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聖女の力

マピチュ村はパロル村に比べて規模が小さく、村には教会、宿屋、薬屋があり他は10棟ほどの民家があるだけだった。

そして、村の中心に建つナーガ像は周囲を水に囲まれており、私とラウルは像の建つ石板の上に立っていた。

私はパッとラウルから距離を取り顔を見られない様に背を向けて顔を両手で覆った。


ウェンティという妖精の風の力によって、西側にある教会が目視出来るまでに霧が晴れた時、黒い狼が私を目掛けて襲い掛かってきたが、ラウルが一刀両断。

「ブラッドウルフか…」

ラウルが剣を振り下ろし、剣に付いた血を払った時、私達の体が緑色の光に包まれた。はっとして横に目をやると、白と青のノームコアにベージュのストール姿の右目を前髪で隠した青年が立っていた。


「こんにちはー。

ダンさんの知り合いの方ですか?今、状態異常耐性をかけたので結界解いても大丈夫ですよー。」

青年に言われ結界を解いたラウル。

「助かる、俺はラウル。パラディンで、こちらはモモ、聖女だ。」

「ぼくはジュウト。白魔法使いで、ダンさんにここに来る銀髪の人にとりあえず状態異常耐性かけてーと言われたんだー。」

…なんか、ユルい…私とラウルの意志は一致した。


更に目視出来る範囲が広がった西北側から

「ラウル!おっそい!!」

ブラッドウルフに囲まれ、戦う赤いグランジにクリーム色のマントを羽織った茶髪に金色の瞳、背丈はモモと同じか少し高いくらいの少年がラウルに向かって叫んだ。

「あ、悪い」

「なんだそれ!!もっと気持ち込めろぉ!!

オレ、ご飯食べてたのに、ラウルが呼ぶから急いで来たって、おまえ居ないし、魔物はうじゃうじゃだし、霧濃いし!!」

「ダンさーん、それ言ったらぼくだって大好きなタピオカミルクでよろしくしてたんですよー」

「ジュウトはいいの!!おまえひとりぼっちだったじゃん!!」

「…涙出るー」


ブラッドウルフを斬りながら、返り血を浴びながら子供みたいに叫ぶダンとジュウトのやり取りにぷっと笑ってしまった私。そんな私の姿に少し驚いた様子のラウル。

「モモ様は笑顔が素敵ですね。」

ラウルの言葉に、今大変な時である事を思い出した私は

「あ、ごめんなさいこんな時に、不謹慎でした」

慌てて謝る私の両肩をラウルは押さえ、指示を出した。

「俺はあいつらの加勢に行きます。モモ様はケガ人の手当てをお願い出来ますか?」

「わかりました、まずは教会からあたってみます。」

私は頷いて、目の前の教会に向かって走り出した。すると霧の中から蜘蛛の魔物が現れ、口から糸を吐き出し、私は避けようと態勢を崩して転んだ。

「きゃっ…」

そんな私を庇ってくれたラウル。

ラウルの剣が蜘蛛の糸を絡め取っていた。

「ここは任せて、早く教会へ」

転んだ時に右足首を捻ったのか、立ち上がると痛みが走ったが、そのまま教会に向かって走った。扉を叩くと、ゴトっと内鍵が開く音がし、扉が僅かに開いたと思った中から手を掴まれ引っ張られ、教会内に引き込まれた。

びっくりして、目を閉じていると、ひとりの女性が声を掛けてきた。

「お嬢さん、無事だったのかい?この村の子ではないね、

どこから来たの?」

私は姿勢を正して、震えを抑えて話し出した。


「私はパロル村から来ました、モモです。この村の司教様に

助けを求められてここに来ました。皆さんケガはないですか?瘴気の霧を吸った方は…?」

私の言葉に司教の安否を確認できた村人達は安堵の表情を浮かべた。

「司教様、無事で良かった。」

「司教様のおかげで私達は瘴気から逃れられたのです。」

「司教様はケガなくパロル村に着けたのですか?」

その問いに私は息を整え答えた。

「ケガがなかった訳ではありません。瘴気を吸っていたので体を毒に冒されていましたが、手当ても間に合い回復しました。申し遅れましたが、私は聖女です、皆さん大丈夫なら…」

落ち着いた私の振る舞いに、村人達も落ち着きを取り戻した。

「ありがとうございます聖女様、どうかこちらに。」

そう案内されて向かった奥には主に男性が毒に冒されて伏せっていた。きっと女性、子供、お年寄りの避難を優先させたのだろう。私は一人一人診てルキスと共に浄化、治癒魔法を施した。



一方その頃、教会の外では、魔物との戦いが繰り広げられていた。ブラッドウルフに囲まれ、更に2体の蜘蛛の魔物アラネア。空には鷲の魔物、アードラが10数体。

アードラが翼を広げ鋭い毒羽根をジュウト目掛けて射てきた。避けようとした瞬間、アラネアの糸に足を取られたジュウト。アラネアの糸にも猛毒があるが、状態異常耐性魔法によりダメージは避けられた。しかし、その足をアラネアの口に引きずり込まれていく。

「ーーーっ!!」

すると、遠くから炎の斬撃が飛んできて、ブチっとジュウトの足に絡みついた糸を焼き斬った。

「ダンさーんっ!!」

その泣きそうなジュウトの声にダンが、

「情けない声だすなぁ!!自分の身は頑張って守れ!!」

「えーーーーっ」

そう叫びながらもジュウトはラウルとダンに、攻撃力強化、防御力上昇、MP消費軽減、状態異常耐性の魔法をかけた。


「どっからこんなに湧いて来るんだ!?キリがないぞ」

ブラッドウルフとアラネアを相手にするダンが叫ぶ。

「…どこかに術者がいるかもな。

地形は変わるが仕方ない、一気に片付ける、シヴ!」

ラウルが使役する大地の妖精の名を呼ぶ。すると、アッシュブラウンの髪に右肩を大きく出す黒のチューブトップ、プリーツレースのロング巻きスカート、スモーキークォーツの首飾りをした美しい女性が現れた。


シヴがラウルの後ろにまわり、呼吸を合わせ〝グラビティエンド”と唱えると、ダンもジュウトを拾い跳び上がり、ブラッドウルフ、アラネア達一帯の地面が大きく沈下、そのまま重力に押され続けた。

そこへ跳び上がったダンが、ジュウトを離し〝クリムゾンバースト”と唱えると、剣が炎を纏い火炎の柱が魔物達目掛けて沈下した地面を貫通し、魔物達を焼き尽くした。

地形が変わる程の破壊力にジュウトはその場にペタンと座り込んで腰を抜かしていた。

「残りはアードラと瘴気…」

と、ふと空を見上げたラウルが目にした物は、アメジスト色に輝く魔法陣だった。

「あ、あれは…⁇」

「瘴気の陣だ、何故空に…?」

今ここに対空攻撃手はいない。

ダンとラウルは息を切らしながら唾を飲んだ。



教会では、私が最後の一人を診終わり、薬師にもらったMPポーションを飲んで一呼吸置いた。

「もう他に具合の悪い方はいませんか」

周りを見渡し村人達に声を掛けた時だった、外からものすごい大きな地響き音と、魔物達の声、爆発音がし、教会全体が爆風に揺れた。

村人達は肩を寄せ合い、お互い支え合いながら立ち凌いだ者、座り込む者、頭を抱えて祈る者様々。

私も持っていたMPポーションの瓶を落として割ってしまった。

「ラウルさん達!」

私が立ち上がり、教会を出ようとした時、一人の屈強な体格の狩人が言った。

「教会に逃げ込めなかった、今ここにいないのは東の家のミモロ達夫婦と、息子のテオだ。ここを目指していたか、家に避難しているかはわからないが…聖女様は外に出るのか?」

「ええ、一緒に来ている方々が心配ですし、ミモロさん達も探しに行きます!」

本当は恐いけど、ラウルさん達も戦ってるんだ。私だけ安全な場所で隠れてなんていられない。


「ならば、俺も共に行こう。俺は今は狩人だか、パラディンの端くれで聖女様の盾にはなれるだろう。」

「あ…ありがとうございます、心強いです」

「こちらこそ、手当てしていただいたんだ、村を守るためにも何か役に立たねば、俺はリムドだ。」

リムドはそばにあった大きな盾と、弓を担いだ。私は自分とリムドさんに状態異常耐性魔法をかけると、教会の外に出た。砂埃と瘴気の霧で視界が悪かったが、リムドさんが前に立ち、東の家に案内してくれた。

私達の姿を見たダンは、

「ラウル!教会からねーちゃん出てきた!!」

「モモ様!!」

ラウルが駆け寄って来る。

「教会内は?」

「大丈夫です、みなさん元気になりました。ただ…」

「ここから東の家に行くんだ。教会に逃げ遅れた一家がいて、聖女様が助けに行くと、俺はその盾になるつもりだ」

私の説明より早くリムドがラウルに話してくれた。

「ジュウト!!」

ダンが、ジュウトを呼ぶと、私とリムドさんを緑色の光が包み、私達に杖を向けた格好のジュウトが立っていた。

「わかってる、必要な魔法はかけたよー」


ラウルが私の頬に触れた。

「決して無茶はしないで下さいね、自分のステータス確認も怠らないように」

ステータス確認?と思ったが、私はこくりと頷いてリムドとその場を後にした。東の家に行く途中、微かな鳴き声を耳にした私は、リムドさんを呼び止める。

「リムドさん、今何か鳴き声が」

「え?辺りには何も……井戸の中か?」

辺りを見廻したリムドが井戸に気づいた。

「この村には井戸が二つあって、この北の井戸は氷室の役割を果たしてる水を張っていない空井戸なんだが…」

そう言いながら井戸の中を見た

「暗くて見えない……いや、確かに鳴き声が!」

「私降りてみます!ミモロさんがいるかも…」

「わかった、俺が先に降りよう」

リムドが先行して井戸の中に降りた。すると、

「テオ!テオ!しっかりしろ!!」

ミモロさんの息子のテオが倒れていた。私もすぐに降り、テオの手首に触れ脈を確認する。

…弱いけど、生きてる!


「聖女様、テオは…」

「まだわかりませんが、息はあります!

外傷は足の骨折、瘴気を吸っているので気管を毒に冒されていますが…」

私はそう言うと、治癒、浄化の魔法を使いテオの治療を始めた。氷室に居たせいで低体温症も起こしていたが、手遅れにはならなかった。私はローブを脱ぎ、テオを包んだ。

「リムドさん、テオをお願いします。」

そうリムドに声を掛けてると、リムドは氷室の奥を見て何かに怯えていた。その方向に目をやると…

「あ…ど、ドラゴン…の子供?」

「聖女様、ドラゴンは子供でも危険だ、さっきの鳴き声はきっとコイツで、刺激しないように行くしか…」

さっきの鳴き声はこの子?

私達の目の前には黒色のドラゴンの子供がこちらを見ていた。人間を警戒している様子もない、私はドラゴンの足元の食べかけの果物を目にした。

テオが保護していたのかな?

「コイツ片翼だ…魔物に襲われたのか?」

私は暗くて気づかなかったが、リムドがドラゴンの子供に左翼がない事に気づいた。

すると、ルキスが私の思考を通して話しかけてきた。

「この子の翼、再生は出来るけど、魔物を治療したら懐かれるわよ。しかもドラゴンを使役したら緘口令どころじゃなくなるわよ、モモ自身にも危険が及ぶわ」

でも、この子の鳴き声ぐなかったらテオは発見出来なかったし手遅れになってたかも


私はドラゴンの子供に近づいた。

「聖女様っ」

ドラゴンは威嚇する事なく私に首を擦り付けてきた。

「あなたはテオのお友達?テオはもう大丈夫、教えてくれてありがとう」

私はそう言うと、治癒再生の魔法をかけた。無くなったはずの翼がみるみる形成され再生された。

ドラゴンの子供はキュと声を上げて、私の顔に擦り付いてきた。

私達は井戸から出て東の家を目指した。ローブに包まれたテオはリムドさんが抱いてくれている。東の家まであと少しのところで、一体のアードラに見つかった。アードラは私達の前に立ちはだかり羽根を広げ鋭い毒羽根を幾つも飛ばしてきた。リムドさんに手を引っ張られ、盾の中に身を隠して凌いだ。

「くそっ、あと少しだったのに」

その時、リムドさんが肩に掛けている弓を目にした私は

「リムドさん、弓借ります!!」

「聖女様!?」

私は弓と矢を手にし、盾から出てアードラを前に弓を構えた。その時、ルキスが現れ矢に金色の息を吹きかけた。

すると、矢が矢尻から光り輝き、私はアードラに向けて放った。矢は実体の一本はアードラに当たらなかったものの、金色に輝く魔法の矢が現れアードラに突き刺さった。

これを見た私も、リムドさんも驚いていたが、ルキスは私にブイサインを送って私の中に消えた。

「リムドさん!今のうちに!!」

「あ…ああ」

私達は東のミモロさんの家にたどり着いた時、入り口にブラッドウルフの死体があったのを目にした私達は、お互い目を合わせ頷き合い扉を開けた。


そこには、左腕、左足をブラッドウルフに喰い千切られたミモロさんが血まみれに横たわり、その横で悲しみに暮れる妻の姿があった。その凄惨な光景に私は思わず口に手を当てた。リムドが妻にテオを託す。テオは眠っていたが、その姿を見た妻はテオを抱きしめ声を上げて泣いた。

「テオ!テオ!!」

リムドはミモロさんの首に手を当て脈を確認するが、首を横に振った。

「ミモロ…」

ミモロさんは瘴気を吸ってはいなかったが、ブラッドウルフから妻を護る為に戦ったという。元騎士で、剣の腕も立ったが、年には勝てなかったようだ。

「ミモロは私を庇い…ウルフに…ついさっき」

ミモロの妻は泣きながら、テオを抱きしめてながら語った。

私は自分のステータスを思い出した。そこには死者蘇生があった。私が一歩踏み出した時、目の前に実体化したルキスが現れ、私を静止した。

「何考えてるの、モモ?死者蘇生使うつもり?かわいそうだけど、彼は一般人、今モモがMPを消費する対象じゃないわ。しかも死者蘇生魔法は必ず蘇生出来るとも限らないし、体力も魔力も消費量が膨大なの!!」

「……でも…。見捨てられないよ。

ごめん、ルキス。力を貸して」

私がそう呟くと、ルキスは深くため息をついた。

私はミモロさんの前に座り、ルキスと呼吸を合わせ死者蘇生魔法を使った。

ミモロの体を眩い光が包み、金色の粒が辺り一面に広がった。どのくらい集中していただろう。死者蘇生魔法に加え、治癒再生魔法も左腕、左足にかけた。

「な…聖女様、これは」

リムドとミモロの妻もあまりの眩しさに目を腕で覆い、

その光景に驚きを隠せなかった。

みるみるうちに、ミモロの左腕、左足が再生していく。

そして、ミモロの右手がピクっと動いた。

ゴホゴホと咳き込むミモロの姿に、妻は涙し、リムドはミモロを抱き寄せた。

「ミモロ!!良かった!!奇跡だ!!」

「おれは、死んだはずじゃ…」

ミモロは体を起こし、失った左腕、左足を確認した。


私はよろけながら立ち上がり、胸に手を当てた。

おもいっきり走った後の疲労感に襲われた。頭もガンガンして、少し吐き気も覚えた。ステータスを確認すると、MPが1/3しか残っていなかった。

私は姿勢を正すと、扉の方に向かった。すると、私の前にリムドさんが立ち、

「聖女様どこへ…、外は危険です!!貴女のおかげで村人は全員無事だ、後は冒険者達に任せましょう!」

「いえ、邪悪な瘴気を浄化するには私の力が必要なはず。行かないと…リムドさん、弓借りていていいですか?」

「それは構わないが…貴女様も無理をしては…」

私は静止してくれるリムドさんの言葉を他所に、外に出た。



ラウルとダン、ジュウトはアードラとの空中戦に対し防戦一方になっていた。

ラウルが障壁を展開し、ダンがアードラの羽根を剣で受け、ウェンティが風の力で羽根の方向や威力を軽減、ジュウトは前衛の二人に補助魔法をかけつつ、回復魔法で凌いでいた。

また、片付けたはずのブラッドウルフ、アラネアも瘴気の中から現れ、ラウル達を囲み始めた。

「キリがないですよー、これじゃあぼくらのMP尽きたら終わりじゃないですかー」

ジュウトが半泣きで叫ぶ。

「わかってるよ!!けど、斬撃が届かないし、数が多すぎてオレの風魔法の威力じゃ避けられるし!ラウル!!」

「もう少し耐えろ!王都の竜騎士団にも応援を要請してある!!もう時期っ…!」

ラウルの足がアラネアの糸に取られ、体勢を崩した途端障壁が消えた。

「ヤバっ!!」

ダンがラウルの前に立ち、アードラの躱しきれない毒羽根を受けた。

「ぐっ…っ!!」

すぐさまジュウトがダンに治癒魔法をかける、がアードラは攻撃を緩めない。このままだと…全滅、と全員が思った時、西の空からアードラ目掛けて矢が放たれ、次々とアードラが倒されていく。3人が目を向けた空には、王都の竜騎士達が横一例に竜の背に乗り現れた。

隊長と思われる竜騎士の一人がラウル達のもとに降りてきた。

「間に合ったか?」

「ギリギリですけどね。」

ラウルは体勢を整え答えた。

「でも、応援ありがとうございます。後は瘴気の陣を浄化しないと。」

「ああ、聖属性魔法使いも8人連れてきてある、彼らに浄化してもらおう、少し休め。」


上空では、竜騎士の後ろに乗る聖属性魔法使い達が一斉に詠唱を始め、竜騎士達は竜を操り陣を囲む様に円形に隊列した。そして、聖属性魔法使い達の手から浄化魔法が放たれた。

…しかし、バチンッと音を立てて掻き消されてしまった。今一度聖属性魔法使い達が詠唱し、浄化魔法を放つが結果は同じだった。それを見ていた竜騎士隊長は

「ばかな…瘴気の陣は聖属性魔法使いAランクなら5人でも浄化出来たはず…!!これは瘴気の陣とは違うのか!?」

「確かに…彼らがAランクならば浄化可能なはず……光の魔法か…」

ラウルの口にした光の魔法という言葉に隊長が食いつく。

「光の魔法とは⁇聖属性とは違うのか?」

ラウルは自分の口をパッと手で押さえた。緘口令を敷いてきたにも関わらずここでモモの存在を明かすわけにはいかない。

「いや…」

口籠るラウルを隊長は詰め寄った。

「ラウル、おまえがこの国にいれる約束、忘れた訳ではあるまい。知っている事があるなら話せ!」



私はミモロさんの家からその時の状況を見ていた。魔法が弾かれる魔法陣、あれがナーガ様が言っていた瘴気の陣。あれを浄化するにはルキスの光の力が必要なんだ。

私が戦場に行こうとすると、リムドさんに手を掴まれた。

「貴女が行くなら俺が盾になる!」

「私も微力ながら共に行こう。私も元騎士、私達の村を守らなくては…」

ミモロも剣を片手に現れた。

「あなた!!そんな無茶だわ!!今までっ」

妻に行くてを阻まれるミモロだったが、押し退けようとした時だった。グラグラと地面が大きく揺れ、地響きと共に大地が裂け、地下水と共に白い何か大きなものが地上に飛び出した。それはギャオオオと咆哮し、ラウル達を取り囲むブラッドウルフ達を一喝で戦意を失わせてしまった、白く耀く鱗を持つ龍だった。


その場にいた者達、魔物達さえもその龍の持つ威圧感に金縛りに合っているかの様に動けずにいた。すると、龍が私の姿を捉えると、ズズっと蛇の様に私に近づいて私の体に巻きついた。そばにいたリムドも、ミモロも腰を抜かして動けずにいる。

「やっ…離して!!」

龍の鱗に触れた瞬間、ぼんやりとナーガ様の姿が脳裏に浮かんだ。

「え?…ナーガ様?」


竜騎士達の竜は、白い龍に威嚇されてその場から動けずにいた。

「あれは…ニーズヘッグ…」

「ニーズヘッグって伝説上の龍ー?」

空を仰いで、その耀く鱗を持つ美しい姿の龍の名をラウルは呟いた。ジュウトもその龍について知識があったようだ。

「この大陸の何処かにいるみたいな伝説はあったけど、本物見れるってすごーい」

……ジュウトが言うと緊張感なくなる…

ラウルとダンはジュウトを睨んだ。


ニーズヘッグはモモを背に乗せ、瘴気の陣まで飛んだ。

「モモ様!!」

ラウルの声はもう届かない、竜騎士達と同じ高さまで到達した。瘴気の陣の奥は黒く闇が渦巻いている様だった。

私は一息つくと弓を構え、陣の中心に狙いを定めた。

「モモ!チャンスは一回よ!今のモモのMPはそれで限界よ!!」

ルキスの言葉に私は耳だけ傾け、コクリと頷いた。

ルキスが矢に息を吹きかけると、矢が光り輝いた。私はグッと弦を引きルキスと呼吸を合わせ、瘴気の陣の中心に放った。矢は陣の中心を貫き、陣の紋様がグニャっと変わると、5つの光の陣に上書きされ、瘴気の陣は掻き消された。

瘴気が薄れ次第に村を覆っていた紫黒い雲は消え、青い空が戻ってきた。


ただ、私はその様子を最後まで見ることはなかった。

光の矢を放った瞬間、魔力を使い果たした。

「モモ!!」

遠くでルキスが名前を呼んでる。

この感覚覚えがある…前世で過労死する前にも感じた、全身に力が入らず目が重くなり無になった。




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