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奇岩洞窟攻略②

 ブレーブの魔法陣で彼の工房に案内されたモモ達。

展示されている、剣、盾、弓矢、ハンマー、爪、鎖鎌、杖…どれも黒曜石があしらわれ、そのデザインも洗練されたものになっていた。


「ブレーブさん、この工房に訪ねてくる冒険者は…?」


レンダーの問いに、ふぅと大きくブレーブは溜息をついた。


「ここ最近の冒険者は質が悪くてな。」

「質?ですか…」

「強さの基礎を築かずして、武器に頼ろうとする者達ばかりじゃ。最初はワシャも市に武器や防具を

卸していたが、その扱いはどうじゃ。魔物を討伐出来なければ武器、防御力が低ければ防具のせいじゃとその場に捨てていくではないか。ワシャ、その現実を見た時に、失望したんじゃ。

じゃから、最初ラインハルトの願いも断ったんだが…」


ブレーブはモモに視線を映した。


「一度、持ち主となるそなたを見に行ったんじゃ。してみれば、毎朝弓の稽古を欠かさず

行う鍛錬を積み重ねる女子(おなご)じゃないか。じゃから、最期に賭けてみたんじゃ。

まさか、聖女職が持つとは思いもしなかったが、モモ殿じゃったか。

“破邪のカウス”はそなたに手にしてもらえて喜んでおる。」

「え?」

「ふふ、ワシャの武器は、主を選ぶ。そして主の好きな形に変形出来るのじゃ。

今はモモ殿が弓としか思い描いていないから、弓のままじゃが、本来どの形なら持ちやすいかな?」


ブレーブは長いモジャモジャの白いひげを整えながら、モモに問う。

モモは、二の腕辺りを触り、装備で邪魔にならない位置を確認する。


「二の腕に填まる、アームカフみたいなのがいいかな…って」


すると、カロルが持ち運んでいた“破邪のカウス”が、グニョっと変形。見事アームカフとして

モモの二の腕に納まった。持ち手にある黒曜石だけが、光を帯びていた。


「すご…綺麗。ありがとうございます、ブレーブさん。」

「いやいや、ワシャが一から造った武具にしか出来ないことじゃから、ナーガのペンダントやピアス、腕輪は、こうはいかん。―――――――して、これからどこへ向かうんじゃったか?」

「この先にある“カピルス村”です。」

「“カピルス村”か……確かにその村の方角は今異常なほどの邪気、いや瘴気で淀んでおる、本当に行くのかね?」

「はい、私はナーガ様の願い。瘴気を浄化した世界を取り戻すために遣わされています。」

「ふむ、じゃが今の装備や、武器ではなんとも心もとない。そこの女剣士、がたいのいいパラディン、そして白魔法使い。」


ブレーブは、ナナ、レンダー、シュアを指差した。

 ナナの持つ剣もそこそこ名のある鍛冶師の作だが、もう研いで調整するのにも限界が来ているのが実態だった。レンダーは盾と爪の攻防一体のパラディンだが、盾がレンダー自身のパワーに耐えきれなくなってきていた。一方で、シュアの杖は、防御力を上昇させるために填めてある魔石が欠けている始末。

 これから、今までにない魔物、魔人を相手にしていく上で、このままの状態ではいつか足を引っ張る可能性が高い。


「おぬしらがワシャの武器を使いこなせる使い手であれば、力になることも出来るが?」

「本当ですか!?ぜひ、是非お願いしたい!」


レンダーが、ナナとシュアもブレーブの提案に、勢いよくくいついた。


「ただ、ワシャの武器を使うには条件がある。」

「条件、ですか…?」

「うむ。ワシャの武器を譲る器なのか、それに足る力量なのか、見させてもらいたい。

その後、ワシャが納得した上で、武器を譲ろうではないか。」

「見るとは、一体どうやって?」

「なぁに、簡単なこと。ワシャが用意したフィールドの魔物に一人で挑むのじゃ。

どんな手を使っても構わん。討伐に成功したらいいだけじゃ。」

「ひ、一人…」

「不安か?白魔法使い。じゃが、より有能なパーティーの後衛を任されているのじゃ。

この機会に攻撃の幅を広げてみてはどうじゃ?」


 シュアは、ぎゅっと杖を握りしめた。もともとダンの様に自信の塊のような性格ではない彼は、慎重派であり、戦闘時にはフィールド全体を把握しながら参戦する派だ。このパーティーに属してから単独で戦闘することがなかっただけに不安が襲う。

 すると、その様子を見ていたペルが、モモにも持たせている硬化した蜘蛛の糸で創ったダガーナイフを三本手渡した。


「最近使えるようになった聖属性魔力を込めてある。ここってところで使って。」

「ペルさん…ありがとうございます。」


そのやり取りを見ていた、ブレーブが再度確認する。


「どうじゃ?やるか、白魔法使い?」

「――――――はい!お願いします!」


シュアが杖を握りしめると、その肩にナナとレンダーが手を添えた。

 三人の覚悟に笑顔で答えるブレーブ。すると工房内に三つの魔法陣が現れ、そこから扉が現れた。

ブレーブの説明によると、用意された魔物は対象の反対属性、および敵として相性が悪い魔物を用意したという。三人が扉を開け、ナナの前に用意された魔物は、鷲の魔物、キングアードラだった。

レンダーには毒トカゲのポワゾンリザード、そしてシュアには魔法相性の悪い、泥人形だった。

 フィールド時間は、こことは異なる特性を持つという。足止めしても数時間程度という話だった。

戦闘状況を外から見ることは出来ない。ナナ、レンダー、シュア以外のモモ達一行は、三人の勝利を祈る事しか出来なかった。



――――――――――― ☆ ―――――――――――



 空と同じ透明色から、潜るにつれ緑の深みを帯びていく海中。先に潜水すると同時に海流と共に水泡が立ち、消えていく。色とりどりのサンゴに、群れをなして泳ぐ魚たち。


「すごーい、これが海の中!」

「ヴァン様の使役するカブトーも、揺れないから乗り心地いいな。」

「あ、見て下さい!あれって親子じゃないですか?かわいいなぁー」


 スタリアバリアを装備した、クアラとイーサン、ポッチェがもはや観光気分で、カブトーの窓から

海中を楽しんでいた。当初の人数分しか用意のないスタリアバリアを装備していないリリンがクスクス笑いながら、カブトーを操縦するロイドの隣に腰掛けた。


「みんな子供に戻ったみたい。」

「まったく…大丈夫か、あいつら?」


ロイドがやれやれとため息をつく。

 モルネード王国、東の港から大地の勇者の使役する海中移動生物(カブトー)とテイマーのポッチェが仮契約し、北東に位置するカムイ海峡の渦潮の底を目指す、“虹の雫”探索班一行。


「順調?」

「ん?ああ、今のところ異常なしだな。マップによると、あと数時間後にはカムイ海峡にたどり着く。

渦潮を越えてからが勝負だな…っておい。」


 カブトーの舵で身動き取れないロイドを尻目に、ロイドに触れ放題のリリン。

最終的にロイドにしなだれかかった。


「だって、中々そばにいれなかったし。ずっと、こうやってくっついていたかったの。」

「―――――――邪魔でしかないが?」

「ひっどい!…けど、なんだかんだ言って、ロイド優しいもんね。」

「諦めたと理解してほしい。」


 先行き色々な意味で不安しかないと、ロイドは諦めた表情で肩を落とした。



―――――――――― ☆ ――――――――――



 数時間後。

ナナとレンダーが負傷しながらも、ブレーブが用意したキングアードラとポワゾンリザードを見事討伐し、扉から出て来た。

すぐさま、モモが二人の傷を癒し、トルチェがタオルを差し出した。


「まだ、時間かかってるのか、シュア。大丈夫か?」

「なぁに、苦戦しているが、ほれ、そこの者から得たダガーを使う機会をうかがっておるようじゃ。

仲間なら信じて待つんじゃな。」


仲間なら。ブレーブのその言葉にモモ達は不安な表情を一つ見せず、頷いた。

 だが実際、シュアの戦況は苦戦。防戦一方になっていた。加えて泥人形の攻撃を回避した反動で

愛用の杖は折れてしまっていた。シュアは半壊した杖を片手に、攻撃に転じる機会をうかがっていた。

白魔法使いの攻撃など体術くらいなものだが、旅の途中、レンダーが仕込んでくれた護身術が今、その効果を発揮していた。しかし、相手は泥人形。この泥フールドでは、いくらダメージを与えてもすぐに回復してしまう。それは、白魔法使いである自身も同じであったが、あとは魔力の消耗戦。

けれど、“カピルス村”奪還を急ぐ今、ここで足止めをしている暇はない。一刻も早く、とシュアが泥人形を観察していると、明らかに戦闘当初より回復に時間が掛かっていることに気付いた。

 

 今だ――――!


 泥人形が回復に時間を要している一瞬を見逃がさなかったシュアは、ペルのダガーを、泥人形の核目掛けて投げ放った―――――。

 そして、ナナとレンダーを追う事、シュアも扉から討伐に成功し、生還した。


「シュア!!」


工房でシュアを待っていたモモ達が、駆け寄ると、その場に崩れるように倒れ込みそうになったシュアを、レンダーが支えた。モモが回復魔法をかけると、青白かった顔色戻り、顔を上げ一言みんなに伝えた。


「ただいま、戻りました。」

「おかえり、シュア!!」


 苦戦を労うように、モモ達全員が、シュアを囲みあたたかい言葉を掛けた。

その様子を、笑顔でブレーブも見ていた。


――――― いいパーティーじゃな、ナーガよ。


 すると、ブレーブが、工房のテーブルの上に剣、盾、杖を用意した。

そのどれもが洗練されたデザインはもちろんのこと、黒曜石の他に、カラーチェンジ効果を持つ

アレキサンドライトが装飾されていた。アレキサンドライトは太陽光に当たれば緑、光魔法(ルミナス)の下では赤く輝く。


「どれ、レンダー、ナナ、シュアと言ったか。その目の前の武器を装備してみるがいい。ワシャが一から造った武器じゃ。さきほどモモ殿にも話したように、思い描いた形に変形可能じゃ、試してみるといいぞ。」


 ブレーブに許可を得た三人は、新しい武器を前に、ゴクリと息をのんだ。

最初に武器を手にしたのは、レンダーだった。盾の持ち手部分を握ると、魔力を吸われるのを感じた。

そして、この工房は今光魔法(ルミナス)の下。赤く輝く盾は、オートで防御障壁に必要な魔力をレンダーから吸い上げ、展開した。そのまま盾から手を放しても、防御障壁の効果は続いていた。


「す…すごい!これなら、防御障壁だけで手がふさがらない。すごいですよ、ブレーブさん!」

「ふぉふぉふぉ、そうかい。盾も、お主の魔力を気に入ったみたいじゃな。大いに役立てよ。」

「はい!」


 ナナの剣は伸縮自在の魔法剣に。そしてシュアの杖は魔力を付与できる黒曜石が装飾の一部に備え付けられていた。あくまでそれが可能なのは光魔法(ルミナス)の下、緑の時だが、太陽光にアレキサンドライトを当てていれば、魔力を蓄積出来る代物だった。


「魔力付与が可能な杖なんて…これなら、レンダーさん達も、魔力気にせず戦いに集中出来ますね!」

「シュアの魔力量も上がって来たからな。期待してるっすよ!」


 新たな武器を喜ぶ中で、ルキスがモモに何やら耳打ちしてきた。


「ありがとうございます、ブレーブさん。それで、さっきお酒好きって聞いたので、こちらをお礼に。」


 そうモモがブレーブに差し出したのは、神の酒美酒(ネクタル)に次ぐ、美酒ソーマだった。


「おおっ!!これは、ソーマじゃないか!?モモ殿も酒好きじゃったのか?いや、しかしこれは神酒、

一体どこでこれを…」

「ふふ、喜んでいただけてうれしいです。これは私の妖精がたまたまストックで持っていたもので、今回のことで分けてくれたんです。」

「なんと、妖精が。ははは、酒好きの妖精とは、またこれもご縁かのう、ははは。

ところで、モモ殿の“エイルのネックレス”から何かを感じるんじゃが?」


 モモは、かつて地底魔界の支配者サハマジャの核である“闇のオーブ”の欠片を二つ封印していることを、あと一つを探していることをブレーブに明かした。すると、ブレーブが奇岩洞窟を守護するゴーレム“クレイ”を、その場に呼び出した。


「実は、こやつの体にも、それに似た“黒い欠片”を封じてあるんじゃ。なにやら邪悪な気配が抑えきれんで、こいつの影響でここも瘴気にまみれたら敵わん。モモ殿に必要なら、持って行ってくれんか?」


“クレイ”の胸から取り出された“黒い欠片”は、モモが返事をするまでもなく、“エイルのネックレス”

に吸い込まれていった。

 モモ達は無事奇岩洞窟の主の協力を得て、新しい武器と探していた“黒い欠片”を手に入れ再び“カピルス村”へ向かおうとしていた。


「お世話になりました、ブレーブさん。どうか気をつけて。」

「なぁに、こんな老いぼれじゃが、まだまだ元気じゃて。“クレイ”もいることじゃし。

ワシャ、モモ殿の方が心配じゃよ。」

「え?」

「“破邪のカウス”が教えてくれたんじゃ。この娘は自分の命よりも仲間を大切にすると…。

もちろん、それを悪いとは言わんが、自身の事、大切になされ。そのために仲間がいるのじゃ。」

「―――――――はい!」







 















お読みいただき、ありがとうございます。

至らぬところばかりではございますが、楽しんでいただければ幸いです。



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