奇岩洞窟攻略①
―――――――― ガン! ――― ガンガンガン!!
突然のバケツをひっくり返した様な雨に、その場を借りて雨宿りをしようとしたモモ達が入った
奇岩洞窟。その入り口が、大きな岩で塞がれてしまった。
洞窟の奥から、大きく相当な重量の魔物がゆっくりと近づいてくる。
「“ルミナス”」
トルチェとシュアが、光の雫で辺りを照らした。
照らされた明かりをたどると、壁には過去の侵入者の逃げ惑う姿が、そのままの形で粘土質の岩壁に
埋め込まれていた。
「―――――――っ!!!」
モモとトルチェが、思わず口を手で覆う。
一歩後ろに下がったモモを、ペルが支えた。
「……大丈夫、一応この状態でも生きているみたいだ、この人たち。」
「え…この状態で?」
ペルの状況説明にシュアが、埋め込まれた冒険者達のステータスを見て続ける。
「そうですね、仮死状態ですが。侵入者に対する見せしめでしょうか。」
「そういえば、さっきまで響いてた、侵入者を殺せって、それに足音も消えた…?」
ナナの言葉に、ペルが範囲探索を展開しようとした瞬間だった。
岩壁からゴーレムが二体現れた。
ゴーレムは巨大で強固な魔物で、魔法が効かないのが特徴だ。
瞬時にシュアが全員に、攻撃力強化、防御力上昇、魔力消費軽減を付与。
前衛にレンダー、オーフェン、ザック、ダン、カーティスが立ち、防御障壁をレンダーが展開した。
後衛でモモの壁になりながらカロルが、ゴーレム二体に矢を放つと、思いがけずゴーレムがその場に
崩れ落ちた。
「――――――え?もろっ…」
ダン達が、そのゴーレムの弱さに拍子抜けしていた背後に、気配を消してもう一体潜んでいたゴーレムが竜騎士二人を殴り飛ばした。攻撃を受けた竜騎士達は岩壁に体を叩きつけられ、その場に倒れ込んだ。すかさず二人に隊長のカーティスが駆け寄った。
「お前たちっ!!」
「カーティス隊長、ここは私が…」
モモもカーティスに続き、ダメージを受けた竜騎士に駆け寄り、すぐさま回復魔法をかけた。
肺が潰れかけていた騎士の一人も無事に立ち上がった。
その様子を観察するかの様に、その場に立ちはだかるゴーレムの目が赤く光った。
ゴーレムがそのまま手をダン達に翳すと、一人ひとりのステータスが数値化して浮かび上がった。
このステータスに驚いていたのはカーティスとオーフェンだった。
聖蛇の化身であるモモを護るパーティーメンバー。殿下直属の騎士達。ランクはAからSと不揃いではあったが、HPは全員が10000以上だった。MPは黒魔法使いトルチェ、白魔法使いシュア、魔法剣士ダンは抜きん出ていたが、それでも最低8000はあった。
「こんなステータスが…」
「実在したんですね…では、勇者とは一体…」
カーティスとオーフェンの笑いが引きつる中、奇岩洞窟の主と思われる者の声が響き渡った。
「―――なるほどねぇ。これじゃあ、最初のゴーレムは挨拶代わりにもならないわけじゃ。
だが、コイツは別物じゃぞ?」
「あ、なぁお前!」
「ちょ…今オリャが話して…」
「ここら辺でドワーフの“ブレーブ”っての知らねぇ?」
「…――――――!」
ダンの遠慮の無い質問に主の声が途切れた。
「知ってるんだな?」
「ずいぶん元気のいいのがいるなぁ、知ってたらどうするんじゃ?」
「このゴーレムぶっ倒して、居所吐かせてやる。」
「おいおいおい、中々ヤンチャじゃないか。じゃが、コイツはそう簡単にはいかないぞ?」
「やってみなきゃな!!」
ダンの合図で、ナナがゴーレムの足を狙い、ダンが脳天から一閃放った。
ダンの一撃は深く、効き目があったが、ナナは浅く粘土質のゴーレムの足はすぐに回復していた。
レンダーが防御障壁を展開するため、ダンとナナにザックが加わるが、致命的な一撃は喰らわせられないでいた。
次いで、オーフェン、カーティスの剣技はかすりもせず、跳ね返されるだけだった。
「……何か、攻撃の相性が悪いのかな…?」
モモがそうこぼすと、破邪のカウスに魔力を込めた。
そのモモの一言にピンときたのがカロルだった。モモのそばにいたカロルは彼女が魔力を込めるその手に触れ、弓を降ろさせた。
「カロル?」
「我々の中で、“風”属性をお持ちの方は?」
カロルの問いかけに、ダンとトルチェが手を挙げた。
「私とダン殿とトルチェ殿以外は、防御に徹していただきたい。ゴーレムは“土”属性です。対抗できる属性は“風”。ただ、あのゴーレムも防御武装しています。あの武装さえ我々で破壊出来れば、あとは力のみでいけるはずです。」
「了解!」
カロルの号令でトルチェが“嵐閃”を詠唱。その攻撃はあえて範囲を収束させた
もので、風力でゴーレムの防御武装を剥がしていく。そこへ、ダンが使役妖精ウェンティの力を纏わせた斬撃を放ち、さらにカロルが風魔力を込めた一撃をゴーレムの核のあるボディ目掛けて放った。
ドン!!
と、カロルの一撃がゴーレムの核を捉えたのを確認したザック達が一斉攻撃を仕掛けようとした時だった。
「わっ、わかった!!負けた!負けたっ!!」
主の降参の声が洞窟内に響き渡った。
ダン達の肩の力が抜ける。ザック達が一斉攻撃を仕掛ける前に、すでにカロルの核への一撃で、
ゴーレムは回復不能になり、半身が粘土と化していた。
「なんだよ!降参したなら出て来いよ!!お前があれか?ブレーブか??」
ダンの叫びに、すっかり怯んでしまった主が弱弱しく声を掛ける。
「お…おまえ達…な、何が目的で、ここに来たんじゃ?ここまでの風の使い手がいるパーティーなんぞ
出くわしたのは初めてじゃ…」
「じゃなくて!!おまえブレー…むがっ」
話を全く聞かないダンの口を、やれやれと、レンダーが塞いだ。
「私達は“カピルス村”を目指しているのですが、道中ドワーフの名を“ブレーブ”という方に協力を仰ぎなさいと、聖蛇ナーガ様より示しがあり、その方を探しているのです。あなたは、その方をご存じですか?」
モモの優しい問いかけに、洞窟の入り口を閉じていた岩が砕け散った。
晴れ渡る外気の空気と、その光、風が洞窟を満たしていく。
「な――――――、なんじゃ、ナーガの遣いか…驚かせるな――――――っと。」
ゴーレムの背中から、全身白い毛むくじゃら、深緑色の肌を持つドワーフが現れた。
ドワーフがポンポンとゴーレムの肩に手をやると、カロルに破壊されたはずの核が修復され、
粘土化した半身も元通りに復活した。
「ふむ、貴女からナーガの神力を感じる。」
ドワーフがモモと向き合って立ち、その瞳をじっと見た。
「…?」
「いかにも、オリャが“ブレーブ”じゃ。危うく殺されるところじゃったわ。」
「申し訳ない、我々にも使命があるもので。」
カロルが代表して、ブレーブに話を通した。
ブレーブは隣国ピーニャコルダ王国中心に位置するラパス砂漠地帯に住むコアフ民族。種族はドワーフとなっている。コアフ民族は武器や防具の鍛冶技術が高度であり、また合成、錬金も得意とする。
太陽を浴びると石になってしまうため、夜間涼しい砂漠で活動しているという。
ある時、ブレーブの元に聖蛇ナーガの遣い龍、ニーズヘッグがどっさり神具を置き去り、強化せよと命を賜ったそう。ブレーブは悩み悩んだ末、黒曜石の効果を得られる鉱山地帯、その中でもこの奇岩洞窟を拠点にすることにした。そうして出来たのが、黒曜石の装飾品だった。
その効果が大層気に入った聖蛇ナーガは見返りに美酒を分け与えたという。
「で、今じゃ吞み仲間じゃな。」
「吞み…?」
「ちなみに、さっき貴女が手にしていた“破邪のカウス”もワシャの作ですじゃ。女子が使うというから、色々苦労したが、手にしっくり来ているようで良かったわい。」
「ブレーブさんの作品だったのですね、ありがとうございます。…ってことは、ラインハルト王子とも?」
「そうじゃ、あやつもいい酒をくれるからな、いい吞み仲間じゃ。」
「吞み…?」
「ここで立ち話もなんじゃな。ワシャの工房へ案内しよう。“クレイ”この場を頼むぞ」
ゴーレムはそう名前を呼ばれると、ひっそりと岩壁に姿を潜めた。
ブレーブ作、ゴーレム“クレイ”。粘土質の土属性で出来ており、さらに強度な錬金術で防御装備している。野生のゴーレムは知能が低いが、“クレイ”はブレーブの意志通りに動く彼の力作だった。
ブレーブの魔法陣で、モモ達は彼の工房に転移した。
お読みいただき、ありがとうございます。
至らぬところばかりではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




