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告白

 みんなが報告書漬けになっている頃、私は自室でワルツのステップ確認をしていた。いよいよ明日は舞踏会本番。ダンスがうまく踊れるかで緊張して中々寝付けない。そんな私を余所に、ルキスはスヤスヤと寝息を立ててご就寝。


「はぁ…明日、不安しかない…風にでもあたろうかな。」


窓の外は、月のない星々が輝く夜空が広がり、心地よい夜風が吹き込んできた。風に紛れて綿毛がモモの頬に触れた。その白いふわふわを手に取る。


「…ペルはどうしているのかな…無事かな…ペルの考えてること、私にもわかればいいのに。」


ふっと息をかけ、窓の外に飛ばした綿毛は、そのまま消えて行った。


 この世界に来てだいぶ経った。今日までほぼ戦ってばかりだったけれど。思い返せば、いつもそばにはラウルがいてくれた。パロル村で出会ってから助けてくれて、私は彼が美形すぎて直視出来ず、いつも照れ隠ししてばっかりで…。彼の私に向けてくれる好意はわかる、わかってるけど―――っ。


「モモ!うるさくて寝れなーい!」

「あ…ルキスちゃん…ごめんねっ」


今夜は晩酌しないで寝ていたルキスを、私のモヤモヤで起こしてしまった。


「モモは自分の事ばっかりじゃない、自分の心を守ることばかりで、ラウルの気持ちに応えてないよね。それは前からアタシもペルもわかってたよ。」

「あ…」

「ナナも言ってたじゃない。いつ何時、どうなるかわからないって。大切に想ってるなら声に出さなきゃ。」

「うん…そうだよね、このままじゃ何も伝わらないよね。」


一歩、自分から踏み出さなきゃ、何も変わらない。ラウルが困った時に力になれる様に、彼から頼られる存在になりたい。



――――――――――― ☆ ―――――――――――


ガタタタタタァン!!


「な、何ごと!?」


リンツが事務所から出ると、ギルドの2階の階段から毛布に包まったダンが落ちてきた。


「ちょ、ダン大丈夫?」

「いってぇ…ん?リンツ?あれ…オレ…?」

『ダン!ワタシ達の事、わかる?』

「え…ウェンティとアクアだろ?なんかあった?」


ウェンティとアクア、そして駆け付けたリンツが、ダンに飛びついた。


「うっわ、なんだって、どうした…って??」


毛布に絡まり、泣きわめくウェンティとアクアにリンツの反応に驚くばかりのダン。


「どうしたもこうしたもないわ、ダン、アナタは魔人の術にかかって記憶を失っていたのよ。戻らなかったらって不安だったけど、いつものダンに戻って良かったわ。」

『ダン~、良かった~!!』

「あ、ああ。なんかごめんな、ウェンティ、アクア。ってか、ラウルは?まだ寝てんの?」

「ラウルなら、色々仕事があって城に泊まり込みよ。さ、こうしちゃいられないわ。今日はモモの〝大聖女〟候補としてのお披露目パーティーなの。アタシもダンも招待されているんだから準備しなくちゃね。」



―――――――――― ☆ ――――――――――



 モルネード城に続く貴族達の馬車。城門では馬車から降りる色とりどりのドレスに身を包んだ令嬢が付き人を従え城内に入っていく。

今日は国王陛下主催のパーティー。表面上はそうなっていたが、実際は私のお披露目会という事を、ダンスの最終確認後に知らされた。


「私のお披露目?え…それっていります?」


ダンス練習後の汗を流し、ハーブオイルマッサージ。その一つ一つが異様に気合いの入った侍女達の働きぶり。

ビスチェの締め上げにも容赦ない、今日のドレスはウエストを細く絞り、腰から裾にかけて丸くベルの様に広がる、明るい鮮やかな、菜の花色のベルラインドレス。


侍女長ナーサも、私の質問には答えず、黙々と着付けとメイクを進めていく。煌びやかなドレスも宝石も、私には必要ないのに。

そんな事を思っている内に、舞踏会の身支度が整っていた。

すると、さっきまでだんまりだったナーサが口を開いた。


「先程の態度、申し訳ありません。宰相ラッツィ様よりお話がございます。」


ナーサに言われるまま、私は騎士三人と、聖属性魔法師団員二人に護衛され、会場となる広間の控え室に案内された。


「ご足労痛み入ります、モモ様。本日のパーティ、強行に進めさせていただいたのには、あなた様に“大聖女”の地位に就いていただきたく。モモ様にはその器量も実績もあります。これが、陛下、王妃、殿下そして私達、今まで戦いを共にして来た者達の総意であると、この国の権力ある貴族達に示させて欲しいのです。」

「…これを受け入れれば、私の望みは叶うのですね?」


私の望み。それは以前王妃暗殺未遂の犯人として今収容されている、カロルの解放と、彼を私の弓の師として傍に置く事だった。


「はい。その様に手配してございます。」

「わかりました。」

「ありがとうございます。あ、はじめに殿下とジャスミン・フロリア令嬢の婚約正式発表がございます。どうぞ、お気をラクになさってお待ち下さい。」

「ーーーーー!?」


え、殿下の婚約正式発表…?

普通順番逆じゃない?この国の“大聖女”って…と、混乱していると、控え室にノックが響く。入ってきたのは、聖属性魔法師団長ルークと殿下だった。


「素敵なドレスだな。とても似合っているよ、モモ殿。」


サラッと女性を褒めるセリフが出て来る殿下と、それに頷くルーク師団長。


「綺麗です。モモ様。エスコートを担当させていただける事、光栄に存じます。」

「エスコート、ルーク師団長がしてくださるんですね、ありがとうございます。」

「“大聖女”候補のお披露目だからな。聖属性代表でルーク師団長が入場のエスコートを担当する。

ダンスのパートナーはモモ殿が好きに選べるがどうする?」


ダンスのパートナー…そう聞いて頭に浮かんだのはラウルだった。


「…ラウル、今朝まで徹夜で報告書頑張ってだからなぁ。」

「え、徹夜で?」

「仕事頑張ったラウルの気持ちを汲んでくれたら、親友の私としても嬉しい。」


ラウルの気持ち…


『モモ、素直に。』


ルキスが私の心を後押ししてくれる。自分の気持ちに正直にならなきゃ。


「はい、ラ…ラウルと踊りたい、です。」


私の返事に殿下は微笑んだ。


 その後、パーティーの流れをナーサが説明してくれた。初めに国王よりパーティー開会の挨拶、次にラインハルト殿下の婚約正式発表と私が聖女として公式紹介され、更に、殿下直属のパーティーの紹介もされるということで、ラウルとロイド、ダン、イーサンにポッチェ、ナナは騎士団の正装。トルチェ、クアラにジュウト、シュア、アイクは聖属性魔法師団の正装で参加することになっている。ちなみに、レンダーとザックは任務中であるため、名前の公表のみということだった。本来なら全員揃った所で行いたかったと、殿下はこぼしていたが、瘴気の陣の出現や、魔物の襲撃がいつ起こるかわからないと判断され、今日の開催となったそう。その後に貴族達に顔見せの場として舞踏会という流れ。


 ひとしきり説明が終わると、ドアがノックされ、騎士団の正装姿のラウルが顔を出した。

周りに控えていた侍女たちはススっと部屋の外に出てしまい、控室には私とラウルだけになった。


「綺麗だね、モモ。色もとても似あっている。」

「あ、りがと。ラウルも、なんか普段と違って…」


普段と違う魅力が騎士団の正装で更に醸し出されて、直視出来ないっ…!ダメダメ、ちゃんとしなきゃ。私の気持ち…そう思いながら椅子から立ち上がろうとした私はヒールの高い靴のつま先につっかえてよろけてしまった。


「おっと。」


すかさず手を差し伸べ支えてくれるラウル。


「大丈夫?」

「あ、ありがと。着慣れないから、動くのも大変で…」


私の言葉にラウルがクスっと微笑む。


「俺をダンスパートナーにしてくれたって、ラインハルトから聞いたよ。仕事頑張ったご褒美に。」

「んと、そうじゃなくて…お仕事は、お疲れ様でした…」

「ん?」


いつの間にか、よろけた私を支えてくれていたラウルの腕の中に収まってしまっていた私。


「私が、ラウルと…踊りたかったの…

いつも、助けてくれて、優しくしてくれて…ありがとう。私、ラウルの事…」


その先の言葉を言おうとした時、フワッとラウルに抱きしめられた。ラウルの手が頬に触れる。

顔が熱くなる、恥ずかしくてとても…


「モモ、顔見せて。」


とても顔なんて上げられないよ―――――っ


「モモ。」


耳元で優しい甘い声で名前を囁く。わざとなの!?面白がってる…絶対っ


「俺はモモの事、愛してるよ。俺のすべてで守りたいって思ってる。」


ラウルの不意打ちの告白に、私は思わず顔を上げてしまった。


「ふふ、やっと顔見れた。」

「あ…」

「昨日、差し入れてくれたユレネード、美味しかったよ。酸っぱさと炭酸が効いて仕事の効率上がったし。ジュウトは甘いモノ好きだから、あの酸っぱさにやられてたな。」


たわいない話で私の心を落ち着かせてくれる。そんな貴方の優しいところも、貴方の背中も、腕の中も


「好き…ラウルのこと。」

「朝、寝起き悪くても?」

「うん。」

「王子じゃなくても?」

「ふふ、私が好きなのは王子じゃなくて、寝起きが悪くて色々雑で、漆黒の鎧が似合う戦闘センス光るパラディンのラウルだよ。」


私の言葉にラウルが頬を赤く染めたが、隠すように抱きしめられ、そのまま流れるように唇が重なった。


「……俺の前以外で、そんな顔しちゃダメだよ?」

「え…?」


その時、コンコンと扉がノックされ、ナーサが咳払いをして入ってきた。


「ラウル様、そろそろお時間です。それから、ダン様とリンツ様も到着しホールでお待ちです。〝戻った〟とだけ言伝を預かっております。」


ナーサからその言葉を聞いた私とラウルはハイタッチした。〝戻った〟とはダンの記憶の事だ。


「よかった、ダン戻ったんだ…でもどうやったんだろう?」

「寝ぼけて階段からでも落ちたんじゃないか?」

「まさかー」

「じゃ、ダンス楽しみにしてるよ、モモ。」



――――――――――― ☆ ――――――――――



 国王陛下主催のパーティーが始まった。

会場の奥座には国王と王妃、そして王子ラインハルトの姿があった。

舞踏会と立食形式に合わせての会場セッティング。奥座の脇には楽団が待機している。

そして貴族達や招待客がダンスホールを囲むように立っていた。


「―――皆の者、今日のこの場で発表したいことは3つ。一つは我が国、王子ラインハルトの正式婚約者をフロリア公爵家のジャスミン令嬢とする。」


奥座よりラインハルトが前に出る。すると、貴族の中からフロリア公爵と共に令嬢ジャスミンが前に進み出、ラインハルトに一礼し、ジャスミンがラインハルトの手を取り、横に立った。沸き起こる温かい拍手。


「おめでとうございます、ラインハルト殿下、ジャスミン令嬢!」

「おめでとうございます!」


そして、ラインハルト達がその場から奥座に戻ると陛下が手を挙げ、会場の盛り上がりを鎮める。


「二つ目に、我が国に聖蛇ナーガ様が遣わした聖女をここで皆に紹介する。城内で目にした者もいるかと思うが、彼女の名はモモ。我が国を幾度となく瘴気の陣や魔物襲撃から救ってくれた実績を持つ者である。私は彼女をこの場で〝大聖女〟の位に就く者として推薦したい。」


陛下の言葉に会場全体がざわついた。〝大聖女〟の位、それは国王陛下に次ぐ地位だからだ。

それらの雑音を掻き消す様に楽団が聖女入場の音楽を奏でる。会場奥座から2階に続く螺旋階段の先に菜の花色のドレスに身を包んだモモが姿を現し、階段一段下で聖属性魔法師団長ルークがモモの手に触れエスコートする。


「……綺麗…」

「あの方が、聖女様…」


奥座に座っていた国王達が一斉に立ち上がり、階段を降り切ったモモに一礼した。その姿を目にした貴族達も慌てて一礼する。

モモが改めて国王の前に立つ。


「―――私はこの国を治めているブラズベルト・モルネードだ。」

「お招きいただきありがとうございます。聖女モモです。」

「この地に足を付けてから、今日まで我が国を守って下さった事、心より感謝している。」

「いえ、決して私一人の力ではありません。ラインハルト殿下や殿下直属の戦士達、それにこの国の人々の強い力があってこそです。聖蛇ナーガ様より賜ったこの力で、今後も平和な世を作れるよう尽力して参ります。」


この時、ルキスが気を利かせて光の演出をして見せた。会場中に舞い散る光の粒。


「この光…」 

「〝大聖女〟様だ…」

「〝大聖女〟様!」

「光の聖女様!!」


確かに、このパーティーが始まるまで、〝大聖女〟の確立に反対する貴族もいたが、この光の演出は相当効果があったようだった。


「モモ殿、貴女にはその功績を評価して何か恩賞を贈りたいのだが、何か欲しいものはあるだろうか?」

「え…」

「モモ様のご希望でしたら何でもいいのですよ。」


陛下の言葉に宰相ラッツィが加える。


(私の希望…あ、そうか。ここで公に言えってことね。)

「では、私の武器である弓をもっと使いこなすために、講師を付けていただきたいです。」

「―――貴女の意思はブレませんね。では、そのように手配させていただきます。陛下。」

「頼む。

そして三つ目に、今モモ殿の言葉にあった、我が王子直属の戦士達を紹介しよう。」


会場のドアがバンと開くと、そこには6名の騎士と5名の魔法師団の姿があった。彼らは入り口から会場中央に進み、片膝を立て聖女モモに頭を下げた。そこへ奥座からラインハルトがラウル達のもとへ歩み寄る。


「本来ならあと二名いる、今任務に赴いている為ここでは紹介出来ないが、この者達は聖女モモ殿と私と共にこのモルネード王国を平和に導く者だ。この場を借りて紹介しよう。

雷剣士ロイド。聖壁のラウル。魔法剣士ダン。弓使いイーサン。テイマー、ポッチェ。女性剣士ナナ。

黒魔法使い、トルチェ、クアラ。白魔法使い、ジュウト、シュア、アイク。この他にパラディンのレンダー、ザックという者がいる。」


ラインハルトに名を呼ばれると立ち上がった戦士たち。紹介が終わると拍手が沸き起こった。


「城内にも出入りすることがある。王子の仲間達をよろしく頼む。

では、顔を覚えてもらう機会として今日は舞踏会を用意した。ぜひ軽食と共に楽しんでもらいたい。」


陛下の言葉が終わると、戦士たちはその場をはけ、楽団が演奏を始めた。

どの貴族達も聖女モモに声を掛けたくモモに近づこうと進み出るも、そこへ先ほど紹介された聖壁のラウルがモモの前に立ち手を伸ばした。


「一曲、よろしいですか?」

「ええ、もちろん、ラウル。」


モモがラウルの手を取ると、演奏がワルツに変わった。

すると、周りにいた貴族たちも諦めそれぞれの相手を見つけてワルツを踊り始めた。


「…ラウルって、本当に何でも出来るのね、すごい。」

「はは、ダンス?俺もワルツくらいしかステップ覚えてないよ。本当にすごいのはモモだよ。」

「え?」

「モモの勇気と、優しさ、恥ずかしがり屋でちょっと鈍感なところも、全部好きだよ。」

「―――――っ」


ラウルと踊った後、招待客にいた子ども達に囲まれたモモは、一人一人の質問に丁寧に答えていた。

そして舞踏会の最後を締めくくったのは、ラインハルトとジャスミン令嬢、二人の華やかなダンスが会場中を魅了した。



ーーーーーーーーーー ☆ ーーーーーーーーーー



 無事にパーティーが幕を下ろした地下牢では、王妃暗殺未遂の罪で投獄されていたカロルが、モモの願いの下、自由を得た。


「カロル、これから身支度を整え、聖女様に仕えるマナーを叩き込んだ上で、国王陛下との謁見になる。心して取り組まれよ。」


カロルにそう告げたのは、宰相ラッツィだった。牢から出たカロルは、片膝をつき、誓いを立てた。


「はい、不肖カロル、聖女モモ様にこれより我が命全てを懸けて尽くして参ります。」





















お読みいただき、ありがとうございます。

至らぬところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。


キャラメモ ★ウェンティ★


✿明るく気さく

✿行動派

✿一人称:ワタシ

✿ダンと水の妖精アクアが大好き

✿ルキスとは呑み仲間

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