生きているのが不思議なくらい出血しているウッコン。


「…モモに何かしたら、本当に潰すからね!」

「ハイハイ。」

(こいつ〜っ、軽い!!)


モモは檻の隙間から手を伸ばし、ウッコンに掌を翳した。

温かい黄色い光がウッコンを優しく包み、傷がみるみる治癒されていく。治癒、回復魔法をかけるモモの姿は、女神の様にウッコンの瞳に映った。と、同時に、モモにウッコンの記憶が流れ込んできた。

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