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カピルス村奪還~空中戦~

 地上から足が離れ、どんどん青い空に向かって上昇していく。まるでジェットコースタの急降下から急上昇に移る時の圧が体にかかる。竜には、もちろんシートベルトなんてものはない。

 三人乗りの竜は、竜騎士が最後尾に乗り、竜の首の付け根部分にモモ、その後ろにカロルが乗っていた。モモは竜の首輪部分に備え付けてあるベルトに捕まり、その後部でカロルがモモの体を支える。

 あっという間に、モルネード城をはじめとする地上の景色が小さくなった。

竜に乗るのはダン以外の主力陣全員が初めてだった。

 本日の天気は快晴。どこまでも続く清んだ青空に、空中の旅を楽しむ姿がある中で、ダンは器用な態勢で竜騎士任せに寝落ちしていた。同乗するシュアと竜騎士が、落ちないかと焦りを見せるのもつゆ知らずといったところだ。


「っとに、ダンは器用な奴だな。まぁ、ラウルの奴と私の許可なしに乗り回してたから当然か。」

「はは。たしかに、そうですね。」


 竜騎士隊長カーティスがネチネチとダンのふてぶてしい姿に愚痴をこぼす。それをなだめる様に第三騎士隊長オーフェンが相槌をうった。“ラウル”という、このネタがモモにとってタブーであることを知らないのか、聞いていた主力陣がチラッとモモに目を移す。

 みんなの視線に気づいたモモが、不安を微塵も感じさせない笑顔を見せた。


「空の空気、清んでて気持ちいいね!」

「そっすね!!天気にも恵まれて、サイコーっす!」


 実際のところ、モモがカーティス達の会話をどう思っているか、わからないが、モモが見せる笑顔。その事実を大丈夫かという声掛けでぶち壊すことなんてない。そう考えたザックが、いつも通りの口調でモモに応えた。ナナもトルチェもそれに続いた。


「竜に乗るなんて最初はビックリしたけど、そんなに揺れないし、肌に触れる空気も気持ちいいし、

私も竜騎士目指せば良かったかも。」

「こんなに素敵な景色を楽しめないなんて、高所恐怖症のジュウトはかわいそー。」

「加えて泳げないから、ジュウト居残りで、結界展開の柱の場所の魔物掃討作戦に名乗り出てたっす。ナナさんが竜騎士って…ある意味似合いすぎててコワいっす。」

「どーゆー意味かしら、ザック?」


 ザックの思い浮かべたムチを片手に竜を従えるナナの図が、全員に過った。


 そんな変哲もない会話で空の旅が始まった矢先。場所は西の森上空。

鷲の魔物アードラが現れた。野生のアードラは普通単体で行動する魔物だが、今回は十数体の群れと遭遇した。


「グァグァァ!!」


こちらを威嚇する声を一斉に上げるアードラ達。


「なんで、こんな群れで?」

「カーティス隊長、指示を!!」


竜騎士達がいつものパトロールと状況が違う事を認識した。

竜が“火炎の息吹”でアードラを遠ざけるも、アードラ達は怯まない。

 シュアが範囲で、防御魔法をかけようと杖を構えた時だった。ダンがパチっと目を覚まし

シュアの手を止めた。


「魔力は温存しておけ、シュア。使うのはここじゃない。」

「ダンさんっ!?」


 そう言い放つと、ダンは剣を抜き、各竜を足場に使い、アードラに斬りかかった。

アードラも羽根や(くちばし)、鋭い爪でダンに攻撃を仕掛けるが、それをモノともしない身軽な躱し、回転剣舞による羽根弾き。ダンの速すぎる動きに、アードラが遅れをとっているのが見て取れる。

 十数体いた群れも気付けば、その長と思われるアードラだけになり、ダンは容赦なくその脳天を串刺しにし、シュアの後ろの席に戻って来た。剣に付着したアードラの血を、風を切る様に振り落とし、鞘に納めた。


「―――――…これが…Sランクの…戦い…」


 剣士という職業のナナが、微動だに出来ず、自身の手が震えている事に気付いた。過去、女王蜘蛛ナルボンヌ討伐に参加していたはずのレンダー達も、思わず息をのむ。後方支援であるトルチェも何一つ詠唱出来ず仕舞い。空中戦では右に出る者はいないと謳われた竜騎士の精鋭達も、ダンの無駄のない剣捌(けんさば)き、身のこなし、素早さに呆気に取られていた。


「アードラの群れを一瞬で…」


 それ以上の言葉が出ないカーティスに対し、


「さすがね、ダン!」

「モモ!!オレすごかった??」


 みんながダンに格の違いを見せつけられたとばかりに驚く中、動じないモモ。


「うん、ダンは出会った時からすごかったもの。ダンがいれば百人力ね。」


 モモに褒められ、素直にそれを受け止めたダンが親指を立ててモモに向かってビシッとポーズを決めた。その後はまた、器用な姿勢でダンは眠りについた。この一戦でパーティーの気が一気に引き締まった。それは竜騎士達も同じ。向かっているのは魔人の巣窟、加えて蔓延る瘴気。戦闘中、誰かがミスれば死人が出るかもしれない。

 当初、このカピルス奪還班の指揮を執るのがレンダーだと、ラインハルトから伝えられたカーティスは、渋々な態度でレンダーに挨拶を交わしていた。


「…レンダー殿、先ほどの挨拶、失礼した。」

「?」


 カーティスがレンダーの乗る竜に、自身の竜を寄せて来た。


「空中戦では我々竜騎士の独壇場だと、過信していた。しかし、このザマだ…。

我々は貴殿らの足を引っ張らぬよう、まずは無事カピルス村に到着する事に専念する。

その後の指揮は、レンダー殿、貴殿に一任しよう。」


 レンダーも、カーティスがダンを毛嫌いしているのはラウルから耳にしていたし、ダンに対する態度も、双方が出会った当初から見聞きし、わかっていた。自分の事も、このパーティーのリーダーとしては見ていないだろうとも思っていたところへ、この効果。これは乗っかるべきだとレンダーは笑顔を見せた。


「ありがとうございます、カーティス隊長。リーダーとして、カピルス村奪還の指揮、謹んでお引き受けさせていただきます。」



 それからしばらくは、快適な空の旅の時間が過ぎていった。西の森を越えた先にある、王都ラダンディナヴィアから北西に位置するナルバ村上空を通過した時、レンダーが、この村に自分の家があり、妻と幼い娘二人の四人家族であることを明かした。


「え、レンダーさん、既婚者だったんすかー」

「まぁな。ナルボンヌ討伐には冒険者として出稼ぎに王都に来た時、その募集を目にして報酬額に目がくらんで参加したんだよな。」

「王国からの依頼でしたからね、私も報酬額で参加を決めた口です。」


 トルチェも会話に加わる。


「まさか、その後も使っていただけるなんて、幸運だよな。まぁ雑務も大変だけど、ただの冒険者じゃなく、殿下お抱えのパラディンて紹介されるし、オレの人生に箔がついた。この御恩は任務(ミッション)クリアで殿下にお返ししないとな。」

「そっすね!俺も本気出すっす!」

「ザック…軽いわよ。」


 しかし、そんな談笑は長くは続かなかった。ナルバ村を越えた先に見えてきた濃霧。

肌に触れる空気も徐々に冷えていく。


「この先は、ポーカテペトルを中心とする山脈です。下からの魔物の攻撃にも注意して下さい!」


 竜騎士の一人が全員に注意を促す。と、その矢先に地上から斧が投げられて来た。

その斧が単騎の竜騎士が乗る竜の尾を直撃した。


「ギャオォォォ!!」

「うわぁ!」


竜の悲鳴と共に、竜騎士が体勢を崩す。


「カロル、放して!」

「モモ様っ、いけません!あの竜は単騎用です、あなた様までは支えられない!」


徐々に降下していく単騎の竜騎士。


「行ってください!処置を終えて、後から向かいます!!」


そう竜騎士は叫び、傷付いた竜と共に濃霧に消えかけたが、その行為をモモは許さなかった。


「ダメよ!カーティス隊長、彼を追って!」

「はっ!」


各竜達が翼を羽ばたかせ、濃霧が晴れた先に見えたのは、巨大バッタの魔物に乗ったピュグと呼ばれる小人(こびと)の魔物が、大群で現れた。


「ピュグライダーだ!!」

「気を付けろ!奴らの好物は竜の血肉だ!!(あし)をやられるな!!」


カーティスが全員に注意を促す。


「しっかりつかまって下さい!」


竜騎士達が、竜に騎乗する全員に声を掛けると、ピュグライダー達の斧攻撃を避けながら飛行し始めた。レンダーの前に乗るトルチェが竜の背に立ち上がった。レンダーはすかさずその体を支え、シュアは範囲でトルチェ、レンダー、ザック、ダンに攻撃力強化、魔力消費軽減魔法をかける。


「“トルネード・エクスプジョン!!”」


爆発魔法を詠唱したトルチェに続き、ザックが衝撃波を繰り出す。

先刻のダンの戦闘に感化されたのか、パーティー全員が連携の取れた攻撃を繰り出す。

 襲い掛かるピュグライダーの相手はレンダー達に任せ、モモの乗る竜は降下していく尾を痛めた竜に寄り添う様に飛行していた。


「“ヒール”」


モモの回復魔法によって、尾の傷が癒えた竜は、見事体勢を立て直した。


「ありがとうございます、モモ様!」

「ええ、間に合って良かったわ!」


モモ達の上空では、レンダー達が竜を狙うピュグライダーとの激闘を繰り広げていた。ピュグライダーは小さく素早いのが特徴だ。


「―――っつ、素早い上に的が小さい!」

「ナナ!竜騎士も、頭を下げろ!」


レンダーが、トルチェを支えながら衝撃波を繰り出し、ナナ達を囲んでいたピュグライダーを一掃した。


「体躯の大きいアードラとは別の戦い方が必要だ。ナナは外側から狙ってくれ!」

「はい!!大群の外側へ!」

「はっ!」


レンダーの指示にナナと竜騎士が応え、竜を大群の外側へ飛行させる。その戦況を見ていたペル。


「まとめて始末する必要があるね。ボクに任せて。」

「ペル?」


モモの肩から蜘蛛化のままペルが指示を出す。


「ボクは蜘蛛だよ?蟲を始末するなら得意だよ。カーティス、あいつらの中心に向かって上昇して。」

「承知した!」


すると、蜘蛛化を解いたペルが飛び降りたかと思うと、瞬時に右手の指先すべてから糸を出し、竜の両手足、尾に引っ掛けた。


「ちょっと借りるね。」

「ギャウ」


竜も、ペルに応える。

 ペルが魔力を左手に集中させ、掌をピュグライダーの上空から翳した。ペルの掌にピュグライダー達が収まった瞬間、巨大な円網が放たれた。

 その円網は、ペルが仲間だと認識する者達を巻き込むことなく、ピュグライダー達だけを捉え、

糸に含まれる粘液がライダーの自由を奪い、ペルのその一発でピュグライダーの大群は地上に落ちていった。円網から逃れたピュグライダー達もペルが次々に糸で狙い撃ち、その自由を奪った。


「ヒュー、ペルすごいっす!」

「やるな、ペル!」


ザックとダンがペルに称賛を送る、その頃にはペルはすでに蜘蛛化し、モモの肩に戻っていた。


「ペル、ありがとう。」


モモがペルのフワフワな体を優しく撫でた。


「さすが、モモ様の従魔ですね。あの厄介なピュグライダーを短時間で片してしまうとは。

しかし、ピュグライダーがこんな上空にまで姿を現すなんて、今までに例はなかった…」

「自分もそう思います、カーティス隊長!あのライダーが飛べる高さはせいぜい十五、六メーターほどのはずです。」


ダンとシュアが騎乗する竜の竜騎士が自身の見解を口にした。

 その時、突風が北に向かって吹き、濃霧を晴らした先に見えたのは。


「しょ…瘴気の陣!!」

「ここから湧いて出ていたのか!!」


 単騎の竜騎士達が主力陣の前に出て隊列を組んだ。濃霧と山肌の色に紛れて毒々しい紫黒い瘴気が円陣を形成し、その闇の中央から再び、ピュグライダー達がライダーの羽音を立てて湧き出てくる。

それを目にしたモモは、カーティスとコンタクトをとり、カーティスもそれに頷いた。

 モモは破邪のカウスをストレージ。竜に騎乗しながら矢を構えるモモの体をカロルが支える。

その矢にルキスが息を吹きかけると、矢が光輝いた。

モモ以外の者達は湧き出るピュグライダーを片付けに入り、モモがターゲットにならない様にピュグライダー達の注意を引く。

 モモがグッと弦を引き、ルキスと呼吸を合わせ、矢を瘴気の陣中心に放った。今までにないスピードで矢は陣の中心を貫き、陣形がグニャっと変形。モモとルキスの光の陣に上書きされ、瘴気の陣は掻き消された。


「モモ様!!」


討伐成功の歓声に沸く竜騎士達だったが、次の瞬間、最後尾にいた単騎の竜騎士の悲鳴があがった。


「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」


その悲鳴に振り返った先には、背後から首根っこを掴まれた竜騎士の姿。その首には長細い管が刺さり、体液を吸われているのか、徐々に皮だけの姿に朽ち果てていった。


「あ…あぁ……」


見るも無残な、変わり果てた竜騎士の姿に、トルチェとナナが口を覆った。


「―――――――っ!!」


 皮だけとなった竜騎士を手放し、地上へと放り投げた魔物が、その顔を露わにした。

艶のある漆黒の髪は、踝までに至り、どこに竜騎士を持ち上げる力があるのか、思いも寄らない藤色肌の痩身。その口は耳まで裂けた、黒のシンプルギャザーの花びらを模した布を纏った魔物だった。


「貴様よくも!!」


現れた魔物に斬りかかろうとする竜騎士をオーフェンが止めに入った。


「やめろ!急ぐな!!」

「―――っ、しかしっ!!」

「あれはこんな上空に存在しない、あの魔物に纏わりつく様に飛んでいるのはオオマダラ、毒を持つ蝶の魔物…そして竜騎士を()ったのは、毒花の魔物ベラドンナだ…」


 オーフェンの説明を聞きながら、ベラドンナが主人を失った竜の背に腰を下ろした。

竜も相手の力量を把握したのか、微動だに出来ない。


「飼い慣らされていてもアタクシの力を見誤らない…いい子ねぇ、けどアタクシには必要ないわ。」


竜の背を撫でたかと思うと、ベラドンナはその首を手刀で一刀両断。


「ギャッ…」


首と胴が離れた肉塊が地上に落ちて行った。そしてベラドンナの人差し指がモモに向けられた。

その瞬間、モモをレンダー達が取り囲んだ。


「先ほどの陣の浄化、見せてもらったよ。聖蛇の娘。相当な聖属性魔力、聞いていた情報に間違いはない様ねぇ。」


ベラドンナがニヤリと不適な笑みをこぼす。


「き、聞いていた情報だと!?まさか、我々がこのルートを通る事が漏れていたのか!?」


カーティスがベラドンナに問いただす。しかし、ベラドンナは静かにニヤつくだけ。


「じゃ、じゃあ、もしかしてアードラやピュグライダー達も仕組まれていたって事?」

「たしかに、こんな上空にピュグライダーなんて通常現れないもの!さっきモモ様が浄化した瘴気の陣も…」


シュアの疑問にトルチェも加わり、言い終える前にベラドンナがその疑問に応えた。


「そう。アードラもピュグライダーも、お前たちの力量を観察するために仕掛けたもの。

さすが、女王蜘蛛(ナルボンヌ)を討伐しただけはある様ねぇ。でも、アタクシはそう簡単には討伐()られないわ。アタクシは選ばれしベラドンナ。他の個体と一緒にしないで。

お前たちの血肉を啜りあげ、必ずや()(かた)に聖蛇の娘を差し出してみせるわ。

大人しくアタクシの元へ来るなら、他の者には手出しをしなくても良くてよ?どうする、聖蛇の娘?」


ベラドンナが自身の元へ来るよう、モモに促す。

しかし、モモ自身、そして仲間達が一斉に武器を構えた。


「モモ様は渡さない!おまえを倒す!!」

「必ず吐いてもらうぞ、おまえの聞いたという、その情報源を!!」


レンダーの宣言に続き、カーティスが竜騎士達に散開の指示を出す。竜騎士達は頷き、モモを後方に置く陣形を取った。


「ふふ、強化されたオオマダラ達に何分もつかしら?行け!お前たちの毒を味わわせておやり!」


 ベラドンナの指示に、彼女のそばで控えていた黒とオレンジに羽根を持つオオマダラ達が一斉にレンダー達に襲い掛かった。
























お読みいただき、ありがとうございます。

至らぬところばかりではございますが、楽しんでいただければ幸いです。


 やっと作者が描きたかった戦闘シーンに突入しました。

戦闘シーンをどう表現すれば楽しんでいただけるか模索しながらですが、第四章はとにかく戦闘しまくる予定です。当初は「恋愛」を選択して描いていましたが、読み返せば「恋愛」ってほど「恋愛」出来てなくね?と思い、「ハイファンタジー」に切り替えました。こっちのがしっくりきました。(遅い)


 今まであとがきに書いていた★キャラメモ★は主要キャラが一区切りついたので止めますが、もし興味を持って下さったキャラがおりましたら、是非お声がけくださいませ。

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