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地上の危機(4)

 アッシュブラウンの髪を一つにまとめ、ペリドット色の瞳を持ち、右肩を広く出す黒のチューブトップにロングプリーツレースの巻きスカート姿の女性が、岩に腰掛けるラウルのそばに立っていた。


 ここは西の森にある、幼い頃ラウルがラインハルトと共にレベル上げに時間を費やした場所。もはや今は相手になる魔物はいないが、この草木生い茂る緑深い場所で、ラウルは大地の妖精シヴと出会った。

当時、魔物に追い詰められたラウルが逃げ込んだ岩の窪み、その入り口が上から落ちて来た岩盤によって塞がれてしまった。ラインハルトが外から岩盤を動かすもビクともしない。助けを呼んで来ると、一人になったラウルの前に現れたのが、大地の妖精シヴだった。



「―――ダメだよ、シヴ。一緒には連れていけない。聖地サーリンゼルカから遠いピーニャコルダはキミにとって危険が多い。本来の七割くらいしか力を発揮出来ないし、妖精狩人(ハンター)だって普通にいるんだ。それに…モルネード(ここ)へ戻るのも、何年かかるか…」


子供を諭す様に、優しい口調でシヴに話しかけるラウル。

しかし、シヴは全く納得いかないという表情で、頬を膨らましている。シヴは普段から物わかりのいい妖精で手を煩わされたりしたことはなかっただけに、どう説得したものかラウルは悩んでいた。


 シヴが優しくラウルを包み込む。


「ラウルのそばにいたい」


この時、自分の意志をシヴは、始めてラウルに口にした。


「――――――シヴ…俺だって…」

「ウソ!ラウルは諦めてる、運命に!」


大人しいシヴの、激しい口調にラウルは目を丸くして驚いた。


「シヴ知ってる。初めてここで会った時も!ラウルは岩に閉じ込められたのに、平然としてた。

ラインハルトの助けを待つわけでもなく、このままでいいって―――っ。

ピーニャコルダに戻るのも、本当は自分の事…」


そういいかけたシヴの口に人差し指をラウルは当てた。シーっと。


「シヴには隠し事出来ないなぁ、お見通しか…」

「……モモが現れてくれたから、ラウルの運命にも光が差したのかと思ってた。」


シヴの淋しそうな声に、ラウルは静かに微笑むだけだった。




―――――――――― ☆ ――――――――――




 ダンッ!!


弓の稽古場で、“破邪のカウス”を片手に休みなくガンガン矢を射るモモの姿がそこにはあった。

次の矢を繰り出そうと玄を引いた時、そっと大きな手がそれを止めた。


「気持ちはわかりますが、それ以上は腕を痛めますよ、モモ様。」

「カロル…」

「侍女達も心配しています、汗を流してお茶にしましょう。

私も、今回のことでラウル殿の力になれることがあります。それにはモモ様にご協力いただかなくては。」

「え!?ラウルの助けになれるの?」

「はい、ですから、どうぞお召替えを。」

「ありがとう、カロル!」


“破邪のカウス”をカロルに預けると、侍女たちがすかさずモモを取り囲んだ。

侍女長ナーサも、今回の件は耳にしていた。“ずっとこのまま”時間が過ぎてほしいと望んだ者はどれくらいいたのだろう。魔物討伐や瘴気の陣の浄化はあるけれど、いつも明るい笑顔のモモ様、それを取り囲むラウル様やダン様達。最近は女子会も開いたり、社交界に出てからは忙しくも、ご令嬢達との会話を楽しんでいたモモ様の姿を微笑ましく見ていた侍女達。

 円卓の会議室での件から、殿下も苦しんでいるはず。幼い頃から一緒に成長してきたラウル様との別れ。そして――――――…




―――――――――― ☆ ―――――――――――




 第三騎士隊舎前では、一足早く、魔人達からカピルス村奪還すべくオーフェン隊長が騎士達と討伐準備を整えていた。その中にはレンダー、ザック、トルチェ、シュア、ナナの姿はあったが、同行するはずのダンとモモの姿は見えなかった。


「…ダンにとってラウルさんの存在は絶対みたいなところがあったから、今回のこと相当(こた)えているみたいっすね…」


ザックはそう言いながら、自身の装備チェックをしていた。


「そのダンはどこにいるか知っているか?どこにも姿が見えないんだが。東門のギルドか?」


レンダーにそう問われるも、誰も居場所を把握しておらず首を横に振るだけだった。


「…魔人が相手だからな…ダンの攻撃力を欠くのは痛い、何とかしてオレ達に心を開いてもらわないと…モモ様も一緒だからと安心していたが…」


そう頭を抱えるレンダーの前に突然つむじ風と共にダンが現れた。そのケロッとした表情に逆に呆気にとられたレンダー達。


「おー、どうした?ボケっとして、これからカピルス村の魔人達を潰しに行くんだろ?」

「あ…ああ。」


ダンの屈託のない明るい表情に、ホッと胸を撫でおろしたレンダー達だったがダンに対する不安が完全に払拭したわけではなかった。特にダンと行動を共にする事が一番時間の浅いナナは。


「…ダンさん、こんな事言うのは失礼に当たるのですが、それでも確認させて下さい。

本当にラウルさんと共にいなくて大丈夫なんでしょうか…」


ナナの言葉を遮るように突風がその場を過った。風の妖精ウェンティがそれ以上言わせないようにしたのだ。突風が過ぎ去った後のダンの表情は自信に満ち溢れていた。


「大丈夫だ。えっと、ナナだっけ?

確かにラウルには甘えっぱなしだったからな、はやくカピルス村奪還してピーニャコルダにラウルを助けに行く。これがオレの…いやモモの行く道だから、フォローよろしく頼むな!」


モモの行く道。ダンのその一言に、トルチェ達はダンがすでに自分達を信頼してくれて、先を見ていると察した。


「はい!」


ダンの決意に共感した、カピルス村奪還チームは呼吸を一つにした。


「ところで、ダンさん今までどこ行ってたんすか?」


ザックが愛用のグリフォンクローの爪部分を磨きながらダンに声を掛けた。


「ルキスが瘴気の浄化アイテムをくれてさ。妖精が使えるアイテムだから、みんなには見えないんだけどな。いくらモモが“大聖女”といっても浄化だけに専念出来る戦況にはならないはずだ。

モモの使役する、光の妖精ルキスの力がこの戦いには必要不可欠になってくる。」

「たしかに。魔人討伐には聖属性魔力が不可欠。それをモモ様だけに任せるのは荷が重い、だからと言ってオレ達に聖属性の力があるわけでもないしな。」

「俺達、前衛がバッチリ仕事すれば大丈夫っすよ。今回はトルチェの火力もあるし!」

「そうね、手ェ抜いた仕事したら、ザックごと燃やすことにするわ。」


 トルチェの言葉に青ざめるザック。周りで聞いていた騎士達もレンダー達のやり取りを笑って見ていた。


「ダンさんは大丈夫として、モモ様はどうなんだろう…大丈夫かしら…」


ナナの呟きに、トルチェも他のメンバーも俯く中、ダンだけが空を仰いだ。


「…そんなに弱い女じゃないよ、モモは。きっと大丈夫。オレ達で支えればさ!」


ダンの言葉に共感したメンバーは、笑顔を見せ頷いた。


「そうだな。ラウルを助けに行くにせよ、地盤を固めないと動けないし。それにはロイド達にも頑張ってもらわないとな。」

「あっちのチームに負けてらんないっすね!」

「みんなでラウルさんを助けに行きましょう!」


レンダー、ザック、シュアが決意を口にする。


「新月と共に出発する。皆の者!準備、抜かるなよ!」


第三騎士隊長オーフェンの掛け声に、一斉に騎士達の声が上がった。




―――――――――― ☆ ――――――――――



 ロイド達、“虹の雫”チームは、勇者ヴァンに軍事執務室で海底探索のノウハウを教わっていた。

と共に、第四騎士隊長、ベグルと騎士達も、カブトーの操作方法を頭に叩き込んでいた。


「活餌は、これだけあればカブトーの機嫌を損ねることもないだろう。…よくこんなにストレージ出来たな。ダンの枠、どんだけ余ってんだ?」


軍事執務室はカブトーの活餌(エサ)で床が水浸しになっていた。


「で、マリモ弾は人喰いサメ撃退用だ。目に命中させるんだ。グヴィレズタ弾は人喰い深海魚回避の閃光弾だ。あれに喰らいつかれたら厄介だからな。カブトーの天敵だ、気を付けろ。

アカモックは、海中でカブトーを留めておく網だ。カブトーは砂の上が好きだからな。だが、カムイ海峡の渦潮の底は二つの大きな海流が交差している。常に海底でも砂が舞い上がっている状態だ。

スタリアバリアがあっても、どれだけ探せるかわからないぞ。とにかく“虹の雫”は海底火山、岩付近を探すのがポイントだ。そして、カブトーの機嫌を損ねないこと、出来るな、ポッチェ?」


勇者ヴァンに名前を呼ばれ、ポッチェは背筋を伸ばし敬礼した。


 ひとしきりヴァンが話し終えると、ロイドが隣に立つアイクが震えていたことに気付いた。


「大丈夫か、アイク?」

「あ…僕、泳げなくて…みんなの足を引っ張ったらって…」


そんなアイクに、クアラが笑ってみせた。


「大丈夫だよ、アイク!泳げなくても、スタリアバリアさえあれば海水に触れることもないし、ですよねヴァン様?」

「ああ、不安ならカブトーとアカモックで繋いで探せる範囲で行動するといい。基本アイクは深海魚回避に努めるのもいいかもな。」


その意見にロイド達も温かく頷く。


「あ、ありがとうございます、みなさん。」




―――――――――― ☆ ――――――――――




 西の森からモルネード城に帰って来たラウル。浮かない表情と思いきや、いつも通り飄々としていた。そのラウルの肩に乗るシヴを見つけたルキス。


「ラウル!シヴを借りていくわねっ!」

「あ、ああ。そのまま連れて行っていいぞ?」


ラウルの言葉にシヴが怒りのキックをラウルの腹目掛けてぶち込んだ。


「うっ…(ここにきて、シヴのあたりがキツイ…)」


その様子を遠くから見ていたラインハルト。妖精は見えないものの、ラウルに何があったかは想像がついていた。


「シヴは説得出来なかったみたいだな?」

「―――ああ、ご覧の通りだ。」


二人の間に沈黙が、二人だけの空気が流れていく。


「―――必ず助けに行く。死ぬなよ、ラウル。」


ラインハルトの意志の固い声に、ラウルが目を合わせた。


「お前は人質としてモルネードに来たんじゃない。私の兄弟と言っても過言ではない。昔からそう思ってきた。」

「…っふ、どっちが兄貴だよ?」

「フラフラと朝寝坊のおまえが弟な。」

「マジかー。」


ラインハルトとラウルは、誰もいないその静かな空間で、拳を突き合わせた。


「モモ様とカロルが、おまえを探していたぞ。今は部屋に戻った様だが。」

「―――ああ、ありがとう。」

「私が首を突っ込むのもアレだが、どうなんだ?モモ様とは?」

「まぁ、モモがピュアすぎてな。」

「!! ……察してはいたが、まさかまだ何も?」

「そこは、見守ってくれていたら、うれしいよ。

―――…俺もまた、モルネードに還って来れるように戦い抜く。ラインハルト、おまえも、死ぬなよ。」


ラインハルトにそう告げたラウルは、足早にモモの部屋を目指してその場を後にした。そしてまた、

ラインハルトも自身の戦場へ向けて踏み出した。




――――――――――― ☆ ―――――――――――



 コンコン


ドアをノックする音と共に部屋の護衛兵から声が掛かる。


「ラウル様がお見えになりました。」


すると、内側からガチャっと勢いよく扉が開いた。扉を開けたのはモモだった。


「ラウル…」

「ラインハルトから、二人が俺を探してたって聞いたから。ごめん、シヴと西の森に行っていて…」

「ううん、来てくれてありがとう。どうぞ入って。」


ラウルが部屋に入り、侍女に勧められたソファに腰を掛けると、侍女達はササッとお茶を用意し、部屋を去って行った。部屋に残されたのは、モモ、カロル、そしてラウルだけだった。

 少し間を置いてから、カロルが一通の手紙をラウルに手渡した。


「これは?」

「妻、アザレアが手に入れたピーニャコルダ王国、元空挺師団長マルフォス殿からの手紙です。」

「!!」

「アザレアは私が空挺師団に所属する以前から、マルフォス師団長の奥様と友人でした。大病を患い、今は臥せっている身ではありますが、部下からの信頼も厚く、現在もマルフォス殿を空挺師団長に迎えたい派閥が残っています。そこでアザレアが奥様に詳しくマルフォス殿の容態を聞き取りました。」


そうカロルは語りながら、ラウルに手紙に目を通す様促し、ラウルが手紙を広げた。



 〖夫、マルフォスの話では、死人(しびと)の様な顔色の者達に襲われ、体内に黒紫色の何かを埋め込まれた。その時から体内が石化し始め、使いたくなかったけれど、闇市で手に入れた数人の聖属性魔法使いにより死を免れている状況です。ここ最近は高熱を繰り返し、今いる聖属性魔法使いの力でも石化のスピードを遅らせるのが限界。このままではいつまで保つか…。

アザレアがいるモルネード王国には不治の病を治す聖女がいると耳にしたわ。どうか助けて。〗



「黒紫色の何かって…瘴気が関係しているのか?」


ラウルの問いに、モモとカロルが頷く。


「石化という症状は気になるけど、瘴気が関係しているとしか思えないわ。」

ピーニャコルダ(あちら)は、モルネード(こちら)とは異なる軍事国家。加えて聖属性魔力の研究にも力を入れ主に聖水を違法に作り出し、また闇市では魔族との取引もあるとか…。」

「魔族との…!?」


カロルの言葉に、ラウルとモモが声を合わせた。


「ええ。昔から妖精狩人(ハンター)の間で囁かれる噂ではあったのですが、ここにきて私の中で真実味が増しました。瘴気を操る魔族が、闇市に関わっているかもしれません。

 ラウル殿お一人の力では、反王政派の鎮圧、闇市の解体は難しいでしょう。しかし、勇者ヴァン様もいます。そして…」


カロルの言葉に続いて、モモがあるアイテムをラウルに両手で差し出した。


「これは…?」


モモの手の中でオレンジ色に輝く宝石が妖力を帯びていた。


「これは、ルキスの浄化の力を付与したマンダリン・ガーネット。

ルキスの妖力は繊細でいて且つ重いらしくて、今まで中々付与出来る宝石が見つからなかったらしいんだけど、前にドリーネマーケットで宝石の妖精に相談したら、このマンダリン・ガーネットならルキスの力に耐えられるって、いくつか創ってくれたものなの。」


 と、ここまで話したモモ達の前にポンっとルキスとシヴが現れた。

そしてルキスは得意げに、ラウルの目の前で自分の力を付与したマンダリン・ガーネットについて語りだした。


「この大きさはラウルだけよ!浄化範囲は装備しているだけでオートでMよ。そういう設定に宝石の妖精ラジェムに無理やり頼んだの!他のは範囲S、シヴにも装備させたわ!

そういうことだから、瘴気に関しての防御は完璧なはずよ?」


そう言いながら、ルキスはラウルにウインクして見せた。

シヴはブレスレットとして装備し、ラウルのものはキーホルダー型になっていた。

 ラウルはモモの手からそれを受け取ると、胸ポケットに忍ばせた。すると早速オートでルキスの浄化妖力がラウルの全身を包み込んだ。


「ありがとう、ルキス。」


ラウルのお礼の言葉と共に、ルキスが人化し、その首元に優しく触れラウルの心に、ラウルにだけ届くようにある言葉を伝心した。


―――モモが必ず、アナタを幸せにするわ―――





 

























お読みいただき、ありがとうございます。

至らぬところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。


キャラメモ ★トルチェ★


✿普段も戦闘時も、視野の広い、紅桔梗色(濃い紅紫色)の胸までのロングヘア(レイヤー入り)

✿21歳 血液型不明

✿一人称:私

✿職業:黒魔法使い ランクS

✿王立魔法学園ではジュウトの後輩にあたり、火炎系を得意とする。

✿彼氏は今おらず、最近は独り時間を満喫しているとか。

✿男爵家の次女設定

✿フリーの黒魔法使いとして王都では顔が利き、その魔力量と火力が人気で、ミッションクリアして

フリーに戻るすぐに売れてしまう人気者。

ナルボンヌ討伐には自主的に参加した。


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