蜘蛛従魔ペルとサキュバス・リリンの冒険 ①
ここは地底魔界。の上空。
樹海を彷徨っていたところを、同じご主人と契約する悪魔サキュバスのリリンに助けられ、蜘蛛の従魔ペルは、出生を明らかにし奥義を会得する為、蜘蛛の王〝ルブロン〟に会いに彼の巣を上空から見下ろしていた。巣と言っても、人間から見れば地層が何層にもなる洞窟に近い造形だと思う。
「すっごい穴ぼこだらけね、……なんか様子がおかしくない?」
リリンがその造形に息を呑みつつも、違和感を覚える。巣の入り口と思わしき大きく口を開けた洞窟前に降り立つ。
「蜘蛛の王〝ルブロン〟は土蜘蛛なのか。その部下達が土と糸で増築していったんだろうね…!?」
と、穴ぼこだらけの城壁に掛けてあった松明を手にし奥を照らすと、目に入ってきた光景は惨殺された蜘蛛達の姿だった。
「―――――っ」
言葉を失うリリンに対し、ペルは蜘蛛化を解き冷静に周りを見渡すと、まだ息のある蜘蛛兵が目に入った。
「おい!どうしたんだ!?」
どうみても助からないうつ伏せに倒れた蜘蛛兵だったが、息も絶え絶えにペルの声に反応した。
「…と…つぜん…魔人……王を…たの…む…」
そう首からさげたペンダントを握りしめながら言い残すと息を引き取った。蜘蛛兵や蜘蛛達の喰いちぎられた傷を見る限り相手は
「ポワゾンリザードだ」
「毒トカゲね。虫の中でも蜘蛛が好物だっていう。」
ペルは息絶えた蜘蛛兵が首から下げていた蜘蛛の巣型のペンダントを引きちぎった。
「それは?」
「たぶん何かの鍵だろうね。持っておく。ボクは蜘蛛の王に用があるから行くけど、リリンは…」
「何言ってんの、アタシも付き合うわよ!仲間でしょ?」
無邪気に八重歯を見せて笑うリリンは、ペルの背中をバシッと強く叩いて緊張を解いた。
「ありがとう、リリン!」
ーーーーーーーーーー ☆ ――――――――――
カラッ…土壁が崩れる。そこには土壁にめり込む魔人達の姿があった。
「はっ、ニーヴスライムに半身を溶かされてもまだそんな力が残っていたのか。さすがは年老いても王だなぁ、“ルブロン”。」
巣の奥、王の間では魔人に取り押さえられた土蜘蛛の王妃、巨大な体を持つ土蜘蛛“ルブロン”が部屋の中心に仕掛けられた瘴気の陣から召喚されたルブロンの体長を上回るニーヴスライムと魔人達から襲撃を受けていた。
「お前たちの目的は、ハァ…ハッ…この地底魔界で何を…」
ルブロンの前に現れた黒いフードを被った男は、瘴気の陣の真上に立った。
「今から死にゆく者に話しても仕方ないが、冥土の土産教えてやろう。この地底魔界に王は二人もいらないんだよ。王は我々が唯一とする方一人だ。聞いたことあるだろう?地底魔王サハマジャ。」
「!!!サハマジャ…っ、あれは封印したはずっ…」
ルブロンがそう口にすると、黒いフードの男は瘴気の陣からポワゾンリザードを5匹召喚した。
体長3メートルほどの毒トカゲ、ポワゾンリザード。ヒタヒタと尾をを振りながら、その一匹が魔人に取り押さえられる王妃に狙いを定めた。
「やめろっ!王妃には手を出すな!!」
「ふっ、ポワゾンリザードは蜘蛛が好物なんだ。好物目の前にしておあずけは出来ないなぁ。
お前たち、喰われたくなかったら刺激するなよ?」
黒いフードの男は魔人達に笑みを浮かべながら忠告した。コクコクと頷く魔人達。
「まぁ、お前がおれ達のペットになるなら王妃の命と王女の命は考えてやってもいいがな?」
「なん…だと!?」
「いけません!ルブロン!わたくしはどうなってもっ…きゃっ」
王妃の勝手な発言に彼女を取り押さえていた魔人が頬を引っぱたいた。
「王妃!!」
ところが、その瞬間、王妃を叩いた魔人はポワゾンリザードの餌食となった。
「ギャアアアア!!」
「あーあー、刺激するなって言ったのに…自分の餌を傷つけられて怒ったんだな、ポワゾンリザードは気性が荒い、さぁどうする、ルブロン?このままここで王妃が喰われるのを傍観するか、我々のペットになるか。逃がした王女が無残な姿を晒すのも時間の問題だろうしな。」
「き…きさま…」
ーーーーーーーーーー ☆ ――――――――――
入り組んだ洞窟の中を、息を切らしながら必死に魔人達から逃げる、臙脂色の髪の少女。
地の利を生かし息をひそめ窪みに身を隠していた。
「くそっ、どこに行った?」
「あちこち入り組んでて見失ったぞ!」
「こうなったらこの辺りぶっ壊すか?」
「バカ、そんで崩れたらどうすん……」
ドガアァァァン!!
突如、洞窟内が爆破された。辺りを爆風が襲い、視界を奪う。その衝撃で崩れそうな箇所に蜘蛛の巣が張られる。
その場にいた魔人達がゲホゲホと咳き込む。
「なっ…なんだ、こんなバカすんのは…!?」
トスっと、そのセリフを口にした魔人の額にナイフが刺さる。
「ちょ、リリン。(やみくもに壊されたら修復が追い付かない)……あー、魔人だからいいか。」
「よくねーよ!誰だお前たちは!!」
迷路のような洞窟がストレスになったリリンが暴走し、一体を爆破した先にいたのは、死人の様な顔色の魔人達だった。その魔人達をリリンが見渡すと深くため息をついた。
「駄目ね。ロイドを超えるのはいないわ。邪魔だから殺してもいい、ペル?」
「まぁ、魔人だからね。いいけど聞くこと聞いてからね。」
「っち、そう簡単にやられるかってんだ!二手に分かれるぞ、こいつらを片付け…っ」
ペルは魔人の一人が話し終わるのを前に、全員を糸で確保した。
「ボク達を片付けるのと?あと何しようとしてたの?」
「ちょっ…まだ話してたよねぇ…?」
「ごめんなさいね、アタシ達も急いでいて、更にアタシは待つのがキライなの。で?何しようとしてたの?」
するとその時、別の魔人達が騒ぎ立てる声が響いた。
「こっちだ!!」
「いたぞ、捕まえろ!!」
リリンの目が瞳が怪しく光り、ドクンっと魔人の一人の心を捕らえた。
「…蜘蛛の、ルブロンの娘を…捕らえよと…」
「おまっ、なに喋って…てか、なんで目がハートに??」
リリンの魔術に驚きを隠せないペルが手で口を覆っていた。
「何よその表情、ペル??」
「……リリンて、本当にサキュバスだったんだね…」
ペルの言葉に大打撃を受けたリリンはその場に崩れ落ちた。
「くそっ、この糸伸びてばっかで切れねー!!」
ジュワッ
「なんだ、この糸!?まさか…」
ペル達は捕らえた魔人達を放置し、ルブロンの娘という得た情報をもとに騒がしい洞窟の奥へ進んだ。
ドサッ…
「鬼ごっこはここまでだぁ、ルブロンの娘。」
「いやっ!!」
逃げる途中で転んでしまったルブロンの娘に伸びる魔人の手。その場にいた魔人全員をペルは硬化した蜘蛛の糸でぶっ飛ばした。そのまま魔人達を蜘蛛の糸で縛り上げる。
「くっそ!なんだこんな糸…っ」
ジュワァァ
魔人達の体に食い込むペルの糸が、魔人達の体を徐々に浄化していく。
「―――?」
ペルは自分の手を見つめた。
(聖属性…?まさかね…)
突然目の前に現れた同族と思わしき青年と黒い翼を持つ悪魔の助っ人に驚き、声が出ないルブロンの娘。恐怖のあまり立ち上がれない彼女の手を優しくとるペル。
「大丈夫?」
ルブロンの娘は、自分の手をとるレグホーンのツイストパーマにグレーの瞳、整った顔の蜘蛛の青年に見入ってしまった。その様子を見ておやおや?っとニヤるリリンに気づき、ハッと我に返る。
「あ、危ないところをありがとうございます、わたくしは蜘蛛の王“ルブロン”の王女パナマリアと申します。あなた方は、どうして我が領地へ?」
「ボクはタランチュラ、ブラッチペルマ種のペル。キミのお父さん、ルブロン様に聞きたい事があって来たんだ。連れはサキュバスのリリン。そうしたら、魔人達の姿を見たから…」
ペルが魔人と口にした途端、パナマリアが大粒の涙を流した。
「ペル様、リリン様、お願いがあります!どうかお父様をお助けください!!」
「落ち着いて、パナマリア。何があったかお話してくれないかしら?」
「は、はい。数日前に我が領地は黒いフードを被った男と魔人と呼ばれる者達に襲撃され、紫黒い陣が突如現れ、そこからニーヴスライムとポワゾンリザードが召喚され、ほとんどの兵がポワゾンリザードの餌食になり、お父様はニーヴスライムに半身を…お母様はわたくしを逃がしてくれたけれど、今どうなっているか……」
その時だった。ズリッズリッと何かを引き摺りながら近づく音に気付いたペルが目にしたのは、蜘蛛の脚を銜えたポワゾンリザードだった。ペルはパナマリアを抱え後ろに飛んだ。しかもポワゾンリザードは一匹ではなかった。
「……!囲まれてるわ!」
四方から囲まれたペル達。ポワゾンリザードは猛毒を持っていて一撃でも喰らえば死に至る。だが、ペルは冷静にM範囲に魔力を円網状に仕掛けた。
“ラニャテーラ・ピラストロ!”
円網状に仕掛けた魔力から、硬化した蜘蛛の糸で作られた柱が四方のポワゾンリザードを串刺しにした。
「ギャギャギャギャーーー!!」
だが、まだ息があるのを見逃さなかったリリンが火炎エネルギー弾でとどめを刺した。
二人の連携攻撃を目の当たりにしたパナマリアは驚きのあまり何も言えずにいた。
「パナマリア、ルブロン様のもとへ案内を頼めるか?」
「は、はい!」
ーーーーーーーーーーーー ☆ ――――――――――
黒いフードを被った男がルブロンを足蹴に、宝石の連なる鎖を見せた。
「ちなみに、おれはコレクターなんだ。何のかわかるか?」
「…まさか、核か?」
「正解!これは小物ばかりだが聖獣、聖蟲の核だ。キレイだろう?…何が言いたいかわかるか?」
「……!」
「調べはついてる、土蜘蛛王女パナマリア。隔世遺伝した聖蟲。王女の糸には聖属性の魔力がこもり、地上界で高値で取引されているってな。蜘蛛の王は我らの僕に、他はどうでもいいって上からの指示だ。お前の一言で家族は救われる。さっさと決めろ。」
黒いフードを被った男がルブロンの脚に剣を突き刺した。
「グアァァ!!」
「あなたっ!」
「ギャアギャアうるさい、おあずけして悪かったな。もう喰っていいぞポワゾンリザード。」
黒いフードを被った男が指をパチンと鳴らすと、おあずけをくらっていたポワゾンリザードが大きな口を開け王妃に喰らいつこうとした瞬間。
ドン!!
白い硬化した糸のナイフが、ポワゾンリザードの胴を貫通し、続いて火炎エネルギー弾がそれを消滅させた。
「グギャ!」
「きゃあ!」
王妃がその衝撃に体勢を崩し、その場に倒れた。
「―――!?」
ハッと黒いフードを被った男が天井に目をやるとそこには、狙っていた獲物の姿が2体あった。
天井から糸を伝い、王の前に降り立ったペルとリリン。パナマリアは王妃アンティルの傍に駆け寄った。
「お母様、ご無事ですか!?」
「ああ、パナマリア…戻ってきては…あの方たちは?」
「あちらは、わたくしを助けてくださったペル様とリリン様ですわ。」
「まぁ…」
黒いフードを被った男は、ルブロンの脚に突き刺した剣を乱暴に抜いた。
「グゥゥ…」
ドズウゥゥン
部屋の半分を埋める巨体が傷を負い、躰を支えられず前のめりに体勢を崩した。
「フン、王ともあろう者が無残な姿だな、ルブロン。お前がグズグズしているから客が来てしまったではないか。」
ルブロンの後ろ半身を喰らいつくように浸食するニーヴスライム。もはやその左脚は使い物にならないほど損傷していた。
「そこから降りろ、キミは魔人だな?」
黒いフードを被った男はそのフードを取り、顔を露わにした。
左目に大きな傷を持つ、死人の様な顔色の男。その背中にはグレートソード、そして腰回りにはナイフが装備してあった。
「ああ。腐樹の丘からまだ時間が掛かると思っていたが、案外早かったな、聖蛇のペット。」
ルブロンを足蹴にしたままペルを見下ろす魔人は、グレートソードに手を掛けると、そのまま斬りかかって来た。瞬時にリリンを抱え、後ろに飛びのき直撃を避けたペル。
「おれは、地底魔王軍四天王バラム様のサーヴァント、ラーキット。」
「地底魔王軍…?とりあえず、その辺の魔人達とは格が違うんだね。ボクは…」
「知ってるよ、タランチュラ、ブラッチペルマ種の聖蟲ペル。お前の事は以前から狙っていたからね。ここで殺して核をもらう。一緒にいる悪魔の女。邪魔をするなら…」
「リリン、下がって。」
「でもペル一人じゃ…」
心配そうにリリンがペルに声を掛けると、いつになく真剣な表情のペルがパナマリア達を指差した。
「む、無茶しないでよ!」
リリンはそう言うと、その場を離れパナマリア達のもとに駆け寄った。
「パナマリア、お母様は?」
「リリン様、大したケガもなく大丈夫です、けどペル様は…」
「ペルは結構温厚なコなんだけど、今回は怒ってるわね。あの魔人はペルに任せて、ルブロン様を浸食するニーヴスライムをなんとかしましょう。」
リリンの言葉にパナマリアと王妃は頷いた。
魔人ラーキットがグレートソードを構えるのに対し、ペルは糸を硬化した剣を造り上げた。張り詰める二人の空気が王の間に紫電を走らせた。
お読みいただき、ありがとうございます。
至らぬところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
キャラメモ ★カンナ★雷剣クトネシリカに宿る妖精
✿おてんば、気分屋
✿ご機嫌がいいと持ち主ロイドを雷を使って助ける
✿一人称:あたし
✿丁寧に扱ってくれるロイドには感謝してる。風通しのいい影干しが大好き
✿ロイドがモモから受け取った、聖蛇ナーガから賜った黒曜石のピアスにパパである雷神トールが宿る。




