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狙われた聖女

「私の本当の名前は、百瀬美琴。前世で仕事に明け暮れていたら過労死してしまったみたいで…」

暗く深い闇の中で、ジュウトは膝を抱えて座っていた。

〝カロウシ!?”

ジュウトが知らない言葉に驚く。

「モモ様、ジュウトがカロウシって何って聞いてます。」

スィフルがジュウトの代わりに声を上げる。すると、ルキスが得意気に説明した。

「過労死っていうのはね、充分な休息も取らずに働きまくって死んでしまう事よ。この世界には無いわよねー。」

「一体どんな仕事を…?」

ゴクリと唾を飲み込んだロイド。

モモは一呼吸置いて、静かに語り出した。


「私も医療に携わっていて、この世界でいうと看護婦人にあたるんだけれど、救命救急という過酷な部署にいたから、沢山の病、ケガ、事故に遭った人々と向き合ったわ。もちろん、救えない命も見てきた。学校で学ぶ事と実践で起きる事は想定外で、場数、経験を積まないと立ち回れない事ばかり。毎日の様に反省、明日はどんな命と出会い、見送るのか、失敗しない様に、小さな事も見落とさない様に…寝ても醒めても不安でいっぱい。仕事ばかり考えてしまって、心も身体もキャパオーバーになってしまったのね。」

寝たふりをしていたペル、ルキスにモモの過酷な毎日が伝わる。

「…魔法では治らなかったの?」

ルキスの問いにモモは自分の手を見つめた。

「魔法はない世界だったの。」

ルキス達は驚いた。

「誰かに相談出来たら良かったんだけど、私にはもう両親は事故で他界して、兄妹もいなくて、友達はいたけど結婚したり、子育てしたりしていたから、心配や迷惑を掛けたくなくて、上手く打ち明ける事が出来なかった。

相談した結果、人の受け取り方によっては、気づかないで自慢や侮辱になったりしてしまうこともあるから、私はどう取られるかわからない事が怖くて、元々あまり自分を出せない性格なの。

だから、自分の気持ちを誰かに伝えるって、すごく勇気がいると思う。

スィフルさんの話を聞いて、二人の想い合う気持ちがすごく伝わってきた。だけど色々想うところがあって、ジュウトさんは言葉に出来なかったんだよね。置かれた状況は違うけど、私と重なるところがあるなって、その勝手に思ってしまって…。」

スィフルはモルダバイトのペンダントを服の上から握りしめ、ジュウトは暗闇のなかで、抱えていた膝に顔を埋めた。


「結果、私は独りで死んでしまったけれど、聖蛇ナーガ様のお導きでこの世界に来れて、優しい人達と出会えて、今まで越えられなかった一歩をみんなのおかげで踏み出せて、少し変われた気がするの。

ジュウトさんが使ってくれた黒魔法、本当は隠しておきたかったのに、私達を助ける為に使ってくれたんだよね、ありがとう。私は、これからもみんなと、ジュウトさんとスィフルさんと、一緒にいたい。私に与えられた力で、たくさんの人達を救いたい。ナーガ様に与えられた私の使命は、この世界を巣食う瘴気を断ち、平和を取り戻す事。それが終わったら私はどうなるのかわからないけど、みんなのいる世界を守りたいから、ジュウトさんの力も借りたい…。

私の気持ちが届いたら……」


モモの言葉がジュウトの胸に、ルキス達の胸に響く。

「黒魔法使ってくれて、ありがとう。」

「一緒にいたい。」

モモの言葉は、今日まで抱えてきた心の痞を取り払ってくれる様だった。闇の奥から優しく暖かい光が差し込んできた。

自然とジュウトの足が光へと向かう。その途中にスィフルが立っていた。

「ジュウトが出会った人達だよ。僕たちと一緒に成長してくれる、温かい人達だよ。」

そして光の先には……。


ガバっと勢いよく体を起こすジュウト。

「お、起きたかジュウト。おはよう、早く支度しろ、朝食行くぞ。」

雷剣クトネシリカを磨き終えたロイドが、ジュウトの寝癖頭にポンと手を置いた。

シュピツ村の宿屋のモーニングはバイキング形式。宿を利用しない村人達もよく利用するメニュー種類が海の幸、山の幸、スイーツと盛りだくさん。そこには既に身支度を整えたモモとペルの姿があった。

「あれ、モモ。それしか食べないの?」

モモのトレー上には少しのサラダが。

「ん…と、ダイエットしようかなって…」

と、モモが返答するも、タイミング悪くお腹は正直に鳴ってしまった。赤面するモモにピンときたペル。

「はーん…モモ。昨日ジュウトに返事求めた事、後悔してるの?」

ビクッとモモは肩を揺らす。

「や…後悔じゃなくて…緊張して…吐きそう…」

ずーんと、モモはテーブルに頭を乗せた。

「ちょっとモモ、緊張して吐きそうなのに、お腹が鳴るってどういう状況!?」

わーっと、慌ててペルが介抱する。

そこへロイドとジュウトが食べ物をたっぷりトレーに乗せて現れた。

「おはよう…って朝からどうした?」

「モモ様、ペルおはよー。ってモモ様、それしか食べないの?」

二人の声を聞いて、気まずそうに恐る恐る顔を上げるモモ。

するとペルがペラっと答えた。

「モモ、昨日自分の事頑張って話したじゃん、それでジュウトに返事求めた事に逆に緊張して吐きそうとか言ってるクセにお腹鳴らしてんの。」

「ちょっと!ペルっ恥ずかしいっ!!」

モモはペルの口を塞ごうとするも、片手で防がれリーチの差で届かない。そんな二人のやり取りを見てジュウトは微笑む。

「モモ様。」

ジュウトに名を呼ばれ、一時硬直するモモだったが、彼の真剣な姿に向き合い、静かに席に着いた。

「はい…」

「ぼく、モモ様の言葉嬉しかったです。

モモ様も内に秘めておきたかった事、話してくれたんですよね。ぼくは、父の研究と、某国との繋がり、右眼の事、ずっとスィフルと隠してきました。黒魔法も使っちゃいけないと。…けど、本当は誰かに打ち明けて、楽になりたかった。スィフルの黒魔法の凄さも知って欲しかった。」

ジュウトの言葉に、ロイドが申し訳無さそうに口を開く。

「すまない、ジュウト。俺がスィフルに聞いてしまったから…」

「ううん、きっかけを作ってくれたロイドには感謝してる。ありがとう。ぼくもみんなと一緒にいたい。モモ様の力になりたいんだ。だから前に進むよ。」

ジュウトは憑き物が落ちた様に晴れやかな表情だった。

その言葉に、モモはホッと胸を撫で下ろした。

「良かった、私の言葉で逆に何か追い詰めてしまってたらって心配だったの。」

「そんな事ないよ、スィフルもいい出会いをしたねって喜んでくれてるんだ。」

「そうか、おまえいい表情してるよ。」

ロイドの一言にモモとペルも頷き、ジュウトは笑顔を見せた。

「さて、朝食…って、モモ本当にサラダだけでいいの?」

ペルがニヤニヤしながら肩肘付いてモモに尋ねた。

「…やっぱり、食べるっ!」

そう言うと、モモはバイキングに向かった。

「あ、モモ、付き合うよー…っと…」

ペルが席を立った時、カシャンとコンパクト型の伝波アイテムが落ちた。

ジュウトの足元に転がり、拾い上げる。

「何これ?」

「ああ、アドルフから渡された。ラインハルトからの言伝、忘れてた。」

ペルが悪びれもなく言う。

「おいおい、殿下からの言伝だぞ、急ぎじゃないのか?」

ロイドが呆れながらジュウトからアイテムを受け取り再生した。

『ピッ…ザーーーッ』

「!?」

流れる砂嵐音に青ざめるペル。

「ペル…おまえさっき、落としたよな…」

ロイドがコンパクトをそっと閉じた。事態の大きさを察したジュウトは、ポンとペルの肩に手を当て、黙って首を横に振った。

「ちょっ…」

「ペルー。」

モモに呼ばれ、ビクッと体をこわばらすペル。

モモのトレーには彩り良くサラダや海の幸、山の幸が。

「おいしそうなの沢山あって迷っちゃった…?どうしたの、泣きそうな顔して?」

ペルはモモからトレーを受け取り席に置くと、両手を合わせた。

「ごめん!モモ!!」



前日の会議が夜遅くまで続いた、モルネード城軍事執務室。

ラインハルトが眠りについたのは深更の頃だった。ルーク師団長に、モルネード王国、王妃暗殺犯カロルの妻アザレアに施術された呪印から見てとれる症状と同じ、原因不明の症例が北西の村カピルスで3件。この患者達に呪印があるか確認する指示を出してから半刻、報告を受けた。

「殿下、カピルス村の3名共、胸や腕に呪印を確認出来ました。エディン病院、中年男性は幻覚症状が酷く、個室で隔離。ブレナム病院、20代女性は魘され、フォンテーヌ病院、青年は何かに襲われている様に苦しがっていました。」

ルークは報告書をラインハルトの横に控えるヨイチに渡した。

「わかった。この3名の件、ルーク師団長に預けたいがどうだ?」

「はい、承知致しました。ただ殿下、一つお願いがございます。」

「なんだ?」

ラインハルトが報告書に目を通しながら耳を傾ける。

「この件、聖女モモ様のお力を借りる事は可能でしょうか。」

ルークが聖女モモの名を口にした時、同室のソファに腰掛けていたラウルが反応した。

「瘴気の陣に、呪印解除…現状、聖属性魔法師団だけでは手に負えないか。」

「ええ、ここ最近の瘴気の陣は浄化する瘴気量も増すばかり。呪印に至っては解除経験不足が正直あります。聖属性魔力を持つ者の出生割合が低い今、師団長確保とスキルアップが急務ではありますが、聖水の精製も課されている現状、今いる師団員だけではとても…」

申し訳無さそうにルークは答えた。

「結果、モモ殿に頼らざるを得ないという事か…。」

ラインハルトは腕を組み、深く息を吐いた。

「わかった、モモ殿に協力を仰いでおく。明日には戻るだろうからな。」

「ありがとうございます、殿下。」

「……。」

ラインハルトとアイコンタクトを取るラウルの表情は複雑だった。


その後、執務室では何故呪印の被害者がカピルス村の住人に集中したのか議題に挙がった。

カピルス村は王都ラダンディナヴィアから北西に位置する、西の森や山で死角となる海に面した20人程度の集落。

そこには国防対策から第3騎士隊の小隊が駐在していたが、特段変わった報告は入っていなかった。

第3騎士隊、隊長オーフェンを呼び出し、ラインハルトはカピルス村現地調査に向かう様指示を出した。

「カピルス村の調査、承知致しました。すぐに出立致します。」

「ああ、細かい報告はジャンに入れてくれ。」

オーフェンとラインハルトのやり取りにレンダーが割って入った。

「殿下、その調査でもし、黒いフードに身を包んだ輩を見かけたら迂闊に手は出さない方がいいかもしれない。」

「…魔人が関係していると?」

ラインハルトの問いかけに、レンダーに続きラウルも頷いた。

「あり得なくはない話だな。

レンダー、ザック同行してやれるか?レンダーには魔人討伐経験があるからオーフェン隊長にも悪い話じゃないはずだ。

ザックは経験値上げて来れば?」

ラウルの突然の提案にオーフェン達は驚くも、ラインハルトは少し考えてから、その提案を受け入れた。

「そうだな、レンダー、ザックお願い出来るか?」

改めてのラインハルトの願い出に二人の二つ返事が室内に響いた。

(…ラウルさん、サクッと片付けて来い的に言うけど、相手が本当に魔人だったら簡単にはいかないよな…)

レンダーはそう思いながら、オーフェン隊長、ザックと別室に移りカピルス村調査の話を詰める事になった。



ヨイチが、コンパクト型の伝波アイテムを用意し、ラインハルトに手渡した。このタイプはメッセージを吹き込み相手に届けるものだ。

「ピ。モモ殿、ラインハルトだ。

アザレアの件がひと段落し、こちらに戻ったら、他3件同様の症状を抱える患者の対応をお願いしたい。詳細はルーク師団長から伝える。プ。」

ラインハルトがコンパクトを閉じると、ルークに手渡した。

ルークは受け取った伝波コンパクトを控えていた師団員に渡し、こう告げた。

「これを至急、シュピツ村にいるアドルフ第2騎士隊長の元へ。聖女モモ様へ殿下から言伝が入っていると渡して欲しい。」

「承知致しました。」

師団員は急いでナーガ神殿へと向かった。

「では殿下、私も準備がありますので失礼致します。」

ルークは胸に手を当て、ラインハルトに敬礼し軍事執務室を後にした。


それから程なくして、ラインハルトに呼び出された黒魔法使いトルチェと、白魔法使いシュアが軍事執務室に姿を現した。

「トルチェ、シュア、急に呼び立ててすまない。二人に協力してもらいたい事案がある。」

神妙な面持ちで切り出すラインハルトにシュアは息をのんだ。対してポーカーフェイスのトルチェの二人を見ていたラウルは吹き出してしまった。

「おい、ラインハルト。そう脅かしてやるなよ、シュアが酷く怯えた子犬みたいになってるぞ。」

「そんな顔してたか?」

全く意識していなかったラインハルトは怪訝そうに返す。

「してた。」

「してました。」

ラウル、トルチェが頷き、シュアも黙って首を上下に動かした。それを見たラインハルトは咳払いをすると改めて切り出す。

「すまない、二人に頼みたいのは、現在我が国にいる勇者一行の情報収集なんだ。冒険者が行きそうな店、酒場、ギルド、フィールド、そしてパロル村だ。」

ラインハルトの言葉に、トルチェとシュアは顔を見合わせた。

「勇者一行に…パロル村ですか?」

トルチェの質問にラインハルトは経緯を説明した。


先刻、ラインハルトの部屋に勇者一行の用件を持ってきたラッツィ宰相の話だ。

モルネード王国へ勇者一行が入国した時期は、およそ半年前。世界に3名いる勇者の一人〝ヴァン”だ。

その頃の一行メンバーは、勇者ヴァン、パラディンのジェイド、黒魔法使いのピユフィーヌ、聖女のアイラだった。そこまでは良かった。

入国して間もなく一行は、前衛と白魔法使いを探していたらしい。ただギルドは通さず、手練れの冒険者が集まる王都ラダンディナヴィアの北外れにある酒場〝ヒューガルデン”で密かにパーティー募集をかけたという話しだった。しかし、結果ヴァンの御眼鏡に叶う人材は見つからず、その後パロル村のモルネガングア山脈に続く登山口から入山したまま、下山の確認が出来ていない。荷物の一部もパロル村の宿屋に預けたままの状態だ。

この報告を宿屋側から受けたパロル村、村長アドフォードが、パロル村ギルド管理人カイドに相談、それを秘密裏に王都ギルド管理人リンツに連絡し、リンツから直々にラッツィ宰相に報告を入れ受諾した形であった。

〝勇者”は一つ道を間違えれば、国の一つや二つ、簡単に消せる力を持つと言われており、その行方は世界各国で把握しておかなければならない暗黙のルールがある。モルネード王国で消息を絶ったとあれば、モルネード王国が全ての勇者ヴァンに関する情報を集め、世界に開示しなければならない。

決して見失う事は許されない存在だった。

その理由の一つに勇者の持つ〝召喚獣”にあった。ヴァンの召喚獣は〝ハティ”、大型の白い狼だ。遠吠えだけで大地は割れ、尾を振れば竜巻を起こすと言われている。


「ただし、この任務は極秘に行なってもらいたい。勇者の威厳にも関わる事態だからな。国王もそれを願っている。頼めるだろか。」

ラインハルトの頼みに、トルチェが手を挙げた。

「あの、殿下。この任務、ロイドを加えてはいかがですか?彼は元勇者パーティーです。確かその勇者は〝ヴァン”だったはずです。」

トルチェの発言にラインハルトとラウルはハモった。

「そうなのか!?」

意外なリアクションにトルチェは戸惑うも

「ご存じなかったんですか?…というか、ラウルさんは、アラネア討伐で召集された挨拶の時に私とロイドの会話に混ざっていたような…」

「あ…悪い。あまりメンズの情報はメモリーされないんだ、俺。ただ、ロイドは雷剣という通り名で名を馳せていたから知っていたが、勇者パーティーにいたとは知らなかった。ラインハルトは社交の場で会わなかったか?」

ラウルの問いに、腕を組んだラインハルトが答える。

「いや……我が国主催のパーティーで、何度か勇者ヴァンと聖女アイラの姿は目にしたが、ロイドはいなかったな…」

「ロイドは今、シュピツ村でモモ達と一緒だったな。」

話に飽きてきたラウルの足元にいた大型の狐が、ラウルに擦り寄ってきた。

「悪いダン、そろそろご飯だったな。ラインハルト、ご飯。」

ラウルの言葉に今度はトルチェとシュアが驚いた。二人はラウルの足元にいた皮毛が純白と茶のマーブル、毛並みはツヤツヤでふわふわ。吊り目の大きな金の瞳の大型犬並みの大きな狐が、まさかダンだったとは。殿下のペットがラウルに懐いているくらいにしか思っていなかった。

「はいはい、ヨイチ、ダンを食堂へ。ダン、その姿じゃご飯あげられないぞー。」

ラインハルトに言われ、ボンッと人化したダンが、ヨイチに連れられ軍事執務室を後にした。

「ダンさんって、もしかして亜人ですか?」

シュアが目を輝かせてラウルに尋ねた。

「ああ、亜人を見るのは初めてか?」

「はい!僕、変化の瞬間も初めて見れて、感動でいっぱいです!幼い頃から亜人に憧れてて…ダンさんにお近づきになれたらいいなぁ…」

「はは、顔見知りなら餌付けが手っ取り早いぞ。」

シュアとのやり取りで、ラウルはある事に気づく。

(確かに、気を許しているモモはともかく、一度しか会っていない相手の前で変化したのは初めてか…寝ぼけてたか…成長したか…そろそろ本格的に離してみるかな。)


すると、パンパンと手を叩き仕切り直すラインハルト。

「脱線はしたが、トルチェの提案を受け入れよう。そうすれば、勇者一行の足取りを掴みやすいかもしれないな。ラウル、ロイドに連絡取れたりするか?」

ラインハルトは、Sランク冒険者とよく連絡を交わすラウルがロイドとも伝波アドレスを交換していると思い声を掛けた。

「ああ、今シヴがロイドのパパに念を飛ばしてくれてるよ。」

「パパ!?」

ラインハルト達が一斉にその言葉に喰らい付いた。

「あっと、表現間違えた。ロイドの雷剣クトネシリカに宿る妖精カンナちゃんのパパが、モモからロイドが受け取ったピアスに宿っていたんだよ。名前は聞かなかったが、もうカンナちゃんパパで通すな。」

「ああ、モモ殿が聖蛇ナーガ様に賜った黒曜石のピアス、雷神トールの加護があると聞いた。ロイドなら適性があるな。」

ラウルとラインハルトの会話を聞いていたトルチェが呟いた。

「ロイドの底が見えないわ…魔法じゃなくて雷神と妖精だなんて…」

「確かに、アラネアで集まった人材は貴重だな、ラインハルト。」

ラウルの言葉にやれやれと息を吐くラインハルト。

「おまえも大概だからな。」

「?」

ラインハルトの言葉の意味がわからなかったトルチェとシュアの頭に?マークが浮かんだ。


この後、連絡手段などを確認しトルチェとシュアは支度を整えると言い、ラインハルトは明日の朝食を共にしようと約束し解散した。

それからは騎士団長シズウェル、竜騎士団長カーティスと共に呪印解除に備えた隊員の選別、後から合流した師団長ルークも混ぜて、結界を張れる師団員の確保などを確認した。

会議を終えて、ラインハルトが自室に戻ったのは深夜。

ふわふわのベッドにドサっと身体を任せる。天井を見ながら一人考えを巡らしていた。


…アザレアの件は片付いたとは言え、カロルの処分はまだだ。カピルス村の調査と、勇者一行の情報収集はこれから。

明日はモモ殿が帰ってきてから、3名の解除…後はクローブナー侯爵とピーニャコルダの繋がり…

問題は山積みだ…。しかし、ここ最近の魔物の凶暴化に、瘴気の陣、呪印に魔人の存在。モルネード王国は聖地サーリンゼルカにいる精霊王様の御力によって結界を張られ邪悪な力は弾かれていたはず…しかし現状はどうだ、モルネード王国の軍事力だけでは到底敵わない案件ばかり。

異世界から聖蛇ナーガ様に導かれたモモ殿には負担をかけてばかりだ。一体、この世界に何が起こって……


そう考えながら、ラインハルトは眠りに着いた。



「ところで、モモ様達はこれからどうするんだ?」

ロイドが食後の水を口にしながらモモとペルに尋ねた。

モモは飲んでいたハーブティーを置き

「私達はアドルフ隊長と一緒に、アザレアさんを王都に運んで今回の報告をラインハルト殿下にするつもり…。」

ラインハルトの名を聞いたペルが殿下の言伝の伝波アイテムを壊してしまった事にしゅんと肩を落とす姿を目にしたモモは、クスッと笑うと、ペルの手に触れた。

「大丈夫よ。アイテムの件は私から殿下に謝っておくわ。」

その言葉にペルの不安気な表情が和らいだ。

「そうか。俺は調べたい事があるから便乗させてもらうかな。」

「調べたい事?」

「ああ、前にいたパーティーの件なんだが、昨晩ラウルの使役妖精シヴから丁度その件についてトール…って言うのは、モモ様から戴いた黒曜石のピアスに宿る雷神の名なんだが、連絡があって、その調査に混ぜてもらえる事になったんだ。」

ロイドは黒曜石のピアスに触れながら話す。

「それなら、ぼくも手伝うよ…。」

ジュウトがロイドにそう声を掛けた時、モモ達の席に、聖属性魔法師団員が一人訪れた。

「ご歓談中失礼いたします。聖女モモ様、アドルフ隊長が至急相談があると。ご同行願えますか?」

この時、ジュウトは師団員に対して不思議な感覚を覚えた。

「ーーー?」

モモは膝に置いていたナプキンを畳み立ち上がる。

「わかりました、お願いします。」

「では、こちらに…」

するとペルも立ち上がり、一緒に行くと声を掛けたが

「大丈夫よペル、すぐ戻るわ、ゆっくりしていて。」

そんなペルと目が合った師団員だったが、すぐに視線を逸らした。

「…?」

すると、ジュウトが立ち上がり

「じゃあ、ぼくはトイレに行ってから部屋に戻って支度整えるよ。」

ジュウトはモモ達の向かう方向にあるトイレに向かった。

そのすぐ後だった。時間にして数分も経たない内に、ペル達の席にアドルフ隊長がやって来た。

「おはよう、ペル殿、ロイド殿。モモ様は部屋かな?」

「え…?今、師団員があんたがモモを呼んでるって…」

「?」

アドルフが覚えのない表情をすると、すぐにペルはモモ達の向かった方向へ駆け出した。

「モモっ!!」

しかし、宿屋のモーニングバイキングは一番賑わう時間帯。村人、冒険者、使用人が入り混じって見失ってしまった。

「クソっ、モモの魔力……感じない?何でっ?」

ペルを追ってロイドとアドルフがやって来た。

「モモ様は?」

「わからない、見失った!…?ジュウトは何か見てないか…」

3人はジュウトの向かったトイレに目をやるが、ジュウトの魔力は感じなかった。その時

『ペル殿、モモ殿はジュウトと一緒に師団員を名乗る者に結界内に閉じ込められた。私では解除が出来ない…無事を祈るしか…』

ジュウトの使役妖精テネがペルにコンタクトを取ってきた。

「本当か、テネ!!」

「どうした、ペル!?」

「ロイド、モモはジュウトと一緒に攫われた!魔力が追えない結界内らしい…どうやって探せば…っ」

ペルは血相を変えて、目を離した自分を悔やみ近くにあったテーブルを叩いた。

「落ち着け、テネからの情報だな?トール、テネの場所まで行けるか?」

ロイドがトールに問いかけるよりも先に、トールはテネの魔力をサーチしていた。

『今探している、少し待たれよ。』


「一体何が起きたのだ!?モモ様は…!?」

アドルフがペルとロイドに小声で問いかけた。

アドルフは自分がモモ様を呼び出す事などしないし、ペルとロイドの行動とリアクションを見ればただ事では無い事態だと窺える。今、多くの人が集まるこの場で事を荒立てるのは良く無いと冷静に判断できた。

「いいか、アドルフ隊長。あんたはアザレアを連れてあたかもモモ様を連れているかの様に演じて王都に戻れ。殿下に伝えるんだ、モモ様が攫われた。犯人は聖属性魔法師団員の格好をしていた。俺達はモモを取り返しに行くわかったな。」

ロイドが掻い摘んで説明した。

「あと、ラインハルトに伝えて、伝波アイテム落としたら言伝消えた、ごめんって。」

ロイドの言葉にペルが続いた。

「え?落としただけで?そのくらいの衝撃ではデータは消えないはずだが……わかった、頼んだぞ。」

「……!?」

アドルフは何事も無かったかのように、宿屋の主人の元へ挨拶に行った。主人は最後に聖女様に挨拶をと言っていたが、急ぎ王都に戻る様指示が出され、先に発ったと説明した。

そのやり取りを遠目から確認したペルとロイドは、人の流れに乗り朝食会場を出て、部屋に戻り装備を整えた。


「どういう事だ…、この伝波アイテムの言伝、元からデータが空だった可能性もあったって事か?」

ペルはコンパクト型の伝波アイテムを手に取り握りしめた。

「今はデータ内容よりも、モモ様が優先だ。トール、まだテネの居場所は掴めないか!?」

すると、空間を裂いてトールが姿を現した。

「遅くなってすまない、何重にも結界が張られている、相当な結界術の持ち主だ。急ぐぞ、早く空間に入られよ。」

ペルとロイドはトールの空間に飛び込んで行った。


「……っ。」

そこは結界の張られた薄暗い冷えた空間だった。

「よく、あの結界層をくぐれたなぁ、おまえ。」

「人間にしては中々やる…」

ジュウトの前に二人の黒いローブに身を包んだ男達が立っていた。一人がジュウトの胸ぐらを掴み持ち上げる。

「変な気配だったからついて来て正解だった…なんだ、お前たち…モモ様はっ!?」

ジュウトは、そう言いながら一気に右手に魔力を集中させ、

火炎魔法を自分の胸ぐらを掴む男に放った。

「あづぁ!!コイツ、黒魔法使いかっ!!」

ジュウトの放った火炎魔法の威力は凄まじく、ジュウトを掴んでいられなくなった男は、ジュウトを地面に叩きつけた。

「クソっ!!なんだこの炎!?消えないっ、焼けっ…ああああぁっ!!」

男が一人、灰になって消えた。

「!?、アイツの魔法っ、本当に人間なのか!?」

残った一人がたじろぎ、後退りした。

ジュウトが立ち上がり、パンパンとストールの埃を落とした。

「あー、折角キレイにして貰ったのに、また穴開いたよ。

あんたも地獄の炎で消されたいの!?灰になって消える…魔人だな、あんた達。モモ様を攫って何企んでる?」

ジュウトが袖を捲り、両手に魔力を集中させた。それは具現化して魔力が見えるほどだった。

「ま、待て!あの娘がどうなってもいいのか!?」

男がフィールドの奥で倒れているモモを指差した。モモは気を失っているだけの様だった。

が、ジュウトは攻撃の手を緩めない。

「どうにかするつもりで攫ったんでしょ!!」

〝リプカ・インフェルノ”

地獄の業火が男の足元から立ち昇り、一瞬にして男は灰と化した。

(相手の気配は全部で5人、2人消した…魔力温存なんて考えてたら殺される、とりあえずモモ様を…)

ジュウトは息を乱しながら、奥に横たわるモモの元へ足を踏み出した。すると、ジュウトの上空にトライアングルを描く様に3人の魔人が姿を現した。ローブも羽織らず、第三の目を開眼させた屍人の様な顔色の男達。

「やっぱり、最近魔人になったばかりの奴等は使えないな。」

緑色の短髪の細身の魔人が言い放った。

「いや、この青年の実力を測るのにはいい仕事をした。」

スキンヘッドの強靭な肉体、鍛え抜いた筋肉から血管が浮き出る魔人が静かな口調で仲間の魔人をフォローした。

「結局は捨て駒って事じゃん。フォローになってないよ。」

赤い長髪を一つ左サイドに束ねた長身の魔人がダメ出しした。その間にジュウトは自分に防御力上昇、魔力消費軽減、状態異常耐性の白魔法をかけた。更にモモに結界を張ろうと目を向けた時、背後に長身の魔人が立ち、ジュウトに強烈な回し蹴りを喰らわせた。

ジュウトは防御力上昇をかけていたにも関わらず、肋骨が砕ける鈍い音を響かせ、モモの近くまでぶっ飛ばされた。

「…づ…げはっ…」

吐血するジュウト。辛うじて意識を保っているが、目の前の視界が定まらず、体勢を立て直せない。

「残念だったね、黒魔法使いくん。俺達がやり合うには相性が悪い。覚えておくといい、魔人はね、武闘派なんだよ。」

長身の魔人が更にジュウトを蹴り飛ばした。

「ぐあっ…」

ジュウトは、うつ伏せに倒れながらも、顔を上げ近寄る魔人達にM範囲で風魔法をぶつけた。

〝フレア・トルネード”

火炎旋風が魔人達を襲う。

「コイツっ!!」

細身の魔人とスキンヘッドの魔人は範囲外に避けた。

「ぎゃあああああっ!!」

長身の魔人は宙を舞い炎を纏った鎌鼬に切り刻まれ、地面に叩きつけられ、灰と化し消えた。

(…まずい…魔力量が…あと強力なのは一発、刻んで倒すしか……!!)

ジュウトは冷静に自分のステータスを見直した、その時、空間に小さな歪みを感知した。

(何処かに、何処かにこの結界を破壊する歪みがある…

どこだ…集中しろ…)

ジュウトは目を瞑り、フィールド全体に神経を集中させた。

「マジが…アイツが殺られるなんて…みくびっていたかもな。全力で殺す!」

細身の魔人がジュウト目掛けて衝撃波を放った。と同時に、ジュウトは天井に〝アイシクル・メテオ”大量の氷柱を一点集中し結界を破り、空間に穴を開けた。

「!?どこ、狙って…」

スキンヘッドの魔人が天井を見上げると、バリィンと結界を破って、人間の剣士とアルビノの人化した魔物が降りて来た。

「!?」


衝撃波をまともに喰らったジュウトはフィールドの壁に叩きつけられ、その場に倒れた。

「ジュウト!!」

フィールドに着地したロイドがジュウトに駆け寄る。

「モモっ!!」

ペルがモモに駆け寄るが、バチッと紫の邪気に阻まれてしまった。モモには結界が張られていた。ただ、ペルにはモモのステータスが見える。

「ロイド、モモは大丈夫、気絶しているだけだ。ジュウトは?」

ペルは額に第三の目を光らせた魔人二人を睨みながら、ジュウトを介抱するロイドに声を掛けた。

「…息はある、後は任せろ、ジュウト。」

ロイドはサランの朝露をジュウトの口に流し込んだ。雑なやり方にジュウトは咽せるも、なんとか無意識にも飲み込んだ。


「ふん、剣士に、魔物か…中々面白い組み合わせだが、人間に飼い慣らされた魔物など、相手になるかっ!!二人共再び太陽を拝めると思うなよ。」

スキンヘッドの魔人がロイド目掛けて攻撃を仕掛けて間合いに突っ込んで来た所を、ペルが咄嗟に硬化した蜘蛛の巣を張り、スピードを消させた。

「…危ない…このまま突っ込んだら刻まれていたな…蜘蛛の魔物か、面白い。相手をしてやろう、来るがいい。」

「じゃあ、オレが剣士か。まぁ悪くない、オレは元々ナイフの使い手でね。楽しませてくれよ?」


モモとジュウトが気絶する中、ペルVSスキンヘッドの魔人、ロイドVSナイフ使いの魔人の闘いが始まる。









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