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カピルス村奪還~VSベラドンナ~①

 毒蝶オオマダラ。黒とオレンジの羽を持ち、その鱗粉が掛かると強い痺れを起こし、蜜を吸い上げる給水口には酸を含んだ毒を持つ、討伐難易度の高い魔物だ。高山植物と共に生息し、特に高濃度の毒性をその躰に含む魔物ベラドンナの血を好む。オオマダラとベラドンナはお互い一蓮托生の存在だった。


「ザック!」

「了解っす!」 


鱗粉を防ごうとレンダーとザックが範囲で防御障壁を展開する。

遅れをとったシュアも、範囲で攻撃力強化、防御力上昇、魔力消費軽減、状態異常耐性を詠唱した。


「“クリムゾン・エクスプロード!!”」


トルチェが爆炎系魔法を詠唱。周囲を羽ばたくオオマダラがL範囲で消し炭と化した。


「あ、当たらないのがわかってても、トルチェさんの攻撃怖いっすよ!」


 ザックの言う通り、先のペル同様に、高いスキルの持ち主程、術者が仲間と認識する者を

攻撃が直撃しないようにコントロール出来る。レベルやスキルが低い者は、そのコントロールが出来ない為、仲間まで術に巻き込んでしまう。


「あら失礼ね、ザック。火力援護欲しくないの?」

「すんません、欲しいっす!」


すると今度はダンが剣に火炎魔法を纏わせ、オオマダラの群れを切り刻んだ。

 攻撃を仕掛けてきたオオマダラの大半をトルチェとダンで片づけたと思いきや、気付けばベラドンナの背後に瘴気の陣が亜空間からズズズッと出現した。


「瘴気の陣!!あれ、術者なの!?」

「―――そうには見えません、以前見た時は、魔人が術者を犠牲にして作り上げていました。でも今回のアレは、どうやって…」


トルチェの疑問に、シュアが応える。シュアは、女王蜘蛛(ナルボンヌ)討伐時、洞窟内で魔人達が術者を使って瘴気の陣を作り上げるのを目にしていた。目の前に出現した瘴気の陣はすでに完成したもの。


「……ベラドンナの裏に、誰かいそうですね…」


 出現した瘴気の陣からバチバチと羽音を立てて、オオマダラが湧き出てくる。


「どうやら、あいつの狙いは魔力消費だな。ここで時間は掛けられない。」


レンダーは、ベラドンナが自分達の魔力を消費させてから殺しにかかると読んだ。


「ウェンティ!!」


 レンダーの読みを耳にしたダンが、使役する風の妖精の名を口にすると、セルリアンブルーのショートボブにミルキーホワイトの瞳。生成色のスキッパーネックパターンワンピースに身を包んだ人化した妖精が姿を現した。


『はい、ダン。』

「みんなに足場をやってくれ。」

『はい!』


ウェンティの姿はレンダー達、妖精を使役しない者には見えていないが、誰もが自分たちの足元を支えてくれる風の存在に気付いた。


「――――――!っち。風の妖精か…小賢しい。お前たち、風の妖精から消しな!」

「!!」


 オオマダラ達のターゲットがウェンティに集中する。

すると、再びペルが人化し、ウェンティの前に立った。


「キミはみんなの足場確保に集中して。」

『はい!』


ペルの言葉にウェンティは、足場確保に妖力を集中させた。

 レンダー、ザックは衝撃波とバフ切れのタイミングで防御障壁を展開。シュアもそのタイミングを計りながら効果を継続させる。

 オオマダラの注意をレンダー達が引き付けている間に、ダンが群れをなすオオマダラの中を回転剣舞で突き進み、ベラドンナに斬りかかる。


「なっ…!!」


ダンの斬撃がベラドンナの片腕を切り落とした。


「き…っ、キサマどこから…??アタクシに死角はないはず!」


ベラドンナが斬り落とされた肩を抑えたじろぐ。


「死角なかったから直で来た。おれって、毒に結構耐性あるから。」

「自ら、オオマダラの中を…突っ込んで来るなんて…」


ベラドンナが斬られた片腕を抑え、膝をつく。


 だが、いくら毒に耐性があっても、オオマダラの給水口の酸液はどうにもならない。クリーム色のマントが穴だらけになっていた。


「――――――なんてアタクシが驚くとでも?それは分身。本来のアタクシはここよ。」


ダンの背後に本体のベラドンナが姿を現した。


「!!」

「この坊やは仕留めた!」


ダンが振り返った時にはすでに遅く、ベラドンナのその言葉と共に、ダンの胸に背後からベラドンナの右腕が貫通した。


「がっ…は…っ」

「…ふふ、運のいいヤツね、あの体勢から致命傷を避けるとは。アタクシの分身を仕留めた気分はどうだった?」


ベラドンナはそう言うと、貫通させた腕を雑に引き抜き、腕に付いたダンの血を、その耳まで裂けた口で啜った。


「ほう…これはまた美味。」


ベラドンナは、左手でダンのマントを掴み、宙づり状態にした。


「ダン!!」

『ダンっ!!』


モモとウェンティがダンの名を叫ぶ。


「ペル!!」


陣から湧き出るオオマダラを蜘蛛の糸で片づけていたペルが、モモの叫びにすぐさま反応し、モモを竜からダンの元へ連れ出した。


「ペル殿!!」


カロルも弓矢で応戦していたが、実質オオマダラから竜とカーティスを守ることで手いっぱいになっていた。



―――――――――― ☆ ――――――――――



 空中で対峙するモモとベラドンナ。

モモは瞬時にダンの体をスキャンした。貫通したベラドンナの腕、心臓直撃を躱していたが、一部肺に衝撃が達していた。このままではやがて呼吸がままならなくなる。すでにダンの呼吸は一定のリズムを保っていなかった。


「ダンを放して!」


モモは破邪のカウスをベラドンナに向けた。


「この坊やは、アタクシが美味しくいただくもの、鮮度が落ちるから食事の邪魔をしないで欲しいねぇ。」


ベラドンナは、宙づりにしていたダンを引き揚げ、胸の傷口から流れ出る血を啜る。


「づぁ!!……っ」

「ダン!!」


ダンが痛みに声をあげる。


「かわいそうに、聖蛇の娘が素直にアタクシの元に来ないから、この坊やはこんな姿になってしまったんだよ?恨むなら、聖蛇の娘を恨むんだねぇ。」

「――――――っ」


モモが自分の判断を悔やむ。しかし、その判断は間違っていないと言うように、ペルがモモの肩にポンと手を置いた。


「ぺル…」

「モモは渡さない!ダンを放せ、ベラドンナ!!」

「そんなことは、アタクシを跪かせてから言いな!」


 ベラドンナが右腕を胴体と肩が垂直になる様に上げると、どこからともなく藤色の花びらが舞い上がった。

みるみるうちに、それは一点に集合し、人型となり、ベラドンナの分身が現れた。

分身がモモ達に襲い掛かろうとしたその時、更に上空から


ゴオォォォォォォ!!


“火炎の咆哮”がベラドンナの分身に撃ち込まれ、ベラドンナの分身を消し炭にした。単騎のザックが竜騎士と共に加勢に来たのだ。


「!!」

「ザック!みんなは!?」

「モモ様!俺もこっち片付けるっすよ!オオマダラはレンダーとトルチェ、ナナが応戦してるっす!」


 すると、ウェンティの風の上にペルが円網の蜘蛛の巣を張った。足場の位置をザックにもわかるようにしたのだ。


「サンキュ、ペル!援護よろしくっす!」

「はっ!!」


ザックは竜騎士に援護を頼むと、竜から飛び降り、ペルの用意した蜘蛛の巣に足を付けた。


「ふん、たかが一人増えたところで、アタクシの分身をどんなに消そうとも、ここは空中。どれだけの力を出せるのかしらねぇ!!」


 ベラドンナが、鋭いナイフのような無数の花びらを空中に漂わせ、攻撃を仕掛けてきた。

対してペルが、円網の盾でその攻撃を防ぐ。と、同時にザックが衝撃波をベラドンナにくらわせた。

 ザックの衝撃波は、ベラドンナの左手をかすめ、その衝撃でダンがベラドンナの手から離れた。

瞬時にダンの体を、ペルが皿網で受け止める。


「ちっ!!」

「ダンっ!!しっかりして!!」


 ベラドンナの手を離れたダンに、モモが駆け寄り、組織再生と回復魔法を同時に発動させた。


「…っう…」


徐々に欠損していたダンの肺が、肉体の組織が再生していく。


「よくもアタクシの食事を!!」


 痛みに悲痛の表情を浮かべていたダンが、モモの治癒によって回復し、パチっと目を開け、その場に立ち上がった。


「ありがとうモモ、そんで、ごめん。ミスった。次はミスしない!」


 ダンはモモに背を向けながらそう言うと、魔法剣を発動。それはダンがもう一体使役する、水の妖精アクアの力を纏わせたものだった。


「水…?」


 ダンの魔法剣を目にしたベラドンナが、一瞬怯んだ。花も蝶も、多少の水なら耐性があるが、大量となると話は別だ。


(まさか、水の使い手がいるとは…分が悪い、一旦引くか?)


 そう、ベラドンナが考えた時だった。背後の瘴気の陣から黒い手の影が伸び、ベラドンナの細い首を鷲掴みにした。


「!!なんすか、あの黒い手!?」


 言葉にならないノイズの様な音が黒い手から発せられる。

首を鷲掴みにされた状態のまま、ベラドンナの額から冷や汗が滴り落ちていく。

ベラドンナにどんな言葉を掛けたのかは、定かではないが、その黒い手が明らかに、ベラドンナ以上、いや、この瘴気の陣を作り上げた黒幕だと、モモ達は察知した。

 黒い手が、瘴気の陣に戻っていく。すると、ベラドンナがブツブツと自身に言い聞かせるように言葉を吐く。


「―――…そう…アタクシは…選ばれた…他の個体(ベラドンナ)とは…違う…聖蛇の娘を…聖蛇の娘をぉぉぉぉ!!」


 ベラドンナが纏う鋭い花びらと共に、その爪の切っ先をモモに定め、襲い掛かる。


「モモ様!!」

「させるか!」


ペルとザックがモモの前に立ち壁となる。ザックの防御障壁が、その無数の花びらをはじき返した。

はじき返された花びらが三体の分身となる。更に瘴気の陣からオオマダラが大量召喚された。


 モモ達の上空で繰り広げられていた、対オオマダラ戦は粗方片付き、レンダー達もモモ達のフィールドに合流した。


「モモ様、瘴気の陣浄化をお願いします。カロル、ザックはモモ様の援護を。」

「っす!」

「承知!」

「カーティス隊長は外側から援護をお願いします!」

「ああ!」

「みんな!竜の“火炎の咆哮”は避けないとアウトだ!気を付けろ!」

「はい!!」


レンダーがこの場の指揮を執る。シュアがL範囲で、攻撃力強化、防御力上昇、魔力消費軽減、状態異常耐性を展開。離れていたモモ達のステータスが上がる。

モモの瘴気の陣浄化を援護するカロルが、湧き出てくるオオマダラに矢を放つ。その強力な風圧を纏う矢がオオマダラ達の羽根をもぎ、塵にしていった。


「カロル、ずごい…」

「私に関心している暇はありませんよ、モモ様。浄化の準備を!」

「うん!」


 モモが破邪のカウスを瘴気の陣向けて構える。


(っく…このままでは、陣が消されてしまう…)


ベラドンナが分身にモモを片付ける様指示を出す。



―――――――――― ☆ ――――――――――



 ベラドンナの分身三体がじりじりとモモ達との間合いを詰めていく。指先から長く伸びる爪からは毒液が滴っていた。


「―――あの毒液、厄介っすね…」


攻略法を考えながら、ザックがグリフォンクローを両手にストレージした。

三体の分身とザックが、その間合いを詰め切ると、ザックは一体の分身に正拳突きを繰り出し、ぶっ飛ばした。と、共に二体の分身がザックに襲い掛かる。内、一体をカロルの矢が後方から“ドン!!”という衝撃音を立てて、その分身の胴体に風穴を開けた。

 ザックは、襲い掛かる最後の分身に対し、受け身の体勢を取り、爪の直撃を躱した。


「あ…ぶねっすよ!!」


背を足場に付けた姿勢から、ザックが両足を突き上げ、分身を蹴り上げた。その時、分身の爪から滴り落ちた毒液が、ザックの頬を(かす)めた。

ジュワッ…と音を立てて、ザックの頬の一部がダメージを受ける。


「!! ザック!」


 すかさずモモが“ヒール”をかけ、そのダメージを回復。

蹴り飛ばされた分身を、カロルの矢が捉え、二体目同様に胴体に風穴が開き、消えて行った。

 残るは、最初にザックが正拳突きでぶっ飛ばした分身。立ち上がり、モモ目掛けて突っ込んできた。


「聖蛇ノ娘ェェェェ!!」


 しかし、モモに分身の手は届くことなく、硬化し、研ぎ澄まされたペルの円網が分身の全身を捉え、円網状に切り刻まれ、消えて行った。


「モモには触れさせない。」


ペルが凍てつく視線で、消えゆく分身を見送った。
































お読みいただき、ありがとうございます。

至らぬところばかりではございますが、楽しんでいただければ幸いです。



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