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創世の大地

 ここは地底魔界、蜘蛛の王ルブロンの巣。

魔人ラーキットの襲撃により、深手を負ったルブロンは訪ねてきたペルとリリンに命を救われ、人化(ひとか)出来るまでの力を取り戻した。


 王の間では、ペル、リリン、王妃、パナマリア、ジクートと蜘蛛兵の隊長を残し人払いされた。


「まずは、我々の危機を救ってくれたこと、二人には心より感謝する。」


ルブロンがペルとリリンに感謝の言葉を口にすると、王妃達がペルとリリンに頭を下げた。


「余が飲んだあれは一体…?」


ルブロンの問いに、少し間を置いてからペルは答えた。


「聖蛇ナーガの化身、ボクの主人の血です。」

「!!

聖女の血…ナーガの化身とは…なるほど。納得のいく効力だな。

して、余のもとには何用で来たのだ?」


ルブロンの質問に、ペルは一歩前に進み出て、片膝をついて頭を下げた。


「ボクはタランチュラ種、ブラッチペルマのペルと申します。ここに来たのは…」


ペルは蜘蛛の王ルブロンを訪ねた理由と、地上界で起こっていることを順序立てて話し始めた。

どうしても思い出せない自分の故郷のこと、そして蜘蛛が出来る最強最大の秘技があるかどうか。

突如現れた魔人と呼ばれる、死人(しびと)の様な顔色をした武闘派の者達の存在。瘴気の陣に魔物の魔眼化と纏う青黒い瘴気を操る闇の存在。地上界では、聖蛇ナーガが異世界から聖女を転生させ、その者に、この世界の浄化を託したことを。



「―――なるほどな…。封印が解かれたのか…」


ペルの話を聞くと、ルブロンが顎に手を当て、深く息を吐いた。


「封印?」

「ああ。ペル、そなたは生まれてどのくらいになる?」

「ボクは…250年くらいですかね…?」

「ふ、では知らんのも無理はない。その昔、ここ地底魔界の支配者であった者を聖蛇ナーガ達が封印した話を耳にしたことはあるか?」




―――――――――― ☆ ―――――――――――


 場面は地上界、モルネード王国に戻る。


モルネード城、円卓の会議室には王子ラインハルト直属パーティーメンバーが集まっていた。

議題は二つ。

一つは、王国北西部にあるカピルス村を占拠する魔人討伐、その原因を探ること。

二つは、モルネード王国の結界展開。


「この二つについてパーティーを編成したい。どちらも騎士団、竜騎士団と聖属性魔法師団が援護につく予定だ。カピルス村を占拠しているのが魔人であるなら、ラウル達パラディンを中心に編成がいいか?」


ラインハルトが席で手を組み、顎に当て、眉間に皺を寄せる。


「…結界展開は聖女五人の護衛任務だよな。」


ラウルが横でうたた寝をするダンの頭を撫でながら、ラインハルトの考えに意見を挙げる。


「ああ、そうなるな。」

「であれば、対魔物がメインになるな。騎士団の護衛もあるならカピルスに重きを置いてもいいんじゃないか?カロルも加わったし、今のパーティーバランスなら十分、分けてもいいと思うぞ。」

「…だな。」


 ここで、現在のパーティーメンバーを整理する。

剣士に、ロイド、ダン、ナナ。

槍使いに、イーサン。

弓使いに、カロル、モモ。

テイマーにポッチェ。

パラディンに、ラウル、レンダー、ザック。

黒魔法使いに、トルチェ、クアラ。

白魔法使いに、ジュウト、シュア、アイク。


「ジュウトは白、黒どっちもいけるよな?」


ラウルが対面に座るジュウトに問いかける。


「うん、応援してくれたらー…」

「がんばれ。」


温かい言葉を期待したジュウトに、ズバっと一言で片づけたラウル。全員が思った。


(かわいそう…)


ただ、それにもめげないジュウトとラウルのたわいない会話に会議室に張り詰めていた緊迫した空気は溶けていった。


 そこへ遅れてモモとカロルが会議室に入って来た。


「すみません、遅くなりました。」


城内を駆けてきたのか、モモの息があがる。


「いや、大丈夫だよ。例の本は見つかったかな?以前ヨイチに持たせたんだが…」


ラインハルトが言う本とは、この世界の成り立ちが描かれた伝承の絵本のことだった。


「“創世の大地”ですよね。お借りしていたのに、まだ読めていなかったのですが…」

「いいよ、折角の機会だから皆にも聞かせよと思ってモモ殿に持ってきてもらった。結界展開のヒントが見つかるかもしれない。」


絵本を持っていたカロルが、ラインハルトに渡した。

その装丁はステンドグラスの様に美しい色彩と影絵のコントラスト。部屋に飾っておけば、まるで絵画の様だった。



 【創世の大地】


 この世界は主として人間が地上を支配するよりも遥か昔、

天界を神が、地上を妖精と人間が、地下世界を魔族が治めていました。


 神と妖精、人間は、お互いを尊重し合い、天界と地上を分け隔てることなく、仲良く平和に暮らしていました。そんな中、魔族が治めていた地下世界では、純血の魔族と人間との混血魔族との間で絶えず争いが起き、ついに地下世界は分裂してしまいます。

混血魔族と呼ばれる者達が地下世界の上層、地底魔界を創造し、純血魔族は下層である真の魔界を治めたのでした。


 しかし、今度は地上を支配しようと企む一部の混血魔族によって人間と争いが始まりました。

争いは激化する一方。ついには妖精をも巻き込む事態となってしまうのです。


 地上に平和を求める人間の若者、初代勇者と呼ばれたアベル。混血魔族であり、地底魔界の支配者サハマジャ。そして巻き込まれた妖精達を救わんと妖精王オベロンによる三つ巴の戦いが始まったのです。


 弱く力のないものを虐げるサハマジャを良しとしない勇者アベルは妖精王オベロンと共闘し、地底魔王サハマジャを倒そうとします。その共闘に怒りを覚えたサハマジャは闇の魔術を用い、人間の負の心を増大させ、のちに魔人と呼ばれる混血魔族とは異なる種族を兵士として生み出したのです。


 魔人は、本来人間であった時に使えた魔力を失うのと引き換えに、三倍の力で戦える武闘派兵士。

地底魔界にいた人間や、勇者アベルと共にいた仲間達も次々にその魔術により魔人にされてしまいます。こうなると、勇者アベルと少数の仲間、そして妖精王オベロンだけでは太刀打ち出来ません。


 追い詰められた、勇者アベルと妖精王オベロン。


 その様子を天界から見ていた聖蛇ナーガが大地の神、ガイアに願い出て人間と妖精達に戦う力を与えました。それは、魔人の邪心を浄化する力でした。

人間には今まで属性になかった聖なる力を。妖精には光を。

新たなる力を得た勇者アベルと妖精王オベロンは、浄化の力で見事、地底魔王サハマジャを倒すことに成功しました。


 その後、聖蛇ナーガと大地の神ガイア、ナーガの友で海の女神テティス、妖精王オベロンは二度とこのような争いが起きないよう、地底魔王サハマジャの用いた闇の魔術と地底魔城サハマジャードを封印し、地上界に平和が取り戻されました。


 ガイアは、天界から地上界を見守る存在として、陽が昇り沈むまでの(とき)を聖蛇ナーガに、闇が下りる刻をガイアの友、双角蛇王オティウスに願い出ました。

また、妖精王オベロンは人間と妖精の暮らしが脅かされないよう、聖地サーリンゼルカと共にある大陸全土に結界を展開させ…


 「こうして、人間と妖精が住まう大地は創られたのでした。」



 読み終わったところで、ラインハルトが静かに絵本を閉じた。


「聖地サーリンゼルカと共にある大地、それがこのモルネード王国ってことなのね。」


モモが呟く。


「なんか、絵本にしては内容重いっすね…」


ザックがポツリとこぼし、それにポッチェ達も頷いた。


「どこまでが本当なのか曖昧だと思っていたが、読み返すと物語の中に出てきたワードには聞き覚えのあるものばかり。更には先だって討伐した“地底魔王軍”に繋がる地底魔王サハマジャ…」


ラインハルトにラウルが続く。


「妖精も巻き込まれたって、この話シヴは知っていたのか?」


ラウルの言葉に反応したのは、モモの使役妖精ルキスとダンの使役妖精ウェンティだった。

二人は人化(ひとか)した。


「このお話は本当のことよ。アタシ達がまだ妖精として生を受けて間もない頃の、人間時間で言えば、今からそうね、1300年前くらいかしら。」


ルキスの言葉に、ルキスの声が聞こえるモモ、妖精を使役する者とテイマーのポッチェが驚いた。


「1300年前の話!?」


その声に妖精が見えない者達もギョッとする。


「ええ、その絵本には特殊な保存魔法が掛けられているみたいね。

そして、妖精の羽には身に着けるだけで体力が徐々に回復する作用があって、混血魔族による妖精狩りが始まったの…仲間達が次々に狩られていく、またあんな事が起きたらワタシ達…」


ウェンティの不安な声に気付いた、暇そうに物語を聞いていたダンの瞳に力が宿る。


「お前たちを危険な目になんて遭わせるわけないだろ!オレが必ず守ってやる!」


妖精の姿、声が聞こえない者達にラウルがルキスとウェンティの声を代弁した。話の内容を把握したラインハルトをはじめとする全員が、この絵本がモルネード王国の歴史の一部であると確信した。


「“天界”は聖蛇ナーガ様が、“地上界”ここがオレ達と妖精の世界で、魔界が二層に分かれているとは知らなかったなー。」


レンダーがそう言いながら深く頷く。


「そういえば、たしかペルがいるところって、魔界じゃなかった?」


トルチェがモモに目を合わせる。


「そう…ね。地底界って言ってたから、この物語でいう地底魔界の事かも。

オティウス様が地底魔界に通じる道を教えてくれて行ってしまってから半年経つけど、元気にしているかしら…」


モモが不安そうにこぼす。

ペルとはモモがチェルノボーグに攫われた時に、一時的に助けてもらって以来、連絡が途絶えてしまっていた。


「大丈夫よ、モモ。ペルだって強いもの。そのうちひょっこり顔を出すんじゃない?」

「うんうん!」


モモの両隣に座るクアラとトルチェが不安そうに肩を落とすモモを勇気付ける。


「ってことは、ペルさんがいる場所に、魔人達のアジトがあるかもってことですか?」


ポッチェの発言に、一同がハッとした。


 と、その時。

円卓の中央に空間を裂いて、ズズっと黒い鏡が現れた。


















お読みいただき、ありがとうございます。

至らぬところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。


キャラメモ ★テネブラールム★闇の妖精(略してテネ)


✿世話好き

✿闇の中の異空間を主に自在に司る能力をもつ。

✿一人称:私

✿元々、ジュウトの双子の兄、スィフルに仕え、その後ジュウトの使役妖精となった。

✿光の妖精ルキスとは長い付き合いで大好きなのに、中々距離が縮まらない。わりとM気質。

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