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VS 地底魔王四天王ウェパル①

 ここは、モルネード王国とピーニャコルダ王国に挟まれたカムイ海峡、渦潮をさらに潜った深海から、海の戦闘民族マーマンや海中を舞い踊る人魚たちの棲み処、幻の海域、海底都市アラティス。キラキラと輝く色とりどりの魚たちは、まるで宝石の様。その奥にたたずむ神聖な海底神殿。

 白とインペリアル・ジェイドのマーブルの翡翠で創られた神殿は、地上のナーガ神殿とはまた別の美しさを放っていた。

 しかし、海の勇者が留守にしていた際、地底魔王軍 四天王ウェパルのサーヴァント、セレベスの手によって邪気に染められ、マーマンの長は殺され、全てはセレベスの配下におかれていた。



 「ザピュア老師、面倒かけてしまってすみません。」


 下層階からイーサン、クアラと共にロイド達に合流した、海の勇者ルカは、そのまま老師の前に赴き、

頭を下げた。


「いやいや、頭を上げてくだされ、ルカ様。我々も今はまだ長の死と、多くの仲間の死を受け入れられない心境だが、冒険者ロイド殿の話を聞き、現実の出来事だと受け入れた。ルカ様の御身が無事であった事、我ら一同安堵しております。」

「―――そうですね、おれも地上界の状態を聞きました。まさか…」


 その時だった。突然、紫黒い瘴気の陣が集まっていたマーマン達の後方に現れた。

陣から次々と出現する魔魚たちが、マーマン、人魚、この地に住まうもの達を襲う。

 甲殻類のシャコに似た、脚がムカデの様に何本もあり、口にはサメ同様の鋭い歯が並ぶ海の魔物アロマノカリスをはじめ、孔雀の様に美しい背びれ、尾ひれをもつが、その生態は獰猛な肉食のサカバス、一枚一枚がサメ肌のように強固な鱗で覆われたポリプテス、この幻の海域には生息しない種の魔魚だ。


「ちょっと!セレベスは倒したんじゃなかったの!?」


クアラが自分達を取り囲む魔魚の膨大な量に、焦りを見せる。


「いや、セレベスは確かに死んだ…瘴気の陣を扱える術者がまだ―――」


イーサンが術者を探そうと周囲を見回し、ポッチェが防御障壁を展開する。神殿内に緊張が走る。

するとロイドが取り囲む魔魚に雷撃の一閃を繰り出した。しかし、黒い靄によって掻き消されてしまう。


「なに…?」

「雷撃がダメならこっちはどうよ!?地獄の炎(リプカインフェルノ)!!」


クアラが繰り出した炎はアロマノカリス、サカバスには効果があったが、ポリプテスの堅い鱗には弾かれてしまった。しかし、ロイド、クアラの攻撃力を目にした海の勇者ルカは、唖然とした表情を見せていた。


「イーサン達、本当にただの冒険者か?」


ポリプテスと火炎攻撃を避けたアロマノカリス、サカバスに対応しながらイーサンが誇らしげに答えた。


「ま、昔は冒険者だったんだけどね。今はとあるお方に仕えるパーティーだよ。」

「とあるお方…?」

「詳しい話は、この瘴気の陣を浄化したらにしましょう!――――――って、浄化誰が出来るのよ!?」


クアラの一言がパーティー達を動揺させる。


「この、紫黒い瘴気…なんて禍々しい、これが瘴気の陣…こんなの今まで出現したことなかったぞ―――…」


ルカも応戦しながら初見の瘴気の陣に焦りを見せた。

クアラの言葉通り、今のパーティー内に浄化能力を持つ者はいない。

 その時、マールとマエルがイーサンに耳打ちした。


「みんな!とりあえず湧き出てくる魔魚達を片付けるんだ!マールとマエルに秘策があるって!」

「わかった!!」


ロイドとポッチェに、ルカ、リリン、ベルグ隊長がイーサンの指示に応答する。


「じゃあ私は援護と後方防御に徹するわ。氷の壁(バラス・ウォール)


クアラは、魔法で後方に待機するマーマン達に魔魚の攻撃が及ばないよう、防御壁を展開した。

すると、元より戦闘種族の若いマーマン達が氷の壁に手を付き、一緒に戦えると叫んだ。


「ありがたいけど、あの瘴気の陣から出てくる魔物はそこらのものとは攻撃力も防御力もケタ違いなの。

あの纏っている紫黒い瘴気が私たちの攻撃威力を軽減させるベールになってる。しかも今うちのパーティーに白魔法使いはいない。アナタ達を必ず守るから、今は戦いに集中させて。」


 そう。クアラの言う通り、瘴気がロイド達の繰り出す攻撃の威力を軽減させる。海の勇者ルカも聖獣バルフもこの状況に戸惑いを隠せないでいた。瘴気の陣から無尽蔵に出現する魔魚。


「くそっ、キリがない。術者はオレ達の体力、魔力の消費を狙ってるんじゃないのか?」

「テイムも効かない。邪魔だな、あの瘴気…」


イーサンに続いてポッチェが額から頬に伝う汗をぬぐう。


『イーサン様、あの瘴気の陣に続く道を開いていただけますか?』

「え?」

『私たちの浄化手段はあの陣に直接、浄化の光を浴びせなくてはなりません。ここからでは距離があって…』

「なるほど。クアラ!あの陣目掛けて、すんごい炎魔法お願いできるか?」

「すんごいって…まかせて!」


 クアラはそう言うと、持っていた杖に魔力を集中させた。


「しばらく消えない地獄の炎を喰らいなさい、爆炎の柱(ピラズファイア)!!」


 クアラの杖から放たれた炎の柱は、瘴気の陣中央を目掛けて湧き出る魔魚達を一掃しながら、

一本の道を作った。その炎の柱に続いてマールとマエルが瘴気の陣と距離を一気に詰める。

マールが右手を、マエルが左手をそれぞれ重ね合わせ、浄化の光を陣に浴びせた。

 浄化の光を浴びた陣は、その形を保てずにぐにゃりとひし曲がり、その場から消え散った。

ロイド達が、陣から出て来た魔魚達の残党を一気に片付ける。

クアラの氷の壁に守られていたマーマン、ザピュア老師、人魚達が安堵の表情を見せた。


「なになに⁉一体どうやったの、イーサンの妖精達⁉」


 クアラの問いの答えはイーサンの手の中に納められていた。

そこには、赤子の握った拳ほどの大きさの青い宝石をメインに、更に深い青い宝石が数珠つなぎになっていた。


「――――――これって、ラピスラズリ?」

「詳しいね、さすが宝石好き。ドリーネマーケットに行ったとき、モモ様の妖精が浄化の力を込めてくれた石だそうだ。浄化の力はモモ様、とその妖精にしか使えないからな。」

「聖なる石、ラピスラズリか。ドリーネマーケットなら付与術が売りのラジェムって妖精がいる。

しかし君たちの戦闘には圧倒されたよ、正直。敵が瘴気か…一体どうなってしまうんだ、地上も海も。」


 浄化の種明かしをしたイーサンに、ルカが続く。


「クアラだっけ?ザピュア老師たちを護ってくれてありがとう。彼らは、おれの家族同然なんだ。

そして探しているのは“虹の雫”だったよな。それならこれから案内するあるお方に相談してみよう。

どうにかなるかもしれない。」

「ルカ様!それはもしや…」

「そ。海の女神テティス様に御力を借りるんだ。この世界で唯一、実体のまま存在されている。」


 “海の女神テティス” その名を耳にしたロイド達は耳を疑った。


「海の女神テティス…《創世の大地》にも記されていた、確か地底魔王サハマジャの闇の魔術と、地底魔城サハマジャードを封印された一人、本当に会えるなんて、思ってなかったわ。」

「クアラ、様をつけろ、様を。」


すかさずクアラにツッコむポッチェ。


 そう全員が一呼吸置いた時だった。背後から黒い何かがクアラを一瞬で崩れた下層へ攫って行った。


「きゃあぁぁぁぁ!!」

「⁉ クアラ!!」


続いて、目にも止まらぬ速さでリリン、ベルグ隊長、イーサンが下層へ引き摺り込まれた。


「!! なんだ!?あの瘴気の陣の術者か!?」


その場に残ったロイド、ポッチェ、ルカ、聖獣バルフが下層へ向けて戦闘態勢に入る。

すると、下層に繋がる崩れた瓦礫からヒタ…ピチャ…と水を滴らせ、瓦礫に這うようにおおきな吸盤の付いたタコの様になまめかしく動く生物が現れた。

 続いて、攫われたクアラ達四人が、その生物に巻き付かれ身動きが取れない状態で、人質の様に捉えられた姿が現れた。


「なんなの!?このベタベタするタコの足みたいなの!?気持ち悪い!!ロイドっ、早く助けて!!」

「クアラ!リリン!」


 指名が入ったロイドが、その生物に斬りかかろうと構えた時だった。海の勇者ルカがロイドを制止に入る。

「ルカ様、仲間が…っ」

「わかってる、だが待て。下に何か潜んでる。」


 ルカがそう言うと、深い重圧と野太い声が下層から響いてきた。


「ほぉう…よく気付いたものだ。さすが海の勇者と言うべきか。

セレベスには少し期待していたが、やはり自分以外は信じられんな。」


 ガラガラと瓦礫を更に崩しながら、硬いウロコを頭部、首、背に纏ったウミヘビの様な姿をした怪物がロイド達の前に姿を現した。その黒光りしたウロコに瓦礫が触れても傷一つ付かない、ポッチェはウロコの強度に息をのんだ。


「しかし、自分を気持ち悪いとは、気に入らん表現だ。自分は女、子供など差別なく死と苦痛を与える。この小娘だったか。」


――――――――ボギッ


「―――――――!!!!!ああぁぁぁぁぁぁっ!!!」


タコの足に捕らえられているクアラの左腕に鈍い音が響いた。


「――――――――――やめろぉ!!!」

「クアラ!!」


 ポッチェが太ももに装備していたホルダーからナイフを数本、クアラを捕えるタコ足に放ったが、胴体から伸びるヒレによって薙ぎ払われてしまう。

 ポッチェの攻撃と同時に捕らえられていたリリンが片腕をその吸盤から抜き、火球を自身ごとタコ足に放った。リリンの火球は、タコ足を焼き尽くすほどの威力を見せたが、この生物の足は何本あるのか、次々に自由になったリリンに襲い掛かる。その足を避けながらリリンは、自身の魔力で創ったナイフでクアラ、ベルグ隊長、イーサンを捕える足を斬る。


「――――なるほど…悪魔の娘。これはここで始末せねばならんな。」


タコ足から解き放たれたイーサンが、攻撃を躱しながらクアラを抱き留め、続いてベルグ隊長も俊敏な移動術を活かし、リリンと共にロイド達のいる場所へ戻った。折られた左腕の苦痛に顔を歪めるクアラに、すかさず妖精マールが回復魔法を付与する。


 その様子を観察していた、頭部、首、胴体はウミヘビ、下半身がタコの躰を持つ魔物は、ある人物の名を口にした。


「…ふむ。セレベスから白魔法使いアイクが裏切った今、回復役はいないと聞いていたが、妖精がいたとは。小賢しい。妖精狩人アイク!!やつらの妖精を消し去るのだ!」


――――――――アイク⁉


 ロイド達一行がその名を耳にした時、脳裏に浮かんだのは、いつもおどおどしていた、みんなの一歩後ろをついてくる弱気な白魔法使い。しかし、その魔物の前に現れた、闇の空間から出現した人物は、弱気な表情は一切なく、凍てつく瞳を持ち、黒い隈が目立つアイクだった。


「アイク!なんで……?」


 アイクがパーティーに加入してから、どこか脅え気味の彼に一番心を砕いて寄り添っていたポッチェが現状を信じられないといった表情で、その瞳にアイクを映す。


「――――――僕は…いや、僕の話なんてどうでもいいこと。地底魔王四天王ウェパル様のお望み通りに。」


アイクはそう言うと、フィールド全体を一瞬で氷の刃で埋め尽くした。

その状態を目の当たりにしたリリンの額から汗が流れる。


「こ…こんな攻撃、避けようも…―――」

「死ね。アイス・メテオ。」


 瞬時にロイドとポッチェが防御障壁を展開したが、アイクの出現に動揺した分、対処が遅れた。

ロイド達に氷の刃が容赦なく降り注ぐ。イーサンは狙われた妖精マールとマエルを自身の胸の中へ押し込んだ。氷の刃がイーサンの肩、腕、背中に突き刺さる。


『!!っイ、イーサン様!!』

「いいからっ、静かに納まってて。」


イーサンの背後にアイクが立ち、足を止める。


「槍使い、お前は仕留めたと思っていたのに、まさか妖精を使役していたとはね。

一体いつから…

その双子の妖精を差し出せば命までは取らないけど?」


そう言いながら、イーサンの頭上にナイフを振りかざすアイク。


「―――あの子…は、お前の使役妖精なのか?」


イーサンはこのフィールド全域の攻撃を任された、アイス・メテオを放つ手足、首に枷を填められた

着衣も髪もボロボロの妖精を目を映した。


「あれは奴隷妖精だよ。僕が妖精狩人になって初めて狩ったモノだ。

(しゅじん)の命令に背けば、首と手足が胴から離れる。」

「なっ…!!まさか、この子達にも…」

「それは違う。渦の双子。その妖精は海を支配出来る力を持つ、希少価値が高い。

かつての地底魔界支配者サハマジャ様の末裔、ヴォルグ様に献上されるだろうね。その後はどうなるやら。」

「――――――っ、なら、尚更渡すわけないだろう!」

「じゃあ、死ね。」


 イーサンにナイフをアイクが振り下ろそうとした瞬間、ナイフが弾き飛ばされた。

ナイフの刃だけに斬撃を飛ばしたのは、ロイドだった。ロイド自身も無事ではないが、防御障壁のおかげで全身氷の刃が刺さる事は避けられていた。


「―――――――……ナイフだけ狙った斬撃ね。優しいんだね、雷剣士。でも、そんな甘い事していたら、僕を倒せないんじゃない?」


そう言うと、アイクは初めて自身の獲物を構えて見せた。ジャラっと鎖が音を立てるヌンチャク。その棒部の持ち手の先から、ジャキッと音を立て、鋭い刃が殺傷力を上げる。

 アイクは片方のヌンチャクの持ち手を鎖を上手くコントロールし、ロイドの片腕を捕え、その細腕からは想像できないような剛力で、ロイドを自身の傍へ引き寄せ、もう片方の獲物で仕留めようとするが、ロイドは素早く、その攻撃をクトネシリカで受け流した。


「――――――っ?」

「ロイド!!」


 ポッチェ達は、四天王ウェパルとの間合いをとって陣形を組んでいたが、最愛のロイドへの攻撃に、リリンの注意が散漫になってしまった。これをウェパルは見逃がさなかった。

再びタコの足が、油断したリリンの胴体に目にも止まらぬ速さで巻き付き、自身に引き寄せる。


「――――――っ!!放しなさい、このタコっ!!」

「ふむ。とある方から貴様の始末も頼まれていてね。我々の計画に悪魔が関わる必要はないんだよ、あの方以外は――――――⁉」


 リリンはタコの足を魔力を膨張させ引き裂き、その場から距離を置く。


「グゥゥ…小癪な小娘め。」

「みんな!!ウェパルはアタシが引き付ける!その間にアイクを!!」


 リリンは悪魔の翼を広げ、ウェパルの周囲を飛び注意を引き付け、指先に魔力を収束させハート型の手裏剣を人差し指で描くと、それを操り飛ばし、ウェパルのタコの足を斬っていった。手裏剣には毒が塗られており、ウェパルの足の再生を遅くさせる。


 一方で、リリン、海の勇者ルカ、クアラがウェパルの相手をしている間、ロイドとポッチェ、イーサン、ベルグ隊長はアイクの間合いに入ろうと、アイクの奴隷妖精の攻撃を躱していた。

しかし、その奴隷妖精の様子がおかしいことをポッチェは察した。攻撃に迷いが生じたのか、降り注ぐ氷の刃の威力が弱まった。


「何をしている⁉」

『――――――ご主人様が…迷ってる…から…』

「――――――っちっ、バカな!お前は攻撃だけしていればいいんだよ!!」


(――――――迷う?僕が?敵は倒す、殺さないと僕は生きられない。そう教えられて来たじゃないか。

今まで通り、今回の潜伏先は危険が大きいがとは言われていたのは確かだ。でも、僕は――――――)


 アイクの脳裏に、このパーティーに加入した頃からの思い出が走馬灯のように駆け抜ける。その中でも存在が大きかったのは、優しくしてくれたのは、テイマーのポッチェだった。

この時、わずかに弱まりが生じたアイクの防御壁を見逃がさなかったロイドが、一気にアイクの間合いに入り押し倒すと共に、クトネシリカの刃を首元に当てた。


『ご…ご主人…‼』


アイクの奴隷妖精が攻撃の手を止めた。


「―――――――っ、()りなよ、僕は裏切り者だよ。」


 アイクは観念したと、体の力を抜き静かに目を閉じた。

そこへポッチェが駆け寄り、ロイドの手に静かに触れた。ポッチェに何か考えがあると、彼の目を見て悟ったロイドはクトネシリカをアイクの首元から引き下げた。

 すると、ポッチェがテイマーの技の一つ、《拘束の陣》をアイクの額に施術した。


「…なんのつもり?」

「念の為、《拘束》の術を掛けさせてもらったけど、アイクをどうこうするのは今じゃないと思ってね。

奴隷妖精なんて言ってるけど、彼女も心配してるんじゃないのか?」

「ポッチェ、ここは任せた。俺達はリリン達の加勢に行く。」

「ああ。」



 徐々に何度もリリンの斬撃を喰らう、ウェパルのタコの足は、その毒によって、再生が不可能になっていった。がしかし、頭、首、胴体のウミヘビ部分が硬質な鱗で覆われており、リリンの攻撃も、クアラの魔法も弾かれ、ルカの攻撃だけが鱗に傷を負わせられたが、深手とまではいかなかった。




























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