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黒い欠片と悪魔“ベルゼ”②

 太陽の光に照らされたモモのペンダントから突如、立体映像で出現した、この世界を司る聖蛇ナーガ。


『今、あなた達が向かっている“カピルス村”。ここには、その昔、地底魔界の支配者、サハマジャが治めていた城、サハマジャードに続く転移門(ゲート)が封印されています。』


ナーガの言葉に、驚きを隠せないモモ達一行。ただ一人、冷静に聞き入れていたのがペルだった。


「蜘蛛の王、ルブロン様がおっしゃっていた…」

『そうですね、ペル。ルブロンの話は真実です。

“カピルス村”は邪気を浄化する力を持つ黒曜石が多く眠る地。あの転移門(ゲート)が見つからぬ様、

彼の地に封印し、そして、この封印は決して解かれる事のないものと、私たちは思っていました。

 しかし、混血魔族達の地上への支配欲は(つい)えることはなく、末裔達がサハマジャの意志を継ぎ、地底魔城サハマジャードを復活させようとしている。』


“混血魔族”、“地底魔界”、“サハマジャ”。どれも【創世の大地】の絵本に登場したワード。

ナーガの言葉を実際耳にすることで、モモ者達はどれだけ強大な敵に挑むのか。今までに遭遇したことのないレベルの闘いになると確信した。


「なるほど、黒曜石は王家の秘宝。その出処は一部の宝石商しか知られていないと聞いていたが、

“カピルス村”たっだのか。確かに小さい村であるのに国境守備隊として必ず近衛兵団が派遣されていたな。国宝を護るなら理解出来る。」


カーティスが謎が解けたといわんばかりにスッキリした顔を見せた。


「…カーティス殿はご存じなかったのか…」

「えっ…オーフェン殿は…」

「もういっすよ、そのくだり。カーティス隊長はダメってことで。」

「ダメっ…!?」


グダグダになりそうなカーティスとオーフェンの問答をザックがスパッと止めた。


「…サハマジャードには何が封印されているのですか?」


モモの問いにナーガは一呼吸置いた。


『あの城には、消滅させることまで出来なかったサハマジャの亡骸と、おぞましい瘴気が封印されています。』

「――――――っ、亡骸と…」

「瘴気…っ」


ザックと、トルチェが次々に呟く。


『封印されている、おぞましい瘴気は、サハマジャの邪気を含み、触れた者を魔人化させたり、無に()すもの。

今、それが“カピルス村”に漏れ出し、多くの人々が魔人化あるいは亡くなっている。

 あの瘴気がこの地上界に解き放たれてしまったら、瞬く間に闇に包まれ、人々は“魔人化”してしまう、若しくは、死んでしまうでしょう。』

「…発言をお許し下さい、ナーガ様。」

『どうぞ、レンダー。』

「封印したはずの脅威が復活しかけている。ここまでの事態になる前に、何か打つ手はなかったのですか?この脅威を…っ」


続けようとするレンダーに、第三騎士隊長オーフェンが目を合わせ、首を横に振った。


『…良いのです、オーフェン。レンダーの言葉はもっともなのですから…ここまでの事態になってしまったのは、私の責任。しかし、私は過去の封印でもう、今の脅威を抑えられる力を持ち合わせていないのです。だからモモ…あなたを転生させた―――』

「――――――っ…」

『私の力を使える、いえ託せる人間、モモ、あなたを―――』


ナーガの言葉に、我慢がきかなくなったルキスが叫んだ。


『それって…それって、モモにナーガ様達のっ……』


ルキスが言い終わる前に、モモがその小さい口に蓋をした。はずだったが。


「なんか、難しい話してるけど、要はナーガ様達の手に負えなくなったのを、モモに任せたってことか。」

「あ…」


せっかくモモがルキスの言葉を抑えたのに、ダンがそれを声に出してしまった。一瞬その場の時が止まる。ダンの言葉だけではなく、ナーガの“転生”という言葉にも。


 モモ様が転生者――――――


冷静を装っていたカロルでさえ、この事実に驚いていた。


「…なるほど…、モモ様について色々な点が腑に落ちました。この世界の事をよく知り得ていないところ、所作や、たたずまい。異世界の方であったなら、考え方も違うはずですね。」


 女王暗殺未遂の重罪犯だったカロル。彼の身に何が起こっていようとも、他国の王族の命を狙った罪は重く、極刑は免れない。それを覆したのがモモだった。

この事件については、レンダー達はもちろん、モルネード王国の重鎮のみ知り得、他の者達には緘口令が敷かれている。重罪犯を救いたいなどという考えは、この世界の者には浮かびもしないことだった。


 ひと時の沈黙を経て、ナーガは続けた。


『――――――モモが装備する、“エイル”のネックレス。それは医療の女神“エイル”の加護が付与されており、モモの治癒系の効力を最大限引き上げている。そして、その黒曜石は邪悪な、闇の力を浄化させる効果があり、私はそれに“闇のオーブ”を封印する力を(ほどこ)しました。』

「“闇のオーブ”?この黒曜石が吸収した黒い欠片のこと…?」


モモがそう口にしながら、ネックレスの黒曜石に触れる。


『そう――――――。“闇のオーブ”は、かつて人間の初代勇者アベルと、妖精王オベロンが倒し、私とオベロンで封印したサハマジャの“核”(コア)転移門(ゲート)は“闇のオーブ”がないと開きません。

 私たちは、その“核”を、封印術を得意とする海の女神“テティス”に託したのです。』

「託したって…では、何故ここに…?」

「誰かに奪われたってコトっすか…?」


モモの問いに被せる様に、ザックが核心に触れる。

ナーガは申し訳なさそうに眉を(ひそ)め、ゆっくりと、深く瞬きをした。


『――――――はい。

人間の(こころ)を喰らう悪魔“ベルゼ”という者が、サハマジャを復活させようと企み、

カピルス村の転移門(ゲート)を見つけ、瘴気を集め始めた。しかし、ただの瘴気では転移門(ゲート)が開かぬ事を悟り、どうやって嗅ぎつけたのか、テティスに手を掛け、その封印を解いた。』

(こころ)を喰らう悪魔…」

『人も魔物も(こころ)を失えば、ただの肉塊に過ぎません。

彼女(テティス)は持てる力を振り絞り、“闇のオーブ”を渡さんと破壊し、欠片となったオーブを高等な魔物達の体内に潜めた。』

「その魔物達っていうのが、女王蜘蛛(ナルボンヌ)とベラドンナ。どうして魔物に?」

『おぞましいまでのサハマジャに宿る瘴気は、人間には毒、託すことは出来なかったのです。止む無く高等な魔物をテティスは選んだのでしょう。しかし、長い年月をかけて、その欠片に封印されていたサハマジャの瘴気が漏れ出し、高等な魔物ですら瘴気に侵され自我を失い、そこを悪魔“ベルゼ”に見つかってしまった。』


「て…手を掛けたって、海の女神はどうなったのですか?」

『深海の底深くに幽閉されていると…』

「!!」

『私は“海の勇者”に彼女を助けて欲しいと依頼しました。しかし、“海の勇者”も行方知れずのままに…。テティスとの連絡が途絶えた今、海の世界がどうなっているのか、私も把握しきれていません。』

「――――――っ…じゃあ、ロイド達が向かった海は…」


レンダーの言葉に、全員が不安を覚える。


「ナーガ様!私たちの大切な仲間が今、“虹の雫”を探しに…っ」

『――――――ええ。知っています。

彼らの事が心配なのはわかります。しかし、今あなた達が“カピルス村”へ向かうのをやめてしまったら、

地上界は地底魔族達によって荒れ果ててしまうでしょう。

 散った欠片は全部で五つ。すでに欠片の二つは悪魔“ベルゼ”の手の中。その二つだけで村一つ、いえ、

魔物達を狂わすほどの脅威。あと一つ、彼の者の手に渡ってしまったら、それだけで転移門(ゲート)の半分の封印が解かれてしまう。』

「――――――そ、そんなことになったら…」


ナーガは深く瞼を閉じる。


『彼らの無事を信じ、あなた達のなすべき事に集中して下さい。時間がないことは、わかっています。残る一つを回収すれば悪魔“ベルゼ”の思惑は絶たれるはずです。』

「その、悪魔“ベルゼ”って奴は、地底魔城を復活させて何を企んでるんっすか?」

『それはわからないのです。しかし、これだけは言える。彼らは遊んでいるのです。』

「遊びって…」


ナナが剣の柄を握りしめた。


『悪魔には恒久な時間があります。持て余した時間を潰す手段くらいにか考えていないでしょう。』

「そんな勝手な…っ!許せない!」


ナナに続き、トルチェも杖を大きく振り下げた。


『――――――モモ。今、この世界を救えるのは力を失った私ではない。私の化身であるあなたなのです。勝手な事を言ってすみません。しかし…っ』


 自分が転生された意味を聞かされたモモは、この世界を救う壮絶な重圧(プレッシャー)から

エイルのネックレスに触れていた手が震えていたが、ナナやトルチェの声に奮起。震えが止まった。


「わかりました、ナーガ様。私一人では無理ですが、みんなが一緒なら…いえ、みんなと一緒にナーガ様から頂いた力を使って、この世界を護ります。」


俯いていた顔を上げ、モモは決意を口にした。

モモの決意に、その場にいた全員が頷いた。


「地底魔城なんか復活させないわ!」

「そっす!悪魔の好きになんかさせないっすよ!」

「モモ様!我々はあなたと共に!」


トルチェ、ザックに続き、竜騎士隊長カーティスがその言葉と共に、モモに敬礼した。

全員の心が一つになる。


「みんな…」

「ボクの事も忘れないでよね、モモ」

『アタシだって!!』


モモの肩に乗っていたペルに対抗するように、ルキスがモモの頬にキスをした。

その様子を目にしたナーガは微笑んだ。


『ありがとう、モモ。私はいつでもあなた達の事を見守っています。

あと一つ。これより先に“ブレーブ”というドワーフがいるはずです。彼は信じられ……

彼の力を…借りて……』

「ナ、ナーガ様!?」


聖蛇ナーガとの通信は、ここでブツっと途切れてしまった。



―――――――――― ☆ ――――――――――



 ドサッ…


その場に倒れ込み、フィールドに手をつくナーガ。


「大丈夫か、ナーガ?力を使いすぎたな。」


ナーガの体を白銀の輝く鱗の美しい龍が、やさしく包み込む。


「…もう私は、祈り、見守る事しか出来ませんね…」


ナーガは自身の掌に目を落とし、静かに固く握った。


「ネロ、モモ達に万が一の事があれば…」


ナーガは不安な表情を浮かべながら口にしたその言葉を遮るように、白銀の輝く鱗の美しい“ネロ”と呼ばれた龍が彼女の頬に顔をすり寄せる。


「わかっている。少し休めナーガ。」

「―――――ありがとう…」


ナーガはそう言うと、ネロに包まれ静かに目を閉じ、深い眠りに付いた。


















お読みいただき、ありがとうございます。

至らぬところばかりではございますが、楽しんでいただければ幸いです。



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