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王都ラダンディナヴィア

 目が覚めた時、そこはー…


「モモ!」


目の前にナーガ様と、ルキスがいた。転生した時にいた真っ白の空間。目覚めた私にルキスが泣きついてきた。


「自分を大事にしてって約束したのにーっ」

「え?私、どうしたの、ここって…」


にゅっとナーガがルキスに割って入ってきた。


「どうしたもこうしたもありまっせんっ!!

転生させた方が早くも魔力枯渇で召されるなんて聞いたことないし、今までだってありません!!ルキスにステータスを見るように言われませんでしたか⁈」


ナーガは私のステータスを表示した画面をバンバンと叩き、怒りを露わにした。


「あ…私、死んじゃった…はは」


苦笑いの私にため息のナーガ。ルキスは小さくなって泣きじゃくっている。


「モモ、貴女は魔力を使い果たし力尽きました。けれど、貴女がどういう方なのか、私も見ていてわかりました。貴女は自分よりも他人に対して優しくあり、自分の命を顧みない。

前世での過労死もこういう経緯が積もりに積もったのでは?」

「…ごめんなさい、せっかく転生させて下さったのに、お役に立てず…」


ナーガは首を横に振る。


「モモ、貴女の蘇生システムはこれきりです。今後は私の力でも蘇生出来ません、ステータスを良く見て、自分を管理しながらこれからも力になってくれませんか?」

「あ…じゃあ私…」

「これからまた、貴女をパロル村に戻します。貴女はあれから1ヶ月目を覚まさず眠っている状態です。よろしいですね。では!」



ナーガ様にでは!と言われて、私は目を覚ました。

そこは私に与えられたアドフォードさんの屋敷の一室。

起きようと体を起こした時、ガチャンと食器が割れる音がした。


 「…モモ様!!モモ様目が覚めたんですね!!」


ヨルダが私を強く抱きしめた。ちょうど私の様子を看にきて部屋の扉を開けた時で、絨毯は体を拭いてくれていたのか、清拭したと思われる布やお湯で濡れてしまっていた。

1ヶ月も寝たきりだった体を起こすのは軋むようにあちこち痛かった。

ヨルダの声に、アドフォードさんが駆けつける。


「モモ様!!…良かった…本当に」


アドフォードさんは膝をついて涙して私の目覚めを喜んでくれた。

私が目覚めた知らせを受けたマピチュの司教は転移石を使って急いでパロルの村を代表して来てくれた。そして、私が意識を失った直後の話をしてくれた。


瘴気の陣を浄化出来たこと。魔物達も討伐し、村は再生するのに時間ぎかかるが誰一人犠牲が無かったこと。ニーズヘッグは南の空に消えて行ったこと。そして、ラウルが投獄されたこと…。


「どう…して、ラウルさんが?」

「ラウルは…モモ様の存在を隠した罪に問われて、王国に投獄されてしまった。貴女を危険な目に遭わせたくなかったのだろう。ただ…ミモロや、リムドの死者蘇生の証言、村人達の浄化魔法の証言、そして、ニーズヘッグと、光の矢。

これらを合わせて、貴女がただの聖女ではない事は明白。

転生された事実を隠した罪を、私達の代わりにラウル一人が負って…」


アドフォードさんは下を向き、ズボンわ握りしめながら悔しそうに語った。


「そんな事でなんで投獄なんですか?」

「この国では、聖女に係る重要な情報を隠すと罪になるんだよ、聖属性魔法が使える聖女や聖騎士は貴重な人材として王国が管理しているんだ。だから…」

「だから、モモ様の事実に緘口令を敷いたこの村は、王国に反逆した罪に着せられてもおかしくなかったが、ラウル一人が知り得た事実と言って聞かなくてな。連れていかれちまった。」


ギルドのカイドさんも顔を出してくれた。けど、出会ってからずっとそばにいてくれたラウルが投獄なんて、そんなの間違ってる。


「ただ、酷い扱いは受けない筈だ。あいつは隣国ピーニャコルダの第二王子だからな、簡単には王国も手出し出来ないさ」

「…え⁇」

「ん⁇知らなかったのかいモモ様、まぁあいつも自分の事ペラペラ喋る口ではないか、あいつは王子なんだ」



 「気分はどうだ、王子様。悪くはないだろう、投獄と言ってもこの客間じゃあな。」


ラウルに嫌味を吐いたのは、竜騎士隊長のカーティスだった。


「パロル村の奴らは口が固くてな、幾ら積んでも聖女様の情報は知らんの一点張りだ。そろそろ話したらどうだ?国王も痺れを切らしてるぞ。」

「…奴隷制度のある国だ、簡単には教えられないな。」

「そんな国にもう20年だ。イヤなら自国に帰れ!他国の王族なんぞ目障りだ!!」

バンっとテーブルを叩くカーティス。だが、ラウルは眉一つ動かさず黙って座っていた、その時ラウルの元に伝波鳥が来た。


「…え⁇…」


ラウルの反応にカーティスも眉を顰めた。


「…気は進まないが、聖女様が王都に来ているそうだ。」

「なにっ⁈急いで国王様に知らせねば!!」


慌ただしくカーティスは部屋を後にした。

ラウルは窓に寄りかかり、目尻を押さえた。


「…良かった…モモ様。だが、王国がどう出るか…」



 陽が沈んだ頃、王都ラダンディナヴィア、東門の転移石。

私はカイドと共にパロル村から王都ラダンディナヴィアに転移した。カイドはそのままの姿だが、私は黒髪が目立つと言われフードを深く被り、男装していた。

王都に入るには入国許可証がいる、カイドは東門入り口で許可証を提示した。


「よし、そちらの方も入国許可証をご提示いただけますか⁇それとも…」


事を荒立てたくなかった私は、フードを取り顔を露わにした。


「黒髪…」


衛兵は私の黒髪を見て、驚いた様子でカイドを見た。


「今、国が血眼で情報を欲しがっている、聖女様だ。」


カイドの言葉に衛兵は片手をあげ、すぐに近くにいた衛兵達が駆けつけた。取り囲まれた事に恐怖を感じた私はカイドのマントを思わず握ってしまった。カイドも私を庇う様に前に立つ。


「今すぐには引き渡せない。まずは俺の用事を済ませないとな。聖女様とギルドのリンツに会わせてくれ。なーに、逃げるなんてしないさ。」

「…わかった、ただしこちら側も2人監視を付けさせてもらう」


衛兵達は顔を合わせて頷いた。


「わかった、好きにしろ。モモ様、こっちだ。」


カイドは私の手を握って、ギルドへ先導してくれた。後から付いてくる衛兵は武装し、黙ってついてきた。



 さすが王都。夜の街は灯りで照らされ賑わいをみせていた。

東門から程なく歩いた所にまるで洋館の様な佇まいのギルドがあった。中はホテルのフロントの様で、そこには色んな武装をした冒険者達が依頼書を見たり、情報交換をしていた。

カイドはギルドの受付嬢にリンツに会いに来たと伝えた。衛兵達は外で待機する事になった。

しばらくして、受付の奥から女王様風のハイヒールを履いた女性が出てきた。そして、カイドに顎クイしながら私を横目で見下ろした。


「久しぶりだね、カイド。隣のお嬢さんは?うちはもう募集はしてないよ、人手は足りてる。」

「違うよ、リンツ。とりあえず人払い願いたい。あとダンは来ているか⁇」


カイドの言葉に怪訝そうな顔つきを見せたリンツだったが、ギルドの2階に案内してくれた。私はそこで、フードを取った。私の姿を頭の上からつま先まで見たリンツはドカっと椅子に座った。


「黒髪、白すぎる肌、黒い瞳。この国の人間ではないね、どこの種族だい?」


カイドも長椅子に腰を下ろして、テーブルにあった葉巻に火をつけ一息ついてから私を紹介した。


「異世界から聖蛇ナーガ様によってこの世界に転生され、化身として遣わされた、聖女モモ様だ。」


一瞬静まり返った部屋だったが、リンツが肘当てを掴んで体を前のめりにした際、振動でテーブルに用意された水がコップからこぼれた。


「カイド!あんたそれ国が探してる…⁇」

「そう、マピチュ村を救った聖女様だ。とりあえず失礼を詫びろ。」


リンツは、私の前に立ち、自己紹介を始めた。


「はじめまして、聖女モモ様。貴女様に無礼な態度をとった事、心よりお詫び申し上げます。アタシはこのギルドの責任者リンツよ、体は男でも心は女なの、よろしくね」

「あ、お世話になります、モモです。」

「あ、ダンも呼ぶんだったわね!ちょうど今しがた起きた所よ」


リンツが隣の部屋の扉を開けると、1匹の狐が部屋に入って来た。


(あ…れ?ダンさんって人間じゃなかったっけ?)


狐は私の足に擦り寄って頭を擦り付けた。ふわふわでかわいいと頭を撫でようとした時、ボンッとマピチュ村で見たダンの姿が現れた。


「モモー!!無事だったんだな!!心配してたんだぞ!!」


ダンに抱きつかれ、驚く私を見てカイドがダンを引き離した。


「こらダン、うれしいのはわかったから離れろ。モモ様もびっくりしてるだろう。

モモ様、ダンは狐の亜人なんだ。亜人ていうのは北大陸に住む種族なんだが、まぁ、ここでは細かいことは省くな。

狐にもなれるし、人間に化ける事も可能だ。これで今12歳だ、まだ安定して人間に化け続けてはいられないんだが気はいい奴だから、王都ではダンも顔が広い。頼って大丈夫だ」

「よろしくな、モモ!」


ダンが満面の笑みで挨拶してくれた。その屈託のない笑顔につられて私も緊張が解けたのか笑顔が自然に出てきた。

それから私はまた狐になったダンを膝に乗せ、カイドとリンツは私の身を案じ、色々な段取りの話をしていた。


「あらあら、疲れちゃったのね。」


私とダンは長椅子で眠ってしまっていた。ダンがふわふわ温かく心地よかった。


「今日はアタシが預かるわ、カイドも泊まって行ったら⁇」

「そうだな、甘えるか。明日は忙しくなりそうだしな。」

「ダンがこんなに気に入ってるんだもの、モモちゃんいい子なのね。」

「モモちゃんて…」


リンツは外の衛兵達にモモ達が眠りについた事を説明した。

衛兵の一人はこれを伝えに城へ走った。



 翌朝、目を覚ますと隣には狐姿のダンが。気持ちよさそうに寝息を立てていたので、私は一人身支度を整えた。

しばらくすると、ドアをノックする音がした。ドアを開けると昨日とは違うコート姿のリンツが立っていた。


「おはようモモちゃん、よく眠れた?」

「はい、ありがとうございます。」

「ふふ、畏まらなくていいのよ、アタシの事はリンツって気軽に呼んでちょうだいね」


そう言いながら部屋に入り、カーテンを開けた。


「ちょっとダンー?起きなさーい。」


ダンはモゾモゾと布団に入る。容赦ないリンツはバッと布団を剥がし、ダンをベッドから追い出した。

ベッドから追い出されたダンは目が開かないままのそのそと部屋を出て階段を降りて行った。


「あの子低血圧でねー、中々しっかり起きないのよ、気にしないでね。」


私とリンツは笑ってしまった。



リンツが用意してくれた朝食を食べ終わった頃、ギルドに冒険者が入り始めた。と、共に王宮からの使者という男性が受付に立っていた。受付嬢は使者から手紙を預かると、リンツのいる事務所に来て、封を開けた後リンツに手紙を渡した。

リンツが封筒の封緘を確認し、手紙を取り出して一読した。


「通して」


受付嬢にそう言うと、そばにいた私には奥の部屋に行く様手で合図した。




 部屋に入ってきたのは、モルネード王国の宰相だった。

護衛兵も5人いたが、受付嬢が宰相だけを通し、事務所の扉を閉めた。


「朝早くから失礼する、リンツ殿」

「構いませんよ、宰相ラッツィ様。手紙は拝読しました。」

「その手紙は国王直々のもの。私も目を通せていないのだが、返事はいただけそうだろうか。」

「…どうぞお掛けになって。手紙には内密に聖女に会いたいとありました。本人に聞いてみましょう、私には回答権はないので。」


本人に聞いてみましょうと言うリンツの声が聞こえた時、緊張が走った。それに気づいたそばにいた狐姿のダンは唸り声を上げた。

扉が開くと、真っ先にダンが警戒の姿勢でリンツを迎えた。


「ダン、大丈夫よ、お話するだけ。」


リンツがダンを宥めて、私と目を合わせた。


「王宮から宰相が来ているわ、少し話せるかしら?」


私はこくりと頷いた。部屋から出て事務所におずっと足を踏み入れる。私の姿を見た宰相はすぐに立ち上がった。


「はじめまして、モモと申します。」


私は頭を下げた。


「貴女様が、マピチュ村を救って下さった…失礼、私はこの国で宰相を務めるラッツィと申します。拝謁叶いまして光栄です、モモ様。」

「モモ、この国の王様が貴女に内密に会いたいんですって、どうする?」

「え…王様?」

「内密とあるなら時間は夜になるかと。どうかモモ様のお時間をいただけないでしょうか。」

(王様よりラウルに会いたいんだけど…この機会を断るとラウルに会えない気もするし…)


モモが悩んでいると、リンツが先に口を開いた。


「モモは今投獄されているラウルに会いたいんですが、手配出来ますか?」

「あ…リンツ」


私の言いたかった事を代弁してくれたリンツを見ると、リンツはウインクしてみせた。


「わかりました、手配致しましょう。ちなみにラウル殿は今王宮に軟禁状態にありまして、健康面に関しても何ら問題ありませんよ。」


その言葉を聞いた私は胸を撫で下ろした。


「良かった…、わかりました。王様にお会いします。」

「ありがとうございます、ではまた夕方迎えにあがりますので、一先ず私はこれで失礼させていただきます。」

宰相は一礼すると、事務所を後にした。


私は緊張の糸が切れたのか、その場に座り込んでしまった。


「大丈夫、モモ?」

「良かった…ラウルさん無事だった…」

「まぁそうでしょうね、隣国の王子だもの。手荒に扱えないわ。さ、王宮に行くなら色々準備しないとね!その服じゃ行けないわ、アタシが聖女っぽくコーディネートしてあげるわね!」

「へ?」


この後半日、私はリンツに連れられ王都のオシャレショップをあちこち回り聖女っぽい装いが完成した。美容室にも行き、髪を整え、ナーガ様にいただいたペンダントとピアス、腕輪を付けた。


「わぁ。私じゃないみたい!」

「素敵よ、似合ってるわモモ」


鏡に映る私は、ハーフアップくるりんぱに残り髪を羽根のバレッタでまとめたヘアスタイル。アイボリーのカシュクールワンピースに白の刺繍のついたショール、黒曜石のピアス、ペンダント、腕輪、ラウルからもらった金の指輪をつけ、濃いめのベージュサンダル姿だった。結婚式の2次会にも行けそうな装いだ。


「すっごいかわいいな、モモ!」


人型のダンが抱きついてきた。


「ありがとう、ダン」

「ダン、あんたはモモの護衛よ。しっかり頼むわね!」

「承知!!」


リンツはダンの頭をくしゃくしゃにしたが、ダンは意外に気持ち良さそうにしていた。



 しばらくして、王国の使者一行がギルドに到着した。先程の宰相の姿はなかったが、騎士達の中から一人飛び抜けて美形の青年が受付嬢に話しかけた。受付嬢の頬は少し赤くなっていた。


「まさか、貴方が来るなんて。研究所、人手不足は解消したの、ルーク師団長⁇」

「久しいなリンツ、研究所は未だに人手不足のままだ。中々腕のいい研究員が育たなくてな…、それで、例の聖女様はどちらに⁇」


私はリンツに促されて、リンツの後ろからコツっと足音を立てて前に出た。


「は…はじめまして、モモと申します。今日はよろしくお願いします」


頭を下げて挨拶した私に、その青年を含む騎士達が一斉に敬礼のポーズを取り片膝を床につけ平伏した。


「お初にお目にかかります、私は聖属性魔法師団、団長を務めますルークと申します。本日は貴女様の王宮までの護衛を王よりおおせつかり参上致しました。」

「あ…頭を上げて下さいっ」


私の慌てぶりを見てフッとルークは笑みをこぼし、立ち上がると、他の騎士達も姿勢を元に戻した。


「さっそくですが、馬車を用意しております。どうぞそちらに。」

「待ってルーク師団長。モモの護衛にこちらも付けたい人物がいるわ。」

「…誰ですか⁇」

「ダンよ。来なさいダン。」


ダンはギルドの入り口に立ち、出口を塞いだ。


「なるほど。聞き入れないとここから出れないわけだ。

ダンと言えば、Sランクの魔法剣士、ラウルの相棒か。

いいでしょう。ただし王宮では武装解除してもらうが?」

「構わないわよね、ダン。あんた武術もイケるし?」


ダンは頷いた。


「では出発しましょう。」


私達は用意された馬車に乗り王宮に向かった。

ギルドから王宮までは馬車で30分程、馬車の揺れ心地が良く眠気と戦っていた私と、完全に寝てしまったダン。


「もうすぐ王宮に着きますよ、モモ様。」


私の眠そうな顔を見たルーク隊長はクスリと笑った。


(あ、これから王様に会うのに、私ったら緊張感なさすぎる恥ずかしいっ。でもでも揺れ心地良くてー…)


思い返せば前世でも通勤電車に座れた時はスマホを見るよりも寝る派だった私。体に染みついてしまったのかも。

私は恥ずかしくなり両手で顔を覆った。


馬車から降りると、そこは王宮の裏側だった。私に会う者を制限しているようだった。中に入ると応接間に通されボディチェックを受けた。もちろん女性騎士に。

ダンは武装解除し、剣は預ける事になった。


「謁見の準備が整いました。」


扉が開き、私達を宰相ラッツィが呼びに来た。


「昨日ぶりですね、モモ様。お待ちしておりました。馬車は快適でしたか⁇」

「こんばんは、ラッツィ様。はい、とても…」


私は恥ずかしくなり目を逸らしてしまったが。


「それは良かった。

ではこれより私と共に王の間に移動します。ダン殿の事も承知しております、どうぞこちらへ。」


私はダンと共に王の間に向かった。




 廊下は大理石で出来ており、天井は高く何度か目にしたステンドグラスの窓はまるで結婚式をする教会の様だった。


「こちらです。」


王の間の前には二人の衛兵が扉を挟み両端に立っていた。私達を見ると一礼して扉を開けた。

王の間は執務室の様で赤や金色で統一されていた。

奥に執務席、その前に白を基調としたマーブルの大理石で出来たテーブル、豪華な革製のふんわりソファ。王は奥の席に立っていた。


「ご足労痛み要る。私はモルネード国、国王ブラスベルト・モルネード。」

「はじめまして、モモと申します。こちらは私の護衛を務めるダンです。」


私はリンツに仕込まれた社交界挨拶をした。続いてダンも敬礼してみせた。


「どうぞお掛け下さい。」


ラッツィに言われ私達はソファに腰を下ろした。ラッツィは王の横に立ち、中にいた衛兵に人払いを命じた。




「さて、この度のマピチュ村での事、感謝申し上げる。騎士達によれば聖属性魔法使い8人でも瘴気の陣を浄化出来なかったと。原因はわからないが、今も主に西側の森で瘴気の陣が発生している、それも頻繁に。貴女はそれを一人で浄化したと。」

「は…い。」


王に続いて、宰相ラッツィもメモに目を通しながら加えた。


「マピチュ村の村人の話では、モモ様は治癒、回復の他に死者蘇生もなさったそうです。死者蘇生の折には金色の光に辺り一体包まれたと報告があります。また、聖蛇ナーガ様に仕えるニーズヘッグをも使役されたと、報告にはあります。」


確かに自分がした事だけど必死だったからそんなに大事とは思っていなかった。


「モモ殿、今この国の聖属性魔法使いや聖女の中に死者蘇生を使える者も、ニーズヘッグを使役出来る者も、魔法発動時に光を発生させる者も存在しないんです。まして、黒髪を持つ者も…、貴女はどちらからこの国に、いえ、この世界にいらしたのですか?」


この宰相の問いに、私は答えるかどうか迷っていると、ダンが私の手を握ってきた。まるで大丈夫と言うように。

私は覚悟を決めて、聖蛇ナーガ様により異世界転生した事、邪悪な瘴気から世界を救ってほしいと託された事、最初にナーガ様に送られたのがパロル村だった事、ラウルに色々助けて貰った事を話した。


黙って私の話を聞いていた王と宰相、ダンは驚きを隠せず、また王は眉間に皺を寄せ何か考えをまとめている様だった。


「私がお話出来るのは以上です。あの、ラウルに会わせていただけますか?」


宰相は王の様子を伺う。しばらく沈黙が続いた。


「モモ殿の話は、わかりました。報告との相違点もない様だ。ラウルに合わせよう、ただしばらくこの王宮に留まっていただきたい。可能だろうか?もちろん、ダン殿もだ。」

「あ、…わかりました。」


ダンも一緒ならと私は安心して要求を受けた。ダンも頷いた。



私達が王の間を出てしばらく廊下を歩いていると、前から衛兵二人に連れられた見覚えのある銀髪の背の高い…


「ラウル!!」


ダンがその名を呼びラウルに向かって駆け出す。


「ダンがモモ様の護衛役か?いい子にしてたか?」


ダンは明らかに子供扱いされているも、嬉しそうに笑っていた。私もラウルの元気な姿を見て、口元を両手で覆い、その場に座り込んでしまった。うれしさで、目の前がぼやけていった。

ラウルは駆け寄って優しく抱きしめてくれた。


「モモ様、無事で良かった…すみません、そばに居られず。」

「ラウルさんが…私のせいで…投獄されてしまっ…聞いて、私、何も出来なくて…ラウルさんが無事で…っ良かったっく」


泣くのを堪えたくても、出来ず何話してるかわかってもらえないかも、と、ふとあるワードが頭をよぎった。


ー隣国の王子ー


私は慌てて、ラウルの胸から離れると、涙を拭いて立ち上がって姿勢を整えた。


「っ、ごめんなさい、ラウルさん王子様なのに、私

服汚しちゃったんじゃ…」


ラウルは私を見上げて微笑んだ。


「ははっ、俺の話聞いたんですね。王子なんてただの飾りですよ、俺は貴女の側で役に立てればいいんです。」


ラウルは私の右手を取り薬指の指輪にキスをした。

ラウルが無事だった事よりも恥ずかしさが増して、私は真っ赤な顔を片手て隠すのに精一杯になっていた。


 「そちらの女性がお前の大事な人か、ラウル?」


私達の後ろから声をかけて来たのは緑色の髪の長い青年だった。


「ああ、モモ様、これはこの国の王子で、一応俺の友人です」

「なんだその雑な紹介!!待遇良くしてやったのに!」


カツカツ足音を立てて、青年はラウルの頭をバシッと叩いた。そして私に右手を差し出し


「はじめまして、今ラウルから雑な紹介をいただいた、ラインハルト・モルネードです。お会い出来て光栄です、聖女モモ殿。」

「あ、はじめまして、えと、モモと申します。」


ラインハルト王子の手に応える様に私は握手を交わした。


「今日はもう遅い、私が客室に案内しよう。ラウル、おまえの軟禁生活もこれで解く。私から父上には話を通しておこう。」

「すまないな、ラインハルト。」

「腐れ縁な」


私達は客室に案内され、ラウルとダンで一室、私は向かいの客室に泊まる事になった。豪華な客室はテレビで見たことのある西洋の宮殿の様だった。私はソファに腰掛けると、そのまま深い眠りについてしまった。



 翌朝、目覚めると、私はネグリジェに着替えてベッドに横になっていた。扉を叩く音がし、侍女が5人入ってきた。


「おはようございます、聖女様。よくお休みになられましたか?私達は国王よりこちらに滞在の間、貴女様のお世話を仰せつかりました。何なりとお申し付け下さいませ。」

「た、滞在?今日、帰るんじゃ…」

「ご朝食の後、宰相より今後のお話があるとの事です。詳しくはそこで。さぁまずはお着替えですね。」


侍女達はテキパキと動き出し、私は言われるがまま、されるがままにドレスに着替えさせられてしまった。ビスチェを締め上げられる時が一番キツかった…。


「聖女様は細身でいらっしゃるのでマーメイドが映えますね。」

「そうですわ、お肌も透き通る様に白くて、この国のシンボル色がとてもお似合いですわ。」


ベタ誉めの侍女さん達に私は少し引き気味だったがイヤな気分ではなかった。


「綺麗にして下さってありがとうございます。」


その後、朝食をいただき私は宰相さんの部屋に案内された。




 扉の前にはやはり衛兵がおり、私の姿を見るなり一礼して扉を開けた。そこには、ラウル、ラインハルト王子にダン、マピチュ村で見た竜騎士隊長、そして聖属性魔法師団、隊長のルークが待っていた。

一同の視線を浴び、驚いた私は一礼した。


「遅くなって、すみません。」


すると全員が立ち上がり、ラウルが私を席までエスコートしてくれた。


「皆さんの貴重な時間をいただける事に感謝致します。聖女モモ様におかれましては、改めて我が国の者達を紹介させていただきます。左から、王子ラインハルト様、隣に竜騎士団隊長カーティス。そして、聖属性魔法師団、隊長ルーク。

右はもうご存知の通りですね、最後に私ラッツィでございます。」

「よろしくお願いします。」

「今日ここにお越しいただきましたのは、今後のモモ様の身の振り方についてと、瘴気の浄化についてです。」

「身の振り方…ですか…」

「そうだ。昨日、国王からモモ殿について話があった。そして、貴女の聖女としての力量はこの国一であると言わざるを得ない。今は一部の者しか知らないが、モモ殿の存在をおいそれと城下やまして村などに置いておくわけにもいかない。

そこで、王宮に部屋を用意する。護衛も付け貴女が危険に晒されない様我々が責任をもって務める次第だ。」

「え…私が王宮に…?わ、私には無理です、そんな王宮なんて、それにパロル村の人達もいい人ばかりで…」

「確かに、パロル村に悪い人はいない。けれどマピチュ村での戦いで貴女の存在が公になってしまった。貴女を攫おうと考える輩もこれから現れるかもしれない。」

ラウルがラインハルトの意見に付け足す。

「加えてモモ殿に確認したい事がある。

瘴気の浄化について、貴女はこれからどう動かれるつもりですか?」

「ラインハルト、それはっ」


(瘴気の浄化…聖蛇ナーガ様に託された私の仕事。私自身、実際瘴気の陣を見て、ただ浄化するだけじゃなく、溢れ出る魔物も相手にしないといけない。私はRPGで言えば後衛、弓矢の威力も大した事ない。一人では何も出来ない…)


私はペンダントを握って息を整えた。


「私には魔物と戦うスキルはありません。私一人では、瘴気の陣を浄化する事は出来ません…どうやっていけばいいか、わからないですが、この国を、この国に生きる全ての人の役に立てたらと、思っています。」


私は話し終えると、あまりの緊張に耐えられず、過呼吸になりかけてしまった。すかさず介抱してくれるラウルとダン。


「貴女の覚悟はわかりました。そのお言葉をいただけて感謝しかありません。我が国の正常なる姿を取り戻す力を貸してください。」


宰相はそう言うと、私に入国許可証を手渡してくれた。


「モモ殿、貴女をこの国に歓迎します。貴女の生活における全てを私が担当させてもらう、言わばこの国における後継人だな。ラウルとダンは城下にいるし、ラウルについてはモモ殿の専任護衛の任を与える。瘴気の陣の浄化や、討伐については竜騎士団隊長カーティス、聖属性魔法師団隊長ルークをいつでも使って欲しい。他に必要なものがあれば用意させよう。何でも遠慮なく言って欲しい。」


ラインハルト王子に言われ、私は一つ欲しいものが浮かんだ。


「なんでも、いいんですか?」

「ああ、別に地位でも爵位でも欲しいなら用意するぞ。」

「私、弓矢が欲しいです。」


私の言葉に皆唖然とした。


「ゆ…弓矢?モモ殿が使うのか?」

「はい、私は剣とか使えませんが、弓なら覚えがあるので、

マピチュ村で使用した狩人さんの弓矢は私の力に耐えきれず壊してしまって…」

「…わかった。国直属の武器屋に依頼しておこう、時間はもらうぞ。」

「ありがとうございます!」

「これからよろしくお願いします、モモ様。」


ルーク師団長に言われ、私ははいと元気に答えた。









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