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覚醒⑵

 アイラを支えるアッシュブラウンのバーニングアップバングヘアに、緑みの鮮やかな黄色、刈安色の瞳。黒緋色のチョハの様なミドル丈のコート、ベージュのシャツに、テーパートがかった黒のアーバンミリタリーパンツにブーツ。雷剣クトネシリカを下げた、ロイド。


「ロイドに、ジュウト!?助けに来てくれたのか…」

「ジュウト…私達あなたにひどい事を…」


ピユフィーヌの言葉に優しく微笑むジュウトは、ピユフィーヌとジェイドの傷に回復魔法をかけた。彼女の口にしたひどい事、それは今から2年前、ヴァンの邸宅での一件。


「魔王の動きも落ち着いている今、依頼内容は小物討伐ばかりだ。大して金にもならない。今後の活動については報酬次第だな。」


ヴァン以外の全員が、その言葉に驚いた。


「報酬次第…?」


ヴァンの言い分はこうだ。金にならない依頼をこなしても大した経験値も報酬もない。何のメリットになるのか。自分は勇者の称号を持つ選ばれ者。自分の考え、行動は尊重されるべきだ。と。

冒険者、民達を導いていくはずの勇者、このヴァンの考えに異論を説いた、当時パーティーで白魔法使いだったジュウトがクビにされた。だが、誰一人引き留める事はしなかった。

 影の記憶が流れて来た時、初めて思い知らされた勇者パーティー達。あの時のジュウトの発言は無視していいものでは無かったと。


「過ぎた事だよ。それよりヴァンは…?」


横たわるヴァンにジュウトが目をやると、息を荒げ魘されていた。それに気づいたアイラがヴァンに駆け寄る。


「ヴァン、意識が?」

「しっかりして、ヴァン!」


アイラとピユフィーヌが交互に声を掛けても届かない様だ。その時、胸を押さえるヴァンの仕草に気づいたモモ。


「ジュウトさん、ヴァンさんの鎧を外してもらえますか?」

「わかった。」

「俺も手伝う。」


ジュウトとロイドにヴァンの鎧装備を外す。そして、シャツのボタンを外し胸元を広げると、モモがハッとする。


「…呪印…」


ぽつりと呟くモモが冷や汗をかいた。


「え?何かあるの!?」


モモの焦りをみせた表情にピユフィーヌが反応した。


「ええ、魔族が使う呪印が、ヴァンさんの胸に施術されてます。」

「…これが呪印…こんなのどうするればっ…」

「アイラには見えるの?ジェイドは?」

「オレも見えない、どうやったらヴァンを救えるんだ…」


勇者パーティーが不安に包まれる中、モモは深呼吸した。


「大丈夫、みんなの力を合わせれば必ずヴァンさんを救えます。ただ敵はブーゲンもいるので、ロイドさん指揮お願い出来ますか?」


モモは、勇者パーティー、そしてダン、ジュウトとも戦闘経験があり、リーダーとしても冷静な判断が出来ると、指揮をロイドに任せた。モモの指示を受け取ったロイドはびっくりしていたが、すぐにモモの意図を汲み取り頷いた。


「じゃあ、ヴァンの呪印解除に俺、モモ様、ジュウト、ピユフィーヌ。ブーゲン、ラウルの援護にダン、ジェイド、アイラで行こう。」


ロイドの指揮に全員が頷いた。すると、モモがアイラに声を掛けた。


「アイラさん、これを。」


モモはアイラにペル特製の刃を渡した。


「これは?」

「ブーゲンが纏っている青黒い瘴気は、聖属性の攻撃しかダメージを与えられないんです。ブーゲンの力が大幅に上がったのは、背中に憑いている第三の目です。アイラさんの魔力をこの刃に込め、チャンスを伺ってあの目を攻撃して下さい。」


モモの話にアイラは震えながら、刃を受け取った。


「私…が…っ」

「アイラさんの仲間にはジェイドさんも、ラウルもダンもいます。一人じゃないから大丈夫ですよ。本当は私が出来たらいいのですが、ヴァンさんも危険な状態なので。」

「そうだ、アイラ!オレ達がついてる、心配するな。」


不安がるアイラを落ち着かせるモモに、ジェイドが加わる。


「わかりました。モモさんも気をつけて、ヴァンをお願いします!」


アイラがそう答えると、ダンがロイドとジュウトとグータッチを交わし


「モモの事頼むな!行くぞ、ウェンティ!アクア!」


ダンの足元に風が吹き寄せ、ふわりとダン、ジェイド、アイラが宙に浮いた。


「風が。妖精の力か、すごい助っ人だな。オレはパラディンのジェイド、こっちは聖女のアイラだ。よろしくな、ダン。」

「よろしくお願いします。」

「ああ!オレは魔法剣士だ。よろしくな!」


ダン達は挨拶を済ませると、ブーゲンを一人相手にするラウルの元へ向かった。その後ろ姿を右手を押さえながらモモは見送った。


(ーーーラウル…)


ラウルの身を案じるモモの気持ちを悟ったジュウトが、モモの肩に触れる。


「モモ様、ダンさん達がいれば大丈夫ですよ。ぼく達も全力を尽くします。」


ジュウトの言葉にロイドもピユフィーヌも頷いた。


「呪印解除はまだ数えるだけの経験しかありませんが、ヴァンさんを絶対、救いましょう。」


 モモがヴァンの胸元に施術された呪印に手を翳し魔力を流す。すると、ヴァン、モモ、ロイド、ジュウト、ピユフィーヌ全員が呪印から足下に広がる黒い魔法陣の中に取り込まれた。


「きゃ…」

「ーーーっ?」




 激しくぶつかり合うラウルとブーゲン。青黒い瘴気の妨害もあり、ラウルが劣勢ではあった。モモ達が呪印から広がる魔法陣の中に消えた瞬間を目にしたブーゲンは不敵な笑みを浮かべた。


「…なにがおかしい?」

「ふ、いや。あの勇者の呪印に気づいたのも流石だが、さて全員無事に戻って来れるかな?」

「…!?」

「あの呪印は………っ!?」


そうブーゲンが口にした時だった。ブーゲンの右足下から黒い影の手が体、首へと巻きつき、ググッと首を絞めたのである。


「…っ…か…」

《どうもおしゃべりが過ぎるなぁ、ブーゲン。そのパラディンより先にお前を殺してあげようか?》

「?」


どこからか響き渡る闇の声。粛正を受けるブーゲンにラウルは辺りを見廻す。そこへダン達が合流した。


「ラウルー!応援来たぞー!」

「ああ、ありがとうシヴに、ウェンティ。」


モモに喚び出されたラウルの魔力を追って、ダン達をこの場に案内したのは、ラウルの使役妖精シヴ。彼女はラウルの言葉に笑顔を見せた。


「そんで、パラディンのジェイドと、聖女のアイラ。こっちジェイドと同じパラディンのラウル。」

(……雑…)


その場にいた全員がダンの雑な紹介を受けたが、改めてラウルにアイラが挨拶した。


「聖壁のラウルさんですよね、よろしくお願いします。」

「勇者パーティーにも通り名知られてるなんて、照れますね。よろしくお願いします。」

「なぁ、コイツどうしたの?仲間割れか?」


首を絞められながらも、ブーゲンはこの場の勝利を闇の声に伝えようとしていた。


「か…必ず…っ…聖蛇の…娘を…」

《なに言ってんの。あの呪印に囚われたんだ。聖蛇の娘には無事を祈るばかりだよ。こうなるのなら、お前に任せず、さっさと私が片付けてしまえば良かった。所詮我々にとってサーヴァントは捨て駒に過ぎない。せいぜい壊れないで仕事してくれよ?》

「ーーーーーっ!!チェ…ルノ…ボーグさ…まっ」

《ダーク・パペット》


ブーゲンがチェルノボーグと名を呼んだ闇の声がそう言うと、ブーゲンの体に憑いた第三の目が奇声を発し暴走。ブーゲンはグルンと白目をむき、パペットの言葉通りに首、四肢をダランと下げた。体からは青黒い瘴気が漏れ出る。


「だ、大丈夫か、コイツ…」


ダンが呟いた瞬間、ブーゲンは四つん這いになり、アイラをターゲットに定め、獲物に喰らいつく魔獣の様に襲い掛かってきた。


「アイラ!!」


咄嗟にジェイドが盾を手にアイラ前に仁王立ちする。


ドズンッ!!


「…っづ…重っ!まるで魔獣だなっ…!!」


ジェイドの足が地面にめり込んでいく。盾を破壊出来ないと悟ったブーゲンを操る闇の影が盾を躱し、ジェイドの両腕に巻き付いた。それは防御障壁をものともせず、ジェイドの両腕を溶かし始めた。


「あああああっ!!」

「ジェイド!!」


ジェイドの火傷を負った様に爛れた腕に、アイラが回復魔法をかける。


「あの影、あぶねーな!」

「ダン、突っ込みすぎるなよ。」

「おう!!」


 ダンがブーゲンとぶつかる。

ウェンティとアクアの水と風の魔法の援護を受けながら剣を振るうも、闇の影に防御され思うように攻撃出来ない。


「ニーヴスライムの攻撃よりも酷い…」

「ああ、毒とも違う、ダンもあれじゃあ…間合いを保ちながら攻撃する瞬間を見極めているが…どうやったらあの影を攻略出来るんだ?」


アイラの回復魔法を受けながら、ジェイドがダンを見守る。決定打を打ち込めないダンは防戦一方だ。

その様子を、魔力回復を図りながら見ていたラウルは、ある事に気付く。


(あの闇の影も、青い瘴気もギガンテス相手の時の様に聖属性なら効果があるのか?現に俺やダン、ジェイドに至っては決定打に欠けるが、ウェンティやアクアの防御に触れるブーゲンは闇の影と共にダメージを受けている…じゃあシヴは?)


ラウルはシヴと目を合わせるが、シヴは首を横に振った。


(シヴの攻撃はダメージを与えられない、有機物質系はダメってことか…他に何か手立ては…)



 一方、ヴァンの呪印に触れ別空間に捕らわれたモモ、ロイド、ジュウト、ピユフィーヌ。


「なに、ここ…。」


そこは今までいたフィールドとは別の雪山だった。ピユフィーヌとロイドが辺りを警戒する中、モモはヴァンの呪印に集中し、ジュウトが攻撃力、防御力上昇。魔力消費軽減、状態異常耐性をヴァンを含む全員に付与した。

張り詰めた空気、次の瞬間、呪印にモモの手が弾かれ、その反動で後ろに吹っ飛ばされたモモをロイドが受け止めた。


「モモ様!」

「あ、ありがとう、ロイドさんっ。」


モモの手を弾いた呪印から小さな八芒星の魔法陣が浮かび上がり、反時計回りに逆回転しながら、ヴァンの胸を中心に大きく展開した。八芒星の先端に、次元を裂き、ズズズッと4体の破壊の女神像が十字に対面で現れ、その十字を45°ずらした位置の先端に4つの黒いモヤが現れた。

 黒いモヤから放たれる瘴気と不気味な気配。肌に刺さる様なピリピリした邪悪な魔力にピユフィーヌは気圧され、腰を抜かしてしまった。


「……っ」

「…モモ様、下がって。」


ロイドが冷静を保ち、両手でクトネシリカを構えると。


『力を貸そう、ロイド殿。』


ロイドが装備する黒曜石のピアスに宿る雷神トールが現れ、クトネシリカに神通力が加わった。更に。


『私も出よう。』

「テネ!」


ジュウトの使役する闇の妖精テネが、ヴァンを中心に結界を張った。


『ルキス、デートの返事はまだ貰えないのか?』

『今、それどころじゃないでしょっ!?ここが片付かないと…』


ルキスがそう怒って言い返すと、デネがニヤリと笑みをこぼす。


『わかった。片付けよう。いい返事を期待している。頼むぞ、ジュウト。』

「え!?ぼく、そこ関係あるの!?」


急に振られたジュウトは困惑。


「来るぞ!!」


ロイドの声と共に、黒いモヤが収束し、鋭い鎌を持った4体の死神が姿を現した。死神達のターゲットは八芒星の中心のヴァンだ。鎌を振り上げ、猛スピードでクロスする位置にあるヴァンの心臓目掛けて攻撃を繰り出した。


《ー完全なる無ー》


それは、輪廻転生のない完全なる死を与える死神達が、4本の鎌で斬撃を一つに合わせ、ヴァンの心臓を捉えようとした。が、瞬時に雷神トールの神通力を得たクトネシリカで、ロイドが受け止め弾き返す。

ロイドに続き、光の妖精ルキスが死神達に〝浄化の息吹〟を吹きかけ、死神達は消えていった。


 消えた死神達の現れた八芒星の先端に【13】の紫黒い炎の数字がズズッと地表を刻み、ヴァンの胸の上に【92】の数字が浮かび上がった。


「周囲の和の解が92って事は、あの女神像に…」


モモの言葉にジュウトが加える。


「あれは、破壊の女神像デュスノミアだから、通常の呪印解除とは何か違う条件があるのかもしれないね。」


すると、何も持っていなかった女神像の頭上に、黒い剣が出現。刀身を上に向け、デュスノミアの手に収まった。また、ヴァンの頭の位置に立つデュスノミアの足元に【17】、右半身側に立つデュスノミアの足元に【3】。足側に立つデュスノミアの足元に【9】、最後に左半身側に立つデュスノミアの足元に【11】と紫黒い炎の数字が同じく刻み現れた。


「こ、構築壁の数字が全て揃った…?一体…」


モモたちが八芒星全体を見渡すと、4つの【13】の数字の上に赤、青、白、マーブル色の艶のある玉が浮いていた。


〝さあ、今回の呪印は解けるかな。聖蛇の娘。〟


突然、謎の男の声が空間内に響いた。


「誰だ、姿を見せろ!!」


ロイドが謎の声に呼び掛ける。


〝雷剣ロイド、勇ましいね。だがキミの前に簡単に姿を曝せないよ、このゲームに勝てたらキミ達の勝ち。その時は私の姿を明かそう。〟


「ゲームだと…?」


〝そう、ゲームさ。私が計画してきたもの全てが、そこの聖蛇の娘の存在により打ち砕かれて来た。〟


「計画?狙いは何だ?」


〝そう簡単には言えないさ。そこの勇者の命を懸けたゲームだ。ふふ、その中には裏切られた憎しみを持つ者もいるんじゃないのかい?〟


闇の声の裏切られた、それを耳にしたロイドとピユフィーヌは、ハッとし、ジュウトを見た。

二人同時の視線を浴びたジュウトがびっくりし、


「はは、そんな目で見ないでよー。もうあのことは何とも思っていないから。ヴァンを助けよう。」


ジュウトの言葉に闇の声が舌打ちをする。


「あなたの言うゲームに勝てば、ヴァンさんは必ず助かるのね?」


〝もちろんさ、聖蛇の娘。ただ、過去に破ってきた呪印とはレベルが違うよ。あれらは実験だった。まぁ、破れる人間が現れるとは思っていなかったし、魔物も隷属していたのには予想外だった。

今回の作品は2年かけてじっくり仕込んだ。ピーニャコルダで、そこの白魔法使いくんに気付かれそうになった時は正直肝を冷やしたが、その勇者が、心配をかけまいとしてくれたおかげで助かったよ。〟


謎の声の話に、ロイドがピンときた。以前ジュウトがシュピツ村で会話中に。

―――ハリウデスキングを討伐して、ゲートから現実世界に戻った時、ヴァンに違和感を感じた―――


〝ふふ、今更あの時。なんて考えても全てあとのまつりさ。〟


「ヴァンに何をしようとしているの?」


ピユフィーヌが謎の声に問いかける。


〝まぁ、正確には何をしていたのかな。〟


「え…?」

「どういう意味だ?」


〝雷剣ロイド、キミはもっと寡黙な男かと思っていたら、中々熱いんだね。

私が必要としているのは、その勇者自体ではないんだが、どうやっても手に入れられなくてね。他に勇者は2人いるから、これは処分することにしたんだ。〟


「処分…?ゲームだの処分だの、何様のつもりだ!」


〝おや、キミ達人間が魔物を狩るのとなんら変わらないと思うが?〟


「それは、魔物が人々を襲うからだろう。」


〝それは高ランク冒険者の言い分だよ。キミにもあっただろう、下積みの時代が。冒険者が経験値を上げる為に魔物の住処を勝手に襲っていなかったかな?〟


「…!」


ロイドが言葉を詰まらすと、代ってジュウトが前に出た。


「それも違うかな。元来この世界は地上に人間と妖精、地下に魔物、魔族と住み分けていたはず。その地上に出て来ている共存の意思のない、人間を襲う魔物は狩られて当然だと思うけど?」


〝…共存の意思ね。魔物にあるのは食欲と快楽だげだ。意思をもつ魔物など一部の種族しかいない。

もうこの話は切り上げよう。どちらにせよこのゲームに勝たなければ聖蛇の娘以外は死しかない。

おしゃべりの時間は終わりだ。デュスノミアは1分に1歩勇者の心臓に近づく。デュスノミアのもつ黒い剣の柄の窪みに正解の玉を填められればデュスノミアは消える。

解ければ全ての鍵が開き、勇者に封じてある魔物を倒せる。解けなければ聖蛇の娘以外魔層に落ち、魔物に喰い殺される。勇者も然り、封じてある魔物に殺される。ゲームオーバーだ。〟


謎の声がそう言い放つと、デュスノミアの目が赤く光を放った。















たくさんの作品の中、お読みいただき、ありがとうございます。

至らぬところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

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