新たな仲間
舞踏会が終わって数日、私の周りに変化があった。
〝大聖女〟候補ということもあり、城内での移動については常に騎士と聖属性魔法師団員が護衛としてついてくれて、直接貴族が接触出来ない様に取り計らってくれていた。
それでも、遠巻きに挨拶を交わしてくれる貴族の方や、顔見知りの騎士、衛兵、文官がいて、明らかに顔が知れ渡った形だ。
それは、殿下直属の戦士達も同様で、特に王弟を父に持つ剣士ナナとクローブナー侯爵家の白魔法使いジュウトは、関係を深めようと城内を歩けば貴族達から声を掛けられていた。
そんな中、今日は私が〝大聖女〟候補として顔を出した見返りの望みが叶う日で、玉座の間に向かっている。
王妃暗殺未遂事件は、王妃が無事だった為、大事にはならずに事実を把握している騎士や文官も少ない。その為、私の弓の講師は素性を明かされずにその役職に就く事となったという。
「失礼します、陛下。聖女モモ様です。」
玉座の間の騎士が扉をノックすると、通せという宰相ラッツィの声と共に扉が開いた。玉座にはもちろん陛下の姿があり、ラインハルト殿下に騎士団長シズウェルと第二騎士隊長アドルフ、聖属性魔法師団長ルーク。そして数人の上位騎士と文官が揃っていた。
「おはようございます、陛下。」
「おはよう、モモ殿。調子はいかがかな?」
「はい、なんだか舞踏会以降、城内を歩いていると視線が痛いというか…」
「ははは、近いうちに候補から正式に〝大聖女〟に就いていただくのだ、慣れていただかなければな。」
室内が笑い声で包まれた。
「陛下、ではこちらを。」
宰相ラッツィが、モモへの書状を陛下に手渡した。
「彼をこれへ。」
陛下の一言と共に、近衛騎士団の制服を纏ったカロルが姿を現した。以前面会した時とはまた違う、品のある騎士の出で立ちに、彼の姿を目にした周囲の者は私を含め戸惑いを隠せなかった。特に犯人として確保した第二騎士隊長アドルフは、ビフォーアフターに口が開いたままになっていた。
思わず息を呑んでしまうくらい整った綺麗な顔に、私より頭一つ分高い背丈。細身ながら引き締まった身体つき。金青色の髪に壺菫の様な渋く濃い紅紫色の瞳。
(あれ…カロルってこんな感じだったっけ?もっと親しみやすかった気が…)
ラウルやペル、他にもイケメン揃いのこの世界にやっと慣れてきた所で、このちょい渋系はまた新しく、
カロルと目が合った所で、私は俯いてしまった。
「モモ殿が戸惑うのも無理はありません。なんせ〝大聖女〟様の傍に就かせるのですから、カロルにはみっちり、マナー、立ち居振る舞い、この国で暮らすための基礎を叩きこませてもらいました。本来であれば大聖女付きの制服を用意したいのですが、まだデザインが決まらず今は近衛師団の物を身に着けさせております。ご容赦を。」
そう宰相ラッツィが得意げに説明すると、んんっと陛下が咳ばらいをし、カロルは陛下の御前に立つ私の横に移動。装備していた弓矢とナイフを前に置き、片膝をついて陛下に頭を下げた。
「カロル・フェズナー。そなたの罪は今この時を以て解消され、新たな気持ちで聖女モモの弓の師と、護衛の任に就き、このモルネード王国の繁栄に努める事を命じる。」
カロルは陛下の言葉を重く受け止め、目を深く閉じてから
「はっ。この身、命を聖女モモ様に捧げ、モモ様の理想を叶えるべく彼女の剣、盾になることを、我が弓そしてモルネード王国に誓います。」
カロルの誓いは具現化し陛下の持つ書状に吸い込まれ、シュルリと封を閉じた。
「それは…?」
「モモ様は誓約の儀を見るのは初めてだったな。これは騎士や聖属性魔法師団員達、我が国の戦士達がこのモルネード王国と陛下に恒久の誓いを立てる時に用いる証明書の様なものです。」
その宰相ラッツィの言葉に第二騎士隊長アドルフが付け足す。
「ちなみに、その誓いを破る事があれば、それ相応の罰が下されるのです。」
アドルフの言葉に、カロルは拳を握りしめた。
「…カロルは二度と愚かな選択はしないわ。これからよろしくね、カロル。」
「―――はい、モモ様。」
モモがカロルに手を差し伸べると、カロルはその手を取りスッと立ち上がった。その姿を見届けたラインハルトがパンパンと手を叩くと、玉座の間の扉が開き、殿下直属パーティーがズラリと姿を見せた。
「モモ殿の付き人なら、こちらの顔ぶれについても覚えてもらわないとな。」
ラインハルトはそう言うと、パーティーメンバーをカロルに紹介した。
ひとしきり紹介を終えると、その場の空気が先程とは打って変わって重くなった。
陛下と宰相ラッツィが互いに頷きあってからモモに王命が下された。
「モモ殿、貴女一人にこの任は重すぎるかと思っての事だが、それでも貴女にしかでき得ない事と思っている。」
「?」
「このモルネード王国全体に張られている結界が弱まりつつある、それを張り直してほしいのだ。」
「…え、結界…ですか?」
陛下の言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。モルネード王国に展開されている結界、それにどのくらいの魔力量を消費するのか見当も付かない。モモに従魔ペルがいたとしても、到底足りないと皆険しい表情だ。
「陛下…その話は私は初耳ですが…」
「ラインハルト、お前にも申し訳ないと思っている。だが、ここ最近の瘴気の陣、魔物の出現、これは明らかに結界の効力が薄れていると考えている。古来この国に結界を施したのは妖精王様だが、今もそのお力があるか…」
「お言葉ですが、陛下。それはあくまで伝承の話と言っておいでではなかったのですか!?
現状我が国に結界を張り続けているのは、選ばれた聖属性魔法師団員で…」
そう、モルネード王国は北にナーガ神殿、東にパロル村、東南に聖地サーリンゼルカ、西南にシュピツ村、西のナルバ村に主要ナーガ像があり王都ラダンディナヴィアを中心に五芒星結界が選ばれし聖属性魔法師団員によって結界が張られていた。
「そうなのだ、聖属性魔法師団員の中でも特に聖属性魔力の高い者に結界を維持させているが、その結界自体そのものは妖精王様のお力によるもの。この話だけは伝承ではない確かなものと国王になった者のみに伝えられてきた極秘事項だ。」
陛下の深刻な面持ちに、全員が息を呑む。
「だが、もう極秘にしていられない危機が迫っていると考える。このような事態に陥ると過去の王の誰が想像出来ただろうか。どうかこの頼み、聞き入れてはもらえないだろうか、聖女モモ殿。」
陛下がモモに頭を下げ、宰相ラッツィと文官達もそれに続く。この話は聖属性魔法師団長ルークにも事前相談はなかったらしく、彼も驚いていた。
(…案外〝大聖女〟の地位については深く考えなくてもいいのかもしれない。この交渉が本来の陛下の狙いだったんじゃ…)
モモの考えにルキスが答える。
『その線で間違いなさそうだわ。妖精王様の結界を人間が張り直すなんて無茶振りもいいところよ。
モモがやるなら、もちろん協力はするけどね!』
(ありがと、ルキス。)
モモの返事を待つ陛下達に重い沈黙が続く。ふとモモがラウルを見た。モモの視線に気づいたラウルは、黙って微笑みを返した。その答えにのしかかった重圧がフッと散っていった。
「はい、モルネード王国に新たな結界を張る任務、お受け致します。」
モモの答えに、ホッと胸を撫でおろした陛下達。そして周りから拍手が沸き起こった。
(きっと一人だったら答えられなかった。ルキスが、ラウルが背中を押してくれたから…まだまだ助けてもらってばっかりね、私…)
少しばかり肩を落とすモモの頬にルキスがキスをした。それは一人じゃないよと言ってくれている様だった。
「では、さっそく準備に取り掛かる。この大掛かりな結界展開にはモモ殿を含め他に4人の聖女が必要なのだ。現時点で3人は決定している。」
陛下の言葉にラインハルトがすかさず問う。
「3人とは?」
「ああ、一人はお前の婚約者ジャスミン・フロリア嬢だ。」
「ジャスミンっ…?彼女は了承しているのですか?」
「ああ、本件には協力してくれると本人からもフロリア公爵からも了承を得ている。そして二人目がリリー・カンティラス令嬢。カンティラス子爵の末の娘だ。彼女も高い聖属性魔力を持っている。そして三人目がミアという平民出の聖女だ。」
ミアという名を耳にしたラインハルトが陛下に目をやる。
「そうだ、ミアは以前魔人に捕らわれていた彼女だ。スキルランクAの彼女にも協力してもらう手筈となっている。残る一人は我々とルーク師団長とで選定するつもりだ。その間に、モモ殿には結界展開に関する情報、準備を進めてもらいたい。詳細は後程改めて会議を開くので、そこで話そう。」
玉座の間でのカロル誓約の儀は思いもよらない展開で終わった。
新たに仲間を得たモモだったが、事態の大きさにカロルを危険な目に合わせてしまう恐ろしさが拭えない事に震えが止まらなかった。その様子を目にしたカロルが声を掛ける。
「モモ様、大丈夫ですか?顔色が…」
「あ…ごめんね、カロル。あなたの事巻き込んでしまって…本当はアザレアさんとゆっくり…!そうよ、アザレアさんのところに行かなきゃ!」
アザレアとは、カロルの妻で王妃暗殺未遂事件に巻き込まれ、このモルネード王国に保護された女性である。今は城下で騎士団の庇護の下暮らしている。
「モモ、アザレアのところに行くのか?」
「ええ、晴れて自由の身を得たんだもの。アザレアさんにカロルの元気な顔見せてあげたいわ。」
「いや、モモ様…っ、ありがとうございます。」
「じゃあ、俺も付き合うよ。ラインハルトちょい外出してくるわ。」
ラウルがコンビニにでも行くような感覚でラインハルトに声を掛けた。やれやれと頭を抑えるラインハルトだったが、手をハタハタと振って行ってこいとジェスチャーした。
「あー!!オレも行く~、いいだろ、ラウル?」
「わっ、ダン。」
ダンがモモの後ろから手を回し、モモに甘えた。
魔人クバリーによって記憶を消されていたダンが、階段から落ち頭を強打し無事に記憶を取り戻すという結果になった事は聞いていたモモだったが、その無邪気な姿を目にし、普段のリズムを取り戻した。
「じゃあ、ダン快気祝いに何かご馳走してあげるね!」
「やったー!!」
「モモ…ま、仕方ないか。」
本当はモモと二人の時間を堪能したかったラウルの望みが無邪気なダンによって見事なまでに砕かれた瞬間だった。
――――――――――― ☆ ――――――――――
王都ラダンディナヴィアの南に広がる白や薄いクリーム色を基調とした建物が階段状に連なる代赭色の石畳の一角にその家はあった。家の前には騎士が二人門番として立っていた。その二人にラウルが訪問のわけを話し殿下からの書状を手渡した。
「どうぞ。」
ギイっと大きな門が開く。カロルの緊張に周りもつられてなんだか足取りが落ち着かない。
玄関に続く広い薔薇の庭に彼女は立っていた。以前カロルから聞いたアザレアの特徴。緑色の長い髪を三つ編みに纏め、右目下に黒子のある女性。
「ア…アザレア。」
カロルの声が震えている。
名前を呼ばれたアザレアがハッとカロルの声の方へ顔を向ける。その彼女の大きな瞳に涙が溢れた。
「カロル…あなたっ…」
「アザレア!!」
二人は離れていた時間を取り戻すかのようにきつく抱きしめ合った。
モモ達は使用人に勧められるまま家の中へ案内され丁寧に持て成された。
「元気そうで良かった、アザレアさん。」
「だな、ラインハルトが用意した家も悪くないしな。」
「殿下が用意したの!?」
「ああ、聞いてなかった?ここは元々ラインハルが城抜け出して遊んでた家だよ。」
「……なんか、それを聞いて納得かも。小物とかなんか色々凝ってるし…」
そんなたわいない話をしていると、カロル達が部屋に入ってきた。
「アザレア、彼女が私を、そしてキミの命を助けてくれた聖女モモ様だよ。」
カロルがそうアザレアにモモを紹介すると、アザレアは深々と頭を下げた。
「貴女様が。この度は夫カロルを自由にしていただき、本当にありがとうございます。私の事も、なんてお礼を…」
「あ、いえ、気にしないでください。アザレアさんの素敵な笑顔が見れてうれしいですよ。色々大変な思いをされましたから…」
「モモ様…あ、私の事はどうぞアザレアとお呼び下さい。この御恩は一生忘れません。」
和やかな空気に包まれ、カロル達も席に着いた。二人の薬指にお揃いの指輪が眩しく輝く。
その席に出されたお菓子をつまんだダンは部屋に入る暖かい陽の光に転寝を始めた。
「アザレア、カロルと再会できたのにごめんなさい。本当はもっとゆっくり時間を取れたら良かったんだけど、実は…」
モモが例の結界の話をしようとしたところで、アザレアが首を振った。
「いいえ、いいえモモ様。私はもうカロルには会えないと思っていたんです。彼の無事な姿を見れただけで私は嬉しいんです。それにモモ様に足の古傷も治してもらって、何を言えるでしょう。どうぞ貴女様のお力になれるのであれば、どこへなりとカロルを共にお連れ下さい。」
アザレアの言葉にカロルも優しく頷いた。
「どこへなりとも、モモ様の理想を現実にすべくお力になりたく思っております。」
カロルとアザレアの温かい言葉に申し訳なさを感じつつも、モモは笑顔で応えた。
―――――――――― ☆ ――――――――――
ピーニャコルダ王国、とある洞窟。
「…気配を消して入ってくるなクバリー。」
クバリーの前には石の円卓を囲む二人の黒いフードを目深に被った者達の姿があった。
「まぁ、そう殺気立つなって。拝んで来たよ、聖蛇の娘。」
「なんだと!?拝んだだけかっ?」
クバリーの軽い言葉に熱くなった一人が立ち上がると、パサッとフードが脱げた。その姿は魔人ではなく
肌のところどころに鱗が浮き出た半魚人だった。
「だって、チェルノボーグが本当に殺られたか確認って言ったじゃん。けど、捕えるのは中々難しいかもね、思ったよりガードが固い。セレベスも会ったらわかるよ。」
「致し方ない、ヤツはただの研究バカだったからな。」
「ひどいなぁ…」
もう一人の黒いフードの言葉にクバリーがツッコむ。
「だが、こちらも面白いモノを見つけた。見ろ。」
「?」
黒いフードが持っていた鏡に何かを映し出した。
「これって聖蛇の娘の…」
「ああ、今我々のテリトリーにいる様だ。」
「エサに使うのか?…どこを目指している?」
「今、腐樹の丘辺りだ。この先にあるのは蜘蛛の王〝ルブロン〟の巣だ。」
黒いフードは立ち上がり、闇に消えながらクバリーとセレベスにこう残した。
「おれが見つけた獲物だ。お前達には聖蛇の娘とアレを任せよう。いい報告を期待する。」
「お互いにー。」
どこか緊張感のないクバリーに苛立ちを覚えるセレベスだったが、フウっと一息つくとフードをその場に脱ぎ捨てた。
「で、お前はどうするつもりだ、クバリー?」
セレベスがおもむろに地図を広げたのを見たクバリーは、羽ペンを取り出しモルネード王国に×印を付けた。
「もう少し、聖蛇の娘の様子を観察しようかな。」
「悠長な…。まぁいいさ。アレについては例のお方が動いている、我は一度四天王ウェパル様の元へ戻る。」
「呼び戻し?」
「どうやら海の勇者が我が城に迷い込んだらしいとの情報でな。奴は常に聖獣と共にいる。核をいただく好機よ。」
そういうとセレベスはクバリーの羽ペンを地図上のピーニャコルダ王国南とモルネード王国北の海峡に突き刺し闇に消えた。
「……海の勇者ね。半魚人にはわからないかもね、あの聖蛇の娘の甘い匂いは…」
(あの聖蛇の娘の従魔も彼女の血に惹かれたのは確かなはずだ。魔物としての本能が疼く。
彼女に従属したいと―――――。)
―――――――――― ☆ ――――――――――
モモ達が城に帰ると城内がざわついていた。そのモモの姿を目にした騎士の一人が駆け寄ってきた。
「モモ様!お待ちしておりました。急ぎ医務室へ!」
その騎士の言う通りに医務室へ駆け付けたモモ達が目にした光景は、瘴気に侵されたカピルス村偵察を任された第三騎士隊長オーフェンとレンダー、ザックの姿だった。
中でもレンダー、ザックの症状は重症で喉から肺が焼け爛れていた。
「レンダー!!ザック!!しっかり!!」
〝パージ・ヒール!!〟
モモが治癒・浄化の魔法を詠唱すると瞬時に紫黒く爛れたレンダー達の症状が回復した。同行していた第三騎士団、白魔法使いと聖属性魔法師団員達も相当疲弊していた。
「何があった、オーフェン隊長!?」
ラインハルトがオーフェンに回復魔法をかけ問い掛ける。
「殿下、カピルス村は…魔人により掌握されていました…」
「なっ…!?」
「レンダーとザックが防御障壁で我々を守ってくれなかったら全滅でした…村は瘴気で侵され…耐性のない人間は瘴気に朽ち果て、耐性の合った者が…魔人に変異…っまるで地獄に様でした…」
防戦一方で帰還したことに悔しさを滲ませるオーフェンを責める者は誰もいなかった。やがてレンダーとザックも意識を取り戻し体を起こした。だが、二人ともオーフェン以上に言葉を発する事はなく、固く目を閉じた。
そこへ陛下が宰相ラッツィと共に現れた。
「ご苦労だった、オーフェン隊長。今はまず体を休めるといい。」
「……申し訳ありません、陛下…」
オーフェンはその場を立ち上がると、レンダーとザックの元へ駆け寄った。
「二人がいなければ、俺達は全滅だった。礼を言う。」
オーフェンが二人に頭を下げた。
「いえ、オレ達も防御しか出来なかった…悔しいですよ。」
レンダーの言葉にザックも俯き、拳を握りしめた。
瘴気に包まれた村、カピルス。そして魔人化する人間と瘴気に耐性がない人間の無残な死。突如出現する魔物。闇の力が働いているのは明らかだが、これ以上後手に回ることは避けたいと願う城内の視線がモモに集中した。
「―――――――っ…」
言葉にならない、その視線にたじろぐモモをラウルが庇う様に腕の中に引き寄せた。
「陛下、お言葉ですが、まさかモモ一人にこの対処を期待しているわけではありませんよね?」
「無論、我々も出来る限りの事はする。」
ラウルの怒りも最もだった。この事態をたった一人の聖女に負わせるような態度を取る周囲の目は、あまりにも冷たかったからだ。それに触れたラインハルトも静かに立ち上がった。
「陛下、カピルス村の件と結界展開については私に一任下さい。」
「ラインハルト…しかし…っ」
「今の城内の状況はモモ殿にとっても我々にとっても悪い影響しかない。」
「で、殿下、お言葉が過ぎますぞっ…」
ラインハルトの陛下に対する態度に宰相ラッツィが釘を刺す。
「よい…私もただの弱い人間の一人だ。…強くなったな、ラインハルト。では、カピルス村と結界展開の件は任せよう。我々はそれ以外に尽力する!皆、そのつもりで動くように!」
「は!!」
野次馬を含めたその場にいた者達は、陛下の言葉に敬礼し各持ち場に戻っていった。
レンダー、ザックそしてモモ達を残したその場で、ラインハルトがモモに声を掛けた。
「すまない、モモ殿。貴女にこんなにも負担を掛けるつもりは…」
ラウルの腕の中から支えられながらラインハルトの言葉に耳を向けるモモの表情は、決していいとは言えなかったが
「だ、大丈夫ですよ、殿下。殿下の立場も悪くならないようにしないと。」
「モモ!それ悪いクセだぞ。抱え込まないで、ちゃんと吐き出さないと。俺だってダンだって。」
「そうっすよ、モモ様!オレもレンダーさんもいますって!」
モモを励ますように声を掛ける仲間達にカロルが続いた。
「私もいます、モモ様の抱えているもの、お立場は今この時だけで十分把握出来ました。必ずや、貴女様の力に。」
「…カロル…」
自分達とは違う洗練された立ち居振る舞いのカロルの登場に、レンダーとザックはキョトンと彼に視線を送った。その呆けた顔にラウルが噴き出すとラインハルトが改めて二人をカロルに紹介した。
「カロル。誓約の儀でいなかったパラディンの二人だ。体格がいいソフトモヒカンがレンダー、細マッチョのブレイズがザックだ。そして二人とも、モモ専属の護衛で弓使いのカロルだ。」
カロルの醸し出す大人の男の雰囲気に、ダン以外のメンツが言葉を呑んだ。
こうして、モモ達に新たな仲間が加わった。
―――――――――― ☆ ――――――――――
一方で、地底魔界で蜘蛛の王〝ルブロン〟の巣に向かう、モモの従魔ペルに向けられた闇の力。
黒いフードが持つ鏡に映るペルは〝ルブロン〟の巣の目と鼻の先にある腐樹という、瘴気の立ち込めた樹海の丘で魔窟に迷い込んでしまっていた。
「ん――――?なんか同じ道をぐるぐる回ってる気がしないでもない…さっき倒したこの魔窟の蟻の魔物に、こっちって言われたけど、どっかで間違えたかなぁ…」
ペルの目の前には生い茂る木々と地上界とは違う闇の瘴気。もとより聖獣として瘴気には耐性があるペルだったが、地底魔界の植物は成長速度が速く刻々と景色が変わっていく。先刻、幹に印を付けたはずの木も、あっという間に成長し目印が消えてしまっていた。
「参ったな…もうまっすぐ突き進むか…」
そう呟くペルの頭の上からクスクスと笑い声が響いた。フッと上を見上げたペルの視界が黒い翼で覆われた。
「うっわっ!!」
「やぁねー、大げさよ。久しぶり?ペルだったかしら?」
「あ!あの時のっ………?」
シクラメンピンクの髪をローポニーに纏め、茶色を基調とした胸元が大きく開いたセパレートのロングスリットに身を包んだ魅惑的ボディの悪魔を指さしたまま、ペルの思考が止まる。
女はカツカツとレースアップサンダルを鳴らしペルの胸ぐらを掴み上げた。
「リ・リ・ン!!」
「あー、ごめんリリン、思い出した。」
「本当、モモの周りはアタシに失礼なメンズばっかりだわ!」
面目ないと言わんばかりのペルの表情にやれやれと肩を落とすリリン。
「え、どうしてボクの居場所わかったの?」
「なに言ってんの、同じご主人を持つ者同士の居場所くらい把握出来るわよ。なんだか今、ひどく沈んでるみたいだけど、アナタの事も心配してるみたいだったから、モモのところ行く前に様子見に来たのよ。」
「あ…ありがとう、リリンは優しいんだね。」
ペルの素直さにつられて頬を染めるリリン。
「あ、けどリリンはパパになんか許可取ってくるって、それはもういいの?」
「もー、兄弟たちみんなパパにお願いごとありすぎて、すっごい待たされたけど、パパも地上界なら遊んできていいって許可くれたわ。あと―――…は、またでいいか。」
「?」
「で?ペルは何しにここへ?」
リリンがペルの話に切り替える。押しの強さに少し引き気味のペルだったが、地底魔界に来た理由と今陥っている状況も含め詳しく話した。するとリリンが翼を広げ飛び上がり蜘蛛の王〝ルブロン〟の巣の位置を確認した。
「オーケー、地底魔界の森は成長速度が速いのよ。迷い込んだ獲物を弱るまで迷わせて倒れたところを喰らうってね。ここから飛びましょう。ペル小さくなってちょうだい?」
「あ、うん。ありがとリリ…ン…」
ペルが蜘蛛化したところを鷲掴みにしたリリンは、そのまま自身の谷間に押し込んだ。
「さぁ、行くわよ!必殺技会得!!」
お読みいただき、ありがとうございます。
至らぬところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
キャラメモ ★セレネ★月の妖精
✿凛として静か
✿眠りを操る
✿一人称:セレネ
✿近衛師団唯一の女性で副隊長のダリアに使役される
✿これから活躍予定☆




