光の妖精ルキスと蜘蛛の従魔ペル
ペルの旅立ちを祈願した宴は、深夜まで続いた。
途中、泣き疲れてペルの肩で寝てしまったアタシが目を覚ましたのに、モモが気付いた。
「ルキス、起きた?」
「うん。みんな出来上がってきてるわね。」
周りを見渡すと、トルチェやクアラに絡まれるジュウト。シュアに至っては、深い眠りに落ちていた。
新しくラインハルト殿下直属パーティーに仲間入りした、白魔法使いアイク、剣士ナナ、テイマーのポッチェ、槍使いのイーサンも別のテーブルで親睦を深めていた。
「白、黒両方極めてるなんてー、信じらんなーい。」
「トルチェさん、飲み過ぎですよー。それに、白魔法はまだ習得中で…」
「習得中で、ランクSって…何目指してるんですかぁ?」
「クアラさんも、そろそろ…もー、ロイドさん助けてっ!」
ロイドは我関せず、タダ酒を味わいながらカウンターでマスターと会話を楽しんでいた。
「がんばれ、ジュウト。」
「棒読みですよ!ロイドさんっ!」
すると、トルチェにロックオンされたロイド。フラフラとトルチェはロイドのいるカウンターへ行き、ロイドの肩に手を掛けた。
「ロイド、あんたは悪魔ちゃんのタイプなんだって?」
「悪魔ちゃんて…」
「あーんな可愛くて、スタイル抜群な子に好かれてー、本当は内心うれしいんじゃないの?」
「いや、俺ホント押しの強い子は苦手で…って、トルチェ、酒こぼしてるっ!ちょっ…」
ロイドに絡みながら、トルチェはロイドにもたれ掛かり寝落ちした。
「あー…ったく仕方ない。ラウル、俺トルチェ送って行くわ。あと頼んだ。」
ロイドはトルチェを抱え、ラウルの隣に座るペルとグータッチを交わした。
「気をつけてな、強くなったペルを楽しみにしてるよ。」
「ありがとう、ロイド!」
「では、モモ様、お先に失礼します。」
ペルの隣に掛けるモモに挨拶し、ロイドとトルチェは酒場を後にした。
ロイドは一見近寄り難い、一匹狼な雰囲気。だけど、仲間の面倒見も良く、礼儀正しい。ロイドの雷剣、クトネシリカの扱いに苦戦している様だけど、アタシが見るに雷剣に宿るカンナちゃんはアタシ達の言葉が通じない。それを解析出来たら、カンナちゃんと意思疎通出来て、雷剣の能力を遺憾なく発揮出来ると思う…今度やってみようかしら。
そんなことを考えていると
「ルキス、ちょっと付き合ってくれる?」
「?」
モモからのお誘い。こんな深夜に、と思ったけどアタシの大切なご主人様だもん。どこへなりと付き合います。
「そろそろ私も休ませてもらおうかな。」
「じゃあ、送るよ。」
「大丈夫、ギルド隣だし、ラウルとペルは後よろしくね。」
「あー…、わかった。おやすみ、モモ。」
「おやすみなさい。マスター、ご馳走様でした。」
モモが酒場を出る姿を見送ったラウルとペルは、グダグダなクアラと、クアラを介抱するジュウト、寝落ちしているシュアを一応見て、何事もなかったかの様に、マスターにおかわりを頼んだ。そんな二人に新メンバー達が声を掛けてきた。
「君達も中々強いね。」
「ボク途中から水に切り替えてるよ。」
聖壁のラウルに声をかけられ、新メンバー達のテンションが上がる。この後、彼らに経験値の上げ方やら、装備品の事やら、聖蛇の化身モモのこと、今までの討伐の事、質問攻めに合う二人だった。
宴の主役、ペルがギルドの部屋に戻ると、窓辺に腰掛け、ボトルを片手に月を眺めるルキスの姿があった。
ペルから見て、ルキスは主人のモモに使役される姉貴分。光の妖精で、表面上は美しく儚げ。しかし、中身は喜怒哀楽が激しく、コロコロ表情が変わり酒グセが悪いのがイタイ。
「ボーっと突っ立ってどうしたの、ペル?宴は終わったの?」
月明かりに照らされたルキスは、いつにも増して美しくペルの目に映った。
「あ、うん。…眠らないの、ルキス姉?」
ルキスは持っていたボトルを窓辺に置いた。
「こっちに来て、ペル。そこじゃ暗くて顔がよく見えないわ。」
「…うん。」
ペルはルキスのそばまで来ると、ルキスに視線の高さを合わせる様に片膝をついた。
「モモはもちろん、アタシもペルの事大好きよ。大事な仲間であり、大切な弟。見送りくらいしたいじゃない。
ホントはさっきまでモモも、起きていたのよ、見送るんだって頑張っていたけど、寝てしまったわ。」
「…結局泣かせちゃったね、ボク。約束守れなくてごめん。」
ペルは静かに眠るモモに目を向け、申し訳なさそうな表情を見せた。
「それだけ、モモにとってペルの存在が大きいって事よ。」
ルキスはそう言いながら、ペルの前に小瓶を差し出した。それを目にしたペルは呆れ顔で。
「ルキス姉、もうボク飲めない…」
「まだ何も言ってないわよっ。どうして全て酒になるの!?」
「いやー…普段の行い?」
「かわいくないわねっ!
お酒じゃないわ、これはモモからの選別!」
ペルはルキスから小瓶を受け取ると、立ち上がり、月明かりに照らした。
「光の粒が…?」
「モモの血液よ。」
「えっ…」
「モモとアタシは宴を抜けてから、エディン病院に行って、モモが、夜間の看護婦人に頼み込んで採血してもらったの。
鮮度を保てるように、その小瓶にはキープ魔法が付与してある特殊なものよ。ペルだけの特別製、もしもの時に飲んでって、モモが言っていたわ。」
「モモ、ルキス姉…ありがとう!」
ペルの胸がじわっと熱くなる。
そんな感動しているペルの胸元にルキスは手を当て、光の魔力を集中させた。
「ル、ルキス姉?」
「〝リヴァイヴァル”」
ルキスが蘇生魔法を詠唱。すると、ペルの胸元が光り輝き、核の上に光とラッパ水仙を模した紋が浮き出た。かなりの魔力を消費したのか、よろけるルキスをペルが抱き止める。
「ルキス姉っ、大丈夫!?」
「ええ…アタシも自分で直接付与するのは初めてだから…ごめん、目眩が…」
「あ、ルキス姉はいつもモモを介して魔法使うタイプだもんね…この綺麗な紋は…」
「…ペルに万一の事があった時に、一度だけ発動する蘇生の紋よ。発動しない事を祈るけど。」
ペルは浮き出た蘇生の紋に触れ、ルキスが上から手を重ねた。
「必ず帰って来てね、力を手に入れて、待ってるわ…ペル。」
ルキスはそう言うと、ポンっと妖精化し、深い眠りに着いた。ペルは、小さな光の妖精を大切に両手で包み、モモの枕元へ移した。
二人の寝顔に笑みをこぼすペル。
「ありがとうモモ、ルキス姉。行ってきます。」
ペルが支度を終え、窓から出ようと足を掛けると、目の前に宙に浮いたオティウスの姿が。
「オ、オティウス様…」
「ペル、地底界への道は、満月の夜のみと教えたはずだが。今からのんびり出発か?」
「あ…はい、色々あってこんな時間に…まぁ走れば間に合うかなと。」
「間に合うかっ!ポーカテペトルに着く頃にはもう夜明けだわ!ったく…まぁ…良い仲間に恵まれたな、ペルよ。」
オティウスの言葉に、ペルは満面の笑みで返事した。
「私からも特別に…」
オティウスは地上と平行に、宙に魔法陣を展開させた。
「ここから地底界の入口へテレポートが可能だ。地底界はほぼ樹海と魔窟。方向感覚を失わない様に気をつけろ。
蜘蛛の王の名は、ルブロンだ、それしか教えてやれないが、武運を祈る。」
「ありがとうございます、オティウス様。」
澄み渡る空気、満月と満天の星達が見守る中、聖蛇の化身、聖女モモの従魔ペルは旅立って行った。




