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ラインハルトの戦い①

 シャッとカーテンを開ける音が室内に響き、柔らかい日差しがカーテンを揺らす風と共に注ぎ込む。


「おはよう、モモ。よく休めたかい?」


村長の妻ヨルダが元気よく声をあげた。


「おはようございます、ヨルダさん。あ、私寝すぎて…」

「そんな事ないよ、今朝食の仕上げをサラスがしているところさ。みんなで食べたら美味しいだろう?さあ、着替えて下りておいで。」

「はい。」


モモはささっと着替えを済ませ、身支度を整えると、隣の部屋からヨルダの声が聞こえてきた。隣はラウルとダンが休んでいた。


「ほら!ラウルにダン!いつまで寝ているんだい?朝ごはん食べ損ねるよ、早く起きなさい!」

「ふぁ…ぁ…い…ぐぅ…」

「コラーーーー!」


ダンとラウルは、とにかく朝が弱いらしく、放っておくと昼過ぎまで平気で寝ていると、王都のギルド管理人リンツが話してくれた事をモモは思い出しながら苦笑していた。



 身支度を整え、階段を下りていくと村長宅 侍女サラスがモモに気付いた。


「モモ様、おはようございます。朝食の支度整っていますよ、どうぞ。」


食卓にはすでに、村長アドフォード、そして朝食に招待されたギルド管理人カイドにロイド、ジュウトが席に着いていた。


「おはようございます、みなさん。」

「おはよう、モモ。」

「さあ、ダンとラウルはおいて、いただこうか。」


アドフォードがそう声をかけると、焼き立てパンが各お皿をに乗った。

他にもサラダにシチュー、キッシュと、どれも頬か落ちるくらい美味しく、変哲もない話題で食卓は盛り上がった。


「ところで、これからどうするんだい、モモ達は?」


ヨルダがデザートのプティングを取り分けながら声を掛けた。


「えっと…。」


そうモモが言いかけた時、二階からラウルが下りてきた。


「モモは今日一日ゆっくりしていいぞ。俺とロイド、ジュウトは勇者ヴァン達の身に起きた事の検証と情報整理だからな。」

「そうかい、じゃあモモ、以前命を救った隣村マピチュのテオがお礼を言いたがっていたんだよ、モモさえ良ければ会ってやってくれるかい?」

「はい、ぜひ!」

「ありがとう、村のこども達もお姉ちゃんとモモを慕っていたからね、みんな遊びに行ったら喜ぶよ。で、ラウル、ダンは?」


ヨルダのひと睨みにラウルは目を瞑った。その様子にやれやれとヨルダは一息ついた。


「ああ、マピチュ村に行く時はダンを護衛に付けて行くんだよ、モモ。」

「うん、ありがとうラウル。」


(テオは、この世界に来て最初に瘴気の陣を浄化した時に助けたこどもだったけど、テオも含めてみんな元気にしてるかな…と、そういえば、あの時現れた白い龍、ニーズヘッグ…だったかな。あの龍はどうなったんだろう…)


モモはそんな事を思いながら、朝食をペロリと平らげた。



 一方、王都ラダンディナヴィアでは、公爵家ポートマンの屋敷で王子ラインハルトの指揮の下、ラインハルト直属パーティーと騎士団による家宅捜索が秘密裏に行われていた。

ポートマン公爵はモルネード王の従弟で、資産家であり、モルネード王国の貿易、商業関係を一手に担っている。しかし、聖女モモに危険を及ぼす存在と疑いがかかり、公爵は身柄を拘束されてしまった。


「ラ、ラインハルト殿下!私や私の家族が一体何をしたと!?これは殿下の独断行為ですか?王は知っているのですか??」

「すまない、叔父上。事は急を要する。王も承知の件です。

アメリア令嬢はまだ見つからないのか!?」


騎士達は首を振るばかり。


「殿下、アメリアが一体何をしたと…?」

「正確には〝した〟んじゃない。何者かに操られていると考えている。叔父上、アメリア嬢の居場所に心当たりは?」

「最近ろくに顔を合わせてくれなくて、食事も部屋で取ったり、屋敷にいないのであれば…」


すると、同じく騎士団に拘束を余儀なくされたポートマン夫人がラインハルトの前に出た。


「殿下、発言をお許し下さい。」

「許可する。」

「実は数か月前、アメリアに近づく黒いフードを被った者を見たと侍女が言っているのを聞きました。その怪しい者はアメリアに何かを渡し姿を消したと。」

「なんだと?」


ポートマン夫人の後ろから、侍女が2人、姿を見せた。


「聞かせてもらいたい。」


侍女の一人が一歩前に出て話し出す。


「は、はい。アメリアお嬢様はこのところ占いにご執心で、ある貿易商から占いに使う道具だとタロットカードを受け取っておりました。それと液体の入った小瓶を数本。その液体を口にして占うと効果が高まるとか…けれど、口にしてからどんどん温厚なアメリアお嬢様の様子が、気性が荒くなっていきました。

お嬢様が席を外した時にこっそり見たそのカードは〝死神〟のカードでした…」

「死神…だと?」


その事実を耳にしたポートマン公爵夫妻とその場にいた騎士達、そしてラインハルトは驚愕した。


「それで、アメリア嬢は今どこに!?居場所に心当たりは!?」


ラインハルトが焦りをみせた。しかし侍女は口を噤んでしまった。そんな侍女をみたポートマン公爵が侍女を諭す。


「何を隠しているんだ?アメリアに何か言われているのか?悪いようにはしない、話してくれ。」

「……っはっ…」


口を噤んでいたと思っていた侍女が突然首を押さえ苦しみ出し、その場に倒れた。


「きゃあ!!」

「口封じか!?

時間がない、先日城下で起きたギガンテス襲来事件、あれに相当する危機が今モルネードに迫っている。それに関連している輩の件であれば、アメリア嬢は確実に死ぬぞ。」

「そんな…アメリア…」


ポートマン夫人は騎士に支えられながら体勢を崩してしまった。


「一体何がモルネードに起きているのですか、殿下?」

「今は、それよりアメリア嬢の居場所だ。叔父上の執事に魔人化した者がいた。その者はもう捕えたが、

王宮にて不審な行動をとっていた事を何人もの使用人、貴族が目にし証言している。これがどういう意味かわかるだろう。その執事がアメリア嬢に命じられて、と口にしたそうだ。」

「魔人化…?―――! あの、もしかして、ピーニャコルダから来た…?」

「ピーニャコルダから?」

「はい、今ピーニャコルダは軍部が政治を動かしている、治安が不安定であり故郷を追われて、ここモルネードに来たという者を大変優秀だったので執事にしましたが…度々王宮には私の書類を届けさせに行かせていましたが、アメリアには付けていなかったはずなのに…?」


その時、騎士の一人が慌てて部屋に駆け込んで来た。


「申し上げます、殿下!離れに隠し部屋を見つけました!!」

「!! それで、アメリア嬢は!?」

「それが、結界らしきもので仕切られ、奥にいるアメリア嬢に近づけません!部屋にはアメリア嬢の他に二人の誘拐されたと思われる聖女の姿も確認出来ました!」

「わかった、報告ご苦労、シズウェル!!」


ラインハルトが家宅捜索に同行させた騎士団長シズウェルの名を呼ぶ。


「は、御前に。」

「すぐに離れにいくぞ。ここは第二騎士隊長アドルフに指揮を任せる。」


ポートマン公爵を拘束していたアドルフはラインハルトの指示に頷いた。


「結界解除とは厄介だな…」


ラインハルトは移動しながらポツリと呟いた。


(今はモモ殿も、ラウル、ダンもいない…妖精を使えないとなると…)


その時だった。同行者の中にいた、王子直属のパーティーに加入した槍使いイーサンがラインハルトの〝結界解除〟の言葉を聞き逃さなかった。


「殿下、結界解除は出来ませんけど破壊ならテイマーのポッチェと出来るかもしれません。」

「本当か、イーサン?」


イーサンがポッチェに目を合わせると、ポッチェはコクリと頷いた。


「今ここにいる4人、アイク、ナナとオレにポッチェの中でポッチェが一番魔力コントロールやサーチに長けてます。ポッチェが結界の歪を探し出し、オレがそこを槍で突いて結界を破壊する作戦です。」

「わかった、頼む。」


ドゴォォン…!!


結界破壊の作戦を固めた時、ラインハルト達の後にした屋敷の部屋が爆発した。


「なっ…!?」


ラインハルトが襲い掛かる爆風を腕でかわした時だった。


ドンッ!!


「……え…」


イーサンの隣についていたポッチェが叫ぶ。


「イーサン!!」


ドサッ……


「イーサン!?」


突然その場に倒れたイーサン。背中には刃物で刺された跡が。

その爆風に隠れていたのは。


「おまえっ」

「邪魔はさせないよ、モルネード王国、王子ラインハルト。お前の命も私がいただく。」

「殿下、下がって。アイク、イーサンを。」

「うん!!」


 ラインハルト達の前に現れたのは、さっき苦しそうに倒れた侍女と一緒にいたもう一人だった。しかし、顔色が死人の様な青白い女の魔人となっていた。


「殿下!こいつが!」


シズウェルが魔人の女に剣を向けた。


「…攫った聖女の血を飲んでいたのはおまえもか?本当に見分けが付かないほど青白い肌を隠せるんだな…アメリア嬢をどうした!?」


ポッチェとシズウェルがラインハルトの壁となり、女の魔人から距離を置いた状態で問いただす。女の魔人はイーサンを刺した血の付いたナイフを舐めた。


「フン、まずい。やはり飲むのは聖女に限る。あの女は聖女ではないからな、ただその野心深い心に付け込んでワタシの隠れ家に利用させてもらった。殺してはいないが、精神は崩壊しているかもな。」

(アメリア嬢が野心深い…?)

「…何が目的だ?」


女の魔人は、ペっと血の混じった唾を血に吐き捨てた。


「お前たちがその存在を隠している、聖蛇の化身。そいつを渡せ。王宮で匿っている情報は掴んである。アイツは失敗した。」

「…?アイツ…王宮に潜んでいた侍女の事か?失敗したって事は、モモは無事なのか。」

「モモ、まぁ名前なんてどうでもいい。聖蛇の化身を渡せ。そうすれば、あの娘も攫った聖女達も王子、お前も見逃してやってもいい。」


女の魔人はバキバキと指の骨を鳴らす。

そんな女の魔人を騎士達が取り囲み、ジリジリと間合いを詰める。


「聖蛇の化身もアメリア嬢も聖女達も、渡す気はない。」

「―――なら、死ぬがいい!魔人の力をなめるなよ!でくの坊が何人集まろうとっ!!」


女の魔人は、左足を軸に右足で一回転、空中を蹴った。すると爆風が起き、その風圧に取り囲んでいた騎士達は押し飛ばされた。


「わぁぁ!」

「ぐぁっ!」


体勢を崩す騎士達、ラインハルトの壁であるポッチェとシズウェルの怯んだ隙を見て、ラインハルト目掛けて女の魔人は特攻しようと駆け出そうと踏み込んだ。ところを


ガッ


踏み込んだ足に何かが突っかかり、勢い余ったまま地面に女の魔人は倒れ込んだ。


「くっそ!なに…」


女の魔人の背後に立っていたのは、ラインハルト直属パーティーの一人、剣士ナナだった。


「そんなに早く王手取れるとでも思ってるのかしら?」

「このアマァ…」

「魔人はお口が汚いのね。ここは私に任せて、殿下達は離れに早く!」

「行かせるわけねーだろ!ブス!」

「ブ…?」


女の魔人はナナに蹴りを入れるが、ナナも剣を盾に直撃を交わし、鞘から剣を抜き一閃。女の魔人の頬を斬撃がかすめた。


「……っ!」

「殿下、さっきの屋敷の爆発もこの魔人の仕業です。侍女の口を封じたのも。」

「――――――!」

「私はこいつを片付けます。ポッチェ、殿下を頼むわ。イーサンもアイクが回復させたら向かわせる。」

「わかった、ナナ!」


ポッチェはナナに麻袋を投げ渡した。受け取ったナナは、麻袋の上から触れた感触で中身が何か察知した。


「サンキュ!」


ナナは八重歯を見せながらニカっと笑った。


「殿下、急ぎましょう。」

「あ、ああ。だが、ナナは大丈夫か?」

「大丈夫です。あの魔人、ナナを怒らせましたから、きっと骨も残らないですよ。」

「骨も……?」


ラインハルト、シズウェル、ポッチェは屋敷の離れに急ぎ向かった。

先ほどの爆発で秘密裏に行う家宅捜索の予定が狂い、街がざわつき始めた夜明け。朝日が昇り始めた頃にはもう騒動を隠しきれないほどの民衆の姿が、ポートマン公爵の屋敷付近にあった。事態は当然、モルネード王の耳にも入った。



――モルネード城・王の間――


「…ラインハルトは間に合わなかったか。ラッツィ宰相、バズフォード団長に民衆を任せよ。」

「近衛師団長を行かせるのですか?」


ラッツィの言葉にモルネード王は耳を貸すことはなかった。


「御意に!バズフォード団長に至急民衆を鎮めよと!」


ラッツィの指示を受けた待機していた近衛騎士は敬礼すると、すぐに王の間を後にした。

 

 伝令の近衛騎士が向かった先は近衛騎士専用の訓練場。まるで闘技場の様な造りで近衛騎士の訓練は民衆が自由に見学出来るようになっていた。騎士の中でもエリート集団であるこの近衛騎士達を統括する団長の姿が、騎士達の中心にあった。まるで獅子の様に燃える赤い髪に、2メートルを超す長身に鍛え抜かれた体躯。鷹の様に鋭い目力を持つ男だった。


「団長、バズフォード団長!」

「どうした、慌てて?」

「王命です!」

「…ほう。」


伝令の近衛騎士は息を整えると、敬礼し王命をバズフォード団長に伝えた。


「民衆の野次を鎮めろね。まぁ、義兄上の命令じゃ仕方ない。15人ほどついて来い。城下に行くぞ。」


 バズフォード近衛師団長、現モルネード王ブラスベルトとは母が違う義兄弟。齢50に近い二人の決定的違いは種族だった。ブラスベルトの母は人間だったが、バズフォードの母はオーガという角を2本生やした人間の姿をした力が人間の3倍、体躯は女子でも180センチほどある赤髪の種族だった。種族の違いで王位継承権は無いものの、体力の衰え方が人間とは違い遅くまだまだ現役のイケオジだ。


 騎乗したバズフォードは更にその存在感を増す。近衛師団の旗は深紅に金淵の刺繍で目立ちそうだが、旗よりもバズフォードの獅子の様に燃える赤い髪に騎乗する赤毛の愛馬もバズフォードに負けず巨体だ。

旗持ちの騎士が小さく見えてしまう。

バズフォード達が城下、ポートマン公爵の屋敷に向かう道中、騒ぎを聞きつけた野次の民衆、貴族らが彼の姿を目にすると、おずおずと家や屋敷に引き返して行った。


「バ、バズフォード近衛師団長だ!!」

「かっこいい!」


そして、近衛師団がポートマン公爵の屋敷に着く頃には、野次達の姿は一時より遥かに少なくなっていた。そんな野次の貴族の一人が近衛騎士に尋ねた。


「夜明け頃に、ポートマン公爵の屋敷からすごい爆発音があって、一体何が起こっておるのか騎士の方々は答えてくれなくて。」


貴族達は自身の地位をいかに高めるか、他者をどう貶めるか、権力争いにはこのポートマン公爵の事件は恰好のネタだった。しかし、その貴族の問いにサラッとバズフォードが答える。


「ああ、なんかド派手な夫婦喧嘩みたいだぞ。」


!!?


その場に残っていた、野次の貴族、民衆、近衛騎士達も同反応。


「い、いやいやまさか、いくらド派手とはいえ爆発はしないでしょう?はは」

「ん?私の情報が嘘だと?」


バズフォードが騎乗から貴族の男をひと睨みする。その鷹の様に鋭い目が貴族の男を突き刺す。

呼吸をすることさえも許されない空気になった。


「―――――っ、い、いえ、そ、うだったんですね!!失礼しましたぁぁ!」


貴族の男を筆頭に、野次達はバズフォードの一言で蜘蛛の子を散らすように現場から退散していった。


「ふん、たいした仕事じゃないな…って、あそこにいるのは…?」




ザザザッ


ポートマン公爵の屋敷内の庭では、女の魔人と剣士ナナが激闘を繰り広げていた。


「そ、の力…お前、本当に人間か…?」


力のぶつかり合いでは確実に魔人の方が人間を上回るはずだったが、いずれも相打ち。おかしいと思った女の魔人はナナに疑問をぶつけた。するとナナは被っていた帽子を脱いでみせた。頭には小さな2本の角が。


「その角…まさか、オーガ族…?」

「そのまさかよ。オーガ族のナナ、魔人なんかに力負けしないわよ?」

「っち…ここでこんなに時間を取られるとは…こんなブスに。」


女の魔人の言葉にピクっと尖った耳を動かしたナナ。実はナナは〝そばかす〟を気にしていた。魔人の言う〝ブス〟に異様に反応してしまう。


「アイク、イーサン。ここから離れないと巻き沿いくらうわよ。」

「へ?」

「もうイーサンの傷、全回復じゃなくていいから行って!」


ナナの怒りの声に、アイクとイーサンは若干ダメージ残りつつも立ち上がり、離れに向かおうとした。


「行かすか!ブスもお前たちも消えろ!!」


女の魔人がアイクとイーサン目掛けて突っ込んで来た。が、


「さっきから黙って聞いていれば、ブスブスうっさいのよ!!私だって気にしてんだから〝そばかす〟!!わかってんのよ―――――!!」


ドッゴォォォォン!!!


ナナは剣を捨て、空高く飛び上がり拳にオーガの持つ力と魔力を合わせて、女の魔人目掛けてパンチを繰り出した。その一突きを魔人は防ごうと防御するも、魔人の体にパンチはめり込み、地面にクレーターが出来た。


「―――――――!!」


その結末を見ていたアイクとイーサンは二人抱きしめあい真っ青。

女の魔人に意識は無かった。そして小さなガラスが砕ける音がしたと思ったら、女の魔人は足から灰化していった。


「…灰…てか、そこの二人は何してんのよ?さっさとポッチェと殿下追いなさいよ。私も後から行くから!」

「は、はい!!」


アイクとイーサンはラインハルトが向かった離れに駆け出し、その場を後にした。

ナナが埃を払い、剣を取りに向かうとそこには。


「パ…パパ。やだ、見てたのっ?」


ナナの剣を持ったバズフォードが立っていた。


「魔人を倒すなんて、強くなったな。今ランクは?」

「まだ、Aだよ。」


するとバズフォード側近騎士の一人が口を開いた。


「こちらのお嬢さん、近衛師団長のご息女でしたか…どうりでお強いわけだ。」


ナナはバズフォードから剣を受け取ると、装備し直した。


「パパ、私行かなきゃならないから、ここよろしくね!」

「あ、パパも行くから。」


師団長…〝パパ〟似合わねー…


「ん?なんだお前たちの目は?俺の顔に何か付いているか?」

「い、いえ!こちらの指揮は我々にお任せを。団長は殿下をお願いします。」

「ああ。」



―――ポートマン公爵、屋敷離れ―――


「な…んだ、この重い空気、青黒いモヤは…」


モヤを吸った騎士達が何人も離れのそばで倒れていた。


「ぐぅう…」

「おい、しっかりしろ!」


倒れている騎士の意識のある者の体を起こし、ポッチェが呼びかけた。


「で…殿下、はぁ、ここは危険…で…」


そう言い残し、騎士は意識を失った。


「……俺が聖水を使って中を見てきます。殿下とシズウェル様はここで待機を。」


ポッチェがそういうと、収納魔法から聖水の小瓶を取り出した。それを撒こうとした時だった。


「待ちなさい、その聖水は私の防御障壁内で使いなさい。」


ラインハルト達が振り向くとそこには


「バ、バズフォード近衛師団長!…では陛下が…」


冷静を保っていたラインハルトだったが、近衛師団長を陛下が動かした事を受け、陛下が事態の早期収束を望んでいる事を察知せざるを得なかった。

ラインハルトの問いに、バズフォードは静かに頷いた。


「いかにも、陛下のご指示です。ですが、これは殿下だけでは抑えられないでしょう。恐れながらお力添えをお許し下さい。」

「すまない。で、女の魔人は?」

「ナナが一人で倒しました。もう、ガッと。」


イーサンの怯えながらの一言にラインハルト達は〝?〟だった。


 仕切り直して、ラインハルト達は離れの中に入った。防御障壁を展開するバズフォード近衛師団長を先頭にポッチェ、イーサン、ラインハルト、ナナ、アイクの順で離れを進むと、騎士が言っていた隠し部屋に続き、結界にたどり着いた。

結界内には黒いドレスに身を包んだ、完全に闇落ちした表情のアメリア嬢が椅子に座り小瓶を片手にブツブツタロットカードに何かを唱えていた。その横には攫われた聖女2人が首元から血を流し倒れていた。


「あの方がアメリア嬢ですか?なんだか様子が…」


ポッチェの声でアメリアがラインハルトに気付いた。


「ラ、ラインハルト殿下!?どうしてここに…?婚約者に私を選んで下さったのですか?」


意識が朦朧としているのか、足がもたつき結界に触れてしまったアメリアの手はその衝撃で傷付いてしまった。赤く腫れた手を目にしたアメリアは気が触れた様に発狂。


「きゃあぁぁぁ!!私の手が!!こんな手じゃ、殿下に愛してもらえない…こんな私じゃ…殿下に…」


ラインハルトの記憶では以前貴族の茶会で会ったアメリア嬢は凛として咲く花の如く美しい女性だった。しかし今目の前の彼女はどうだろう。一体何が彼女をこんなに変えてしまったのか、その時ラインハルトは、アメリアが手に持つ小瓶に気付いた。

ラインハルトは結界外から声を掛けた。


「アメリア嬢、その小瓶は…?何を飲んで…?」


ラインハルトの声がアメリアを発狂状態から意識を戻させる。


「あ…ああ、殿下、私は…これを…これは…」


彼女が答えを言い出す時だった。


バタン!!

ヴゥゥン・・・


隠し扉が閉まり、隠し部屋が新たなフィールドに変わった。コツコツと足音を立て、結界の奥にある鏡の中から、アメリアの背後に黒いフードを纏った男が姿を現した。


「アメリア嬢、貴女は殿下の婚約者候補ですよ?

さぁ、これを飲んで、このカードをこの魔石のナイフで一突きするだけで、貴女は殿下をモノに出来るのですよ?何を迷っているのですか?」


黒いフードを纏った男は、アメリアに小瓶と魔石のナイフをそっと手渡した。


「え、ええ。私こそ殿下の婚約者に…このナイフでジャスミンを…ジャスミンを…私が…っでも…」


黒いフードを纏った男は、ラインハルトに見えるように、正当な婚約者ジャスミン・フロリア公爵令嬢が死神の鎌に首を切られるタロットカードを机に立てた。


「…!ジャスミン…?」

「殿下!あのカードの中の女性、よく見ると瞬きしています!!」


ポッチェがタロットカードを指差し声をあげた。


「ポッチェ、おまえどんな視力だよ、小さくて見えない…」


イーサンが目を細めてカードを見る。


「ふはははは、よく気付いたな。小さくて殿下には見えないかな?どれ具現化しようか…」


そう、黒いフードを纏った男が言い指をパチンと鳴らした。するとタロットカードから死神とネグリジェ姿の女性が死神に鎌を首に突き付けられた状態で現れた。


「!! ジャ、ジャスミン!!」

「きゃあ!ジャスミン!?」


突如現れたジャスミンに死神。驚いたアメリアは腰を抜かしてしまった。

思わずラインハルトも結界に触れてしまい、激しく弾かれたところをシズウェルが受け止めた。


「殿下!」

「落ち着いて下さい、殿下。」


焦りを隠せないラインハルトにバズフォードも声を掛ける。


「初めまして、モルネード王国、ラインハルト王子。俺は地底魔王軍四天王ヴァラク様のサーヴァント、クバリー。」


黒いフードを纏った男はフードを外し、顔を露わにした。その肌は死人の様に青白かった。


「地底魔王軍?…魔人…か!その者達をどうするつもりだ?お前達の目的は何だ!?」


ラインハルトがクバリーと名乗った魔人に問う。


「目的ね、さっき聞いていたよ、聖蛇の化身は渡す気はないってね。今王都にはいないんでしょ?

ブーゲンも動いていたからな。」

「ブーゲン?」

「ああ、お仕えする四天王違いのサーヴァントの一人なんだけどね。一向に連絡が取れないからきっと攫ったけど失敗したかな。」

「攫った…じゃああれはお前達の仕業なんだな?」


クバリーはやれやれと一息つくと、死神のタロットカードをもう一枚懐から取り出し、具現化させアメリアを捕えた。


「きゃあ!いや、離してっ!」

「アメリア嬢!いい加減にしろ、彼女達を巻き込んで何をするつもりだ!?」


ラインハルトの問いを余所に、クバリーは袖から注射器を取り出し、アメリアの首に謎の液体を注入した。


「…あ…」

「!! アメリア!」

「アメリア嬢に何を!?」


ラインハルト達が結界内の出来事に左右されている頃、ポッチェは必死に冷静を保ち結界の歪みを探していた。


(…神経を集中させろ…必ず歪みはある…!!)


ポッチェが結界の歪みを見つけた時だった。


「結界の歪み、見つかったかな?俺もまだまだだなぁ。」

「!!気付いて…」

「まぁね、今その場にいるメンバーでこの結界を解除出来そうな者はいそうにない。いるのは武闘系と回復系かな?じゃあ、破壊するしかないよね。

まぁ、いいよ。俺の結界もそう簡単には破壊出来ないと思うし、ゲームをしよう。」

「ゲ、ゲームだと!?」


すると謎の液体を注入されたアメリアが死神から解放され、自ら魔石のナイフを手にした。

だが、その様子は尋常ではなく息を荒げナイフを持つ手は震えていた。もはや体と心が崩壊寸前の状態の様だ。


「なぁに、簡単なゲームだよ。キミ達が結界を壊して死神を倒しお嬢さん達を救うのが早いか、この闇落ちしたお嬢さんが聖女の力を宿しているお嬢さんを刺し殺すのが早いか。簡単でしょ?」

「人の命を何だと思ってるんだ!?」

「………先に命を諦めたのは、キミ達だったじゃないか。」

「え?」


クバリーが顔をしかめたのをラインハルトは見逃さなかった。


「いや、なんでも。すべては今更だ。

俺達の目的はモルネード王国の崩壊と聖蛇の化身を手に入れる事だ。まぁ、肝心の聖蛇の化身がここにいないんじゃ先にこの国を支える重鎮達から潰していくよ。王子はかなり鼻が利くみたいで厄介だから、やっぱりここで殺しておこう。」


クバリーはラインハルト達に向けて手を翳した。


ヴゥゥン


ラインハルト達の背後に瘴気の陣が現れた。中からズズっとブラッドウルフが何匹も出て来た。


「さぁて、楽しいゲームの始まりだ。」


























お読みいただき、ありがとうございます。

至らぬところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

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