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覚醒⑷

 フィールド上に舞い落ちる金色の粒子。


平気なふりをして、その場に立つアタシのご主人様、モモは肩で息をするくらい魔力を消耗していた。全然平気じゃない。また自分の事よりも仲間の命を優先にして無理をして…無理しないでって言っても聞いてくれないこのご主人をアタシだけでどう支えればいいのよ、ペルの奴!!


そんな事を思いながら、アタシはモモが展開した〝サンクチュアリ・プルガシオン〟を見ていた。



ふらっとよろけるモモの体を支えたのは、ヴァンだった。


「大丈夫?」

「あ…はい、ありがとうございます。」

「…普通の聖女じゃないよね、モモ…って言ったかな?」


ヴァンのその言葉に、チェルノボーグの黒い影に呪われ、首から右半身を負傷していたロイドも回復し、立ち上がるのを支えるジュウトと共にモモの代わり二人が答えた。


「聖蛇ナーガ様の化身とされるお方だ。」

「聖女モモ様だよー。」

「聖蛇ナーガの…」


モモはヴァンに微笑んだ。


「改めまして、勇者ヴァン様。聖女モモです。」




 モモが展開した〝サンクチュアリ・プルガシオン〟

通常の浄化魔法では太刀打ち出来なかったロイドの体を侵食していく影の進行を止め、範囲の仲間のステータスを完全回復。チェルノボーグの展開した黒い魔法陣を消し去り空間ごと浄化した。そしてチェルノボーグの手によって造り上げられた影の魔物ダイモニゾメノス・テロスは、本来の姿を取り戻した。

フヨフヨとその場に浮く黒い魂の様な姿形をした魔物はモモにすり寄ってきた。


「モモ…自由にしてくれて、ありがとう。アダは影の魔物の始祖だよ、アダはモモと一緒にいる!」


その場にいたモモを含む全員が驚いた。特に、衝撃が大きかったのはモモの使役妖精ルキスだ。開いた口が塞がらないまま


「ちょ…ちょっと、いきなり出て来てモモと一緒にいるって、魔物がそんな簡単に人間の、しかも聖女と一緒にいれるわけないでしょ⁉ モモにはアタシだっているし、ペルとリ…リリンだってっ」

「アダ、悪いことしないもん。今までアダ、チェルノボーグってのに捕まってたんだもん…アダだって好きでやったんじゃないもーん、えーん!!」

「なっ、何泣いてるのよっ、モモーーーっ」


ルキスとアダのやり取りに、やや場は和み…と行きたかったが、そこへ魔力を疲弊したチェルノボーグが割って入ってきた。黒い魔法陣は打破されたが、ニヤリと不敵な笑みをこぼしながらアダを掴みにかかった。


「そうか、頑なに名を教えなかったが、お前の名前アダか。は、はは!私の研究材料だ!聖女なんぞに渡すわけないわ!!」


アダを掴みにかかったチェルノボーグをモモを支えていたヴァンが一蹴し、モモ達を取り巻く様にロイド、ジュウト、ピユフィーヌが戦闘態勢に入った。


「っくそ、私の研究の邪魔をするな!人間風情が!影の始祖、アダは私が見つけた!私のモノだ!」


ヴァンの蹴りにダメージを負いながらも、アダに執着するチェルノボーグ。その手には新たな黒い魔法陣が。


「何もかも…私の研究も、すべてキミさえ現れなければ!これ以上邪魔されてなるものか!捕えてキミも私の研究材料にしてやる、聖蛇の化身!!」

「⁉」


モモに向かって、チェルノボーグの手から放たれた魔法陣がモモの足下に展開され、一緒にいたヴァンも身動きを封じられてしまった。


「しまった…っ」

「モモ様!」

「ヴァン!!」


その場はチェルノボーグが優勢に見えた、が。次の瞬間、展開されたはずの黒い魔法陣が無効化し、モモの足下から消えた。


「なっ⁉」


驚きを隠せないチェルノボーグに、状況についていけないモモ達。するとアダがフヨフヨと前に出た。


「アダはもう核じゃないよ。チェルノボーグが研究に時間をかけていたとの同じ時間、アダも注がれる魔力を溜めて核から再生することが出来た。もう名前を知ったところでアダを縛る事は出来ないよ。

チェルノボーグの研究は、アダの影を支配する能力を使って、人間の、負の心に付け込んで影を支配し魔人化させていく、これが狙いだったね。魔人化した人間達は地底魔王軍の捨て駒にする予定だった。」


アダの言葉にモモ達が絶句する。


「勇者の召喚獣の核も狙っていたよね。ヴァンは理由を知りたがってたから教えてあげる。」

「え…あ、ああ。」


魔物に名を呼ばれ、同様を隠せないヴァンだったが、理由を聞けるならとアダの言葉に耳を傾けた。


「っ、余計なことをベラベラと!!」


アダに黒い靄の攻撃を仕掛けようとするチェルノボーグだったが、ロイドのクトネシリカが首筋に光った。


「…っ!」

「動くな、次は飛ばす。」


ロイドが冗談ではないという殺気をチェルノボーグに飛ばした。


「封印された地底魔王を蘇らすのに必要なんだ。聖獣の核、そして聖女の生き血、それを入れる呪われた聖杯。」


アダの言葉にチッと吐き捨てたチェルノボーグ。


「地底魔王を蘇らす…だと?そんなことをしたら…」


ヴァンの表情が青ざめた。


「地底魔王が蘇ったら、この世界が終わる。人間も妖精も、魔界もぐちゃぐちゃになっちゃう。アダはそれを望まない。だからチェルノボーグには消えてもらう。」

「はっ、核だったお前が魔力を取り戻したからと言って今更何が出来るんだ…!」

「ロイド、離れて」


アダに指示され、ロイドはチェルノボーグから距離を置いた。


ゴゴゴゴゴゴ…


空間の真下から悍ましい音が響き、鮫の口の様に幾重にも鋭い歯の生えた魔獣が大きな口をチェルノボーグの真下で開けていた。闇は暗く、底は見えない。


「なっ!なんだぁ⁉ 私はこんなところで終わるわけにはいかない!ヴェルグ様の為に!すべてを!!ぎゃあああああっ!!」


バクンッ


チェルノボーグは魔獣に食べられ消え、モモ達を捕えていた空間が端から解かれていった。


「なんだったの…いまの魔獣…アダが操ってたの…?」


ピユフィーヌがアダに問いかけると、アダはにっこり笑顔で答えた。


「アダの友達のアングライーターだよ!」

「ア…アングライーター…じ、実在したんだな…」

「架空の魔物かと思ってたよ…」


アングライーター、地下空間に生きる魔物で現存する個体は少ない。雑食。空間ごと食べることも出来る。

ヴァンやロイド、ジュウト達ももちろんアングライーターにも驚いていたが、今起きていることがこの世界の秩序を揺るがす問題である事を知った。




 一方、チェルノボーグの手下、ラウル達と対峙するブーゲン。

チェルノボーグの《ダーク・パペット》により意思のない青黒い瘴気を纏う魔獣の様に成り果てた、その攻撃は素早く、威力も一撃喰らえば致命傷は避けられない。ラウルとジェイドの壁にダンの剣技、そしてアイラの回復。もはや消耗戦だ。


(全員の体力も魔力半分以下、このまま決定打を与えられないままだとキツイ。何とか…)


ラウルが打開策を考えるが、青黒い瘴気が怯むのはダンの使役妖精、ウェンティとアクアが防御膜を展開した時だけだった。ウェンティとアクアの魔力にも限界が来ている。


〝アクア、ダンの魔力、消耗が激しいわ、このままだと全員たおれてしまう。〟

〝…ですね、ダン達を少しでも休ませないといけません、あの技はどうでしょう、ウェンティ。〟


ダン達の魔力の限界が近くなった時だった。ウェンティとアクアの二人が呪文を詠唱。心を一つに、力を合わせダン達を包むように水と風の防御膜を張った。そして、


〝穢れし魂を浄め、心鎮めよ、清き烈風にて闇を引き裂け〟

〝パーニー・トゥール・アミナ!!〟


二人のシールドは水と風が混ざり合った球体のもので、青黒い瘴気ごとブーゲンを封じ込めた。


「コンナ モノォ!!」

「すご…っ」


それに怯まずシールドに触れたブーゲンと青黒い瘴気は大きなダメージを負い体勢を崩した。その一瞬を見逃さなかったアイラ。


「!!」


ありったけの魔力をモモに与えられた刃に注ぎ込む。


「アイラ、それはモモから…!」


アイラの行動の先を察知したジェイドは、残る力で防御障壁をアイラにかけた。


「ありがとう、ジェイドっ」


(モモさんから受け取った私の唯一の武器。この刃に聖魔力を集中させて、ブーゲンを倒す!)


防御障壁を纏ったアイラが単身ブーゲンに突っ込み、体勢を立て直す前に胸を一突きした。


ドッ!!


「ギャギャギャギャギャギャ―――!!」


ブーゲンを援護していた青黒い瘴気は消え去り、その場に倒れたブーゲンはチェルノボーグの《ダーク・パペット》から解放され、ただの魔人に戻っていた。


ブーゲンに刺し込んだ刃を手にしていたアイラは、緊張のあまり過呼吸になりかけ、止まらない腕の震えをジェイドがそっと受け止めた。


「アイラ、よくやったな!」

「すげーな、アイラ!よくあの瞬間見逃さなかったな!」

「助かったよ、アイラ。ありがとう。」


聖女のアイラは人を刺す経験がなかった。ブーゲンを刺した感覚が手に残り、ジェイドに支えられてもまだ震えが止まらず、涙がこぼれた。


「みんなが…ブーゲンを止めてくれたから…ありがとう…」

「まさか、あそこでウェンティとアクアが必殺出してくれるとはなー、オレ初めて見た。」

〝ダンの為ですわ〟

〝わたくしたちはダンを護るためにいるのですから〟


すると、聖魔力のこもった刃で倒れたはずのブーゲンが体を起こした。しかし足からすでに灰化していた。


「…あ…りがとう…聖女の…お嬢さん…わ…たしも…結果、チェルノボーグ様の…駒でしか…なかった…

自由にして…くれたこと…感謝……する…」


そう言葉を残すと、ブーゲンは灰となって消えていった。



 

 モルネガングア山脈、アンプナー山のクレパス内の空気が浄化されていくことに気付いたラウルの目に映ったのは、黒い魔法陣に捕らわれて行ったモモ、ロイド、ジュウト、ピユフィーヌ、そして勇者ヴァンの姿だった。


「モモ!」

「モモ―――!」


ダンがモモを見つけると、すぐさま狐化してモモに飛びついた。


「わぁっ…もうダンったら、ブーゲンは倒せたのね、良かった、ケガはない?」

「大丈夫!アイラが倒したんだぜ!…って、モモになんか黒いのくっついてるけど…?」


ダンはモモの肩に乗っているフヨフヨした魂の様な形の生き物のにおいをかいだ。


「魔物だけど、邪気のにおいはしない。」

「あはは…このコについては、また後で話すわ。アイラさん、ブーゲンを倒してくれてありがとう。」


モモは、体力、魔力共に消耗し、ジェイドに立つのを支えられているアイラのそばによると、そっと両手を取り、聖魔力の譲渡と体力回復魔法をかけた。


「――――――!」


ステータスが一気に回復したのを感じたアイラは、背筋を伸ばしシャンと立つことが出来た。

本来聖魔力の譲渡は技術的にもコントロールが難しいとされている、これをなんなくこなすモモに驚いた。


「あ…ありがとうございます、モモさん。ヴァンも助けていただいて、聖魔力の譲渡まで…」

「へぇ…ナーガの化身だけあって、聖魔力の譲渡まで可能なのか、すごいな。」


ヴァンもモモの能力に感心した。

そして、モモはラウルの無事な姿をみて、胸に手を置きほっと一息ついた。その様子を目にしたラウルがモモに歩み寄る。


「無事で良かった、モモ。無理はしなかっただろうな?」


ギクっと体を強張らせるモモ。ラウルに対し視線が泳いでしまい、俯いてしまったモモの代わりに隣にいたルキスが黙って首をフルフルと横に振った。


(ちょっと、ルキスっ…)


顔を上げたモモにラウルが視線を合わせ、ニコリと笑みを浮かべた。


「詳しく後で聞かせてもらおうか、モモ?」


そんなモモ達のやり取りの横で、ヴァンは自分の置かれていた状況を整理し始めていた。


「―――――――…。」



 クレパス内が大きく揺れた。バキバキと音を立てて、頭上の氷柱に、割ける様に縦にヒビが入った次の瞬間。


ドオォォォォ!!


クレパスの外で大きな雪崩が発生し、モモ達の立つ氷の地盤も割けだした。


「きゃっ!!」


揺れに耐えきれず、女性陣が大勢を崩すのを、咄嗟にラウル達が支える。

ダンの使役妖精ウェンティとアクアが、ラウルの使役妖精シヴが外の様子をクリアに主人の脳内に伝達する。


「やばい!今の戦闘の衝撃で山頂から雪崩だ!出口が塞がれる、脱出するぞ!」


ダンが、この場にいる全員に撤退するよう促した時だった。その余裕を与えない速さでクレパス内が崩壊していく。


「この人数を一気にここから脱出させるには頼むしかないな。」


ヴァンは装備していたスモーキーシトリンの輝く腕輪に自身の魔力を込めた。ヴァンの魔力に反応した腕輪から白銀の契約紋が浮かび、それと共に巨大な銀毛の狼が現れた。


『久しいな、ヴァンよ。我が力が及ばぬ事態であった事は知っているが何が起きていたのだ?』

「ああ、すまないハティ。細かい事は後で説明する、今ここが崩壊寸前なんだ、この場にいる全員を麓のパロル村まで避難させてほしい。」

『容易いことよ』


すると、ハティは移動魔法陣を展開し、その場にいた全員をクレパス内からパロル村のモルネガングア山脈登山口へと移動させた。刻は夕暮れ、パロル村に突如現れた聖女モモ達と行方不明だった勇者パーティーの姿を目撃した村人達は動揺していた。


「い…いきなり、現れたぞ…?」

「どうやって…?」

「あれは、モモ様⁉それに、ラウルとダンも!」

「一緒にいるのは…あの、いや、あちらの白銀の毛並みは…!」


ざわつく外の様子に気付いた一人の男性が、タバコをふかしながら建物の2階にあるバルコニーに出た。


「……ありゃあ…」






















お読みいただき、ありがとうございます。

至らぬところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

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