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地上の危機(3)

 モルネード城、円卓の会議室。

ここで、ラインハルト直属のパーティー及び、地上の勇者ヴァンが現在の状況を宰相ラッツイから聞かされた。


「ただの地震じゃないとは思っていたけど、まさかベヒモズが…天災を引き起こす右手は確実に召喚されたってことですね。それで、ピーニャコルダ王国はどうなったんですか?」


本来ならば、ピーニャコルダ王国出身のラウルが、この質問をするかと思いきや、彼はだんまりのまま、同郷のカロルが問いかけた。


「詳しい状況はわかっていないのだ。ただ、我が国からも見える、ピーニャコルダ王国の上空に渦巻く黒紫色の重い雲がただ事ではない事を物語っている。」

「黒紫色の雲…瘴気が関係していたら…」


モモの呟きにラッツイの表情が更に険しくなる。


「そうなのです。あの雲が異常な瘴気の塊であるならば、我が国にも何らかの影響があるやもしれない。王は結界展開を最重要と考えておいでです。」


ラッツイは王の意志を伝えると、ラインハルトに視線を送った。ラインハルトは合図を受け取ると立ち上がりこれからの行動計画について説明し始めた。


「国王の意志は今、宰相ラッツイから聞いた通りだ。

これから我々は結界展開における初動に入る。まずは妖精王様への道を開き、再度結界を張る旨を説明しお力添えをいただく。蜘蛛の王ルブロン様からいただいた情報では、妖精王様は再生の時期に入るまで、もう一ヶ月を切っている。一刻も早く海底に潜り、創世の大地から続く妖精王様への道を繋げるため、“虹の雫”を手に入れたい。」


ラインハルトの説明に、妖精を使役しないレンダー達が疑問を投げかけた。


「お言葉ですが、殿下。以前から思っていたのです。妖精王様に会いに行って、お力添えをいただくのには、聖地サーリンゼルカから妖精を使役している者が行けばいいのでは?」

「事は、そう単純ではないのだ。」


ラインハルトの言葉にラウルが続ける。


「今回、結界展開の主軸を置くのは妖精王様ではなく、人間が柱となる。その柱となる人間に妖精王様から祝福をいただかないと結界の柱にはなれない。柱になるモモ以外の聖女は妖精を使役していないからな。聖地サーリンゼルカから入れないとなると、どうしても“虹の雫”が必要になる。」


ラウルの説明に、レンダー達がなるほど、と納得の表情を浮かべた。


「ちなみに、今宵の新月には前回の会議でリリンの魔鏡から見た、土蜘蛛の王女パナマリアが我が国に到着する。歓迎の準備は宰相ラッツイが担当してくれるが、私も一国の王子として歓迎の儀に参加しなければならない。そこで今後の指揮について、まずは“虹の雫”探索はロイドを筆頭に、イーサン、クアラ、ポッチェ、アイク。これについては勇者ヴァン殿の協力もある。そして、カピルス村奪還はラウルを筆頭とし、モモ様、レンダー、ダン、ザック、トルチェ、ナナ、シュアに任せたい。

総指揮官については私が…」



 ラインハルトがそう話していると、突然会議室の扉が仰々しすぎるくらい勢いよく叩かれた。


―――ドンドンドン!!―――


「何事だ?」


対応に宰相自らが出る。扉が開かれると、息を切らした近衛騎士が膝をつき、要件を述べた。


「宰相様、火急の知らせにございます!」

「申せ」

「ただいま隣国ピーニャコルダから使いの者が参り、何者かの手により“ベヒモズ”及び、我が国に出現したそれとは比べ物にならない瘴気の陣が現れ、首都ノイシュヴァンスタインを襲撃、陥落したとのことです!」


近衛騎士の報告に、ラウルとカロルが立ち上がる。


「出現した“ベヒモズ”は上半身で、一撃にして首都は壊滅したと。我が国に救援要請をしてきております。また!…国王陛下及び王子コラル・ピーニャコルダ様がこの機に準じ、何者かの手によって暗殺されたと…」

「―――――っ、兄上が…っ」


ラウルは、衝撃の情報に、静かに拳に力を込めた。


「……真の出来事なのだな?」

「はい。“ベヒモズ”は姿を消した様ですが、陣から次々に湧き出る魔物の討伐に生き残った各団追われており―――」


 そこまで、近衛騎士が述べると、視線をラウルに移した。


「ローズ女王より、ラウル王子の返還を求められております。」

「!!!」


近衛騎士の発言にパーティー全員がラウルを目にした。

以前、仲間達に自身の正体を明かした時、ラウルは王位継承権を放棄した上で、このモルネードに過去の戦争における和平交渉の材料としてピーニャコルダ王国から来たと話していた。


「ラウルさんに一体何を望んでいるんだ?」


ザックが口にすると、宰相ラッツイが一呼吸置いた。


「……おそらくは、王族派の代表、象徴を欲しているのでしょう。今の報告で推測するに、国王、第一王子共に何者かによって暗殺。反王族派による謀反で内乱が起きている中、他に王子はいたはずですが、確かまだ幼く、この危機を乗り越えられる者はいない。

一度は…悪く言えば人質として我が国に送られたラウル王子の安否報告は常々、ピーニャコルダ王国に行っていました。ラウル王子の器量ならばと、この判断を下したのではないかと…」


その場に立つラウルの手元に、実母であるローズ女王からの書状が近衛騎士の手によって置かれた。

押されている薔薇の封蠟は時折送られてくる女王のものだった。


「陛下には、別の…こちらはラウル殿宛ての書状でございます。」

「…ああ、ありがとう。」


ラウルの返答が重い。

円卓でラウルの横に座っていたモモが席を立ち、ラウルの袖を掴む。


「ラウル一人で行かせない…ですよね、殿下。」


モモの精一杯の声が震える。自分がラウルと同じ立場だったらと考えると、“行かないで”とは、とても口に出来なかったからだ。問われたラインハルトも思わずモモからの視線を外してしまった。


「ラウル。」


ラインハルトの声にラウルが落としていた視線を向けた。


「おまえの判断を尊重する。陛下にもそう伝えておく。おまえにとっての最善を選んでくれ。」


その言葉を聞いたトルチェが、ラインハルトに喰ってかかった。


「そんな…、ここまでのいきさつを聞いただけですけど、ラウルさんの判断を尊重するって。

一緒に考えたりしないんですか!?冷たいです殿下!」


あまり自身の意見を主張しないクアラとは対照的なトルチェの言葉に、パーティー全員が驚いた。


「と、トルチェ…!殿下に対してそんなこと…」


流石の遠慮を知らないと思われていたクアラも、トルチェを諭す。しかし、混乱を避けようとしたのか、パーティーの輪を乱さないように気を遣ったのか、ラウルが返答した。


「―――――、わかった。」


ラウルは、ラインハルトにそう返すと、そばに立つモモに優しく笑みをこぼした。


「――――――…ラウル…」


 こんな時に立場の重さをひどく感じたモモ。

ラウルにかけたい言葉をいくら探しても、彼の心に響く言葉は見つからなかった。

“ラウルと一緒に行きたい”そういくら想っても、自分にはモルネード王国での結界展開の役目がある。ぐるぐる考えている間に、いつの間にか会議は終わっていた。

 複雑な想いを抱えていたのはモモだけではなかった。勇者ヴァンも大地の勇者と謳われている。行方不明から無事の報告を各国にされている今、ピーニャコルダから緊急要請が掛かるのも時間の問題だ。同志、海の勇者ルカの安否を確認するのに海底に行きたいが…。




 会議の解散を受け、皆が何も言えないまま円卓を離れた時、ヴァンがラウルの肩に手を置いた。


「俺達が共にピーニャコルダに行こう。」

「え―――?」

「!!」


勇者ヴァンがその力強い瞳で、ラウルを見る。

ヴァンの言葉に、モモ達も驚いた。


「なんだ?不足か?」

「い、いや。不足なんてないが、ヴァン殿もやることがあったはず…」

「まぁ、そうなんだが相手も勇者だ。俺じゃなくても大丈夫だろう。今は地上の危機。大地の勇者の出番かなってね。」


ヴァンの言葉に傍で控えるピユフィーヌ、ジェイド、アイラが一緒に頷く。

いつもはポーカーフェイスを崩すことのないラウルが、この時ばかりは余裕なく笑った。


「ありがとう、ヴァン殿、みんな。」


ラウルの姿を見ていたラインハルトも、視線が合った時、黙って頷いた。


「じゃあ、海底の案内役をロイド達に紹介しておこう。“虹の雫”がよく見られるスポットは北東にあるカムイ海峡の渦潮の底だ。」


ヴァンの説明にロイド、イーサン、ポッチェと“虹の雫”メンバーがたじろいだ。


「あの渦潮の下ですか…?船なんて秒で木っ端微塵ですよね…?」


イーサンがそういうと、仲間達も黙ったまま首を縦にコクコク頷いた。


「たしかに、船じゃ木っ端微塵だな。浮いても来れない。

だからカブトーで行くんだよ。」

「カ…カブトーって、世界に5匹いるかどうかって希少な。しかも人間が扱うのは困難を極めるって…それを?」


テイマーのポッチェも開いた口が塞がらない。


「それだ。さぁ、忙しいぞ。北東は津波で沈んでいるから、召喚()べる場所を探さないとな。

ラウル。」

「ん?」

「俺が戻る前に、色々済ませておけよ。」


ヴァンはラウルにそう言いながら、不安そうにラウルのそばに立つモモに視線を送った。

ヴァンの意図を捉えたラウルは、ああ、と声には出さずに口だけを動かした。




 ヴァンの前に“虹の雫”チームが集まる。


「ロイドは召喚の筋はどうだ?」

「あ―――、俺はそれ系は苦手ですね。ちょうどテイマーのポッチェがいますよ。」

「テイマーね。もってこいのジョブだ。ポッチェ。」


大地の勇者ヴァンに名前を呼ばれ、緊張の表情のポッチェに、勇者パーティーのピユフィーヌが

クスっと笑う。


「そんなに緊張していては召喚()べる者も逃げちゃうわよ?ポッチェ。」

「は…い」


誰しも、大地の勇者と行動を共にするなど、人生であるかないかのものなのに、まさか名前を呼ばれるなんて、と中々緊張が取れないポッチェだったが、円卓の会議室を出る時にラウルの姿が目に入った。故郷の危機に接し、反乱軍を鎮圧しなくてはならない大きな壁に立ち向かう彼の背筋は、いつにも増してキリっと伸びていた。不安でいっぱいはずなのに。それを周囲に感じさせない器量。


「よろしくご指導お願いします、ヴァン様。」


気合を入れ直したポッチェの声に、ヴァンとポッチェは拳を合わせた。


「その意気だ。」




―――――――――― ☆ ――――――――――



 ピーニャコルダ王国、とある洞窟。


「…ラーキットが()られた。ブーケンも、四天王の一人チェルノボーグもっ!」


ガシャンッ!!と石の円卓中心に張られた水晶鏡を叩き割ったのは、地底魔王軍四天王バラムと呼ばれる混血魔族だった。

その様子を静観する地底魔王軍四天王ヴァラクのサーヴァント、クバリー。


「なんだ、クバリー。貴様はここで何をしているのだ!?我々の目的を忘れたのではあるまいな?」


混血魔族であるバラムは、巨体グリスリーの体躯を持つ金の鎧を纏い、その鋭い牙を剝き出しに、クバリーへの怒りを露わにした。


「もちろん、忘れていませんよ。聖蛇の娘の捕獲、聖獣の核をてに入れる事ですよね。」


飄々と答えるクバリーの態度が更にバラムに怒りを覚えさせた。


「わかっているなら、早々に仕事をしろ!

モルネード王国の結界も、もうすぐ消える。妖精王の再生時期、ここが狙い目だ。我らの王、サハマジャ様の復活には、妖精王にも消えてもらわねば…」


カシャン…


石の円卓の上に、クバリーがある宝石を置いた。


「…?なんだ、“虹の雫”がどうした?」

「これを探して海底に潜ると人間たちが話していました。」

「こんなもの、何に必要なんだ?なぜその情報をお前が知っている?」

「まぁ、細かいことはいいじゃないですか。“虹の雫”は妖精王に続く道だと。」

「なんだと!?」


バラムの怒りの表情に陰でニヤリと笑みを浮かべるクバリー。


「それと、海底神殿に海の勇者が迷い込んだとセレベスが向かった。海の勇者は単騎だ。聖獣の核を最も奪いやすい。四天王ウェパル様もセレベスと共に、海の勇者をたたく様ですよ。これで彼らが聖獣の核を手に入れたあかつきには、蘇ったサハマジャ様もさぞお喜びになるでしょうね。」

「―――何が言いたい?」

部下(ラーキット)に手を下したバラム様、あなたに仕えるサーヴァントはもういない。

これからどう動かれるのかなって思いましてね。」

「―――っ、クバリー貴様!四天王のワシに対して――――っ!!」


クバリーを力でねじ伏せようと襲い掛かって来たバラムだったが、クバリーの“運命の輪”がバラムに向けて発動。


【パペット】


クバリーの“運命の輪”意志など関係なく操る【パペット】にかけられたバラムは、そのまま意識を飛ばし地面に倒れ込んだ。すると、闇の中からクバリーの仕える、鋭く長い牙を持つ象の体躯を持つ四天王、ヴァラクが現れた。


「よくやった、クバリー。」

「は。」

「すぐカッとなるバラム(こいつ)は、うざくて敵わん。さて…」


ヴァラクは言わんとすることを顎に手をあて、クバリーに視線を向けた。すぐにクバリーは片膝を付き、頭を垂れた。


「【パペット】にかけられたバラムは、もはやヴァラク様の意のままに操れます。どうぞご自由に。

わたしは、仕掛けてある人間がよく仕事をしてくれているので、この機に聖蛇の娘を手に。」

「ああ、言わずも理解してくれるとは、うれしいよ。流石はワタシのサーヴァント。」

「ありがたきお言葉。」

「では、バラムにはカピルスを完全に手に入れてもらおうか。あそこの地下に地底魔城サハマジャードの入り口が封印されている、結界が張り直される前に。」






















お読みいただき、ありがとうございます。

至らぬところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。


キャラメモ ★ザック★


✿レンダーの弟分的存在

✿25歳のB型

✿一人称:俺

✿職業:パラディン ランクA

✿パーティーでは、その明るい性格でお祭りキャラ的存在。

✿兄弟が多く、出稼ぎに王都に来たら、女王蜘蛛討伐の募集に参加し、これをきっかけに

モルネードを守護する身としてレンダーと共に二壁のなくてはならない存在になっていく。

✿王都から東南にあるサーリンゼルカとの間にある小さな村に実家があり、8人兄弟の長男。

✿イメージ的にはブレイズヘアの、ちょいムキマッチョ。



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