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研究記録《コア(核)》

〝今だ、入って!!”

頭に響くスィフルの声と同時に、ぼくはその部屋に入った。そこはエディン病院、院長室の隠し扉から続く地下3階におる生殖医療研究室。

この研究室で行われているのは、胎児の魔術コーディネート。胎児の育成過程で、身体に不足が生じた場合に、医療魔術で健常体に治療する研究だった。医療魔術が使える者は、白魔法使いでも、スキルを全て回復で満たしている者に限られていた。ピーニャコルダ王国では、これの育成に力を入れ、生殖医療先進大国としての地位を確立していた。


「スィ…フル…?」

魔法陣で封印されていた部屋でぼくが目にしたのは。

フェノールレッドの液体の中でたくさんのチューブが身体から伸び、下肢のない、ぼくと同じ顔を持つ男の子。

5歳になる前に亡くなったはずの双子の兄、スィフルだった。

〝そう、僕だよ、ジュウト。眠っているみたいだろ?”


「だって、スィフルは…。

じゃあ、あの時棺に入っていたのは?ぼくがスィフルを見間違えるはずないよ?」

ジュウトの脳裏にスィフルの葬儀が蘇る。

ユーカリポポラスとソラフラワーに囲まれて、安らかに眠っていたのは、確かにスィフルだった。

〝あれは、スラム街で亡くなった子供を僕そっくりにコピーコーディネートしたって聞いた。でも、僕もその時は今のこの状態だったんだよ。ただ、研究にはまだ必要な身体だったから代わりを立てて処分した格好さ。”

驚きと悲しみの感情が混ざり合って、呆然とその場に立ち尽くすジュウト。

〝僕の主治医ポルデノックは元々、僕の余命を3歳と宣言していた。その理由がやっとわかったんだ。”

「3歳?」

〝ジュウトは覚えてるかわからないけど、僕には全身の結合組織が脆弱になる持病があって、呼吸困難でよく倒れてたんだ。安静にしていれば治ったり、時には教会の聖女様による

治癒を受けたりしていたんだ。”

「……あ!」

ジュウトは、一度だけスィフルが苦しそうに胸を押さえ、侍女達が騒いでいた光景を思い出した。

〝3歳はね、魔力属性がほぼ確定する歳らしい。”

「属性が…」


〝ジュウト、左の棚の上から2段目、右から5冊目の本を押してみて。”

ジュウトの左には梯子付きの大きな本棚が。その梯子を登り、言われた場所の本をジュウトは押し込んだ。するとカチッという音と共に、ホワイトとシュガーグレーのチェス盤柄のフロアのクロスした中心から天井に昇る光が放たれた。

〝その光の中、手を目一杯まで上に伸ばして。そこに研究記録がある。”

スィフルの指示通りに上に手を伸ばすと、目には見えないが硬い物に触れた。指先で形を探りジュウトは一冊の本を引き出した。

金縁に焦茶色、タイトルには《閲覧禁止》の文字。

子ども手には余る大きさの右開きの本。

表紙にはダイヤル式の魔法陣が仕掛けてあった。

〝ダイヤルは上のダイヤマークに数字を合わせるんだ。右に3回0、左に2回1だよ。”

「誰の本なの?」

ジュウトはタイトルに彫り込まれた《閲覧禁止》の文字に触れた。

〝ポルデノック達の本だよ。この本には、ポルデノックがモルネード王国を支配する為の研究データが詰まってる。

父は、僕の様な下肢のない、障害のない胎児を生み出す研究をしていた。それが成功していたにも関わらず、父に嘘の研究報告をし、このエディン病院を拠点にピーニャコルダの軍事力を上げる為の研究を続けているんだ。”

「すごいね、スィフル。どうやって調べたの?」

〝僕がこの研究室、つまりこの培養ポットに入れられたのはジュウトがセクターの養子になった翌日。僕は呼吸困難で倒れた。もう聖女様の治療が一日一回必要になって、この病院に入院した時、眠ってる間にこの培養ポットに繋がれていたんだ。”

「ーーーえ?それって…誘拐?」

〝そう、僕はポルデノック達に攫われて、あいつらは僕の替え玉をベッドに寝かせた。そして、研究漬けにされて今の状態なんだ。ただ僕もやられっぱなしじゃない。肉体から魂だけ抜け出せる様になって、ずっとあいつらの事見てた。ずっとジュウトに会える日を待ってた。魂が肉体から離れられる距離も短くて、このエディン病院で精一杯だからね。”


スィフルはそう言うと、培養ポットの肉体から姿を現し、ジュウトに透けながら抱きついた。

〝会いたかったよ、ジュウト!”

「スィフル…!!」

スィフルは柔らかく微笑む。その笑顔に胸を締め付けられるジュウト。自分がセクター家の養子になって父に捨てられたと悲しむ日々に、スィフルがそんな目に遭っていたなんて。

ジュウトは唇を噛み締めながら、スィフルの言う通りにカチカチとダイヤルを合わせた。

すると、本が勝手にジュウトの手を離れ、宙に浮きパラパラと捲られ、あるページで止まった。

そこには、スィフルに施術された魔術の詳細が記され、更に女性の声で記録されていた。


マイアの月某日、保有魔法属性「火」「氷」「風」「植物」と確認。

ユノの月某日、《コア》になる適性部位《右眼》に確定。

ジュリアスの月某日、「火」属性の《マナ》をコアに集約成功。

セプテンの月某日、「氷」属性の《マナ》をコアに集約成功。

ノーベンの月某日、「風」属性の《マナ》をコアに集約失敗。以降「風」属性の《マナ》は2回に渡り失敗。又、「植物」属性の《マナ》も立て続けに3回失敗し、これ以上の集約魔術は《コア》の耐性に影響が出かねないと判断。

マルスの月某日、度重なる集約魔術の影響により、当該研究個体、植物状態に陥る。

これにより、本件は研究を継続不可と判断する。


「……植物状態…スィフルは…痛かったりしなかった?この、集約魔術って…」

ジュウトが不安そうにスィフルを見ると、スィフルはただ笑うだけだった。また、本のページがパラパラと捲られ、

「いいかねシュナくん。今回行う研究が成功すれば、国は我々に莫大な研究費を投じ、何かしらの恩賜もあるやもしれん。私が国政に関わる日も夢ではないのだ。この研究個体は貴重だ、大事に扱いたまえ。」

ポルデノック医師は部下であるシュナ医師に告げると、培養ポット内で植物状態と化したスィフルの前に立った。

「承知しました。今はまだ「火」と「氷」の二種ですが、個体の容態が安定したら改めて。」

「ふふ…4属性をも保有する個体だ。全ては無理でも構わんさ、後はこの《コア》を誰に移植するかだな…」

ポルデノック医師はそう口にした。

当時ピーニャコルダ王国では、医療に加えて軍事にも力を入れていた。その一つに医療魔術を用いた魔力のマナを《コア(核)》となる部位に集約し、移植する技術がある。《コア》を移植された者は《マナ》が適合すれば《コア》に集約された属性魔法が使える様になる。

この移植手術はゲネシスと呼ばれ、黒魔法属性、聖属性魔法を持って産まれる者が他国に比べて少ないピーニャコルダ王国には更なる軍事力強化に必要な研究だった。だが未だ成功例が存在しない。研究者達は躍起になって日々研鑽していた。スィフルのゲネシスが成功すればポルデノック医師はゲネシス研究第一人者として名を馳せる事間違い無かった。


(ぼくは何も理解っていなかった。父のしていた研究、スィフルの身に起きていた事態、そして父を騙し、スィフルをこんな状態にしたピーニャコルダの医師達…)

ジュウトは込み上げる怒りで震えながら、本を閉じ収納魔法の中に納めた。

〝ジュウト、お願いがあるんだ。

僕の右眼、ジュウトが貰ってくれない?”

「え…?」

スィフルが透ける手で、ジュウトの両手に触れた。

〝僕はもう、生かされる事に疲れた。ジュウトの手で終わらせて欲しい。生きたままじゃないと移植は出来ない。”

それは、スィフルからの初めてのお願いだった。

「でも…それじゃスィフルは…それに僕一人じゃ出来ないよ…僕を一人にしないでスィフルっ!」

〝一人じゃないって前にも言ったろ?ずっとそばにいる。

どこにいても。だから…”

ジュウトは怒りと悲しみのあまり、その場に崩れてしまった。

「…だからって…消えないでスィフル…」

〝僕達は双子だ。《マナ》の適性も合うはず。僕は誰かに右眼が渡るなら誰でもないジュウトがいい。ジュウトの役に立ちたい!お願いだジュウト、もうあまり時間が無い、移植の手順は…」


「私が手伝おう、それに応援も手配した。」

闇の妖精テネがジュウトの肩に仁王立ちで現れた。

〝あ…え?確かにテネの姿がなかったけど、どこ行ってたの?”

スィフルとジュウトが急に現れたテネに同じ顔で驚いていた。そしてテネの隣には黄色く輝く新たな妖精の姿があったが、うつ伏せで寝ていた。

「聖蛇ナーガ様のところだ。」

「〝聖蛇ナーガ様のところ!?”」

双子がハモる。その声に

「うるさいわね〜…っく、なんなのテネ…この子達?」

〝うわぁ…きれいなのに残念…”

「相当呑んでるみたいだね…」

それは、虹色の透き通る様な姿に羽があり金色のベールを纏った妖精だった…が、その酔いどれ姿にドン引きのスィフルとジュウト。

「すまない、スィフル、ジュウト。彼女は私とは対になる光の妖精ルキスだ。酒癖は悪いが私とは古い中でな。ナーガ様の許可を得て持ってきた、治癒再生の妖精だ。」

(〝ナーガ様に会うテネもすごいけど、ナーガ様の妖精なのに酒癖悪いって…”)

「私の異空間魔法と、ルキスの治癒再生の力をを使えばポットを割らずに処置出来るが、ジュウトはいいのか?」

テネはジュウトに確認を取る。

「……っ。」

返答に戸惑うジュウトに酔っていたルキスが声を掛けた。

「ぼうや、大丈夫よ。ナーガ様のご加護があるわ。アンタは自分の一番の願いを祈って私に身体を委ねなさい。」

ルキスが人化し、ジュウトの両頬に手を添えると、ジュウトはゆっくり目を閉じた。

〝ジ…っ”

スィフルが驚いて声を上げようとすると、テネがスィフルの口元に手を翳した。

「全ては、スィフルとジュウトの想いを汲みとって下さったナーガ様のご意志だ。スィフルも身体に戻れ。また、会える。」

あんなに強気に徹していたスィフルだったがテネの言葉に思わず涙が溢れた。

〝わかった。ありがとうテネ、ありがとうルキスさん。”

そう口にすると、スィフルは培養ポットの肉体に戻った。

それを確認したテネは、ルキスに頷き処置の合図を送った。

ルキスはジュウトに憑依し、治癒再生魔法を展開した。



ジュウトが目を閉じてから僅かに時間が過ぎた頃、培養ポット内にスィフルの姿は無かった。テネが異空間に保護したのである。

「……あ…れ…いつの間に…」

ジュウトが目を覚ましたのは、ルキスの膝枕だった。

優しく微笑む光の妖精ルキス、ジュウトには女神の様に映った。

「右眼はどお?最初のうちは視力が出ないかもだけど、ゆっくり慣らしていけば大丈夫よ。」

確かに右眼の視力が乱視の様にぼやけていたが、左眼に映る培養ポットにスィフルがいないのを捉えた。

「スィフルは!?」

慌ててそばにいたテネに掴みかかる。

「スィフルの身体は私が預かっている。他の者には触れさせない。後で天に送ろう。」

テネの言葉に、力の抜けたジュウトはその場に座り込んでしまった。

「…スィフル…」

すると、ルキスがジュウトの身体を優しく包んだ。

「ねぇ、ジュウト。貴方のお願いは何だった?」

ジュウトの手の甲に大きな水滴が一つ、二つ落ちる。

「…スィフルと…一緒にいたい…っ!!スィフルが死ぬならぼくもっ…」

ジュウトが顔を上げたその先に、ルキスが深緑の水晶、モルダバイトのペンダントをぶら下げた。

「…?」

すると、モルダバイトが輝き出し、スィフルの魂が現れた。

「えっ…ええ⁇」

驚きのあまり口が開いたままのジュウト。

「テネが必死にナーガ様に懇願したのよ?幼い双子を助けて欲しいって…」

ルキスがジュウトの首にペンダントをかけながら話す。

「ルキス、その件はいらない。」

テネが恥ずかしそうにみんなから視線を逸らした。

「いいじゃない。アンタがこんなに人間に尽くすの初めて見たわ。大事なんでしょ?」

コホンと咳払するテネ。

「ジュウト、このモルダバイトは魂を1体だけ封印する事が出来るアイテムなの。そしてジュウト、貴方が息を引き取るまでその魂はずっと一緒よ。つまり、スィフルと一緒にいられるって事!」

テネがルキスの説明に補足する。

「そのモルダバイトを身に付けていれば、ジュウトの身体にはスィフルの魂も宿ったも同然。主導権がどちらかは二人で決めるんだな。どちらにせよ私の主人は変わらない。ずっと共にいよう、ジュウト、スィフル。」

〝そんなわけだから、僕も驚いたけど、これからもずっと、いっしょだよジュウト!”

透けてはいたが、スィフルはジュウトを抱きしめ、ジュウトも実体のないスィフルを抱きしめた。


〝さっそくだけどジュウト、身体借りていい?やりたい事があるんだ。あいつらを潰す。”

「わかった。僕もポルデノック達を許さない。任せるよ、スィフル。」

そんな二人のやり取りを見ていたテネとルキス。

「若い子は順応性が高いわねー、じゃあ私呑み直すから行くわね!」

「ああ、ありがとうルキス。今度デートしてくれ。」

「……考えておくわ。」

そう言うと、ルキスはフワッと羽を広げ、その場から消えた。



バリィン!!とガラスの割れる音が魔法陣の奥で響いた。

部屋の外では、慌てふためく研究員と責任者のシュナ医師。

室内のあらゆる物を火炎魔法で燃やし、魔法陣を解きドアを解放したジュウト。

「こ…子ども…?」

「いいえっ…この子はスィフルの弟だわ、どうやって…」

ジュウトの左手は培養ポットを割った時に負った傷で血まみれ、右手には目に見える程の黒い魔力の集光体。

逃げ惑う研究員、どうにか落ち着く様、説得を試みるシュナ医師。だが。

「何も聞きたくない。」

そうジュウトは口にし、〝絶対零度”を詠唱した。


研究室を氷漬けにした後、ジュウトはまた入院していた病室へ隠密魔法をかけ、看護婦人の目を掻い潜りベッドに戻った。

翌日、父、クローブナー侯爵に対面したジュウト。

「ジ…ジュウト…?」

ジュウトの態度の異変に困惑する父、クローブナー侯爵。

「あまり時間がない。」

ジュウトが図書館で倒れた時に着ていた服に着替えながらスィフルが続ける。

「ポルデノック達はあんたを手始めにモルネード王国を支配するつもりだ。今やってるあんたの研究事態、国にバレたらあんた死刑じゃ済まないよ。一族消されるんじゃないかな?

僕の指示に従って動け。とりあえず、精神的に壊れた振りして待っていてよ。」

突発的な話に、状況を把握出来ないクローブナー侯爵だったが、これだけはわかった。

「スィフルだね、ジュウトの身体に今いるのは?」

ジュウトは応えることのないまま、看護婦人詰所にコールをかけた。

「待ってくれ、スィフル、ジュウト!!君達に…」

バタバタと看護婦人2人が病室へ駆けつけた。

「ジュウトくん!?目が覚めた…の…?」

「はい、ご心配おかけしました。」

その声色とは裏腹に、ジュウトの眼は6歳のそれとはかけ離れた冷たく刺す様なものに看護婦人は背筋を凍らせた。


エディン病院、院長室な隠された地下階段が氷漬けにされてから2日後、クローブナー侯爵とスィフル、ジュウトはピーニャコルダの悪魔達の始末に成功した。

それから一夜明け、エディン病院、院長室に隠された地下階段及び生殖医療研究室は闇の妖精テネにより結界を張られ、封じられた。エディン病院、院長はピーニャコルダ医療魔術団員に殺される寸前、クローブナー侯爵の私兵によって助けられた。

院長はクローブナー侯爵が精神崩壊した演技をポルデノック達に信じ込ませる為、クローブナー侯爵の入院手筈を整えた。

「ぎ…ギリギリだったんだよ、クローブナー侯爵!もう命が幾つあっても足りないよっ!」

怒り心頭の院長だったが、万事治まり安堵した様子で、また院長の席に着いた。


ジュウトと父、クローブナー侯爵はスィフルの身体を秘密裏に天へ送った。モルネード王国南に位置する、妖精の住むサーリンゼルカに近い森で。

〝自分を見送るって不思議な感覚だ。”

(普通、わからないもんね。)

クローブナー侯爵も、暁の空を見上げ祈りを捧げた。

「スィフル、ジュウト、改めてありがとう。」

ジュウトは自分の中でスィフルが生きていること、スィフルの「火」と「氷」属性の《マナ》を集約したスィフル右眼を自分に移植した事を父に説明した。

「二人は今後どうするんだい?約束した通り、クローブナーの資産は自由にしていいし、足りない物があれば全て用意するよ。ジュウトはピーニャコルダでもまだ成功していない《コア》の移植に成功した身だ。けれど、どんな副反応が出てくるかわからない。何かあれば私を頼って欲しい。」

ジュウトは右目を手で押さえた。

「ぼくは、スィフルがしたかった事をさせてあげたい。ずっとベッドや車椅子の生活だったんだ。ぼくは今まで自由に出来たから。…スィフル曰く、とりあえず移植した《コア》を定着させたいって。」

スィフルの身体は全て天に昇り、そこにはソラフラワーの花びらがそよ風で舞った。

「そうか。

私は、私の役目はまだ終わっていない。この国の医療発達にはまだやらなくてはならない事がある。私の研究室でも障害の無い胎児を生み出す事は出来ている。後は、聖属性の《マナ》の解析かな。中々ハードルは高いが…。エディン病院の地下研究室については、然るべき時に国に報告するさ。私の身がどうなろうともね。」

クローブナー侯爵は空を仰いだ。

「ポルデノック達の研究資料……」

ジュウトが収納魔法から取り出そうとするど、クローブナー侯爵はその手を抑えた。

「それは、2人が持っていてくれ。ピーニャコルダ王国の動かぬ証拠だ。それに私がしたい研究には必要ないからね。」

「わかった。」

ジュウトは《閲覧禁止》の本を収納魔法の奥深くに閉まった。



それから8歳までの間、スィフルとジュウトは自分達の持つ属性「火」「氷」「白」「異空間」、スィフルが身体の権限を持つ時だけ「風」「植物」が使えるとわかり、魔法の研究に勤しんだ。右眼の視力も安定したが、魔力量はジュウトのステータス数値のまま、スィフルの数値は反映されなかった。

その後、王立魔法学園にスィフルが入学し、黒魔法を専攻。

学園生活を謳歌しつつ、本来6年制を僅か2年で単位を習得し卒業した。11歳から16歳までをスィフルとジュウト2人で黒魔法使いとしてフリーで冒険していたある時、あるダンジョンで居合わせたパーティーのトラブルにジュウトが巻き込まれた。明らかにパーティーレベルを上回るダンジョンに挑んでいたそのパーティーは、剣士、パラディン、弓使い、白魔法使い、黒魔法使いの5人だったが、黒魔法使いの魔力が足りなった途端、黒魔法使いを責め始め、魔力完全回復のサランの朝露を誰が使うかを巡り、仲違い。

「誰か、サランの…」

黒魔法使いの問いかけに、前衛の剣士、パラディンが罵声を浴びせる。

「またかよ!?」

「お前、魔法使いなんだから用意しろよ!!いつも人のばっかり使いやがって!!」

「やめだ、こんな討伐!!パーティーメンバー変更するわ!!」

まだ魔物は残っているのに、黒魔法使い以外を残して全員撤退してしまった。

残された魔力の少ない黒魔法使い、居た堪れなくなりフォローに入ったジュウトは、自分の持っていたサランの朝露を彼に渡した。

「大丈夫?これ、使って…」

しかし。

「俺の事、憐れんでるんだろう!!サランの朝露は高級過ぎて手に入れられないんだ!!お前、さっきから見ていたけど、コイツら中級ランクでもかなり厄介な魔物なんだ!!それを一人でバンバン討伐して…パーティー組んでないなんてどうかしてる!!強さを自慢したいのか!?ランク幾つだ!?」

彼の言葉に圧倒されながらも、ジュウトは闘いながら答えた。

「さぁ…ランクはわからないかな…。まだギルドに登録してないんだ…」

「はぁ!?そんな奴がどうして…こんなに強いんだよ!?

俺はお前みたいな何も努力しないで才能与えられた奴、恵まれた奴、大っ嫌いなんだよ!!」

彼はそう言い放つと、サランの朝露を飲み干し、その場を後にした。

「……努力しないで…才能…恵まれた…?」

魔物に囲まれながら、その場に立ち尽くすジュウト。

〝ジュウト!気にするな!この場を乗り切らないと死ぬぞ!?……っ”

スィフルは強制的にジュウトを押し退け、表に出て、その場を片付けた。魔物はレスぺレンドラゴン、その群れだった。

状態効果解除から、凍てつく息を繰り出されていたら間違いなく死んでいただろう。しかし、スィフルはジュウトを怒れなかった。

大っ嫌いなんだよ!!

あの罵声に対して、ジュウトは耐性がない。と言うより回避できるスキルをジュウトは社会経験がない為、持ち得なかった。学園生活で人間関係色々体験したのはスィフルだ。その外見やスキルへの嫉妬、罵声に対して対抗スキルを得ていた。ジュウトの親切心が仇となり返ってきた罵声。走馬灯の様にジュウトの中に今まで隠してきた、耐えてきた気持ちが溢れ出しコントロール出来なくなり、ジュウトは心の奥深くに閉じこもって閉まった。


これをきっかけにギルドに登録した時は既にSランク。その後、スィフルが依頼をこなし、半年経たない内にSSランクになり魔導士の称号を授与された。魔導士ともなれば貴族や国から依頼が殺到することを聞いたスィフルは慌てて、白魔法使いに転向届を出し、その後2年間表には姿を出さず、白魔法の研究を重ね、以降19歳から公に白魔法使いとして活動し、ロイド達のいる勇者パーティーに声をかけられた。


「白魔法使いジュウト。Aランク、重複無詠唱魔法と速度が売りか。」

偶然ギルドに立ち寄った勇者ヴァンがパーティー募集メンバーの張り紙を見て、ジュウトを目に留めた。

ギルド内でタピオカミルクをのんびり味わうジュウトに声が掛かる。

「ねぇ、キミが白魔法使いジュウト?」

「あ…はい。」

「張り紙見たんだ。良かったらパーティーに入ってくれないか?」

周りの様子がおかしかった。何故か自分に注目が集まっている。それもそうだ。今ぼくに声を掛けてくれた人物は…

「ゆ、勇者ヴァンだ!!」

「この国に来ていたのか!!」

「あの、声掛けられている子誰!?」

ジュウトはあまりの驚きに口からタピオカミルクを垂らしていた。



「…と、まぁこんな感じで流れてきたわけ。ロイドさんへの回答はこれで大丈夫かな⁇」

スィフルは胡座をかきながら話し終えた。

「少しどころか…かなり重い話だったな…」

ロイドは腕を組みながら眉間に皺を寄せた。ベッドに腰掛けていたモモとルキス。

「待って。じゃあジュウトは最初からルキスが見えていたの?」

「私が酔っ払って治したのってジュウトだったの!?」

「ちょ…突っ込むとこそこ!?もっと他にエピソードあったよ!?」

モモとルキスの意外な突っ込みにドン引きのスィフル。

「なんか、ロイドさんが一番理解してくれたみたいだね。」

スィフルの言葉にロイドも苦笑い。


「スィフルさん、ジュウトには私の声は届きますか?」

モモが真剣な表情で尋ねた。

「うん、聞こえてるはずだよ。」

スィフルの言葉にモモは一呼吸置いて、ジュウトに話しかけた。その語り口調は落ち着いて、優しく、それでいてジュウトが一人じゃない事。大切な自分達の仲間である事を話した。

すると…。

「モモ様って異世界から来たの…?転生って…」

驚きを隠せないスィフルに続くロイド。

「しかも、この世界でも1回死んでるって…?」

「私も最初は本当の事言うと、怖かったし、寂しかった。けど、ルキスやラウル達、もちろん、いつも緩いけど優しい空気で包んでくれるジュウトさんが大好きよ。私はこれからも一緒にいたいわ。…ナーガ様の言う、この世界が平和になったら、私はどうなるかわからないけど、出来るならこの世界が私の眠る地であって欲しいって思ってる。

私の気持ち、届いたら明日返事を聞かせて欲しい。出来たらジュウトさんに。私が出会ったのはジュウトさんだから。

あっ、でも、スィフルさんも、これからよろしくお願いします。」

モモはそう言うと、スィフルに深く頭を下げた。…まま寝た。

「…寝たわ、モモ。」

ルキスがやれやれと言う様に、モモの頭を撫でる。

「自由すぎるんだな、モモ様も。」

ロイドが毛布をそっとモモに掛けた。


「その後、右眼の調子はどうなの?」

ルキスがスィフルに尋ねた。

「まぁ、久しぶりに黒魔法使った反動で今調子悪いかな。頭がクラクラするし。魔力も流れが悪い。」

「どれ?」

すると、ルキスはスィフルの両頬に手を当て、額にキスをした。

「え…っ」

思わずスィフルは額を手で押さえ、頬を赤らめた。

「ふふ、どお?魔力の流れ安定したんじゃない?」

「あ…言われてみたら…身体が軽い!」

スィフルは手を握ったり開いたり、肩を回したり怠かったのが嘘の様だと喜んだ。

「モモにはまだ出来ないからね、これ。」

「え?」

スィフルとロイドが不思議がった。

「だって、モモ超が付くほど奥手なんだもの!ラウルやペルが手の甲にキスするだけでもう真っ赤!こっちが照れちゃうわよ。」

いつの間にかまた酒瓶片手にケラケラ笑うルキスに、スィフルとロイドは肩を落とした。

(聖女様も、こんな酒癖悪い妖精を使役してるなんて…大変だなぁ…)

「ルキス…」

テネは強制的に酒瓶を取り上げルキスを妖精化させ、眠らせた。

スィフル、ジュウト、ロイド、寝たふりのままのペルがいろんな想いを巡らせ夜が更けていった。











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