ラインハルトの戦い⑤ ーーウェンティとアクアーー
王都ラダンディナヴィア、東門の転移石。
ダンとモモはマピチュ村から王都ギルド管理人リンツの伝波鳥を受け、転移してきた。
「ウェンティ!」
ダンが使役する風の妖精の名を呼ぶと、ダンとモモの体を小さな風の集合体が包み、フワッと宙に浮かせ、東門入口を入国許可証も提示せず通過した。
「あ、コラッ…」
「ん?ダンか。」
門兵が叫ぶが、もう一人がダンである事に気づくと手を行け行けとハタハタさせた。
東門を抜け街中に進むと、情報が錯綜し混乱している様子が窺えた。
「トロールが出たらしい!!荷物をまとめるんだ!」
「どこに?どこに逃げれば!」
街の人々が避難すべく、あわてて荷物をまとめだしていた。
「トロール?」
「まずはリンツのとこ行ってみよう。」
そのままギルドに向かうと、外に出ていたリンツがダンに気づいた。
「ダン!良かった、モモも一緒なのね!」
「てか、リンツのへたくそ。伝波鳥、デコに刺さったぞ?」
「悪かったわ、ダン!それよりも緊急事態よ!北西の一角にトロールが3体現れたわ!今、殿下と近衛師団で抑えてる、それしかわからないんだけど、応援向かってちょうだい!」
「わかっ……ムッ」
リンツの指示に返事をしようとしたダンの口が、背後の空間から現れた手によって、薬を含んだ布で塞がれ、ダンはその場に倒れた。
「ダン!?」
「ダン!!しっかりしてっ!!」
倒れたダンに寄り添い、ダンの肩を揺するモモ。しかし、反応がない。
(呼吸はある、意識がないだけ…何を嗅がされたの?)
すると、空間がカーテンの様に開き、黒いフードを目深に被った者がモモ達の前に現れた。
「わかってもらっては、困るんだよ。この坊やは確か魔法剣士だったはず。ふふ…まさかここで会えるとは。探したよ、聖蛇の娘。」
「…っ、あなたも、チェルノボーグやブーゲンの仲間?」
モモがその名を口に出した時、彼は腹を抱えて笑った。
「はははははっ。まぁ、出所は一緒だが、アイツらと一緒にされちゃ困る。格が違うからね、ブーゲンとは。まぁ、いずれ見られるんだ…」
黒いフードの者は、フードを脱ぎ顔を晒した。
その特徴は、死人の様な青白い顔。
「…! あなたも魔人…っ。」
「挨拶が遅れたね、俺は地底魔王軍四天王ヴァラク様のサーヴァント、クバリー。聖蛇の娘、一緒に来てもらおうか。」
クバリーがモモを捕らえようと手を伸ばした時、剣を構えたリンツがモモの前に立った。
「させないわ。」
「…へぇ、…お前、男だな?」
「心は乙女よ!」
「まぁ、偏見はしねーけど、男には手加減しないぞ。死にたくないなら、そこをどけ。」
「リンツさんっ…」
モモは、リンツにその場を任せると、気を失ったダンの回復に集中した。
「ダン!ダン、起きてっ!」
しばらくすると、うつ伏せで倒れていたダンがパチリと目を覚まし、体を起こしキョロキョロと辺りを見廻した。
「良かった、ダン、気がついたのね!」
「……おまえ、だれ?」
「え…?」
倒れた時に頭を強打したのか、ダンは目の前にいるモモの記憶を失っている様だった。
クバリーと間合いを保ちながらリンツもダンに声を掛ける。
「ちょっと、ダン!こんな時に冗談やめてちょうだい?」
「…おまえも…っ、ここは?おまえらオレにまたひどいコトする気だな!?」
「ひどいこと?」
ダンはリンツの記憶も失ってしまった様だった。
ダンはしゃがみ込むモモから距離を取ると、剣を構えた。
「おまえら全員、片付けてやる!」
ダンの様子がいつもと違い、モモやリンツ、目に映る街の人々に怯え、殺気立っている様だった。
「ダン、どうしちゃったの?私の事、覚えてない?リンツさんは?小さい頃から一緒に…」
「うるさい!!」
ダンを落ち着かせようとするモモにダンは剣を振るった。
それはモモを直撃しないものの、風圧だけでモモの手の甲を斬った。
「いたっ…」
「モモ!!ちょっと、ダン正気!?」
リンツはその状況に焦りを隠せない。
「はははははっ、傑作!俺の手を下すまでもないか。仲間内でやりあってくれたら助かるぜ。」
「ちょっとアンタ!!ダンに何したのよ!?」
「なぁに、少し記憶でも混乱してるんじゃないか?まぁ、毒を嗅がせたのに、その影響が全く無いのには驚いたが、念の為“運命の輪”を仕掛けておいて良かったよ。」
ヴゥンと、クバリーは手からタロットカードの運命の輪を模した紋を浮かび上がらせた。
「運命の輪…?」
「ふっ、運命と言っても俺は不運専門だがな。坊やには闇が当たった様だ。無意識に閉ざしている心の不安、嫌な思い出、その時期に記憶を戻す作用がある。」
「!! まさか…ラウルと出会う前の…?」
「あ…」
(そう言えば、ダンは人身売買者に捕まって、この国にってラウルが言っていた…)
(第5部「ダンの過去」参照)
クバリーは、指をパチンと鳴らした。すると街影に潜んでいた五人の魔人がリンツ、モモ、ダンを取り囲むように姿を現した。
「聖蛇の娘は俺が捕らえる、他の奴らを片付けろ。」
「はっ!!」
リンツの応援に駆け付けた冒険者達に三人の魔人が。残り二人は逃げ惑う無抵抗の人々に手をかけ始めた。街の人々の悲鳴が響き渡る。
「モモ!アンタだけでも逃げなさい!!」
リンツがそう叫んだ時、魔人の一人がリンツの懐に強烈な一撃を加えた。受け身を取ったリンツだったが、魔人の剛力に体が宙を舞い地面にたたきつけられた。
「ぐあっ!!」
「リンツさん!」
「管理人!!」
衝撃の重さに顔を歪めるリンツ。その姿を目の当たりにした冒険者達がジリっと後ずさりしてしまう。
「なんだ、あのバカ力…あのリンツさんを簡単にぶっ飛ばしたぞ…」
「あの死人の様な青白い肌、人間なのか…?」
冒険者達がどよめく。
「くはは、今のでビビってるぜ。冒険者と言っても低ランクばかりか?簡単に片付きそうだぜ!」
魔人達から繰り出される拳と足技。集まっていた15人ほどの冒険者達、中には体格のいい武闘家もいたが、手も足も出ずにのされてしまった。ただ、三人の魔人の攻撃をたった一人躱しきった者がいた。
「…このガキ、俺達の攻撃を躱しやがった。」
「クバリー様に運命の輪をかけられたはずなのに、戦闘能力だけ落ちないとは…」
置かれている状況に混乱しているはずだったダンだが、この運動量で息も切らさず剣を構えていた。
クバリーが魔人達とダンの様子を遠くから観察する。
(確かに運命の輪は奴に〝闇〟を与えた。闇を与えられた者は精神を蝕まれ、弱っていくはず…なのにあの戦闘能力…ただの人間ではないのか…?)
「あ。聖蛇の娘はっ?」
クバリーがダンに気を取られている隙に、その場から建物の中に身を隠したモモ。
建物の屋上からこそっと様子を窺う。
『ダンは記憶が混乱しているけど、戦闘ステータスはそのままだわ。でもウェンティが見えていないみたい。』
ルキスの傍で、ダンの使役妖精、風のウェンティが不安そうな表情でいた。
(ウェンティにはダンが今どんな状態かわかる?)
モモの問いかけにウェンティはコクリと頷いた。
『ダンは私達妖精と出会う前にまで記憶が戻ってしまっているの。亜人の国で孤児の奴隷として酷い扱いを受けていた頃の…』
(孤児の奴隷?人身売買の輩に捕まったとは聞いていたけど…)
『今、アクアに状況を伝心したわ、きっとラウル様を連れて来てくれるはず。その間にダンが無茶しないように抑えないとっ。』
『どうやって抑えるの?落ち着かせる方法知っているの、ウェンティ?』
『…わからないの、ワタシとアクアはモモ様とルキスの様に正規の方法で契約を結んだわけではないから
実は、ダンの事、今まで一緒にいても知らない事ばかりで…』
「どういう事?」
『ワタシとアクアがダンと出会ったのは、奴隷商船に乗っていた時だった。実はワタシ達も捕まったルートは違うけど、同じ船に乗っていて、ダンが解放してくれたの…』
―――――遡ること十数年前―――――
あれはまだこの世界に奴隷制度があった頃。大荒れの天候の中、航海する奴隷商船があった。行先はモルネード王国。
ワタシとアクアは、妖精の回復薬、ナセアの蜜とストエカの実を集めに、チュプ・エンガルという花々が咲き乱れる丘にいたところを、妖精狩人に捕まって、奴隷商人に売られてしまった。ワタシとアクアは魔錠と呼ばれる特殊な鍵を使った瓶に封じられ、この先の運命に絶望していた。奴隷として売られる妖精は研究材料に使われるか、鑑賞用としての用途が多かった。
『もう、お終いだわワタシ達…』
『ごめんなさい、ウェンティ、アクアが誘わなければ…』
悲しみに暮れていると、突然船内が騒がしくなった。
「おい、亜人のガキを見なかったか?部屋と檻の鍵、壊して逃げた!」
「なんだと!?手錠も足枷もかけておいただろ、どんだけ力あんだ?」
「それどころじゃねーよ!ありゃ、今回の目玉商品の一つだ、絶対に逃がすな!この荒れた海には飛び込めないはずだ、船内を徹底的に探せ!」
「おう!」
「亜人の、それも珍しい狐の子供だぞ。どんだけの値がつくか…」
商船の中には人間から低級魔族の奴隷をはじめ、珍種の奴隷が厳重な鍵をかけられ乗せられていた。
ジャリ…ジャラ…
鉄の足枷を引きずる音が船底に響く。船内の一角に厳重に鍵を掛けられた扉があった。その隙間から青緑色の光が漏れ出ていた。
「…?」
ダンが扉に手を掛けると、何重にも掛けられた鍵をモノともせず、バキっと扉を開錠した。すると、暗がりの部屋の中に、瓶に閉じ込められた水色と緑色に光を放つ小さな生き物を発見した。これがワタシ達とダンの出会いだった。
「……妖精?初めて見た…おまえらも捕まったのか?って言葉通じる訳ないか…」
ワタシ達は、羽根を特殊な紐で縛られ、自由を奪われていた。目の前に現れた傷だらけの子どもは、獣の耳と尻尾を持っていた。手枷足枷を着けられている、この子も奴隷としてこの船に乗っているんだと確信した。
『そう…あなたも?
あの扉には特殊な魔力の鍵が使われていたのに、なんなく開けた。あなたは何者?』
緑色に光妖精がダンの心に直接語りかけてきた。言葉が通じる事に驚いたダンだったが。
「……オレは狐の亜人…おまえ達だけでも逃げろよ、オレが助けてやる。」
『え…』
ダンは瓶の蓋に手を掛けた。すると、仕掛けられていた罠が発動し、ダンの手を電流が走る様な激痛が襲った。
「…っぐ…うっ…」
『も、もうやめてっ!あなたの手がダメになっちゃうわ!』
苦痛に顔を歪めながらも、手を止めないダン。
「オ…レが、助けるって…決めたんだっ…」
パキィン
魔錠が解け、瓶から緑色の光を放つ妖精が解放された。
右手を負傷したダンは左手で、水色の光を放つ妖精の瓶の蓋に触れた。すると、鋼鉄で出来た無数のトゲが左手に突き刺さった。
「いぎっ…っあ…ぐっ…」
トゲに毒も仕掛けてあったのか、ダンの左手が血まみれになり爛れていく。瓶に滴るダンの血液。水色の妖精が瓶の中から涙ながらに叫ぶ。
『アクアの事はいいからっ、ウェンティとあなただけでも逃げて!たくさんの人間がここに向かって来てる!だから早く!』
アクアの叫びを無視し、魔錠の開錠に集中するダン。
(……っ、なんて集中力と魔力、けどこのままじゃワタシとアクアが自由になっても、この子が…)
『あなた、名前は?名前教えて!早く!』
「…?…ダン。」
ダンが不思議そうに名乗ると、ダンの胸が熱くなった。
浮かび上がる風の妖紋。
『風の力を宿し者、ウェンティ。ワタシはこれより”ダン”と主従の縁のもと、主を護り、主に尽くす事を誓う』
ウェンティがダンとの強制隷属を唱えた。
『ウェンティ、それ…』
強制隷属契約、これはモモにペルがした契約同様、主従関係を強制的に結ぶものだ。妖精が行うのは稀で、ウェンティのダンを助けたい強い想いが、幼いダンに届き、拒否されずに契約は受け入れられた。
妖精の能力の一つに自然治癒能力がある。ウェンティの力を受け入れたダンの手がその力によって徐々にではあるが回復していった。ただ、魔力だけはどうにも出来ない。ウェンティの解放だけで魔力を半分消費していたダンだったが、後先考えずにそのままアクアの解放を進めている。今思えば、死ぬ気だったのかもしれない。そして、アクアが瓶から解放された時。
「ここにいやがったか、亜人のガキ…って、ここは魔錠で施錠されていた部屋だぞ、どうやって!?」
「ちょ、おい!妖精もいないぞ!!瓶が割られてる!!」
「このガキ、今回の目玉商品を逃がしやがった!頭領に報告だ!来いっ!!」
部屋の隅に隠れ、震えていたワタシ達にダンは脱出の機会を作ってくれていた。髪を引っ張られ、連れていかれる時に、ダンが〝に・げ・ろ〟と口を動かしていた。
船員達の動きが更に慌ただしくなっていく。ダンが逃がしたワタシ達を捕まえる為、同行していた妖精狩人が動き出したからだった。妖精狩人は元聖属性魔法使いだった者が多く、妖精の捕獲魔術に長けていた。次、見つかったらもう逃げられない、せっかくダンが自分を犠牲にして作ってくれたこの好機。
『ワタシ、ダンを助けにいく!』
『…っつ。』
アクアは妖精狩人が動いている事を察知した途端、怯え、その場から立てなくなってしまっていた。
『アクア、ここで頑張らないと。あんな小さな子どもが助けてくれたんだから、一緒に行こう!』
『ウェンティ…うん。がんばる…』
ダンが頭領の部屋に投げ込まれた。
「ふぅ、やってくれたねぇ、こっのクソガキが!!」
妖精の解放に魔力をほとんど使い果たした状態のダンに抵抗する体力は残っていなかった。頭領とその手下にボコボコにされるダン。
「頭領、これ以上は商品にならなくなります。」
「…っち。仕方ない。このまま牢に放り込んでおけ!航海士、モルネードまではあとどのくらいだ?」
「3日ほど。」
「亜人のガキだ。3日もありゃ傷くらい癒えんだろ、亜人は回復が早いからな。」
頭領が手下にそう指示を出した時だった。ダンがボンっと狐化し、ありったけの力を振り絞って、大荒れの海に飛び込んだ。
「おいっ、待て!!」
「だめだ頭領!ここの海域は浮かんで来れない!!」
「くっそおぉぉぉぉぉお!!」
獲物に逃げられた頭領の叫びは、高波にかき消された。
その様子を見ていたワタシとアクアも船から飛び出し、荒れた海の中、アクアの能力でダンを探した。
見つけた時のダンは人化していて、頭領達から受けた傷も酷く、衰弱していた。
それから2日後、ワタシ達はダンをモルネード王国の船着き場に引き揚げることが出来た。
そこは船着き場でも普段は使われていない廃船が溜まっていた。
『まだあの船は着いていないわ。アクア、ワタシがダンを助けてくれる人間を探してくるわ。ここは聖地サーリンゼルカのある国。誰か妖精を使役している人がいるかも!』
『ウェンティ一人じゃ危ないわ、もしまた…』
『ダンをこのまま放っておけない、アクアはダンを見ていて。こんな小さな体でワタシ達に命懸けてくれたんだから…ワタシも助けるって決めたから!』
ウェンティの確固たる意志を目の当たりにしたアクアも覚悟を決めた。
『わかったわ、ウェンティ。アクアはここに隠れているから、助けをお願い!』
ウェンティはコクリと頷くと、廃船から飛び出して行った。
以前より満足いく食事を摂れていない上に、魔力枯渇と衰弱している状態のダンも口にアクアは懸命に水を運ぶが、それを受付ける体力がダンにはもう残っていなかった。
『だめ…飲み込む力が…』
(このままじゃダンは助けが来る前に命を落としてしまう…ウェンティは強制隷属してた…アクアも守りたいっ、勝手にごめんね、ダン)
アクアは人化した。踝までのオフホワイトの髪に、ラブラドライトに輝く瞳。ターコイズブルーのVネックマキシワンピースに身を包んだ姿だ。
『水の力を宿し者、アクア。アクアはこれより”ダン”と主従の縁のもと、主を護り、主に尽くす事を誓う』
アクアはダンと強制隷属契約をすると、自身の口に創り出した水を含むとそっとダンの口に移した。
アクアが親身にダンを介抱する一方で、ウェンティは街の中で妖精を使役する人間を探し飛び回っていた。
『…見つけるとは言ったものの、そう簡単には見つからない、ううん、諦めちゃダメ!ダンを助けるんだから!』
(妖精を使役出来る人間は清らかな心と強い意志を持つ者、妖精が気に入った者、そして妖精王に認められた者。ここ最近の地上界には邪気が蔓延っている…あ!!)
ウェンティが街中を何周も飛び回っていた時、ギルドの中に入っていく少年二人の内、一人。妖精を使役した銀髪の少年が目に入った。
(話がわかる少年かどうかわからない、けど妖精が使役出来ているなら、掛けてみるしかない!)
ウェンティは心を落ち着かせる為に、一呼吸おいてからその銀髪の少年に声を掛けた。
『あのっ…!』
銀髪の少年とその使役妖精がフッとウェンティと目を合わせた。
「あ、妖精だ。シヴの知り合いか?」
銀髪の少年にシヴと呼ばれたその使役妖精はフルフルと首を振った。
「そうか。で、どうしたんだ、そんなに慌てて?俺に何か…」
『突然すみませんっ、助けて下さい!』
ワタシは銀髪の少年に、自分の身に起こった事、助けてくれた亜人の少年が瀕死の状態であることを話した。
「わかった。ラインハルト、ギルドの清算は後にしよう、まずは付いてきてくれ!」
「あ、ああ。」
銀髪の少年はすぐさま、一緒にいた少年に声を掛け、ウェンティに案内されるままアクアの待つ廃船だらけの船着き場に駆け付けてくれた。そして少年達が目にしたのは、傷だらけで憔悴しきった少年だった。
「――――――っ、ひどい状態だな、このまま運ぶのは目立つ、何か…」
銀髪の少年は収納魔法からひょいと毛布を取り出し、手際よくダンを毛布に包み抱き上げた。
「…軽いな…。あっと、俺はラウル、こっちは大地の妖精シヴ。それから妖精みえないけどいい奴、俺の友達ラインハルト。」
「…紹介の仕方…」
『ワタシは風のウェンティ、こっちは水のアクア。そして彼が亜人のダン。狐って言っていたわ、助けてくれるの?』
ウェンティが不安そうにラウルを見る。
「当たり前だろ、とにかくリンツのとこに運ぼう。裏口からなら目立たないはずだ。」
『ありがとう。』
それから一日遅れて奴隷商船がモルネード王国に入港した。目玉商品を逃がした頭領がギルドにダンの特徴を記載した捜索依頼を出した。実は妖精の売買はモルネード王国では御法度になっていたからである。しかし、その依頼もすぐに取り下げられる。
奴隷制度反対を訴える貴族達の声が多いモルネード王国では、制度撤廃すべく奴隷商船内を調査する調査師団が立ち上げられ、そこで妖精の売買と妖精狩人の存在が発覚したからだ。奴隷商船の頭領達は重い処罰を受け、入国禁止の措置を受けた。
『ダンはというと、ラインハルトの治癒魔法で体の傷は癒え、体力もすぐに与えられた食事で回復した。ラインハルトがオンワーズ医務局長に診せた時、亜人を診るのは初めてだがと前置きし、その診断は狐化では30歳前後、人化した場合の精神年齢は4歳との診断だった。慣れない環境に置かれ、ダンはそれからしばらくは狐化、人化が安定せずだったんですが、ラウル様に次第に心を開き、過去を打ち明けようやく安定し、心も成長し始めた頃にモモ様に出会ったのです。』
「そう…だったんだ…。」
『だから、ダンを記憶の混乱から回復させられるのは、ラウル様だけじゃないかと…』
「…でも、だからってラウルを待つ間、このままダンを放っておけないわ。」
ダンの記憶が激しく揺さぶられる。奴隷の時期、モモとの出会い、ラウルとの出会い、ウェンティとアクアとの出会い……自分が何故魔人に囲まれているかもわからないまま、ダンは自分に敵意を持つ魔人達に剣を振るい続けた。
「……っ、なんなんだ、はぁ…なんでおまえら俺を狙うんだ?」
ダンはそう魔人達に問いかけると、頭を押さえ片膝を地につけてしまった。
「理由なんざ知らなくていいんだよ!!お前は邪魔な存在ってこと以外はな!」
(〝邪魔な存在〟…俺は…)
そう魔人達がダンに飛び掛かった時、数十本の光の矢が魔人達を襲った。
「ぐあぁ!!」
「ぎゃっ!!」
「なっ!?どこから…っ」
「お、屋上だ!聖蛇の娘、あんなところに!!」
クバリーも、モモの居場所を確認するも、手を出す様子は見せず、ただ観察していた。
「ダンが邪魔なわけないでしょ!!あなたたちには邪魔でも、私にとっては、とても大事な子なんだから!手を出さないで!!」
建物の屋上から普段は守備に徹するウェンティが風〝かまいたち〟で魔人達を攻撃し始めた。
『ダンは、いい子なんですからね!!』
「ぎゃあぁぁあぁぁ!!
ダンの目に緑色の妖精が映った。
そしてモモがウェンティの力を借りて、太ももに仕込んでおいたナイフホルダーからペル特製ナイフを三本、魔人目掛けて投げつけた。
ドドドッ!!
ナイフは魔人達の胸に命中した。
「ぐあぁぁぁぁ!!ク…クバリーさまっ、たすけ…」
ダンを襲っていた三人の魔人は灰と化して消えた。その灰の中から、カランと落ちるナイフを回収するモモは再びナイフホルダーに収めた。
「モモ…アナタ強くなったのね…」
リンツが残り二人の魔人相手にしながら、モモの戦いを見ていた。
「よそ見してるとは余裕だなぁ!!死ね!!」
「くっ…」
(これが、ラウル達が言っていた魔人…なんて力なの…確かに接近戦は分が悪いわね…)
リンツが追いつめられている、その周りには逃げ遅れている街の人々の姿が。
(これじゃ破邪のカウスは使えない…けどこのままじゃリンツさんが、なんとか…は!!金の指輪!そうよこれでラウルを呼べば…)
モモが気付いた時に既に遅かった。モモの右手をクバリーが背後から掴んだ。
「あっ…放して!!」
「おいたはここまでだよ、聖蛇の娘。その金の指輪で何かしようとしているんだろ?これ以上は俺も笑っていられない。」
『大変っ、モモ様が…ルキスっ』
『ここでモモ様が連れて行かれてしまったら…ラウル様はまだなの!?』
『モモから離れなさい!!』
ルキスは浄化の光をクバリーにぶつけた。
「…っ!!」
一方その頃、王都ラダンディナヴィア、北西の一角。ポートマン公爵の敷地内でトロール三体の討伐に当たっていたラインハルト達。
ラインハルトが聖剣〝クレイヴ・ソニッシュ〟に魔力を込め光の斬撃を飛ばした。
作戦通りモヤが怯み、トロールの防御力が落ちたところを空からキングイーグルに乗ったポッチェとイーサンが、下からナナとトルチェが。
「今だ!!」
攻撃を仕掛けた。イーサンの槍が、ポッチェの正拳突きが、ナナの斬撃が三体のトロールを仕留め、トルチェの〝クリムゾン・エクスプロード〟が炸裂した。
ズズズゥン…
トロール達が倒れたところで、頭頂部の第三の目に再びラインハルトが、聖剣にありったけの魔力を込め光の斬撃を浴びせた。
「はぁ…はっ…やったか…?」
「は…い、殿下、第三の目も消滅してます!」
「ポッチェ!おまえの作戦すっげーな!!」
「いや、殿下がいなきゃダメだったよ…」
「私は聖剣が見れてうれしかったわ!」
「……なんでそんなに元気なの、ナナさん…」
トロール討伐にぐったりな男性陣に対し、まだまだ元気余っているナナとトルチェ。しかし、ここで足を止める訳には行かない。ラインハルトはすぐに近衛師団に指示を出し始めた。すると
「殿下!!大変です!!」
近衛師団の一人が殿下の前に馳せ参じた。
「どうした?」
「現在、東門付近市街地で魔人と思われし者達が現れ、ダン様や、も、モモ様が応戦されています!」
「なに!?こっちは魔人達の布石だったのか?とにかく、ここの処理はバズフォード団長に任せる。動ける者は至急東門へ!!」
ラインハルトの指示に近衛師団と聖属性魔法師団が次々に馬を走らせ現場へ急行する。ポッチェは持っていたビアの実とサランの朝露を収納魔法から取り出した。
「みんな、人数分ないけど、これを。」
「私はまだ大丈夫よ、男性陣で分けなさい。」
「私も魔力は十分残ってるわ、ありがとうポッチェ。」
イーサンとポッチェ、そしてラインハルトが全快した。
「みんな、連戦悪いがモモ殿の死守を頼む。行くぞ!!」
「はい!!」
お読みいただき、ありがとうございます。
至らぬところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
キャラメモ ★ルキス★
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