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ペルの決意とラウルの正体

窓を開けると、澄み渡る空気が心地良い風に乗って、カーテンを揺らす。手早く身支度を済ませたモモは、部屋を出て階段の手すりに手を掛けた。


「おはよう、モモ。良く眠れたかしら?」


階段を降りた先にあるギルド受付カウンターから管理人リンツが声を掛けてきた。


「おはようございます、リンツさん。用意して下さったアロマのおかげで、眠れました。ありがとうございます。」


キッチンでは、モモより早く起きたペルが、朝食の準備をしていた。


「おはよー、モモ。もうすぐ出来るから座っててー。」

「ありがと、ペル。」


「あ、そうそうモモ。朝食済ませたら王宮に行ってくれるかしら。今回の事件の聴取があるみたいよ。ペルも呼ばれてるからね。」


「はーい。」


リンツが二人の元気な返事を受け取った時、2階からガタンっと音が響いた。


「…ダンがベッドから落ちたわね…全く、あの二人にはモモ達を見習って欲しいわ!」


そう言いながら、リンツはラウルとダンを起こしに階段を上がって行った。


「まさか、悪魔にまで気に入られちゃうとはね、モモ。ルキス姉、昨夜ずっとそれが気に入らなくて、ヤケ酒してたよ。」


ペルが紅茶をカップに注ぎながら、話す声のトーンはいつもより低く感じたモモ。


「あ…ごめん…」


モモはリリンに付けられた契約の痕を思わず手で隠す。


「…ペルも、怒ってる…?」

「怒ってないって…言ったらウソになるかな。あまりいい気はしてない。モモは気付いてないかもしれないけど、リリンの魔力はボクやルキスを遥かに上回ってる。暴走されたら押さえられないかもしれない…。

ただでさえ、魔人達に狙われているのに、モモをこれ以上危険な目に遭わせたくない。」


ペルはそう話しながらテキパキと朝食の準備を進める。


「そう…だよね。私がもっとしっかりしないと、ペルとルキスにいつも負担掛けちゃって…私も自分の身くらい自分で守れる様にもっと頑張るからっ。

…今回の事、本当に…」


ごめんと続けようとしたモモの口にペルがミニトマトを入れた。


「⁇」

「違う、モモにこんな事言わせたかったんじゃないんだ。

ボクの方がごめん…」


(…ペル…?)


タンタンとリンツが階段を降りて来る。


「あら、アナタ達まだ食べてなかったの?ほらほら、冷めちゃうわ、いただきましょう。」

「ラウルとダンは?」

「あの子達は、もう知らないわ!」


リンツはプンプン怒りながら、サラダを頬張った。

朝食を終えたモモとペルは、支度を整えリンツにお礼をし、モルネード城へと歩き出した。


(朝、ペルの様子おかしかったけど、大丈夫かな…)


いつもならモモの隣を歩くペルが、今日は後ろを歩いていた。何か考えているのか表情が曇っている。


「ペル。」

「モモ。」


二人が同時に声を掛け合った。


「あ、先にどうぞ、ペル…」

「あー…うん。」


そこは朝の人通りが少ない時間帯の路地。ペルがモモに歩み寄り、モモをそっと抱きしめた。


「ぺ…ペル?」


ペルの腕の中で驚いた表情のモモがペルを見上げた時、ペルがモモの肩にポテっと頭を乗せた。


「…怖かった、モモが攫われて追えなかった時。ボクとはケタ違いの魔力を持つリリンが現れて、モモと契約した時。

モモは、こんなに小さくて、力を入れたら壊れちゃいそうなのに、自分より強い相手に向かう勇気があって、ナイフの刃も素手で掴んじゃうし、かと思えば、誰にでもついていっちゃうし…危なくて一人にしておけない…」


モモが恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「モモに隷属してから、そんなモモにどんどん惹かれて、大切で…こんなに誰かを大事に思った事、リンツ以外…いや、リンツとも違うかな。

…モモを失うのが怖い。ギガンテスの第三の目を浄化した時のモモ、本当に女神みたいで、光の中に消えてしまうかと思った。」

「ペル…」


ペルの言葉一つ一つに、モモの胸がキュウッと締め付けられる。ペルも緊張しているのか、ペルの鼓動がモモに伝わってきた。


「ボク、今のままじゃ、モモを巨大な闇の力から守れない…弱いままじゃダメなんだ。」

「そんな、弱くなんて…ペルはいつも私の事守ってくれてるのに…」

「オティウス様も言ってたでしょ、モモの血は高潔で、魔族は口にするだけで蘇る。この世界は瘴気の浄化だけじゃ、済まなくなって来てるって…」


オティウス様とは、この世界の闇の時間、聖蛇ナーガと対の時間を司る者であり、王都ラダンディナヴィアで今回起きた事件をモモ達に知らせてくれたのも、彼である。


「多分、これから今までのより凶悪な魔人や魔物、悪魔がモモの血を狙って来るかも知れない。」

「……っ。」


モモが身体を強ばらせた。


「だから、ボクは故郷に行ってみる。ボクの力を、蜘蛛としての闘い方を最大限に引き出す方法を会得してくる。モモのそばを少しの間離れるけど、モモの事、モモを狙う全ての敵から護れる様になりたいから。……いいかな…」


モモは俯き、ペルの腕の中で肩を小刻みに震わせていた。

自分の事をこんなに心配してくれる存在に、愛しさと、温かさと。離れてしまう淋しさと、気持ちが溢れて、目の前が滲んでいく。


「モモ…?」


モモは、目元を押さえ顔を上げ、ペルに笑顔を見せた。


「ありがとうペル。私の事大切に想ってくれて。私もペルが大好き。離れてしまうのは淋しいけど、ペルが強くなって帰って来てくれるの、待ってるね。」


モモの、優しい声と自分の考えを受け入れてくれた事に、ペルの胸がジワッと熱くなる。


「うん。必ずモモの元に帰って来るから、約束する…」


ペルはモモの涙をそっと拭い、右手をとると、甲に口付けをした。

二人の足は再びモルネード城へと向かう。いつも通り隣に並んで。


「ルキスはこの事知ってるの?」

「一応、昨夜話したんだけど、ルキス姉酒入ってたから、どこまで聞いてくれてたかわかんない…」

「あはは、ルキスお酒入ると酷いもんね。」

「本当、ひどい光の妖精様だよ。」


ーモルネード城 軍事執務室ー


モモとペルが部屋に通されると、すでに雷剣士ロイド、白魔法使いジュウト、シュア。黒魔法使いトルチェ、クアラの姿があった。五人はもう聴取を終え、次の任務についてのパーティー構成について話し合っていた。その奥には新しい顔ぶれが。


「おはようモモ殿、ペル…」


ラインハルトの爽やかな笑顔が一気に曇る。理由はもちろん。


「おはようございます、殿下。あの、ラウルとダンはまだ、その…」


モモが気まずそうに言葉を濁すと、ラインハルトはドアに立つ直属の騎士を眼力だけで呼び寄せた。


「大丈夫、モモ殿のせいでは決してないから。彼らの朝の弱さは。」


モモに一言添えたラインハルトが呼び寄せた騎士に告げる。


「悪いな。ギルドに行って、あの二人を引き摺ってでも連れて来てくれ。」

「はっ!」


騎士は敬礼すると、風の如き速さで部屋を後にした。


「さて、モモ殿達からも色々聞かせてもらいたい。まずは礼を言わせてもらう。シュピツ村の件及び、フォンテーヌ病院とブレナム病院での活躍、そしてギガンテス討伐、心より感謝する。」


ラインハルトがそう言葉にし一礼すると、執務室にいた者達全員がその場に立ち上がり、モモ達に拍手を贈った。


「そんな…私なんて、ペルやみんなが頑張ってくれたからです。ありがとうございます。」


モモの謙虚な姿に、ペルも拍手を贈る。


「あの方が、聖蛇ナーガ様の化身と言われている、聖女モモ様…」


モモを崇拝する様に見つめる、執務室奥に立っている四人をラインハルトがモモとペルに紹介した。


「ここにいる4人は、ギガンテス討伐に貢献したギルド冒険者で、左から白魔法使いのアイク、剣士ナナ、テイマーのポッチェ、槍使いのイーサンだ。彼らのギガンテスに臆する事なく立ち向かう勇気と国を守り、民を愛する心を高く評価し、私直属のパーティーに加える事とした。これから行動を共にする事となる、よろしく頼む。」


簡単に四人が挨拶を済ませると、ラインハルトがモモに目を向けた。


「はじめまして、聖女のモモと申します。気軽にモモと呼んで下さいね。私もまだまだ未熟ですが、一緒にこの世界と人々を守る為に成長出来たら嬉しいです。

そして、こちらはペル。私の大切な従魔です。」


〝私の大切な従魔”というモモの紹介にペルは満面の笑みで会釈した。


(ペル…スッゴイ嬉しそう…)


そう全員が思い、モモとペルの仲睦まじい空気に場が和んだ。


(…聖女モモ様の従魔…あのレベルを従属させれるテイマーはSランクでも中々いない、やっぱり聖蛇の化身だから特別な…)


テイマーのポッチェの視線を強く感じたモモ。


「なにか?」

「あ、いえ、失礼しました…」

「テイマーには気になるのかな?ボクとモモの関係。」


ペルに心を読まれたのかと焦るポッチェ。


「あ…はい…俺はやっとAランクになれたので、ただまだそんなに強い魔物をテイム出来るわけでもないので…その…」

「ボクからモモに隷属契約をしたんだよ。モモを心から支えたい、守りたいって思ったからね。ポッチェにもそういう出会いがあるといいね。」

「……!」


(ま、魔物から隷属契約…そんな事考えた事なかった…今まで俺は従えさせようと必死で…)


ポッチェの目に映るモモとペルは、心から繋がっている温かい雰囲気の中にいた。


「ありがとうございます、ペルさん。」


この時ペルがポッチェに与えたアドバイスが、この後ポッチェの新たな能力を開花させるキッカケとなる。


「では、モモとペルには応接の間へ移動してもらいたい。ヨイチ、頼む。」


ラインハルトの指示に控えていたヨイチは、モモに一礼すると応接の間へ先導した。


「ロイド、ラウルが来るまで悪いが例の件のメンバー選別構成を頼む。」


ロイド達はラインハルトの指示に敬礼し、ラインハルトは頷くと、軍事執務室を後にした。


それから僅か数分後、入れ替わる様にラウルとダンが軍事執務室に入って来た。


「悪いラインハルトー…ってあれ?」


「呼び出しておいていないとか、王子自由だなっ。」


未だにロイド達が理解出来ていないラインハルトとラウルの関係。一国の王子と何故そんなにフレンドリーかつファーストネーム呼びが許され、王子に対する明らかに不敬な態度にも関わらず周囲は気にもしない。


「殿下なら、モモ様達と応接の間に移動されたぞ。」


ロイドがやれやれと説明し、新しくパーティーに加入した四人を紹介した。ラウルは四人と軽く挨拶を交わし、部屋を出ようと踵を返した時、ロイドに肩を掴まれた。


「どこ行く気だ?」


「ん?ああ、まだモモに朝の挨拶してなかったから、ラインハルトの…ってロイド何か怒ってる?」


ラウルは初めてロイドの不機嫌そうな表情に驚いた。


「…怒ってはいないが、今、問題が山積みなんだ。おまえの色恋沙汰は後にしてくれたら有難いが?」

「ごめん、出てたか、幸せオーラ。」

「…うぜえ。」

「うぜぇって…怒ってるじゃん。はーん…ロイドもモモ狙いだったか?」


ラウルの言葉にイラッとしたロイド。


「……好みのタイプではある。」


ロイドの答えに、二人のぶつかり合う視線の先で火花が散った。巻き込まれたくないと思う周囲の反応に、トルチェが口火を切った。


「ねぇ、ラウルって殿下とどういう関係なの?」

「え…?どうした急に。」

「一国の王子にタメ口だし、態度デカいし、見てると時々どっちが王子かわからなくなるくらいよ?」

「あー…まぁ、ラインハルトとは…」


ラウルの言葉を遮って、ダンがサラッと答えた。


「あれ、みんな知らねーの?ラウルはピーニャコルダの第二王子だよ。」

「あ…」


あ!?


ダンのカミングアウトが、その場にいた冒険者達の度肝を抜き、まさかの悲鳴が城内に響き渡った。


ー応接の間ー

ほぼガラス張りのその部屋は各国要人も通される部屋。テーブルから椅子やカーテン、細部の物まで洗練された細工が施されている。何故ここにわざわざ軍事執務室から移動したのか、モモは理解出来ていなかった。


「すまない、遅くなった。」


ラインハルトがアドルフ第二騎士隊長及びルーク聖属性魔法師団長と共に現れた頃には、出された紅茶が半分なくなっていた。


「いえ、美味しい紅茶を頂いていました。」


モモとペルは立ち上がり、ヨイチ以外改めて席に着いた。


「さっそくだが、モモ殿、ペル。危険に晒されながらも、我が国を守ってくれて本当にありがとう。モモ殿が何者かに攫われたと知らせを受けた時は肝を冷やしたが、無事でいてくれて心から安堵している。」

「ええ、私も無我夢中で。今この命があるのも、ペルやロイドさん、ジュウトさんそしてルキス達のおかげなんです。」


モモは自分を助ける為に傷を負ったペル達の姿を思い出す。その光景がフラッシュバックし、手元のワンピースを握りしめる手が震える。

これに気づいたペルが、そっとモモの手に触れた。


「大丈夫、モモ?」


モモは静かに頷く。


「その節は、私が不甲斐ないばかりにモモ様を危険に晒してしまい、申し訳ありません。」


アドルフが立ち上がり、深くモモに頭を下げた。すると、ペルがフォローする。


「アドルフのせいじゃないよ。あれはボクの油断だった。魔人はもうこの国に入り込んで、人間に化てる。どこにいても不思議じゃない、この事がよくわかった。」


ペルの言葉に、ラインハルト達が息をのんだ。


「ロイドとジュウトからは、シュピツ村で起きた事から昨日までの討伐について報告を受けている。もちろん、ジュウトの黒魔法についても、モモ殿の悪魔との契約についても。」


悪魔との契約、これについてはモモも苦笑いしか出来なかった。


「魔人達の狙いは聖女の血、しかもただの聖女ではない。

聖蛇ナーガの化身であるモモ殿を狙っているのは間違いないんだな。」


ラインハルトが改めて確認する。


「近年、聖女が攫われる事件、以前の原因不明の死亡事件は女王蜘蛛ナルボンヌの配下、フォリュリアードの仕業と判明したが、討伐以降も聖女誘拐は後を絶たない。魔人達は聖女の血で一体何を企んでいるんだ…」


ルークがラインハルトの言葉に続けた。


「ロイド達から、オティウス様の話も聞いたが…この世界にナーガ様以外の蛇神がいるとは…昔語りだけで、あくまで伝説上の存在と考えられて来た。モモ殿も、ペルもお会いになったのだろう?」

「はい。オティウス様は、魔族が魔人を使って何かを蘇らす為に聖女の血を欲していると…何かまではわからないみたいですが。」


ラインハルトの問いにモモが答えた。


「あと、妖精王オベロン様の魔力を凌ぐ魔族が、とかも言ってたね。」

「よ…妖精王!?聖地サーリンゼルカにおられると言われる…?彼の地は妖精王オベロン様に許された者がいないと入れないと言われ、因みに私もラウルがいないと入れないのだ。……ナーガ様と対の時間を司るオティウス様に妖精王オベロン様……魔族に魔人、この世界で伝承とされる物語があるが…」


ペルの妖精王発言に驚くラインハルト達。


「物語があるんですか?」

「ああ、あくまで伝承だ。どこまでが本当かは国王すら知らないものなんだ。神のみぞ知ると言う言葉が当てはまるな。

読んでみるか、モモ殿?」

「はい、是非読ませて下さい。」

「わかった、ヨイチ。後でモモの部屋に手配してくれ。」

「承知致しました。」


ヨイチはラインハルトの指示に一礼した。と共に、ラインハルトに一通の書簡を手渡した。

ラインハルトは書簡を広げ、一通り目を通すと、ルーク、アドルフと目を合わせ、三人で何かを確認し合った。その様子を不思議そうに見ていたモモの前に、ラインハルトが書簡を置いた。そこには…


一方、ラウルの正体がダンによってカミングアウトされた軍事執務室では、ラインハルトの指示などお構いなしに話題はラウル一色で盛り上がっていた。


「……そう、ピーニャコルダの第二王子…なんか納得いったわ。今までの殿下への態度から、私達への指揮とかも。」

「そうですね、リーダー肌を醸し出して…」


トルチェとクアラの会話にロイドがツッコむ。


「醸し出すどころが仕切ってただろ、明らかに。まぁイヤな気はしないが。ソハヤノツルギを所持している時点で、何か感じてはいた。」


ソハヤノツルギ。ラウルが持つ剣で、アラネアの巣討伐の際、対フォリュリアード戦でガルーダに変化させる奥の手を使った、ピーニャコルダ王国の宝剣の一つ。


「まぁまぁ、いいじゃない。俺の事よりラインハルトから指示されている事があるんだろ?」

「良くないわよ、色々気になるじゃない。他国の王子が何でモルネード王国の城に出入り出来たり…知った以上はラウル様って呼ばないと…」


トルチェに「様」付けされたラウルは、青ざめた。


「今更気持ち悪い。ラウルのままのが気がラクだわ。」

「ぷぷ。ラウル様だって。」

「…ダン…」


ダンにまでからかわれるラウルに向けられる視線は、もう冒険者同士のそれでは無かった。一線引かれた空気。


「…わかった、話すよ。」


ラウルの言葉にトルチェ達は姿勢を正した。


「…まぁ、簡単に言えば人質だよ。ピーニャコルダがモルネード王国に敵意を向けないというね。過去に二国間で争いがあった事は知っているだろ?」

「人質…なわりに、随分自由ね。」


確かにそうだ。ラウルはその身を拘束される事なく、モルネード城に顔パスで出入り出来、軍議にも参加。時にはラインハルトの指揮を次ぐ者として戦場に立ち、騎士や師団員もその指揮下に入る事に抵抗がなかった。カーティス竜騎士団長は、あまり良くは思っていない所もあるが、ラウルの実力は認めていた。


「自由にさせてもらえてるのには感謝している。ラインハルトとは8歳の頃からの腐れ縁で、今の俺があるのも、ラインハルトが国王陛下に友人としてと、頼み込んでくれたからで、だから俺もモルネード王国繁栄に力を尽くすと約束した。それだけだ。」

「でも、いつかは戻るんだろ?ピーニャコルダに。第二王子って事は、もし第一王子に何かあったら王位継承権はラウルにあるだろ?」


ロイドの問いに、トルチェ達も頷く。


「いや、ピーニャコルダには俺の下に3人王子がいるんだよ。それに俺はモルネード王国に来る時に王位継承権を放棄してる。」

「ええ!?なんで!?」


思わずトルチェとクアラが叫ぶ。


「……政略結婚したくないから。好きな女性を一人幸せにしたいからかな。」

「えー…もったいない、ラウルなら選り取り見取りじゃない?確かにモモ様も可愛いけど、権力とかお金とか…」

「王子様だったのに、王位継承権放棄したら、ただの一般人てこと!?」


女子二人から散々な言われようだが、ラウルはフッと笑い飛ばした。


「ま、なんと言われようと構わないさ。

それに、王位継承権放棄しても、王族の地位はそのままにしてもらえてる。まだ下の王子達が幼いからな。

とりあえず、俺の事は今のままラウルと呼んで気軽に付き合ってくれたら助かるよ。」


ラウルは、もうこれくらいでと言わんばかりに困った表情を見せた。


「モモ様は知っているのか?」


ロイドの問いに、ラウルは一息ついた。


「ピーニャコルダの第二王子って事だけね。モモも詳しくは聞いてこないから、細かくは説明してないが、そのうちにとは思ってるよ。」

「モモが金と権力ない男、好きじゃなかったらどうすんの、ラウル?」

「…ダン…そこ言わないで…」


ダンの一言に、ラウル他一同肩を落とした。しかし、モモは異世界から来た女性、王子様に憧れを抱いている可能性もなきにしもあらず。悩むラウルを苦笑するロイド。


「大丈夫だ、ラウル。モモ様は金とか権力には靡かないタイプじゃないか?たぶん。」

「…そうであって欲しいよ。」

「そう言えばさ、以前ラウルと買い物行った時、モモどうだったの?ほら、女って大抵おねだりしてくるじゃんラウルに。」


確かに、ダンの言う通り以前モモと王都ラダンディナヴィアに出掛けた。しかし、モモはただ見て楽しむばかりで欲しいと言ったりする事は無かった。初めての王都だったからか、緊張していたかはわからないが、他の女性の様にラウルの腕を組んで歩く事も無く、逆に捕まえておかないとフラっと離れてしまうくらいだった。

ラウルが、そう思い返し柔らかく笑みをこぼした。


「ま、だいたいわかった。俺はラウルの事仲間としてこれからも付き合っていくつもりだ。トルチェ達はどうだ?納得出来たか?」


ロイドの一言に、トルチェ達も頷いた。


「わかったわ、思い返してみたら、ラウル達アラネア討伐後のご褒美貰えてなかったものね。なんか、殿下とのやり取りも見ていて嫌味は無いし。色々聞いて悪かったわ、これからもよろしくね、ラウル。」

「ああ、よろしく頼むよ。」

「モモ様の事、大事にして下さいね。泣かせたりしたら燃やしますよ?」

「そうよ、聖蛇の化身に手を出して、悲しませたりしたら私とクアラが許さないから。」

「あ…ああ。肝に銘じておく。」


トルチェとクアラの容赦ない言葉に、ゾッとする男性陣だった。


応接の間で、ラインハルトから目の前に広げられた書簡に目を通したモモ。


「こ、これって国王様が…?」

「ああ、モモ殿のこれまでの我が国にもたらした功績、今回のの件で多くの人々に顔がわれた。国としてもモモ殿の存在は公にしていなかった今、一気に聖蛇の化身として崇拝する人々が増えるだろう。これを鑑み、陛下はモモ殿に〝大聖女”の称号を与える為、公に謁見を用意する意向だ。受けてもらえるだろうか?」


ラインハルトにそう言われ、モモはルークやアドルフの顔も窺う。すると、ルーク達も笑顔で頷いた。


「今回、席をこの応接の間に設けたのも、モモ殿が我が国にとって高位の者と周りに示す為なんだ。〝大聖女”の称号は実はまだ与えられた聖女はいない。この称号は王に次ぐ地位の者を指す。つまり私や王妃より上だな。」


ラインハルトの言葉に慌てるモモ。


「で、殿下より上?王に次ぐって…そんな地位、私にはもったいないです。まだ討伐でも迷惑かけてばかりで、私にはとても…」

「そんな謙遜しなくても、モモ殿の実績は陛下はおろか、宰相も騎士団長達も認めている。私としても、是非受けて欲しい。それに、私はモモ殿の補佐を受け持ち、ここにいるアドルフ第二騎士隊長アドルフと第二騎士達はモモ殿専属の騎士となり、聖属性魔法師団長ルークもモモ殿直属の配下に入る。他にも陛下は爵位や屋敷なども用意していると聞いているが…モモ殿?」


事の大きさについて行けず青ざめるモモ。自分に出来る事を必死でやってきただけ。特に褒美など考えてもいなかった、そんなところへ降ってきた国王に次ぐ地位。

しかし、ふとある事が頭を過ぎった。

そしてこの場にいた誰も予想していなかった事をモモは口にした。


「あ、あの、カロルさんの処分は決まりましたか?」

「カロル?ああ、王妃暗殺のか…先日モモ殿が救ったカロルの妻、アザレアに騎士団員による聴取が入った。もちろん、カロルが囚われている事は伏してだが。情状酌量してやりたい内容だが、彼が狙ったのは一国の王妃。死刑は免れないな…」


(……死刑…)


モモは固く目を閉じてから、ラインハルトに目を合わせた。


「〝大聖女”の称号の件、少し考えさせて下さい。その前に、カロルさんに会わせていただけますか?」

「カロルに?…構わないが、護衛を付けても?」

「護衛にはペルがいるので…難しいでしょうか?」


モモの返答に驚いたラインハルトだったが、ある意味駆け引きであると悟った。ここでモモの意向を受け入れなければきっと、自国の聖女として囲いたい陛下の意向も流れてしまうに違いない。


「わかった、その要求受け入れよう。地下牢まではアドルフ第二騎士隊長が同行し、部屋の前で待機するが構わないか?」

「はい、ありがとうございます。」


モモは要求が通り、ホッと胸を撫で下ろした。


「そうそう、モモ殿に渡したい物がある。以前マピチュ村を瘴気の陣浄化してくれた際に、貴女に用意した褒美の弓だ。

ヨイチ、ここへ。」


ラインハルトがヨイチに告げると、待機していた衛兵が高価な深紅の布に覆われた物を、モモの前に置いて下がった。


「見てくれ。気にいるといいが。」

「は、はい!」


モモはそっと深紅の布を捲った。そこには、純白と金の短弓

が。大きさもモモに丁度いい、コンポジットだった。


「〝破邪のカウス”と名づけられた弓だ。主な部分はクネニという素材で、矢はモモ殿の魔力に呼応する仕組みになっている。後、弦なんだが、ペル。この弦に魔力を通せるか?それで完成する。」

「ボクの?」

「ああ、やってみてくれ。」


ペルはラインハルトに言われるがまま、破邪のカウスの弦に魔力を通した。すると、張られていた弦がペルの魔力付与に伴い強度が増し輝いた。


「これで完成だ。ペルに魔力付与させたのは弦の張替えを必要なくする為、モモ殿との隷属契約で思い付いた私のアイディアなんだが、ペルの蜘蛛の糸の魔力で出来た弦なら強度や威力を増せないかと。実際使ってみないとだが、どうだろうか?」

「ありがとうございます!軽いし、握りやすいし、ペルの魔力も通ってるなんて、嬉しいです。」

「ボクも。離れてもモモの役に立てるなんて最高な武器だね!デザインも女神みたいだ。」


モモの満足そうな笑みにラインハルトも安堵の表情を浮かべる。


「ありがとうございます、殿下!」

「はは、私も女性に弓を贈るのは初めてだから喜んでもらえて嬉しいよ。さて、では例の返事は待つ事にして、私とルーク師団長はロイド達の所に戻る。アドルフ第二騎士隊長、モモ殿を任せていいか?」

「承知致しました。」


ーモルネード城地下牢ー


「出ろ。」


カロルの鉄格子が開いた。鉄格子の前には屈強な騎士達が三人。マーガレット王妃を襲撃後、収容されてからあらゆる拷問に耐えて来たカロル。ついに処分される時が。と、覚悟したカロルだったが、連れて行かれたのは騎士団宿舎。そこでシャワーを浴び、伸び放題の髭を剃り、身支度を整えたところで、第二騎士隊長アドルフが姿を現した。


「重罪人カロル、これからお前をあるお方の元へ連れて行く。くれぐれも変な気は起こさんことだ。」

「はい。承知致しました。」


囚人の姿ではなく、クリーン魔法を施された自身の着衣。

重罪人が王族に会う事などまず無い。目隠しされたまま移動した先。ドアが開く音がし、椅子に座らされ、後ろに手を回された時、カロルの耳に聞き覚えのある声が。


「あ、そこまでしなくて…」

「後はボクが見てるから、大丈夫だよ、アドルフ。」

「わかった、では我々は外で待機させてもらいます。」


目隠しが外されたカロルの目に映った人物は、聖女モモだった。マーガレット王妃に放った矢を、王妃を庇って受けたその人だった。


「お久しぶりです、カロルさん。」

「これは…聖女様……貴女にはなんてお礼を言ったら、アザレアを救って頂いた事…先程の騎士隊長殿より聞きました。」

「ふふ、アザレアさん、術後の経過も順調…赤ちゃんは残念だったけど。今日は私がカロルさんに聞きたい事があって、来てもらいました。」

「貴女は妻を救ってくれた、それだけで私は幸せです。この身がどうなろうと覚悟は出来ています。聖女様の聞きたい事とは?」


モモは一呼吸置いた。それからじっとカロルを見た。カロルはその真剣な眼差しに緊張を覚える。


「カロルさん、私に仕える気はありますか?」

「……え?」


カロルはモモの思いがけない言葉に、ただただ驚いた。


(私が、聖女様に仕える?私が罪人であるにもかかわらず?そんな人間を側に置いたら聖女様の立場は…)


「貴女に意見するのは、心苦しいのですが…私への憐れみは貴女に何一つ特にはならない…私は覚悟は出来ているとお伝えしたはずです。」


カロルの曇り一つない瞳が、カロルの覚悟をモモ、ペルにも読み取れた。するとペルが、深紅の布に包まれた物をカロルの前に置いた。


「これは…?」

「私の武器です。どうぞご覧になって下さい。」


モモに言われ、カロルが深紅の布を広げた。


「ゆ…弓!?え…聖女様が弓!?」


カロルの驚き方に、ペルが吹いた。


「ボクも見た時は驚いたよ、聖女なのに杖とかじゃなくて弓なんだもん。そりゃカロルも驚くよ、モモ。」

「だって…私も闘いたいし…。で、カロルさんが覚悟出来てる命なら、私が残りの人生頂いてもいいですか?」


モモの申し出に、鳩が豆鉄砲を喰らった様な表情のカロル。


「音速の弓使い、カロル。現役は引退したものの、その腕は確か。私は弓の腕を上げたい。私の弓の師として、私にこの世界を侵す闇の瘴気や、魔人達から平和を取り戻す力を貸して欲しい、お願いします。」


モモはカロルに頭を下げた。


「わ、わかりました。わかりましたから頭を上げて下さい、聖女様。私の残りの人生、貴女様に捧げます。どうぞいかようにも…ただ私は足を以前怪我してから素早くは動けません。戦闘には不向き…」


すると、モモがカロルの両足をスキャン。左膝に異常を確認した。モモはカロルの前にしゃがみ込み、左膝に手を触れた。


「前十字靭帯損傷ね。大丈夫すぐ治るわ。」


モモはそうカロルに告げると、温かい光がカロルの左膝を包んだ。その光はカロルの古傷を癒していく。


「……!」

「歩いてみて下さい。違和感ありますか?」


モモに言われ、数歩ばかり部屋を移動したカロル。


「す、すごい、膝の違和感や痛みもありません!…ありがとうございます、聖女様!

不肖カロル、聖女様にこの命を捧げ、貴女様の意思実現に向け尽力致します。」


カロルはモモの前に跪き、胸に手を当て誓いを立てた。


「私はモモ、これからは聖女様ではなくモモと呼んで下さいね。カロルさん。」

「では、恐れながら、私に敬語は不要です。モモ様にお仕えするのですから、どうぞカロルと。」

「ええ、カロル。まだ少し地下牢に居てもらわなきゃだけど、必ず私が出して、あなたを私のものにするわ。待っていてね!」


モモの意気込みにカロルは笑顔を見せた。

その後、再び地下牢へ戻って行ったカロル。カロルの表情が別人の様に明るくなっていた事に疑問を抱いたアドルフ。この後、この大罪者が自分より上の地位に立つとは、この時知る由も無かった。


「アドルフ隊長、国王陛下の謁見、お受け致しますと殿下にお伝え下さい。」

「あ、は、はい!!承知致しました!」


アドルフは急いでラインハルトのいる軍事執務室へ向かった。その様子を部屋から見送ったモモは、ホッと一息つき、側にいたペルに微笑んだ。


「…良かったの、モモ?〝大聖女”の称号、カロルと引き換えにするなんて、無理してない?」


ペルの言葉がモモの胸な刺さった。きっと〝大聖女”の称号を受けたら今までに無かった正直面倒なイベントが多く発生しそうな予感しかなかった。しかし、マーガレット王妃暗殺未遂事件、犯人のカロルを死刑から救うには、この国王との謁見にしか好機はないと考えた。

モモが、テーブルの上の破邪のカウスに目をやり、弦に触れた。何度も自分を助けてくれたペルの魔力が通う弦。


「……無理…してるかも…」


モモが珍しく本音を口にしたと思ったペル。


「やっぱり。ボクがアドルフ止めて…」


そうペルがアドルフを追いかけようとした瞬間、モモがペルの服の裾を引っ張った。


「モモ?……泣くほど無理する事ないでしょ、カロルを助ける方法はきっと別にあるから…」


ペルが涙を零すモモを抱き寄せ、部屋のドアを閉めた。


「違くて…〝大聖女”の称号とか…そんなのより…」

「うん?」

「……ペルが…っ」

「え…」


ペルの名前を口にしてしまった自分に気づいたモモは、ペルの腕を振り払い


「な、んでもない!ごめん!!」


部屋を飛び出して行ってしまった。肩にかけていたショールだけが部屋の前に落ちていた。ペルはモモに隷属契約している。ある程度強い想いなら、何もしなくてもモモの感情が流れ込んで来る。


〝いかないで”


これがモモの本音だった。ペルはその場にしゃがみ込み、モモのストールを握りしめた。


「…………っ。なんでもなくないよ、モモ…」


その時、ヨイチがモモの部屋にラインハルトが言っていた〝伝承の物語”の本を持って現れた。


「おや、何かありましたかな、ペル殿?」

「ヨイチ…あ、いや、その、モモの事傷つけてしまって…」


ペルは立ち上がり、モモを探しに行こうとヨイチの脇を通ろうとした。すると。


「モモ様は、この世界の女性とは違い、あまり感情を出さないタイプでしょう。」

「?…ヨイチは何か知ってるの、モモの事。」

「私はモモ様と同じ世界から、時期は違えど、ナーガ様によってこの世界に転生した者です。」

「え!?モモと同じ世界から…?」

「ええ、まぁだいぶ時代も変わっていた事でしょうが。

私達の元いた世界の女性は、この世界の女性の様に強く自分を出さない、慎ましやかなタイプでしてね。もちろん中には強い方もいますが…」


ヨイチはそう話し出すと、モモの行きそうな場所をペルに教えた。そこは


〝弓の稽古場?”

〝ええ、モモ様は時間のある朝は早くから自主練しています。何がモモ様を傷つけたかは存じませんが、弓道の基本精神は、礼節を重んじ、相手を慈しむ。きっと、昂ぶってしまった気を鎮める為に、そこにいるはずですよ。”


ペルはモルネード城の敷地内にある弓の稽古場に走った。すれ違う衛兵や騎士、侍女達は何事かと驚いた表情を見せる。


(……?モモは飛び出して行ったのに、誰にもすれ違ってないのか?)


そんな先を急ぐペルに顔見知りの衛兵が声を掛けてきた。


「やぁ、ペル。そんなに慌ててどうしたんだ?何か探してるのか?」

「あ、ああ。モモを見なかったか?」

「モモ様?俺はずっとここに立っていたけど、見なかったぞ。それに流石にお一人では動けないだろ、侍女達には聞いたのか?」


(稽古場まで行くにはこの通路を通るしかないはず…)


「ああ、でもさっき、室内なのに風が吹いた様な感じが…」


衛兵の言葉にピンと来たペルは、また稽古場に向かい走り出した。


(ルキス姉が何かしたんだ…!)


息を上げ、稽古場にたどり着いたペル。だが見渡しても視界にモモは映らなかった。けれど、確かに感じるモモとルキスの魔力。すると、ドンっと思いきり胸を押され、ペルが体勢を崩した。


「…わっ!?」


ペルの前にスゥッと姿を現したのは、人型化したルキスだった。しかもかなり怒っている。


「ペル、あんたよくもアタシのモモを泣かせたわね?昨夜泣かせないって言ったから、あんたの事信じたのに!」

「ルキス姉…聞いててくれたんだ…酒入ってたから…」

「酒が何よ!聞いてたわよ!アタシだって…アタシだってホントは…わぁぁぁぁんっ!!ペルのバカ!!もうキライ!!」


ルキスは泣き始めると、ポンッと妖精化し、ペルの胸をポコポコ叩いた。


「ちょっ、ルキス姉、落ち着いて…っ、モモは…」


そんなルキスに押されっぱなしのペルの背中にモモが後ろから抱きついた。


「わっ!?モ、モモっ!ごめん、ボク泣かせるつもりは…」


ペルは振り向きたくても、モモにがっちり首を固定されて振り向けず。


「……っ、ごめんなさい、ペルが…いなくなっちゃうって思ったら…涙が止まらなくて…っ」

「……!」

「こんな顔…見せられ…?」


モモの肩をギャン泣きしていたルキスがポンポンと叩いた。


「モモ、グスッ…こんな顔どころか、何も見られなくなるわ…チーン…ペルが。」


ルキスが半べそに鼻かみながら、モモに息の止まりそうペルの姿を見せた。


「あ!やだっ!!ペルッ、死なないで!!」


軽く窒息寸前状態のペルがモモにもたれ掛かり、膝枕に落ち着いた。


「けほっ…だ、大丈夫だよモモ、死なないから。ちゃんとモモの所に帰って来るから。約束する…」


上からペルを見つめるモモの瞳は涙で溢れ、その雫がペルの頬を伝う。ペルが手を伸ばし、モモの涙を拭い口にしたその時、フォリュリアードの言っていた意味が初めて解った。


「!!」


ペルの手が口で止まったままになっている。それを見たルキスも、ペルの頬に落ちたモモの涙を指で掬い口にした。


「!!」


すると、ペルとルキスが目を合わせ、ペルが体を起こした。


「モモの涙、甘い。しかも口当たり滑らか…」

「フォリュリアードが涙も血液の一種って言ってたけど…これは確かに…」


ペルとルキスが、モモの涙でまさかの食レポを始めた。この事態にキョトンとするモモ。


「なんか、ルキス姉、肌艶プルンじゃない?」

「え?そんな効果も!?」

 

二人の視線に、後退りするモモ。涙も引いていたが若干不安げな表情。


「や、やだ…二人して冗談でしょ…?」


改めてペルとルキスが目を合わせ、ぷっと吹き出した。


「冗談よ、モモ。人間の涙はしょっぱいもの。」

「そうそう、こんなに甘くて力漲る…あれ?ルキス姉はしょっぱかったの?」

「やだ、ペルは本当に甘く感じたの!?」


三人がモモの涙について語り合っていると、稽古場が騒がしいと聞きつけたラインハルト達が集まってきた。


「何してるんだ、こんなところで?衛兵達が、稽古場にはペルしか行っていないはずなのに、泣き声や笑い声が複数聞こえてくると報告があったぞ。」

「あー…いや、実は…」


集まったラインハルト達に、ペルは力を手に入れる為、モモのそばを離れる事を話した。話を聞いていた一同は驚くも、もうモモが快諾している事を知り、ペルの覚悟を受け入れた。

ペルの視線がラウルに向けられ、ペルがラウルに耳打ちした。


「ボクの大事な主を預けて行くよ………」

「!」

「ボクが戻るまで、よろしくね、ラウル。」

「…わかった、おまえも気をつけてな。モモがどれだけ、おまえを大事に思ってるか俺も知ってるつもりだ。必ず帰って来いよ。」


ラウルはペルの胸に拳を当てた。ペルは、まさかラウルからも、こんな温かい言葉を掛けて貰えるとは思って無かった。

驚きながらも、笑みがこぼれた。


「ありがとう。」


その日の夜、ペルはお世話になっているギルド管理人、リンツにも旅に出る事を話した。


「ありがとう、ペル。教えてくれて。もう貴方は、私にとっても、モモにとっても、無くてはならない人なの。それを忘れないでね。」

「うん、リンツ。ありがとう。」



その後小さいながらも、リンツの奢りでペルのレベルアップを祈願した宴が、ギルド向かいの酒場ネクタルで行われた。この酒場は、多くの冒険者が利用する王都ラダンディナヴィアで人気のお酒や料理がズラリ。それぞれがお酒、料理を堪能し、宴中盤に差し掛かった頃、モモがペルに尋ねた。


「でも、ペルの故郷ってどこにあるの?」

「実は昨日、モモ達が寝静まった頃に、オティウス様が来てくれたんだ。その時、ボクの故郷は地底界にあるって教えてくれて。地底界はモモ達から見ると人間界の下にあって、更に下が魔界、冥界ってなってるんだって。」

「へー…って、オティウス様が来てたの!?」

「うん、ほら、オティウス様は闇の時間帯を司る方だから、ホント深夜だよ、ルキスなんて鼻提灯見られてたよ。」


そのルキスは小さなグラスを片手に握ったまま、ペルの肩の上で泣きつかれ寝てしまっていた。


「で?その地底界にはどうやって行くんだ?」


ペルを挟んでカウンターに座るラウルが、ペルのグラスに酒を注ぎ足した。


「北西の山、ポーカテペトルの地下層に、地底界に通じる道があるってオティウス様が教えてくれたから、今夜発つつもり。」

「今夜!?」

「なんか、満月の夜にしか道が開かないって、その満月がまさに今夜なんだ。」

「出発の準備とかは?」


モモが心配そうに聞くと、ペルは肩のルキスを指差した。


「ルキス姉が用意してくれたみたいでさ。このポーチに…」


ペルが収納魔法からルキスが用意してくれたポーチを出し、中身を広げて見せた。そこには…


「なんだろう…小瓶とビアとアルカの実…?」

「しかも、小瓶、妖精サイズだ…ちっさ。」

「よく見たら、こっちはミルカモの雫に、こっちはサランの朝露だ。量的には僅かだが、ペルの為に用意してくれたんだな。」


モモ、ペル、ラウルが再びすやすや寝息を立てるルキスに目をやり、自然と笑みがこぼれ出した。


「じゃ、ペルの門出とスキルアップを祈念し、乾杯!」

「かんぱーい!!」


ラウルの音頭をとり、ロイド達、そして新たなメンバー、マスターもグラスを掲げた。






































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