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古の海底都市アラティス

 冷たくゴツゴツした感触に、目を覚ましたロイド。

体を起こし、辺りを見廻すとそこは白を基調とした一つ一つが大きな岩を積み上げられて出来た神殿の様だった。踊り場、広間の様に広い空間。


『目を覚ましたか、ロイド殿。』

「トール!」


 ロイドの視界にヌっと入って来た雷神トールの傍には、アイクの攻撃を受けたクアラが、トールの治療を受け傷は回復、ただ意識を失い倒れていた。

気付けば、スタリアバリアの装備は解かれていた。外の様子はわからない、が空気はあるこの空間に警戒しつつクアラを起こすロイド。


 ロイドの呼びかけで、その場に倒れていたクアラが目を覚ました。


「……ロイド…私…?」


クアラはロイドに支えられ、体を起こしながら辺りを見渡す。


「ここは…?私、たしか背中に…?」

「ああ、信じたくはないが…アイクにやられたんだ。素早く身動きの出来ない海中だった、覚えてないのも無理はない。俺の持つ加護、雷神トールが言うには、アイクは氷の妖精を使って攻撃を俺達に…」

「え!?あ、あのアイクが?」


ロイドの言葉にただただ驚くクアラ。さらにスタリアバリアを装備していない状況に気付く。


「――――――とにかく、クアラが無事なら良かった。アイクの話だとイーサンに深手を負わせたらしい。にわかには信じがたいが、ポッチェ達もここに来ているのか?」

『左様、ここは海底都市アラティス。我らとは離れた場所にポッチェ殿らの気配を感じる。

ただ、気を付けよロイド殿。この古の都市には狂暴なマーマンが住み着くと聞く。」

「マーマン?」

「魚人の魔物のこと?」

『そう、クアラ殿の言うとおり。魚人の魔物マーマンの好物は人間だ。特に女人の血肉を好む。』

「…クアラ、マーマンは女性の血肉が好きらしいぞ。」


ゾッっとロイドの言葉にクアラが青ざめた。


「とにかく、ポッチェ達もここに来ているようだから合流しよう。」


そうクアラの手を取って彼女を立ち上がらせた時だった。ヒタヒタと水に濡れた足音が近づいて来ていた。





 一方、ロイド達とは別の場所で、すでにポッチェとベルグ隊長が、マーマン達と戦闘を繰り広げていた。マーマンは魔人とは違い怪力ではないが、身のこなしが素早い種族だ。水中ではなおの事。

ポッチェ達が深海から転移させられた場所は、周りに海水の堀がある何本もの円柱に囲まれた開けた場所だった。深手を脇腹に負ったイーサンは血まみれのまま意識を失った状態が続いていた。

アイクから受けた毒は除去出来たようだが、大量の出血。止血は出来たが、このままの状態では危険だった。

 マーマンは水中に身を隠しては、不意をついて死角から攻撃を仕掛けてくる。

敵の数がどのくらいか把握出来ない状態で戦略も立てられない、ここがどこかもわからず、負傷した仲間を抱え、どこまで戦えるか…体力配分を考えていたポッチェに、共に応戦するリリンが激を飛ばす。


「ポッチェ!迷ってないで、今はこの場を打開するわよ!」


リリンがポッチェと背中を合わせた。


「アタシのサーチで、ここにロイド達も来てるのを察知したわ。合流するわよ!」

「わかった、ありがとうリリン。」


四方八方からマーマン達がポッチェ、リリン、ベルグ隊長を襲う。





 ロイドはその剣技で、クアラは消費魔力を抑えた火炎系魔法でマーマン達を次々と倒し、歩みを進めていく。


「人間だぁ!!人間の女がいるぞ!!」

「キャッホウ!!……っづ!」


クアラに飛び掛かってきたマーマンを真っ二つに斬るロイドが、さっきからクアラを見てははしゃぐマーマン達の言葉に改めてクアラに視線を向ける。


「―――?そんなに美味しそうか?」

「何よ!?」


長く続く廊下を剣を振り、走りながら駆け抜けていく二人。すると開けた空間に出た。

上に高くどこまでも続く水の柱。マーマンや魚が、中には人魚も泳いでいた。

ロイドとクアラの存在に気付いたマーマン達が一斉に襲い掛かって来た。


「こっちだ!!」


クアラの手を引っ張り、ロイドが先導する。


「入り組みすぎていて、どうなってるのかわからないわねっ…」

「たぶん、もうすぐポッチェ達に合流出来るはずだ。戦闘の気配がこの先にある。」


息を切らし、マーマン達の攻撃を躱しながらロイドは感覚を頼りに、ポッチェ達との合流を図る。

すると、どこからともなく闇深い声が響く。


『――――――そのとおりだ、この奥にキミ達の仲間がいる。急ぐがいい――――――』

「!?」


その声の通りだった。

二人が走り抜けたその先の開けた場所では、ポッチェ、リリン、ベルグ隊長がマーマンと死闘を繰り広げていた。そして、その場に倒れているイーサンにすかさず駆け寄るロイドとクアラ。


「ロイド!!イーサンは出血がひどすぎてっ…!!」


リリンがマーマンの攻撃を躱しながら状況を説明する。


「くそっ、どうすれば…ミルカモの雫でも試してみるか…?」

「無理よ、それは状態異常のだもの…モモ様がいてくださったら…」


 何も手立てがないと悔やむロイドの前に突如、二人の妖精が姿を現した。


「――――――!!」

『大丈夫、まだ息はあるわ、マール。』

『よかった、さぁ取り掛かるわよ、マエル。』


マール、そう呼ばれた妖精は、白と青の泡が周囲を浮遊する前髪左寄せの猫目。そしてマエルと呼ばれた妖精は白と緑の泡が同じく周囲を浮遊する、マールとは反対の前髪右寄せの猫目が特徴の双子だった。


『あなたは私たちの姿が見えているのね?あなたの血を分けてもらっても?』


 突然現れた二人の妖精に話しかけられたロイドは、慌てつつも、冷静を装い縦に首を振った。

倒れたイーサンを中心にロイド、マール、マエルが膝を立て、手を繋いで囲む。そしてマールとマエルが妖精の言葉で回復の魔法を詠唱すると、ズッとロイドは自身の体から血の気が引いたのを感じ、その場に片膝をついた。


「だ、大丈夫ロイド!?」

「ああ、心配ない。今、妖精が二人、イーサンを助けてくれているからな。」


 その後も回復魔法をイーサンにかけ続けるマールとマエル。そして


「―――……っ?」

「イーサン!!」


 フッと目を覚ましたイーサンに、声を上げたクアラ。その傍らでは、少し疲れた様子を見せる二人の妖精の姿があった。


「大丈夫か?本当にありがとう、助かったよ。」

『私たちは大丈夫です。イーサン様が無事で良かった、あと少し処置が遅れていたら命は無かったでしょう。』

「イーサン様?」

『私たちは、以前イーサン様に助けていただいたことがあるんです。いつか御恩をお返し出来たらと思っていたので…って、今はゆっくりお話ししてはいられませんね、この場を切り抜けましょう。』

「たしかに。」


 次々と湧き出てくるマーマンに、ロイドが雷剣で大技を繰り出した。それは一撃で、仲間を襲っていたマーマン、そして水中に潜んでいた者達も含めて一瞬で感電死させた。


「す…ご。」


ロイドの一撃に唖然とするポッチェ、ベルグ隊長そしてクアラ。


「さすがロイド!!」


剣を鞘に納めるロイドに飛びつくリリン。さっきのイーサンを助ける時に血を抜かれすぎたのか、もはや抵抗する力もなく、リリンにされるがままになっていた。


 ロイドの一撃で、マーマン達の攻撃は一旦おさまった。。

ポッチェの手を借りて体を起こすイーサン。ロイドはみんなにアイクの豹変について語った。


「やっぱりあいつ、アイクだったのか…」


にわかには信じがたいといった表情を見せるイーサンだったが、ロイド、クアラの表情を見てすぐに気持ちを切り替えた。そして回復したイーサンは目を擦った。


「…え?なんかオレ、カリプソーで会った妖精の子達が見えるんだけど…?ここってそゆとこ?」


イーサンの「そゆとこ?」とは、カリプソー同様、妖精の見える特別な空間かということだ。しかしそうではないと、クアラとポッチェが同時に首を横に振る。ここで現状妖精が見えるのは、雷神トールの加護を持つロイドと悪魔のリリンだけだった。


「カリプソーで会ったのか?」

「ああ、なんか声を掛けられた程度だが、でもなんで?」


不思議そうにマールとマエルを見るイーサン。すると二人はイーサンの手を片方ずつ手に取ると、

額を当てた。


『あれはもう5年ほど前に遡ります。覚えがないかもしれませんが、たしかに私たちは()()だったあなたに助けていただきました。』

「剣士だったのか、イーサン?」


マールの言葉に驚いたロイド。


「あ、まぁね。剣士だった頃のオレを知ってるんだ…ってなんでオレ妖精の声聞こえるの?」

『イーサン様を助けた時、あなたの意識に問いかけたんだけど、特に拒否もされなかったから強制契約しちゃいました。』

「きょ…強制…契約?」

『わたしがマエル、一時的に時間を戻すことが出来るの。そして双子の姉のマールは極限まで対象を回復させられる。だから今、イーサン様のステータスは戦闘前の状態だよ。わたしたちにイーサン様のお手伝いをさせて下さい!』


マエルはそう言うと、屈託のない笑みを見せた。


「え!?なになに?オレ、妖精と契約しちゃったの??しかも強制?」


自分に起こった事に慌てふためくイーサンの姿にプっと吹き出す、リリン。


「良かったじゃない、イーサン!妖精と契約なんてそんなに簡単に出来る事じゃないみたいよ?」

「―――まぁ、そうだな。白魔法使いがいない今、ここを打破するために力を貸してもらおう、お願い出来るか?」


ロイドの願いに、マールとマエルは二つ返事で笑顔を見せた。

 “虹の雫”探索は振り出しどころか、目的地を見失ってしまったロイド一行。


「俺の加護、雷神トールに聞いたがここは海底都市アラティスという場所らしい。そこに巣食うマーマンは人間の女の肉が好物らしいぞ。」


ロイドのその言葉に、全員がクアラに目をやった。

“そんなに美味しそうには見えない…”

そんな心の声が駄々洩れの視線だった。


 そう、ロイド達が深海から転移させられたここは「海底都市アラティス」。地図に記されることが出来ず、ましてや特別な能力がないと人間がたどり着ける場所でもなかった。

魚人マーマンや人魚たちが住まう幻の海域。そしてもう一つ。ここを巣食う種族がいた。

 マーマンからの襲撃を打破し、一息ついたロイド達の背後には体躯のいい一体のマーマンが立っていた。青緑色の肌を持った今まで襲い掛かって来たマーマンとは、肌の色もその圧も格段に違う。

その気配を察知したロイド達が一斉に振り返る。


「やぁ、ようこそ海底都市アラティスへ?深海で、もたついていたから苛立って、ついついここに呼び寄せてしまった。我が名は地底魔王軍 四天王ウェパル様のサーヴァント、セレベス。

どうやら、貴殿らの中に“聖蛇の娘”はいないようだな。」

「“聖蛇の娘”を狙っている?一体何の為に、彼女に何する気だ!?」

「貴殿の先ほどの雷撃を見た。すさまじい威力だ。覚えているかな、ブーゲンという魔人を。

貴殿らにアンプナー山で敗北した。」

「滅紫色のフードを被っていたヤツだったか?俺は直接対峙はしていないが。」

「ふ。構わんさ。ブーゲンは結果脳筋だったが、常に仕えていたチェルノボーグという四天王に認められようと必死だった。その姿勢とあの強さは我も認めていた。しかし結局はただの駒でしかなかった。

あの四天王チェルノボーグさえも、全ては()()()の手駒に過ぎない。」


 セレベスがゆっくりと攻撃体勢を整える。それに合わせて、ロイド達も構えた。


「我はウェパル様の優秀なサーヴァント。ウェパル様も我も駒で終わる気はさらさらない。ここで貴殿らを始末して、我が主を()()()の右腕にしてみせる!!」


セレベスがロイド目掛けて突撃してきた。ロイドは鞘でセレベスの拳を受け躱した反動で、遠く後ろまで弾き飛ばされた。


「ロイド!!」

「ロイドさん!!」

「仲間の心配をしている暇などないぞ?」


セレベスの回し蹴りがポッチェ、ベルグ隊長に直撃した。ポッチェは直撃寸でのところで受け身を取ったが、ベルグ隊長は間に合わなかった。


「ベルグ隊長っ!!」


ベルグ隊長の右腕はあらぬ方向へ曲がり、胸部に大ダメージを負い、意識は飛んでしまっていた。

セレベスの牙がリリンとクアラに向く。


「女、子供とて容赦はしないぞ。」


リリンとクアラ目掛けて突撃するセレベスの前にイーサンが立ちふさがった。そこにロイドも共に立った。


「戻りが早いな。さすがの身のこなし。相手に不足はない!!」

「(今までのマーマンとは格が明らかに違う。今このパーティーメンバーで接近戦に長けるのは、

テイマーのポッチェくらいしかいない。あまり得意とはしないが…)」


 そう考えを巡らせたロイドは、剣を鞘に納め、正拳突きを繰り出した。


「!!!」


ロイドの正拳突きを真正面から喰らったセレベスの躰は宙を裂き、壁にめり込んだ。


「ろ、ロイド、パラディンもイケんの?」

「経験は浅いが、壁くらいにはなれるだろう。ポッチェ、どうだ、やれそうか?」

「へへ、ロイドさんと一緒なら心強いって。」


そう言いながら、口元の血を拭うポッチェ。また、その傍には、パラディン姿のロイドにメロメロのリリンの姿があった。


「マール、ベルグ隊長の回復を頼む。」

『お任せください。イーサン様、マエルも回復魔法が使えます。援護に入ることをお許しください。』

「ああ、頼む、マエル。」

『了解しましたぁ。』


剣を封じたパラディン、ロイド。テイマー、ポッチェ。槍使い、イーサン。黒魔法使い、クアラ。そして悪魔サキュバス、リリンの闘いが始まる。



















お読みいただき、ありがとうございます。

至らぬところばかりではございますが、楽しんでいただければ幸いです。



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