side ー恋の蕾?ー
百瀬美琴、26歳。
看護大学を卒業後、救急看護師として日々勤めた恋も知らない、いわゆる喪女。
でも、男女問わず友達はそれなりにいて、仕事は大好き。看護師として働き甲斐のあるこの仕事に誇りを持っている。周りは彼氏が出来たり、結婚、出産したり。ただ、育った環境からか、私は彼氏や結婚に夢を見る事は出来なかった。
そうして仕事一本に生きている内に、その激務から過労死。そんな私を聖蛇ナーガ様に、この世界に転生させていただき、聖女モモと名を与えられ、私はパロル村で目を覚ます。
この世界には黒髪の持ち主はいない。黒曜石と同じ色の髪を持つ私を村人達は親しみと尊敬の眼差しと共に聖蛇ナーガの化身と呼び、優しく迎え入れてくれた。
と、もうひとつイベントが。
私の前に、顔の整った銀髪、長身。紳士的で無駄のない洗練された所作をするイケメンとの出会いが。
「ラウルと申します。ナーガ様の化身の貴女にお会い出来て光栄です。貴女の力になれるのであれば、私が貴女の剣、盾になりましょう。」
そして、ラウルさんが私の右手薬指にはめてくれた金の指輪。これは私のいる位置にラウルが飛べる特別な転移アイテムだと言うけど…そんな貴重なアイテム、もっと大切な人に渡したらいいのに…。右手の薬指にはめる指輪の意味、この世界ではあまり意味を成さないのかな、私の考え過ぎなのかな。
パロル村で過ごす2ヶ月間、ラウルさんがこの国モルネード王国の事、生活の事、魔法、妖精の事を教えてくれた。
もちろん、ラウルさん自身の事も。
ラウルさんの佇まいはまるで騎士の様だけれど、実は職業、武闘派のパラディンだという。生まれは隣国ピーニャコルダ王国で、ここモルネード王国にはもう20年住んでいる28歳。3年前からパロル村の守護者として魔物達から村を護る為、村長アドフォードさん宅と王都ラダンディナヴィアを行き来した生活を送っているSランク冒険者。今、この国で唯一ランクSSに近い存在として、ギルドからの依頼は引っ切りなしだとか。
「ラウルさんは幼い頃からモルネード王国にいるんですね。前世の私の世界では語学留学とかで他国に行ったりする事もあるんですが、そんな感じですか?」
あまり他人の事には触れない私だったけれど、不意に聞いてしまった。しまったと思いつつも、ラウルさんは少し顔を赤らめて一言。
「……占いで…。」
「占い?」
占いと聞いた私は、何かの信仰絡みなのかと構えてしまった。ラウルさんの中では、触れてはいけない部分だったのか、私は慌てて謝り出す。
「ごめんなさい、立ち入った事を聞いてしまって…」
「いや、パロル村の連中は知っている事なんだが、改めて本人を前にすると緊張してしまうな。」
「え…?」
ー…本人…て、私の事?
パロル村のギルド前で話していた私達。休憩時間になったのか、ギルド管理人のカイドさんがニヤニヤしながら横に並んで座る私とラウルさんの間に入ってきた。
「モモ様はラウルの憧れの女性だもんなー。」
「あ、カイド!」
カイドさんの言葉に、ラウルさんは慌ててカイドさんの口を塞ぐ。
「わ、私が憧れ…?」
私は驚いて聞き返してしまった。すると、ラウルさんは顔を片手で覆い隠し、深く息を吐いた。
「なんだ、ラウル。おまえの探し求めていた女性だぞ。俺達にはなんやかんや言っていたクセに、乙女か。」
「うるさい、カイドっ!
…いや、まさか本当に会えると思っていなかったので、俺も嬉しくて。俺がモルネード王国に来て間もない頃に、王都ラダンディナヴィアの路地裏にいた占い師に声を掛けられたんだ。代金はいらないから聞いていけって言われて。」
私は頷きながらラウルの話に耳を傾けているが、カイドさんがすかさず茶化す。
「25歳になったらパロル村に行きなさい。その後数年でおまえは異世界の娘と出会う。その娘を護り、導き、世界を救え!…ってね!
いやー、まさかまさかの話で俺もビックリしてるよ、ははは!」
「カイドーっ!」
「さぁって、仕事に戻るかな!」
そう言うと、ささっとカイドさんはギルド内へ戻ってしまった。気まずそうなラウルさんを見て、なんて声を掛けるべきなのか悩んでしまう。
「すみません、占いでもなんでも、急にこんな話…気分悪くされたんじゃないですか?」
「いえ…」
ー…本当に気分なんて悪くはなかった。それよりも、幼い頃に聞いた占いを信じて、本当に私を受け入れてくれていたんだと思うと、胸が熱くなった。
「さっきの話、占いもありますが、本来は別の意味でこの地にいて、この地位を確立するのも簡単ではなかったけれど、貴女に会えた瞬間、俺は苦労もなんも、吹っ飛んでしまいました。」
「で、でも、異世界の者ですよ?不安とかなかったんですか?」
「まぁ、正直どんな女性なのか、色々思い描いたりしましたけど、貴女の人柄に触れて本心から思いました。貴女を護り、導く者でありたいと。この出会いを大切にしたいと。」
ラウルさんの力強い言葉に胸が高鳴る。この出会いを、私も大切にしたい。今まで私の周りにいた友達には抱いた事のない感情が込み上げてきた。ラウルさんがイケメンだから、高い地位にいるから…違う。ラウルさんの真っ直ぐな人柄に私自身、心から惹かれたんだ。
それから、パロル村の隣村、マピチュ村に瘴気の陣が出現し、私とラウルさん、そして出会った白魔法使いのジュウトさんに、ラウルさんが弟の様に可愛がっている亜人のダンさんと共に魔物達を掃討し、瘴気の陣の浄化に成功した。
けれど、この事がきっかけになり、私の存在を隠した罪でラウルさんが王国に捕らえられてしまった。
「捕らえられたと言っても酷い扱いは受けないはずだ。あいつは隣国ピーニャコルダの第二王子だから。」
「…え?」
「ん⁇まぁ、あいつも自分の事ペラペラ喋る口ではないか、あいつは王子なんだ。」
アドフォードさんの言葉に私は固まってしまった。確かにラウルさんは別の意味でこの地にいて、とは言っていたけれど。王子で、冒険者で、パラディンで…異世界から来た私を受け入れてくれた人…助けにいかなきゃ!!
それから王都ラダンディナヴィアに移動し、王都ギルド管理人リンツさんや聖属性魔法師団長ルークさん、色々な方々に会って、国王謁見の支度を整えて、ダンさんに護衛されて…
私は王宮に留まる事が条件になったけれど、ラウルさんを解放する事が出来た。
「モモ様、すみません、そばに居られず…」
ラウルさんの元気な姿に安心して、その場に座り込んでしまった私を優しく抱きしめてくれた彼が隣国の王子である事を思い出した私は、ラウルさんの腕の中から抜け出し姿勢を整えた。
「…っ、ごめんなさい、ラウルさん王子様なのに…」
「はは、俺の話聞いたんですね。王子なんてだだの飾りですよ。俺は貴女の側で役に立てればいいんです。」
そう言ったラウルは優しく私の頬に触れ、涙をそっと拭い微笑んだ。その後、ラウルの腐れ縁というモルネード王国の王子、ラインハルト殿下を紹介され、そして私の後継人に就いてくれた。今回のマピチュ村の件で褒美をくれるという事で、私は攻撃手段を得たいと弓矢を依頼した。
「ゆ、弓矢…?モモ殿が使うのか?」
ラインハルトの言葉に、ラウルも同調して驚いていた。
「はい、弓なら覚えがあるので。護られてばかりじゃ申し訳なくて…」
そう、ラウルをはじめ、私の周りの人達は何かと私を甘やかしてくる。自分で出来る事も沢山あるのに、このままだとダメになってしまいそうで逆に怖かった。
私が弓を使える事を知ったラインハルト殿下は、城内にある弓の稽古場を使う許可をくれた。
「だが、あまり無茶はしないでくれよ?」
「はい、ありがとうございます、ラインハルト殿下。」
その夜から私は王宮に部屋を用意された。侍女を五人、専属の衛兵が二人。部屋を出る時は必ず行き先を衛兵に伝えなければならない。必要なら衛兵を連れ行動する。
「モモ様、どちらへ?」
「あ、ラウルさんが帰るので見送りをしたいのですが…」
「かしこまりました、門までご同行致します。」
私が見送りに向かった時、ちょうどラウルが王宮入り口でラインハルト殿下と楽しそうに話していた。
「モモ殿、これの見送りに?」
「これってなぁ…」
二人は本当の兄弟の様、見ていてホッとする。
「はい、ラウル様の…お見送りに…」
やはり王子と聞いてしまうと意識してしまう、ラウルに「様」付け呼びした私を二人が吹いた。
「いいんだよ、モモ殿、ラウルは呼び捨てで。モモ殿が使い捨てるくらいでちょうどいいんですから、はは。」
「サラッとひどいな、ラインハルト。
いや、本当にラウルでいいんですよ、モモ様。これからは俺、リンツのギルドにいるので、気軽に使って…」
自分でもびっくりしていた。この時ラウルに抱いていた気持ちに。はじめてだった、男性を意識したのは、この人を知りたいと思ったのは。けど、そんなに一気に距離を縮める方法も知らない私が精一杯出した言葉。
「わ…私も、モモって、呼んで欲しい、です。」
その一言だけで俯いてしまった私の手を取ったラウルは、
私の右手薬指の金の指輪に口付けした。
「では、今日この時からモモと、呼ばせてもらうよ。」
その時、ラインハルト殿下が私の指輪に気付いた。
「その指輪、やっぱりおまえのか。」
「まぁな、出会った時に付けた。」
「?ラウル…が転移出来るアイテムって…」
はじめてのラウル呼びに照れてしまう私とは反対に満面な笑顔のラウル。
「ああ、アイテムって言うのは口実だよ、モモ殿。それ、はめたらラウルしか取れないヤツ、まぁ一種の呪いのアイテムだな。」
「ええ!?」
ラ、ラウルしか外せない…!?
私はその言葉を聞いて試しに指輪を外そうとするも…抜けない…
焦る私を他所に、ラインハルト殿下とラウルは談笑していた。
どういうことなのーーー!?
そんな私にラインハルト殿下が耳打ちした。
「それ、ラウルが渡した相手はモモ殿が初めてだよ。」
ラインハルト殿下の言葉が耳から離れない。どうやってあれから二人と別れて部屋に戻ったかも思い出せない。その夜私は、指輪を眺めて眠りについた。
そんな事があってから数日後、私は勘を取り戻そうと朝早くから稽古に打ち込んだ。
「あー…中々現役には戻れないなぁ。」
そう呟く私の後方からラウルの声が。
「しかし、10本全て的に収まっているよモモ、魔物は仕留められなくても致命傷は与えられるよ。」
「やるからには全部真ん中に行かないと、ダメなの!」
「自分に厳しいなぁ、モモは。」
指輪の話なのか、甘く優しいラウルの声のせいか、私の鼓動が速くなってしまう。ちらっとラウルに目を向けると、その笑顔が眩しい。
「…っ」
でも…この気持ちは抑えないと。
名前で呼び合えるだけで、それだけで幸せだから。他には望まないから、どうか、戦場で彼が命を落としません様に。
私に力があるなら、護れますように…
たくさんの作品の中、お読みいただき、ありがとうございます。感想&誤字報告いただけると幸いです。
至らぬところがあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。




