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ラインハルトの戦い②

 私はアメリア・ポートマン。モルネード王国で貿易、商業関係を一手に担っている公爵家の一人娘。私には親友がいる。その娘の名は、ジャスミン・フロリア。

フロリア公爵令嬢、ジャスミンは体が生まれつき弱いものの、容姿端麗で頭も良く、所作一つ絵になる花の様な女性。それは私の自慢だった。

彼女とは親同士が仲が良かったのをきっかけに、幼い頃からずっと一緒にいた。それがいつからか、距離を置かなければならない存在になってしまった。ジャスミンがモルネード王国、ラインハルト王子の婚約者に選ばれたのである。


 それからというもの、仲が良かった親同士の関係にも亀裂が生じ、私は何かとジャスミンと比べられる様になってしまった。そんな両親、侍女、執事、周囲の人々の視線を気にしながら苦しい日々を送ってきた私の前に世界を旅しているという商人が現れた。その商人が用意する商品は珍しいものばかりで、また占いにも詳しく、特にタロットカードは私の現状を不思議なくらいよく当てた。

ただ、その商人は過去に負った火傷がひどく、顔を明かせないと黒いフードをいつも被ったままだったが、それも気にならなくなるくらい、商人の話は面白く、いつしか毎週の様に会う様になっていた。


 そんなある日の事だった。


「親しい者との別れ…ここ最近何かありましたか、アメリア様?」


商人に隠していた気持ちに気付かれてしまった。


「あはは、本当に貴方の占いは当たるわね…

ええ、親友が王子の婚約者に決まったの。それから、同じ公爵家でも優劣が生まれてしまって、しばらく会えていないわ。…体の弱い子で、元気にしているかしら…。」

「親友でしたか…。アメリア様は、そのことを何も気にされていないんですか?」

「え?」

「同じ公爵家なんですよね?アメリア様が婚約者に選ばれる事もあったのでは?」

「あ、まさか…それにもう決まった事だもの。私は婚約者とかに縛られるよりも自由でいる方が性に合っているわ。」


コンコン


その時、侍女がお茶を持って入ってきた。そのお茶を一口、アメリアは口にした。


「いやぁ、貴女の様な凛とした花が選ばれないとは、王子も何を見ているんでしょうね。私は貴女こそが婚約者に相応しいと思いますよ。」

「…わたし…が…、ごめん、なさい、なんだか眩暈が…」


私は椅子の背にもたれ掛かる様にして意識を失った。

その日を境に、私はその侍女の入れるお茶しか体が受け付けなくなってしまった。定期的に飲まないと不案になってしまう。自分の気持ちに、そんな黒い部分があったなんて…知りたくなかった。

けれど、日を増すごとにその気持ち、決して親友に向けたくなかった気持ちが溢れてくる。


―――私の方が、殿下の婚約者に相応しい。体の弱いジャスミンに王妃が務まるわけがない。なぜ、殿下は私を選んで下さらなかったの?もっと美しくならないと?国政について学ばないと?…周りの視線が痛い。早くラクになりたい…どうすれば…―――


「ジャスミン令嬢を殺せばいいんですよ。」


―――え―――?


暗闇の中で私に掛けられた言葉、声はあの商人のものだった。


「私が貴女様の願いを叶えてラクにして差し上げます。」


―――私の願い…―――?


「最近不安になるお気持ちはいかがですか?あのお茶が落ち着くと言っていましたね、実はもっと良い果実酒を用意しました。気持ちがラクになりますよ。」


この時私が商人から受け取ったのは毒々しいピンクの液体の入った瓶だった。


―――これは…?―――


「はは、色こそエグいですがとても飲みやすい果実酒です。貴女様の不安を取り除きますよ。」


―――これを飲めば…もうジャスミンに酷い気持ちを抱かない私に…戻れる―――?


パリィン


果実酒を口にしたアメリアが瓶を手から放してしまった。


―――くるしい…この湧き上がる殺意は…どう…して―――


「貴女も中々芯の強い人間ですねぇ。」


―――!?―――どう、いうこと、クバリー?


「まぁ、貴女はもうこの〝サンツグリア〟の中毒者です。ここまで飲ませても中々ジャスミン令嬢を殺せないとは、恐れ入りました。仕方ない、私が動きましょう。

アメリア様を離れに。」


私は意識が朦朧とする中、侍女達の手によって離れに監禁された。表向きは両親への反抗期となっていた。食事も両親と摂る事はなくなり、侍女が離れに運んでくる。必ずあの〝サンツグリア〟と共に。


―――ジャスミンを殺せ、頭の中で醜い私の心が囁く。でも、私は、私にはたった一人の大事な親友…

誰か、助けて…――――



「アメリア!!」


ラインハルトの声で、はっと、アメリアの目が正気に戻った。


カランカラン…


アメリアは握っていた魔石のナイフを手から離し、その場に崩れ落ちた。だが呼吸が整わない、過呼吸の状態だ。


「結界の破壊はまだか、イーサン!?」

「申し訳ありません殿下、何重にもなっていて…っ」


結界の外ではイーサンが槍先に魔力を集中させ、ポッチェの見つけた結界の歪みを破壊にかかっていた。

それを邪魔せんとサーヴァント、クバリーが出現させた瘴気の陣から次々とブラッドウルフがラインハルト達を襲う。


「むんっ、こいつら強化されている、皆気をつけろ!」


前衛を務めるバズフォードが全員に注意を促す。結界を背に陣形は、先頭でバズフォードが防御障壁を展開、その後ろにシズウェル、ポッチェ、ナナ、そしてアイクとラインハルトが全員に攻撃力強化、防御力上昇、魔力消費軽減、状態異常耐性をかけた。


結界外の状況を見たクバリーは舌打ちした。


「あの王子、白魔法使いだったか…誰だよただの剣士だっつったのは、ブーゲンか?これじゃ、ブラッドウルフだけじゃ分が悪い、もう一種呼び出すか…?」


その時だった。過呼吸状態にあったアメリアが再びナイフを手にした。


「ああ、アメリア嬢。やっと心が決まりましたか?」


ナイフを両手で握りしめるアメリアがフラっと立ち上がる。


「アメリア!!よせ!!」


ラインハルトが声を嗄らせながら叫ぶ。その行為を鼻で笑うクバリー。


「さぁ、貴女こそがこの国の王子の婚約者に相応しいのです。もう惨めに比べられたくはないのでしょう?周囲の目が痛いと言っていたではありませんか、さぁ、もう苦しまなくていいようにジャスミン令嬢を一思いに。」


アメリアに囁くクバリーの視線がニヤリとラインハルトに向かう。


「くっそ、このままじゃ…」


回復魔法を唱えながらラインハルトはイーサンに魔力譲渡を行った。

すると、結界にヒビが入った。バリバリと音を立てて亀裂が伸びていく。


 クバリーの囁きを耳にした、死神に捕らわれているジャスミンがアメリアに向けて一言口にした。


「…ごめ…んね、アメリア…」

「え…」


ジャスミンの瞳から涙が一粒零れ落ちた。頬を伝い終えた涙が金色に変化し、床に落ちた時それは結界内一面に広がった。その光に怯むブラッドウルフ達。


「なっ、なんだ!?この光っ」


眩い光が結界内を覆った。そしてその光はアメリアを包み、〝サンツグリア〟の与えていた中毒をみるみる浄化していった。

邪気を払われたアメリアが正気を取り戻していく。


「…あ…」


その様子を目にしたクバリー。そしてラインハルト達。


「イーサン!力が足んないのよ!!」

「へ?」


ナナがイーサンの槍をガッと掴むと、そのまま力業で結界の歪に槍を突き刺した。


バリィィン!!


結界がイーサンの魔力とナナの怪力によって破壊された。バズフォード達が一気にブラッドウルフ達を片付けていく。しかし、瘴気の陣はまだ浄化されていなかった。


「ちっ、こいつただの聖女じゃなかったか!浄化の涙…ここで殺すっ」


ドズン


その音に、一瞬時が止まった様にラインハルト達の動きが止まった。


「…な…に?」


ジャスミンも目の前で起きた事に驚きを隠せなかった。


「アメ…リア…貴様…」


アメリアが握りしめた魔石のナイフでクバリーの胸を刺したのだった。


「公爵令嬢は刺せないとでも思ったのかしら?私はそんな淑やかじゃないのよ。

よくも私の親友を、私の心をもてあそんでくれたわね、クバリー。」

「ぐふっ…っあ、小娘が、魔人クバリーをなめるな!」


ドンっとクバリーはアメリアを振り払うと、アメリアを捕えさせていた死神を操り、死神が鎌をアメリア目掛けて振り下ろした。


「―――っ!!」


それを寸でのところで止めたのは、剣を抜いたラインハルトだった。続いてバズフォードが死神にとどめをさした。それと同時に捕らわれていたジャスミン令嬢もナナ、イーサン、シズウェルに助けられていた。


「で、殿下…私は…なんてことを…」


アメリアはラインハルトを前に顔を両手で覆い、涙を流した。


「私こそ、すまない。こんな事になっていたとは気付けず…だが、心を侵されてもジャスミンを親友という気持ちを忘れないでいてくれた事、礼を言う。」


ラインハルトはアメリアにそう言うと、ふっと笑顔を見せ、シズウェルに介抱されたジャスミンの元へ向かった。


「ジャスミン、大事ないか?」

「殿下…殿下もご無事で、アメリアは?」

「ああ、大丈夫だ。」


バガッ、ガガンッ!!


クバリーを取り押さえていたイーサンとポッチェが壁に吹っ飛ばされた。


「はぁ、は…この俺が追いつめられるとは、油断した。だがこの傷も所詮小娘の力、深くはない。

その聖女も所詮は聖蛇の化身には及ばないわけだ。あの涙には驚かされたが、瘴気の陣までは浄化できないみたいだな。

ゲームこそ俺の負けだが、王子の首はどうかな?」


そう言うとクバリーは、何かを唱えその場から姿を消した。


「な…どこへ!?」


ズンズン…ズンズズン…


「殿下!!フィールドが…!!」


クバリーが姿を消した事によって、離れに展開されたフィールドが消え、その場に残ったのは瘴気の陣と新たに姿を現した3体の魔物。


「ト…トロールっ!」

「しかも、青目、こいつは竜巻を起こす個体だ!」


シズウェルとアイクが青ざめた。瞬時にラインハルトが指揮を出す。


「シズウェル!令嬢二人の避難を!バズフォード隊長は民衆の避難を優先に、ここは抑える!!」


ラインハルトの指示にナナ、ポッチェ、イーサン、アイクが声を揃えた。


「はい!」



 王都ラダンディナヴィアの一角、ポートマン公爵家の敷地が戦場と化した。

暴れだすトロール3体。この事態を一早く察知したのはギルド管理人のリンツだった。


「大変だわ、こんな時にラウルとダンはどこに行ってるのよぉ!アタシ伝波鳥飛ばすの苦手だけど、この際仕方ないわ。」


リンツは魔力で伝波鳥を用意し、言い聞かせた。


「ダンでも、ラウルでもどっちでもいいわ、早く王都に戻ってと伝えて!」


伝言を受け取った伝波鳥は空高く消えて行った。























お読みいただき、ありがとうございます。

至らぬところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

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