マリンショップ “カリプソー”
ダン一行は、聖蛇ナーガが管理する神殿の地下空間“ドリーネマーケット”のNタウン
に到着した。
Nタウン内は大理石の洞窟となっており、まるで深海を模した様な青と黒を基調とし、足元から天井に向かって白い泡が上がっていく空間になっていた。
「わぁ…きれい…」
「モモ様も来れたら良かったのにね。」
クアラのこぼした一言に、アクアがダンにこそっと耳打ちした。
「あのさ、モモなら“大聖女”の儀式が終わったから、これから来るって。」
少しよそよそしくも情報をくれるダンに対して、遠慮をしないクアラがダンに目を合わせた。
「そうなんだ!ありがとう、ダンさん。
というか、このメンバーで行動するのも初めてですね。もしかして、ダンさん緊張してますか?」
“緊張”という言葉にピンとは来なかったダンだが、クアラからスッと目を逸らし、精一杯の照れ隠しをした。
「……よくわかんねぇけど、とりあえずラウルに買い物のお守り頼まれたからな。ただ、そんだけ!」
―――お守り…とはダンさん相手なら、されるよりもしたい側な気持ちになるのは何故だろう…―――
そう、全員が思った。
タウン内は円形にショップが展開されていた。
熱帯魚を思わせる、彩豊かなショップが並び、品揃えも用途も様々。
トルチェ達や男子陣が目を輝かせている中、冷静にラウルから手渡されたメモを見るナナ。
すると、ナナの背後から色艶の濃い声が。
「おや、深海にでも行くのかい?お嬢ちゃん。」
ナナが振り返ると、そこには宙に浮いた全身が竜胆色、レースの服に身を包んだ妖精が現れた。
「あ、リマキーナ。」
「あら、ダンじゃないか。今日はラウルは一緒じゃないのかい?」
「なんか忙しいって。」
「そうかい、見ない子達だね。ダンが連れてきたのかい?」
「ああ。
みんな、海の妖精でこのNタウンの統括、リマキーナ。海の事なら、なんでも知ってるクリオネ様だ。」
ダンの紹介に銜えたパイブを外し、天井に向かって煙を吐くリマキーナ。
「ようこそ、Nタウンへ。ダンの知り合いなら安心だね。ゆっくりと見ておいで。」
「ありがとうございます、リマキーナさん。」
ナナはお礼を言うと、さっそく活餌のショップに入って行った。ナナの後にポッチェも続く。
「手伝うよ、ナナ。なんか他のメンバー、それどころじゃないみたいだし…」
「ありがと、ポッチェ。」
「この活餌、買えるだけって何に使うんだろうね。」
「ね。ダンさんのストレージありきの買い物よね…」
「たしかに。」
買い物リストにあるダイガエビ。これはその名の通り巨大な黄色いエビで、狂暴な為、ハサミや脚を特殊な糸で巻かれていた。二つ目にホノビヌス貝。これも大きな二枚貝で、時には子供も食べるという。見た目はオパールの様な輝きを持つきれいな貝だが、これも特殊な網で一つずつ包まれていた。三つ目のヒマヤメト。これを目にしたナナは口に手を当て、ドン引き。
「…うわぁ…」
「ヒマヤメトって聞いたことあったけど、まるで巨大ミミズだな。ナナが引くのはわかるかも。
俺がテイムする魔物も流石にこれは食べないだろうなぁ…」
だが、店先にはどの活餌も五匹程度しか置いていなかった。
「すみません。」
ポッチェが店員の妖精に声を掛けた。
一方で、イーサンとザックが入ったショップは、お買い物リストにある弾薬を取り扱っていた。
マリモ弾。これは深緑色や緑色、黄緑といった色で威力の異なるマリモ型の海中手榴弾。続く
グヴィレズタ弾。これは海ブドウの型を模した海中閃光弾だった。
「初めて見る道具ばっかり。敵もどんなのが相手なのか調べとく必要ありそうだよな。」
「ですね。…ってさっきナナが見ていたリストにあった道具どれだったっけな。」
そうイーサンが踵を返すと、ハタっと一人の妖精と目が合った。どうやら妖精の方が、イーサンを見ていた様だった。
「あ…どうも。」
目が合った瞬間、会釈をしたイーサン。相手の妖精はダンのアクアよりも纏う水量の多い、白と青の泡が彼女の周囲を浮遊していた。猫目が特徴の妖精である。
「はじめまして…あなたは槍を使う…?」
妖精の問いかけに、コクコク頷くイーサン。妖精と妖精に話しかけられるイーサンをもの珍し気に見るザック。
「あなたの槍を…見せて?」
「え…?あ、ああ。」
イーサンはストレージを解除すると、愛用する槍を取り出し、妖精に手渡した。
「重いかもしれないけど、大丈夫?」
「…はい…」
槍を受け取ると、妖精は呼吸を整え、装飾の施された刃渡り六十センチほどの穂に集中した。
イーサンの槍はカラーチェンジ効果を持つアレキサンドライトが装飾の各所に施されており、太陽光に当たれば緑、光魔法の下では赤く輝き、その効果もまた変わる。
ただのAランク冒険者が持てる代物ではなかった。
何かを読み取ったのか、妖精は静かに目を開け、イーサンを見るとポロリと一粒涙を見せた。
「えっ…ど、どうしたの??」
涙する妖精に戸惑うイーサンとザック。
すると店の奥からもう一人、同じ顔をした妖精が姿を見せた。
「…失礼ですが、あなたは、フィガル洞窟の深層でディノックスを討伐して下さった方ですか…?」
妖精がイーサンに、震えながら声を掛けてきた。
―――――――――― ☆ ――――――――――
「ここからはルキスが案内してくれるし、先にダン達も行ってるから、楽しんでおいで。」
ナーガ神殿。
ラウルが、聖蛇ナーガ像が手にする黒曜石水晶に手を翳し、魔力を注いだ。
すると、“ドリーネマーケット”の液晶マップが展開され、
「ダン達がいるのはNタウンだ。ルキス、あと頼むな。」
「任せて!」
「ラウル殿は一緒ではないのですか?」
カロルがモモの言いたかった一言を発した。
「ああ、これからの事、ロイド達に任せっきりには出来ないだろう。
モモの息抜き、頼んだぞ、カロル。」
「承知致しました。」
モモは少し残念そうに肩を落としはしたものの、気を遣ってくれているラウルに笑顔を見せた。
「行ってきます。」
ラウルはNタウンへのワープを最後まで見送っていた。
―――――この時は、ラウルは忙しいからと、行動を共にする事を諦めた私。
なんで、一緒に行こうってワガママでも言えなかったんだろう。こんな別れ方をするなら…―――
モモがこう思う日は、そう遠くなかった。
「わぁ…素敵な、モールみたい。」
「“モール”というのですか、このショップの多さ…」
「ああ、私のいた世界では、こういうお店の集合施設をショッピングモールと呼んでいたから。
カロルのいたピーニャコルダ王国はどんな街並みなの?」
「異文化、異民族が集まった、色んな店が路地に並ぶ、洗練されたモルネード王国とは違う雑多な街ですよ。」
「わー、見てみてモモ!海の装飾品!これなんかモモに似合いそうだよー!」
そう言ってはしゃぐルキスの姿を目にしたカロルは、その美しさに魅了されていた。
「…本当に妖精が見えるんですね、この空間は。光の妖精を使役されていると伺っていましたが、
こんなにも美しいとは…」
カロルの言葉にややドヤ顔のルキス。
「カロルの表現、シンプルで好きだわ。まぁ、この空間でしか見えないわけだけど、楽しみましょう。とりあえず、みんなに合流するわよ、モモ、カロル。
“カリプソー”だったわよね。こっちよ!」
ルキスがモモとカロルを案内する。
――――――――――― ☆ ――――――――――
「あとは、アカモックと、スタリアバリアを人数分か。」
ポッチェがメモに目を通す。
「お会計終わったわ、その二つはどこにあるのかしらね。」
ナナがポシェットに硬貨を収めながら、ポッチェの持つメモを一緒に見た。
その時、これを耳にした妖精が二人に声を掛けてきた。
「アカモックはこの先を右手に曲がった海縄専門店にございますよ。海中移動をカブトーでなさるのでしたら必要ですからね。」
「カブトー?」
「あ、ご存じありませんか?カブトーは人間の方々でも、扱える方が少ないと聞きますが、海中の移動手段で使われる大型の生物です。」
「へ…へー…じゃあ、この活餌って。」
「そうですね、カブトーの好物になります。」
「なるほど。」
「そして、あとスタリアバリアでしたね。あれは手作りになるので、おいくつ必要なのかは存じませんが…」
「必要なのは九つなんだが。」
「ああ、それくらいなら在庫があるかもですね。海縄専門店を左に折れた先に売ってますよ。」
そう、タツノオトシゴの体を持つ妖精はにこやかに案内をした。
「ありがとうございます。」
「じゃ、行って…!」
ナナが足を踏み出すと、目の前にモモとカロル。そして光輝く妖精が二人を先導している姿を目にした。
「ナナ、ポッチェ。あれ二人だけ?トルチェ達は?」
「モモ様、“大聖女”の儀、終わったんですね。お疲れ様です。」
「二人ともありがとう。」
「他の奴らは、あまりの珍しさに、お遣いそっちのけで、はぐれました。」
若干、語尾に怒気を隠しきれていないポッチェが、そこにいた。
「たしかに、素敵な場所だもんね。トルチェもクアラもはしゃぐ気わかるかも。」
「わからないでください、モモ様。
…それにしても、初めてモモ様の光の妖精“ルキス”様を見ました。とてもきれいですね。」
妖精の姿から人化したルキス。その姿は、
虹色のオーラを纏い、透き通る様な姿。パールホワイトの腰までの長いゆるふわパーマに、前髪は八割横に甘く寄せて、ダイヤをマーキスカットで五枚の花に見せたバレッタで留めていた。長いまつげに、角度で色の変わる虹色の瞳。袖なし、胸元の開いたマキシ丈ワンピを着ていた。
「ありがとう、素直にうれしいわ、ポッチェ、ナナ。二人とも、これからもモモの事、よろしくね。」
「はい!」
そんなルキスの名を遠くから呼ぶ声が響いた。
「ルキスー!」
「!! リマキーナさん!」
「久しぶりね、妖精界じゃ、あなたを使役出来る人間が現れたって話題持ちきりだよ。こちらが主人かい?」
リマキーナがモモに目を移した。この話題がルキスもうれしくて、声のトーンが上がる。
「そうなの!異世界からナーガ様が転生させた聖女、いいえ“大聖女”モモよ。ちなみにアタシ以外にも聖蟲やら悪魔やらを使役しているわ。」
「ほー。そんなに使役出来るなんて、テイマーの素質もあるのかねぇ。
はじめまして、モモ。あたしはこのNタウンの統括を任されているリマキーナ。」
「はじめまして、リマキーナさん。私の事は気軽にモモとお呼び下さい。隣に立つのは護衛のカロルです。」
紹介されると、カロルはスッと頭を下げた。
「それはそうと、ルキス。妖精王オベロン様が再生の時期に入ろうとしているよ。最近は外界がなにやら荒れていてね。妖精も力を使い果たし休みに来る事が多々あるんだよ。
何が起こっているのか知っているかい?」
リマキーナの問いに、ルキスは地上界で起こっている事を、事細かく説明した。
「―――――!魔人に、瘴気の陣だって??
そんなことが起きていたのかい。この聖域はナーガ様の御力によって護られているから外界のことは、訪れる妖精から耳にしていたが、確かに敵の特徴は死人の様な顔色で魔力が使えない代わりに、武闘を得意とすると言っていたね…」
「そうなの。アタシは瘴気を浄化出来るけど、他の子達はその術を持っていないから、ダメージが大きく出てしまうんだわ。…アタシの力を使えるアイテムがあれば、みんなの負担を軽減出来るのに…」
ルキスの呟きにリマキーナがすぐさま反応した。
「!! そうだ、Eタウンに行っておいで。宝石の妖精ラジェムなら、きっといいアイテムを教えてくれるだろう。」
リマキーナにアドバイスをもらったルキスは、くるっと踵を返した。
「モモ、アタシEタウンに行ってくるわ!
先に戻っていても大丈夫だから、アタシもみんなを助けたいの。」
「ええ、ルキスの力に適したアイテムが見つかるといいわね。いってらっしゃい。」
ルキスはポンっと妖精化し、ヒュンと移動空間まで飛んで行った。
モモ達はタツノオトシゴの妖精に教えてもらったショップへと移動した。
アカモック、これは活餌を入れておく網状の袋。活餌自体が巨大な為、アカモックという海藻で編み上げてある。
そして、“スタリアバリア”。
「この手触り、癖になりそう。ポニョってしてる―――。」
そう口にするモモとナナ。透明なクラゲを模した、網目文の潜水ポンチョでレベルを問わず装備可能だが、着用中は戦闘出来ないペナルティがある。使わない時は、かわいらしい小さなクラゲの姿で収納可能で、頭の上に乗せると、頭から胸の辺りまでを隙間なく吸着し包み込むアイテムだ。
他にも珍しいアイテムに夢中になっていると、ズズっと足元が縦に揺れた。
不意のことであり、体勢を崩すモモとナナをカロルとポッチェが支える。
「な、なんでしょう、この揺れ…。ここはナーガ様の聖域、こんな事今まで一度もなかったのに…」
店員の妖精が不安そうに口にする。
そこへ、リマキーナが飛んでやってきた。
「モモ、ここは地上界とは時間差があるんだ。地上界ではもう半日は経っているんだよ。
きっと地上界で何かあったんだ。アイテムを揃えたらすぐに戻った方がいい。」
「――――――――!!」
「ルキスはEタウンに行ったんだったね。あんた達が先に戻った事は伝えておくから。」
「はい!」
すると、遠くから息を切らせて走る足音が響いてきた。
「ナナ!!って、モモ様!来ていたんですか?」
トルチェとクアラがナナ達と合流する。
「今の揺れって…」
「ええ、地上界で何か起きているみたいで。」
そう、ナナがトルチェ、クアラに答えると、モモが即座に指示を出した。
「ナナ、ポッチェ、私は先に地上界に戻るわ。他の…」
「私とクアラも、モモ様と共に戻ります。」
「ありがとう、トルチェ。」
「オレも行く。アクアはアイクとイーサン達と共に来てくれ。」
ダンの指示にアクアとアイクは首をコクコクと縦に頷いた。
「私達も後を追います。モモ様お気をつけて!」
「ありがとう、じゃあ、あとで!」
ナナ達を残し、モモ、ダン、カロル、トルチェ、クアラは、Nタウンを後にした。
お読みいただき、ありがとうございます。
至らぬところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
キャラメモ ★ジュウト★(ジュウト・クローブナー)
✿モルネード王国の医療関連の責任者、クローブナー侯爵家の双子の次男
✿23歳のAB型
✿一人称:ぼく
✿二つ名:なし
✿高所恐怖症
✿好きなもの:タピオカミルク
✿ジュウトを書く時のBGMは何故かしっとり系の楽曲が多いです。




