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地上の危機(1)

 モモ達が“ドリーネマーケット”にいる間、ラウル達は“虹の雫”を手に入れるため、海底に潜る手はずを、円卓の会議室で整えていた。


「遅くなった。すまない。」


そこへ遅れてやって来たラインハルト。


「おー、おつかれ。今後の動きについては承認下りたか?」


ラウルが手にしていた書類を机上に置く。


「ああ、“虹の雫”海底探索に結界展開、土蜘蛛の王女(パナマリア)の協力来訪。どれも承認が下りた。海底探索については主力に勇者ヴァン殿を置くことでまとまった。」

「…いいのか?ヴァン殿の捜索メインは“虹の雫”じゃないだろう?」

「いや、ヴァン殿においても地上の平和は不可欠であり、それを守れなかった影に支配された時間を取り戻したいとの意向だ。ヴァン殿の目的は聖獣の助言により“海の勇者”の行方を追うことだが、捜索している間に“虹の雫”が落ちているスポットに案内してくれるらしい。迷惑をかけた恩返しとも口にしていたな。」

「なるほどね。結界展開につながるアイテムを素人が海底をいくら探してもキリがないからな。」

「同行するのは第四騎士団だ。ベグル隊長と十人程度。潜水艇を動かすのに必要だそうだ。」


ラインハルトの言葉に、同室で結界展開の準備をしていたジュウトが反応する。


「潜水艇で行くんですねー!図鑑でしか見たことなかったです!!」


 ここ、モルネード王国は周囲を海で囲われた王国であるが、比較的海は平和で、海中対策はあまり進んでいないのが現状であり、隣国などから襲撃にあった際にはマジェットボードと呼ばれる魔力で起動するボートか、竜騎士達が対抗する様になっていた。


「―――なに言ってんだ、ジュウト。おまえは結界展開班だぞ?」


ワクワクのジュウトの心がパリンと砕け散った。


「どうした、ジュウト。“大聖女”モモ様と共に、一番力を要する王都を担当するんだぞ。

なにか不満があるか?」


ラインハルトがニヤリと笑みをこぼした。

ジュウトの砕けた心が回復する。


「!! モモ様と、共に?ぼくが王都を?」

「おまえ以外にモモ様同等の魔力量がある者はいないからな。成功したあかつきの褒美は弾むぞ。」

「―――――!!」


ラインハルトの言葉に珍しくラウルも頷く。

ラウルにはいつも雑に扱われている為か、ジュウトは、ホワっと心が温かくなったのを感じた。




 コンコンと会議室の戸がノックされる。


「ルーク聖属性魔法師団長が到着されました。」


扉番の衛兵の声に、ラインハルトが答えた。


「通せ。」


ルーク師団長と聖属性魔法師団員が十五人、一礼して入室する。


「ルーク師団長、守備はどうだ?」

「はい、殿下の指示通りに人員配置を整えております。結界展開の柱となる人物に我が師団員の精鋭を三名ずつ配備し、周囲を竜騎士団員で固める。カーティス隊長にも了承済みです。」

「ご苦労。あとはカピルス村奪還と、海底探索の方にも人員を手配願いたい。」

「承知致しました。」



 そう、ラインハルトの指示にルーク師団長が答えた直後だった。


―――――ゴゴゴゴゴゴゴッ―――――――


「なんだ、この揺れはっ!?」

「きゃあ!!」

「くっ…立っていられないっ!!」


巨大地震がモルネード王国を襲った。縦揺れ、横揺れが続き、城内の窓ガラスやグラスが割れ、棚が倒れ、そして城下では建物が崩壊、土壌が隆起し、道が寸断する事態に。

更に、場外警備にあたっていた衛兵、騎士達が目にしたもの。


「な…なんだ、あの水しぶき!?」


高台にあるモルネード城から見えたものは、北東にそびえるモルネガングア山脈にかかる波しぶきと、山々の境目から襲ってくる巨大津波だった。



――――― モルネガングア山脈登山口 パロル村 ―――――


 「地震だ!!デカいぞっ!!」


ギルド内にいた冒険者達が揺れに耐えつつ、外へと避難する。すると、遠くから、バキバキ、ミシミシと次々に山の木々が薙ぎ倒され、重い地響きと共に押し寄せて来たのは土石流だった。


「みんなっ!!高いところに!!」

「高いところに逃げろ―――――っ!!」


冒険者達の叫びを聞きつけ、村人達も家の屋根へと駆け上がる。しかし。


「ムッ…無理だ!!間に合わないっ!!」


押し寄せる土石流の速さに、立ちすくみ、足が動かなくなる者もいた。

村一面、海水の混ざった土砂に埋まる。


「…潮のにおい…??まさか津波!?山の向こうで何が…っ」


ギルド管理人のカイドが激流に流されまいと屋根につかまりながら、自宅の方へ目を向けると、妻ヨルダも屋根に上がっており、その無事が確認出来た。だが、ホッとしたのも束の間。


「お…おい、まだまだ水嵩が上がっていくぞっ…このままじゃっ…!!」

「くそっ!!」


足元を見ながら、どこか避難出来る場所をと辺りを見廻すも、もうすでに各家の屋根、そしてナーガ像は、胸あたりまで濁流にのまれていた。


 と、その時。

村の中心に土石流、濁流から鉱石が集まり、みるみるうちに巨大な土台が出来上がった。


「―――――!!まさか…」


その光景を目の当たりにしたカイドがあることに気付くと、空から聞き覚えのある声が響く。


「早く上がれ!!」


土台に上がりながら、竜の羽の影を見上げると、そこには。


「―――――っ、ラウル!!」



――――――――――― モルネード城 ――――――――――

 


 すぐにこの情報は城内に伝わり響いた。


「津波!!北東、モルネガングア山脈に達する津波が襲ってきた!!」

「被害を早急に確認、報告しろ!」

「地震被害も同じくだ!手の空いた騎士達に救助要請!白魔法使いも救助に当たる様、これは王命である!!」


その王命は各ギルドに伝波鳥によって届けられた。


 混乱を極める城内。

現状、判っている被災状況だけでも、城下ラダンディナヴィアの大半が瓦礫の山と化していた。

さすがの宰相ラッツイも、これだけの被害の出る災害は経験がなかった。ところが…


「ラッツイ様。どうぞ冷静に。

私はこのような災害の経験もございます。まずは王命の通り、人命救助を。

騎士と聖属性魔法使い、白魔法使いのチームを作り、それぞれの救助地で被害報告を私とジャンがまとめます。」


モモと同郷、地震大国出身のヨイチが、慌てるラッツイに進言した。


「ヨイチ殿…わかった。人命救助に専念しよう。被害報告関係は貴殿に任せる。」




――――― モルネガングア山脈登山口 パロル村 ―――――



 「カイド、無事か!?」


竜騎士と共に竜にまたがり、空からラウルの使役妖精シヴの造り上げた土台へ、ギルドの屋根から避難するカイドに、ラウルが声を掛ける。


「ああ、助かった!!俺とキルド内にいた冒険者(こいつら)は無事だ。ヨルダも屋根に避難したのは見えたが、村長と他のやつらがわからねぇ、助けてやってくれ!」

「了解!」


 ラウルを筆頭に、パロル村へ救助に駆け付けた竜騎士は8人、と共に白魔法使いとしてジュウトも来ていた。


“エリアサーチ”


ジュウトがパロル村全域の人間を捜索する。

脳内にパロル村のマップが展開。人間やペット、家畜の位置を把握すると、地中に眠る植物に魔力を注ぎ成長魔法を詠唱した。


“グランディール!!”


すると、急成長を遂げる草木が土砂に流された者、倒壊した家屋内に閉じ込められていた者達の体に成長する弦を巻き付け、救いあげた。

この驚異的な範囲魔法を目の当たりにしたラウルや竜騎士達、そして避難していたカイド達が息をのんだ。


「―――っふう、さすがに村全域となると消費がキツイねー。けど、これで全員かな?」


そう軽く言ってのけるジュウトに、さすがのラウルも前髪を後ろにかきあげて舌を巻いた。更にジュウトが重傷者のケアに駆け出す時、振り向きざまに、


「? ラウルさん?何ボーっとしてるんですかぁ?指揮して下さいよー。」

「あ…ああ。竜騎士一人、ジュウトのフォローを頼む。残りは村人達を植物から回収してくれ。」

「はっ!!」


ラウルの指示の下、竜騎士達が散開する。


「おい…ラウルよぉ…おまえの連れ、ただ者じゃないな…」


カイドが村の周囲を改めて見廻し、ゴクリと息をのんだ。


「なんかな…つくづく敵じゃなくて良かったと思ってるよ。」

「ま、おまえについても同じだがな。すぐ王都を出てくれたのか?」

「ああ、モルネガングア山脈って言葉を耳にした瞬間、ジュウトと竜騎士連れて飛び出したよ。間に合って良かった。」

「―――恩に着る。」

「…しかし

―――――この地震の原因は何なんだ?それに、あのモルネガングア山脈向こうの空の色…」



 モルネガングア山脈の向こうは、海を隔ててピーニャコルダ王国がある。その北東の上空に淀んだ雲が集まり、次第に瘴気も混じり、色は今までに見ない黒紫色(こくしいろ)に。そして雷鳴が鳴り響いていた。


「あの方角は…ノイシュヴァンスタイン…?」

「―――! ってーと、ピーニャコルダ王国の首都じゃないか!?」


ラウルの呟きを聞き逃さなかったカイドが、口にはしないが、黙って北東に目を向けるラウルを横目で見る。それぞれの胸になにかがざわついていた。


 しばらくして、竜騎士に連れられ村長アドフォードが、ラウルとカイドに合流した。


「おお、無事で良かった、アドフォード!」

「ああ、カイドも。あの青年が植物魔法で、妻を庇って土砂に埋まった私を引き上げてくれた。多少土砂は飲んでしまったが、まぁなんとか無事だ。

パロル村は復興に時間がかかる、しばらくはマピチュ村に厄介になるしかないな。」


土台の上に、救助された村人達が次々に集結する。

みんな土砂まみれになりながらも、無事を喜び抱き合った。しかし、大地の妖精シヴが造った土台は、あくまで避難場所でしかない。ここから全員を移動させるには。そう、村長が頭を悩ませていると。


「この急成長した植物の蔓が使えるんじゃないかい?」


村の女達が、即席だがと、竜騎士に刈ってきてもらった植物の蔓を編み出し、大きな網を作った。


「まぁ、強度は不安だけれど、これならその竜の爪に引っ掛けて運んでもらえないかねぇ?」

「強度なら大丈夫じゃないかな。ぼくの魔力が通っているからね。」


魔力を大量消費し、グッタリとへたり込むジュウトの言葉に縄を作った女性陣の表情が明るくなる。


「よし、暗くなる前に移動を開始しよう!」


 パロル村の村人達が全員、脱出した頃。

ジュウトが急成長させた植物たちも抑えが利かなくなり、村一番高いナーガ像の腕だけが見えるも、土石流と海水の混じった濁水にのみ込まれてしまった。


竜に吊り上げられ、上空から無残な姿のパロル村を見下ろす村人達。


「―――――ああ…我々の村が…」

「命あればまた、復興出来る。今は耐えよう…」


 ラウルは一羽の伝波鳥を飛ばした。


「ヨイチへ報告してくれ。」


伝波鳥は陽の沈みかけた王都に向かって飛んでいった。




――――― ドリーネマーケット Nタウン ―――――




「ディ…ディノックスって、あの巨大ワニか。え?イーサン討伐したの??」


ザックが双子の妖精とイーサンの会話に入る。


「あ―――…正確にはオレ一人じゃなかったんだけど…」

「いいえ!いいえ、あの時、ディノックスを倒したのは、黒魔法使いペルビアナを見捨てず助けてくれたのは、あなたでした。見間違いありません!」


その剣幕に、押され気味のイーサンに気付いた、白と緑の泡がその身の周囲を浮遊する妖精が興奮気味のもう一人の妖精の肩に触れる。


「あなたの名前…イーサン様…?」


いきなり“様”付けされたイーサンが驚く。


「や…イーサンだけど、“様”を付けられることも、そんな人格者でもないし…きみ達は一体?」


妖精達に聞き返した時、その場にナナ、ポッチェ達が集まって来た。


「イーサン、ザック!地上界で何かあったみたい、すぐに戻るよ!」


ナナ達の姿を見た妖精達が脅える様に一歩下がる。その様子を見て何かを察したポッチェがイーサンに問う。


「何かあったのか?」

「なんか、その双子の妖精がイーサンと接点あったらしい。」


ザックが双子の妖精に目を向け、今までのやり取りを説明した。渦中のイーサンは妖精達の押しの強さに戸惑ってしまっていた。


「もう、モモ様やダンさん、トルチェにクアラは出口に向かったわ。私達も急がないと。」

「えっ、モモ様来ていたの?」

「ええ。でもすぐにリマキーナさんの知らせを受けて、地上界に戻られたわ。ザック達はあの揺れ感じなかったの?」

「いやー…気付かなかったわ。揺れてたの…」


 この緊張感の差に、やれやれと肩を落とすナナ達。

すると、一緒にいたアイクと単純契約中のアクアが双子の妖精達に語り掛けた。


「今は地上界に戻らないといけない。イーサンに用があるならアクアが仲立ちするわ。あなたたちは渦の双子、アクアの水を追ってきて。」


アクアは両掌を双子の掌に掲げ、妖力の紋を示した。


―――アクア、早く引き揚げて!地上がめちゃくちゃよ!!―――


ウェンティの声がアクアの脳裏に響く。


「みんな急いで地上へ。」

「わっ…アクアさんっ。」


アクアは、アイクの腕を引っ張ると、先頭をきって出口へ向かった。後に続くナナ、ポッチェ、ザック。そして。


「今は行かないと。話聞けなくて、ごめん。」


イーサンは、そう言うと双子の妖精に背を向け、アイク達の後を追った。




 遠目から様子を見ていたリマキーナが双子の前に姿を見せた。


「あの人間とワケありなのかい、マール、マエル?」


リマキーナの問いかけに大粒の涙をこぼす双子の妖精、マールは、イーサンに最初に声を掛けた白と青の泡が体の周囲を浮遊する、猫目で前髪を左に寄せているのが特徴の妖精。マエルは、白と緑の泡がその身の周囲を浮遊するたれ目で前髪を右に寄せているのが特徴の妖精だ。


「―――…もしや、あんた達の主人、いや、元主人を助けてくれたのが、彼だったのかい?」


リマキーナの言葉に、深くマールが頷いた。


「……彼の力になりたいかい?」

『―――――っ、なりたいっ!』


双子の声がハモり、手には力が入る。そして、深い決意を固めた、そんな目をしていた。


「―――この世界を出たら危険がいっぱいだ。以前の様に妖精狩人(ハンター)に捕まる可能性だってあるんだ。それでも行くのかい?」


双子は黙って頷き、“ドリーネマーケット”の住人である証を首から取り外し、リマキーナの手にそっと返した。


「―――わかったよ。彼らはこれから深海に行くそうだよ。力になっておやり。いつでも戻ってきていいんだからね。」


リマキーナの言葉に、止まったかと思っていた涙が再び溢れ出し、マールとマエルは彼女に飛びついた。





―――――――――― ☆ ――――――――――




 ナーガ神殿からモモ達が出てきた時には、もう陽が暮れていた。更に、ナーガ神殿は聖蛇ナーガの神力によって護られているが、神殿周辺の光景は木々が倒れ、神殿に続く石畳の道は地割れや隆起によって崩壊していた。また、裏手に広がるモルネガングア山脈の山肌が地滑りを起こしていた。


「―――っ、何があったの?」


トルチェとクアラ、ダンが辺りを見廻す。


「……この状況、地震が起きたんだわ。」

「地震…妖精王様に守られているこのモルネードで、ここまで大きい地震って今まで経験ないわ。」


トルチェの言葉にダンが鼻を利かせる。


「潮のニオイもする。この土砂、海水も混ざってるぞ?」

「けど、ここは山脈に囲まれて…」


クアラが まさか という様に驚いていたが。


「…津波が山脈を越えて来たんだわ。

このモルネード王国は周囲を海で囲われた王国。地震直後に津波が発生してもおかしくないわ。私とダンは先に王都に戻るわ。トルチェ達もナナ達と合流したら王都へ、被災者の救護にあたりましょう。」

「はい!」


モモ、ダン、カロルはナーガ像を使って、王都ラダンディナヴィアの東門へ転移した。



























お読みいただき、ありがとうございます。

至らぬところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。


キャラメモ ★ロイド★


✿モモからナーガの黒曜石ピアスを託された神剣クトネシリカの使い手(クトネシリカに剣精カンナが、

 ピアスに雷神トールが宿る)

✿28歳のA型

✿一人称:俺

✿二つ名:雷剣士ロイド

✿二枚目、とにかくクールだが、周囲への気配りが出来る面もあり。

✿現在、サキュバスのリリンに推されているが、好きなタイプは控えめだけど、ご飯を美味しくいっぱい食べる子。

✿夜な夜な、雷神トールの酒盛りに付き合わされることもあるが、結構ザル。



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