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7/72

女王蜘蛛ナルボンヌ⑴

 王妃マーガレット暗殺事件から4日目の、まだ夜が明けない暗闇の中、騎士団員達はシュピツ村の地下を寝ぐらにする蜘蛛の魔物、アラネアの巣討伐の最終準備に追われていた。




 夜が明け、朝日がモルネード城を照らす頃、7人のフリー冒険者が王宮に現れた。7人は騎士団員に迎えられ、ラインハルトに挨拶をした。


元勇者パーティの剣士、ロイド。ランクS。

パラディン、レンダー、ランクS。

黒魔法使い、トルチェ、ランクS。

パラディン、ザック、ランクA。

黒魔法使い、クアラ、ランクA。

白魔法使い、シュア、ランクA。

白魔法使い、ジュウト、ランクA。



 集まった冒険者のなか、剣士のロイドが代表してラインハルトや騎士団に挨拶をした。


「この度は拝謁叶いまして恐悦至極に存じます、ラインハルト殿下。貴殿の命により集結致しました我々7人はモルネード王国の平和、安全を魔物より守る為馳せ参じました。覚悟も出来ております。いかようにも指示の程を。」

「緊急要請にも関わらず、これに応じてくれた事、心より礼を言う。我ら騎士団、聖属性魔法師団、竜騎士団と命を共にアラネアの巣、女王蜘蛛の討伐を頼む。また、皆に紹介したい人物がいる。モモ、前へ。」


 いきなり振られたモモはびっくり。横に立っていたラウルに背中を押されて、ドキドキしながらラインハルトの横に並んだ。ラウルはモモにウインクしてみせ、その横にいたダンは親指を立てて大丈夫のサインをくれた。



討伐用モモの標準装備はこうだ。


 アイボリーのカシュクールワンピース。パールホワイトのフード付きポンチョ、黒曜石のペンダント、ガーネットピアス、金の指輪にヘアスタイルはポニーテールで今日は纏めていた。


「こちらは知っている者は一部しかいない。聖蛇ナーガ様によりこの世界、このモルネード王国に遣わされた聖蛇の化身、モモ殿である。」


ラインハルトの紹介に冒険者達はざわついた。


「詳しくは語らないが、今回の討伐では白魔法使いがいてくれるので、主に聖属性魔法師団の者たちと共に浄化を主としてあたってもらう。皆よろしく頼む。あと、左に立つのは、ラウルとダンだ。以上。」


…俺たちの紹介、雑…


ラウルとダンは思った。



 変わって、聖属性魔法師団長のルークが編隊について説明した。

騎士団長シズウェル率いる前衛隊は、シズウェル、ラウル、ロイド、レンダー、ザック、騎士団員。

ラインハルト率いる中央部隊は、ラインハルト、モモ、ルーク、トルチェ、クアラ、聖属性魔法師団員、騎士団員。

竜騎士団長カーティス率いる後衛部隊は、カーティス、ダン、シュア、ジュウト、竜騎士団員、騎士団員、討伐記録係ヨイチ。



 竜騎士団員は巣穴の外に待機し、外に逃れてきたアラネアを討伐する作戦だ。ちなみに、毒に冒されていないアラネアは竜の餌になるらしい…。その、ルーク団長の言葉に皆うぇ…っと顔を顰めた。いらない情報だった?とルーク団長は?マーク。


 シュピツ村へは構成した3部隊に分かれて、王宮北にあるナーガ神殿の移動クリスタルを使い入村する。ナーガ神殿には移動クリスタルがあり、モルネード王国各村にあるナーガ像に転移する事が出来た。




 シュピツ村はモルネード王国の南西に位置する村で、北西に結界の張られた西の森が広がり、東南は聖地サーリンゼルカに一部接している、魔物と妖精が多く見られる村だ。

ギルドはないが、薬屋、宿屋、教会そしてモルネード王国唯一の錬金、修理屋がある。モルネード王国に立ち寄る冒険者の多くはシュピツ村に宿泊し、錬金、修理屋に武具の修理や、新たな錬金を依頼する。この為、モルネード王国随一の財政黒字であり、その収益は王都ラダンディナヴィアにも匹敵する程だった。王宮議会ではシュピツ村に新たなギルドを立ち上げる計画も上がっていた。



 ラインハルトと共に第一部隊が入村した。

ナーガ像前で待機していた村長、村人らが出迎える。

一通り挨拶を交わし、村の現状を確認した。


「先日より殿下の命で残ってくださった騎士団と、偵察部隊の方々の姿は以来見ておりません…全滅されたかと…今は女王の腹が満たされているのか、村人に被害は出ていませんが、この村に立ち寄って下さる冒険者の方が複数名宿屋に戻らず行方がわからないと聞いています。」


村長の話に宿屋の支配人が続けた。


「はい、約15人ほど、しかも武道家、パラディンなど体格のいい方々ばかりなのです。無事でいればいいのですが…。」

「情報ありがとうございます。貴村の被害は冒険者である事承知致しました。今回の討伐と共に探してみます。巣穴にいるかもしれない。」


騎士団長シズウェルがシュピツ村の報告を受け、丁寧に回答した。団員にも、要救助者ありの旨を指示した。



 しばらくして、第二、第三部隊が入村した。



 現状、地下に広がる巣穴がどうなっているのか把握出来ていない今、慎重に進むしかない。ラインハルトにラウルは前回起きた瘴気の陣の位置を確認した。どうやら巣穴への入り口は南西にある井戸の様だ。


「こんな大掛かりな討伐参加は初めてだ。」

「オレもだ、Sランクのパラディン様と共闘出来るなんて、中々ない機会だ、勉強させて貰うよ。」

パラディンのレンダーとザック。そして、レンダーはラウルを指差した。

「あの方が今パラディンの中でSSランクに1番近いラウル殿だ。妖精も使役されるかなりの強者だ。お目にかかれるなんてありがたい。」




 一方、Sランク剣士ロイドが、Aランク白魔法使いジュウトに声を掛けた。


「やぁジュウト、久しぶりだな、一年ぶりくらいか?」

「お久しぶりです、ロイドさん。今回フリー案件ですが、ロイドさん…」

「…ああ、あのパーティは抜けた。あいつらは頭が金になっちまってる。お前が先に抜けた理由がわかったよ、あの時は悪かったな。」

「いえ、今はもうぼくもフリーですから。今回の討伐頑張りましょう。」

「ああ。よろしく頼む。」



その二人の姿を見たSランク黒魔法使いトルチェはぼそっと呟いた。


「…勇者パーティ?」


ロイドとジュウトはビクッと肩を上げてトルチェを見た。


「やっぱり、どこかで聞いた事があったわ、Sランク剣士のロイド。あなたの雷魔法見てみたかったの。楽しみにしているわ。私は黒魔法使いトルチェ、よろしくね。」


「あ、ああ。」


雷魔法。このワードを聞き流さなかったモモはツカツカとロイドの方へ近づいた。


「おはようございます、ロイドさん。」

「あ、おはようございますモモ様、今回よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。それで、今、雷魔法って耳にしたんですが…」

「あ、ああ。実は俺のは魔法じゃないんですよ。この剣、クトネシリカが助けてくれるんです。タイミングは時々ズレますが。正しくは雷の使い手ではないんですよ。」


ははっと笑いながらロイドは話した。


「…鑑定ってなさったことは⁇」

「ありますよ、ただどの鑑定士の鑑定もクトネシリカ自体弾いてしまって、出来ていないんです。」

そこへラウルがやってきた。

「モモ、ここにいたんだな。雷剣ロイド、俺はパラディンのラウルだ。よろしくな。」

「その通り名久々に聞いたよ、なんか照れるな。お噂は予々、聖壁のラウル殿、今回は強力な壁があるから全力でいかせてもらうよ。」

「頼もしいな、そろそろ前衛は出発だ。」

そう言うとラウルはモモの右手を取り口づけをした。

「聖蛇ナーガ様のご加護があらんことを。」


そばにいたロイド、若干の引き。モモは赤面し、挙げた右手をそのままに固まってしまった。その光景を見ていた周りの騎士団員達はモモの周りにひざまづき、加護を頂くまいと、両手を胸の前で組み合わせモモに祈りを捧げた。


(え、ええーーー⁈)


騎士団員達の光景を目にしたラインハルトはやれやれと言う様にモモに近づき


「何か騎士達の士気が上がる一言をもらえないか、モモ殿。」

(…って言われてもー…昔やった体育祭の選手宣誓みたいなのでいいのかなぁ?)


すると、頭の中にルキスの声が響いた。


「も、モルネード王国を護る騎士達よ、これより国民に害を為す魔物討伐に向かう。聖蛇ナーガ様より賜りしこの黒曜石が眼となりナーガ様にも其方達のこの国、国民を護らんとする誠意は届くでしょう。すべてはモルネード王国と共に、聖蛇ナーガの加護があらんことを。」



 モモはそうルキスの言葉を復唱し、右手を空高く翳した。

すると、騎士達はスッと立ち上がりおお!!と一丸となって空高く右手を挙げた。

見ていたラインハルトもラウルもモモの人々の心を惹きつける力に驚いていた。

そして、騎士団長シズウェル率いる前衛部隊が南西の井戸から突入していった。




 一方その頃シュピツ村地下、アラネアの巣では。

地上からの地響きに


「なんだ今のは…?」

「人間達が何か企んでいるのでは⁇あれから騎士どもは姿を見せないしな。」

「見張りから何か連絡は?」


黒タイツに紫と黒のタランチュラ帽子を被った人型の蜘蛛達が話し合っていた。するとザワザワと見張りの中蜘蛛達が集まってきた。


「大変だ。人間達が攻めてきている。巣穴入り口に入ってきた!」

「なんだと⁈」

「ナルボンヌ様に報告を。」

「いや、待て。今はお食事中のはず。我々で返り討ちにしてくれよう、愚かな人間共め。」


洞窟の暗闇で次々に赫い眼が光っていった。




 井戸に入った騎士団員がライトの魔法で洞窟内を照らした。

辺りは糸を張り巡らされ、その糸には全滅した騎士団員と思われる骨があちこち付いていた。この光景を目にした騎士団員達はゴクリと唾を飲み込んだ。


「毒糸だ、触れただけで爛れるぞ。気をつけろ。」


騎士団長シズウェルが団員に注意を促す。すると、ラウルが腰に下げていた剣を抜き、薙ぎ払った。


〝ファイアハイウォール”


砲火の業炎壁が辺り一面の蜘蛛の巣を焼き払った。

これを見ていた騎士団、ロイド、ザックもラウルの攻撃範囲を確認すると共に、おぉと喝采があがった。


「範囲Lsか…広いな。」


剣士ロイドが呟く。


「パラディンで火炎魔法も使えて、妖精も使役出来るか…味方で居てくれて有難いな。」


同じパラディン職のレンダーも呟いた。

ラウルのファイアハイウォールで、あらかた先までの洞窟内の毒糸は片付いた。

先へ進もうとした時、ザワザワと奥から中蜘蛛がシズウェル達を上下左右取り囲んだ。

ラウルとレンダー、ザックは防御障壁を展開。その中で騎士団長シズウェルの指揮の下、団員による討伐が開始された。




 中央部隊が井戸を覗き込むと、戦闘が開始された蜘蛛達の雄叫び、騎士団員の悲鳴が聞こえてきた。地下における戦闘が次第に激化し、地響きが地上では起きていた。不安になる村人達。ラインハルト指揮の下、中央部隊が井戸に突入した。

 中に入ると、中蜘蛛の死骸や負傷した騎士達が横たわっていた。聖属性魔法師団員と、モモは負傷した騎士達の手当てと、騎士団員は先にいる前衛部隊と合流した。

中蜘蛛達を討伐して、更に先に進むと開かれた空間になり、道が6つに分かれていた。ラウル、シズウェル、ラインハルト、ルークがこの先について作戦を立てているところへ竜騎士団長カーティス率いる後衛部隊が合流した。


「…6つ…。5つはフェイクか、先でまた合流出来るか分からんな…」


ラインハルトが腕を組んで呟いた時、立っていた地盤が崩れた。


「わぁぁぁっ!!」


騎士団員達、冒険者達は約5メートル近く地下に落とされた。殆どの騎士団員達は着地体制を崩し、骨折をした者もいたが、瞬時に衝撃防御壁を展開したラウルのおかげで、命を落とすのは免れた。地盤の端にいて地下1階に残れた者は、ラインハルト、騎士団長シズウェル、Sパラディンのレンダー、A黒魔法使いのクアラ、騎士団員数人に聖属性魔法師団員数人と、まだ開かれた空間にいなかった後衛部隊だった。


「大丈夫か⁈」


ラインハルトの声は反響もせず暗闇に消えていく。


「くそっ…地盤が崩れるとは。罠か?」


ラインハルトの呟いたその時、天井からズズズっと糸の力で降りてきた大アラネアが現れた。


「罠ニ決まっテイルダロウ。我ラモ、コノ人数ノ人間ヲ相手ニハシテイラレナイ。下ニ落チタ者達ハ、生キテハ戻ラ無イ。女王、ナルボンヌ様ノ餌食ダ。」

「じ、女王がやはりいたのか。」


シズウェルが大アラネアに剣を向け構えた。


「オ前達ハ餌ダ。特ニナルボンヌ様ハオスガ好キダ。オ前達ハコノ6本ノ道ヲ進メ。

1本ダケ、西ノ森ニ出ル。後ハ餌ニナルダケダ。

ギャギャギャ」


耳につく笑い声と共に大アラネアは消えた。




 一方、下層階に落ちた一行は、Sパラディンのラウル、聖女モモ、S黒魔法使いのトルチェ、Aパラディンのザック、聖属性魔法師団長ルーク、騎士団員と聖属性魔法師団員複数名だった。


「…っ。」

「大丈夫⁇ラウル!」


モモの問いかけに頭を振ったラウル。


「大丈夫だ。モモは大事ないか?」

「うん、ラウルが抱えてくれたから。トルチェさんも大丈夫みたい、ザックさんが…」


トルチェも地盤が崩れた瞬間、ザックにお姫様抱っこで抱えられ、無事着地していた。


「あ、ありがとう、ザック助かったわ。」

「大事な火力だからね、俺はあんたの壁になるよ。」


しかし、安心したのも束の間だった。上を見上げるもラインハルト達の姿は見えない。声も届かない。更に…


「わぁぁぁ!!助けっ…」

「ぎゃぁーーっ」


騎士達が数名、どこかに攫われていった。毒糸が足に絡みつき、暗闇に引き摺り込まれて行った。

ラウルと、ザックが防御障壁を展開。すると、大アラネアが3体現れ、囲まれていた。





 地下1階にいたダンがジュウトを連れて騎士団をかき分けてラインハルトの前に出た。


「おれ、下にいく。下の方のが圧が強い。さっきあの蜘蛛なんて言ってたかよく聞こえなかったけど、ここのボス下にいる。」

「…ああ。やはりおまえは鼻がいいな。さっきの蜘蛛は、下には女王ナルボンヌがいると言っていて、落ちた者達はエサにされる様だ。」

「え、エサ⁈ラウルなんか細くて美味くないぞ⁇じゃあ行くわ!!」

「ええーっ。ぼくだって美味しくなんかっ…」

「待てっ…」


そう言うと、ダンはラインハルトの静止も聞かず、ジュウトを抱えて闇に飛び込んでいった。闇にはキャーーーーと、ジュウトの叫び声だけがこだました。


「……と、とりあえず、ダンと一緒ならあの白魔法使いは大丈夫だな。」


更に、何も語らずラインハルトに映像通信アイテムを手渡したヨイチも、45°きっちり一礼して、闇に飛び込んで行った。


「や、やるな…92歳…」


ラインハルトの呟きに、その場にいた全員が闇の中を覗き込み、ヨイチ様っ、と無事を祈った。


「よし、我々も隊列を組み直し、先に進むぞ。」


ラインハルトの言葉にSパラディンのレンダーが手を挙げた。


「俺が先行しよう。ラウル殿程ではないが防御障壁と受け身は出来る。」


続いてA黒魔法使いのクアラがレンダーの横に並んだ。


「私がアラネアに初撃を与えるわ。」


二人の力強い言葉に、ラインハルトはこくりと頷いた。


「すまない、君達には負担をかける。」

「なに、この依頼に志願したんだ。ナーガ様の加護も出発時にいただいた。任せてくれ。」


白魔法使いのシュアはさっそく、ラインハルト、レンダーとクアラ、そして自分に攻撃力上昇、防御力上昇、MP消費軽減、状態異常耐性をかけた。ラインハルト、レンダーと、クアラの体を虹色の薄い膜が包む。


「ボクは微力ながら強化魔法と回復に徹するよ。」


その光景を見ていた聖属性魔法師団員達。


「え、詠唱なしで…?」

「4つも、しかも4人同時に?」


自身のステータスを確認し、効果を実感したレンダーとクアラ。


「ありがとう、シュア。後ろに貴方がいると安心して攻撃出来るわね。」


クアラの言葉にレンダーも頷き、シュアは照れた様子で顔を赤らめた。


「我々騎士団も、あなた方には及ばないが全力で闘おう。聖属性魔法師団員もフォローを頼む。」


シズウェルの言葉に、騎士団員達の思いが一つになった。


「では、どの道を行くかは、ラインハルト殿下に任せます。どうぞ我々を導いて下さい。」


レンダーの言葉にラインハルトは手を握りしめ、頷いた。

これだけの人の命を自分の選択が左右する。今までにないプレッシャーだった。


「大丈夫です、殿下。私達はアラネア如きに負けませんから。」


クアラの一言が救いとなり、ラインハルトは左から二つ目を指差した。レンダー、クアラ、シュア、先に入り、続いてラインハルト、聖属性魔法師団、騎士団らがその洞窟の先へ消えて行った。




 しばらく進むと鉄格子が見えた。そこには…


「…っ!!みんな!!人間だ!!助けが来たんだ!!」

「まさかっ!!」


シュピツ村から消えた冒険者らしき人達が、牢の中に監禁されていた。しかし、隊列後ろの騎士団員が叫ぶ。


「しまった!!背後を取られた!!アラネアが!!」

「ぎゃあっ!!」

「くそっ!!」


大蜘蛛一体が隊列背後に現れ、退路を封鎖した。次々に騎士団員らがアラネアの脚に踏み刺されて倒れていく。


「避けて!!!」

「ピラズファイア!!」


クアラが詠唱すると、炎の柱が大蜘蛛、アラネアに向かって一撃を加えた。その威力はシュアにより倍増され、避けたはずの騎士団員達の服にも若干引火した。


「ギャギャギャギャ」


業火に苦しむアラネア。


「すごい威力だな…。」


ラインハルトが息を飲む。


「あの業火はしばらくは消えません。今のうちに殿下は監禁されている人達を!」


隊列を前後入れ替えたその時、アラネアが仲間を呼んで息耐えた。現れたのは大蜘蛛2体、中蜘蛛3体だ。


「…足場が悪いな…。」


そう言いながらレンダーは防御障壁を展開した。先に襲ってきた中蜘蛛3体にレンダーは衝撃波を飛ばしグシャっと潰した。1体だけ避け、クアラに襲い掛かったが、レンダーが回し蹴りを喰らわした。


「ありがとうレンダー。」

「いや…まずかったな、今の回し蹴り…毒化忘れてた。」


レンダーの右脚をアラネアの毒が侵食していく。そこへ三人聖属性魔法師団員が駆け寄り浄化魔法をかけた。毒素がみるみる浄化されていく。シュアが治癒魔法をかけ、大事には至らなかった。


「毒の侵食、早いですね…しかも、下から瘴気を感じる。」


シュアの言葉に、その場にいた聖属性魔法師団員らが浄化魔法を詠唱し始めた。じわじわと距離を詰めてくる大蜘蛛二体。向かって右側のアラネアが毒糸を吐き出し、洞窟全体を巣で取り囲んだ。触れたら毒に冒される、この狭さじゃ爆発魔法も簡単には発動出来ない。


「騎士団員は蜘蛛の巣排除に回れ!!」


ラインハルトが指揮をとる。

騎士団員達は一斉に巣の排除に取り掛かった。


「あと二体!!」


レンダーが叫ぶと、クアラは横に立ち火焔系、爆発系の魔法を次々に詠唱していく。シュアは強化魔法を補い、レンダーは衝撃波を喰らわし、ようやく現れたアラネア全てを討伐。

鉄格子の鍵を壊し、シュピツ村から消えた冒険者達を解放した。


「あ、ありがとうございます。もう陽の目を見れないかと。」

「いつ喰われるか、地獄の日々でした…。」


囚われていた冒険者は13人。聞いていた情報は15人だった。


「他には囚われていた者はいないのか⁇」


ラインハルトが聞くと、皆首を横に振って下を向いた。


「俺が知るのは15人だった。しかし、人化したアラネアに囚われ、糸でぐるぐる巻きにされて、どこかに連れて行かれた。生きているかはわからない…」


「2人か?」

「ああ…1人はついさっき連れて行かれたんだ。だが、俺にはどうにも出来なかった…逃げていたアイツを自分が生き残るために…転ばせた…俺は最低なんだ!!でも…死にたくなかった…」


屈強な体格の冒険者は泣き崩れて懺悔した。

どうやら牢の中で冒険者達を放し飼いにしていたのは鮮度を保つ為らしかった。その中で捕まった弱い冒険者から囚われ喰われていったらしい。

その場にいた誰一人、泣き崩れる冒険者を慰めも、誹謗もする者もいなかった。


「あと、5つか。幸先は良かった。」

「そうですね、失踪した冒険者の救出は一つ目的を果たしました。後はここからの脱出と、女王の討伐ですね。」


ラインハルトの言葉にシズウェルは答えた。


「じ…女王…アイツらより強いのが…討伐なんてどうやったら…」


冒険者の言葉にラインハルトが反応する。


「アイツら⁇」

「人化出来る一見ふざけた格好のオスアラネアです。女王の僕でウッコン、サッコンと名乗っていました。本当にふざけた奴らなんです。」

「…名前からしてふざけてるな…」

(作者、力入れてないな。コレ)



―――ピチョン…地下水が滴る音が響く。

下層階に落ちたモモ達の討伐が始まる。






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