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黒魔導士?ジュウトの秘密

モルネード王国、王妃マーガレット暗殺犯、カロルの妻アザレアに仕掛けられた呪印を見事解除し、出現した悪夢を見せる魔物モルフィムの討伐に成功したモモ達。

シュピツ村の漁師や村人達が、モルネードに生息しない魔物モルフィムを一目見ようと、西の森付近に集まっていたのだが。

「…こりゃ、真っ黒すぎて、何だったか判別出来ないな…」

「こうも粉砕されとるとなぁ…って。」

原型を留めないモルフィムの肉片に触れた村人がある事に気づいた。

「みんな!この肉、黒焦げだが、中は、ほら!!」

村人が肉片を指で押し潰すと、ジュワっと赤みのある透明な肉汁が出てきた。

「す、すごい肉汁!!見た目悪いけど、どれ?」

大柄な漁師が焦げを落として肉片に齧り付いた。一噛みするごとに笑みが止まらない漁師を見て、村人達が次々に口にする。

「旨い!!外はカリッと、中は旨味で溢れて口の中でトロける様だ!!これには辛口の酒が合いそうだ!」

「なにーーーっ!!」

村人と漁師の男衆に混じって、第二騎士団員達も極上の肉に引き寄せられ、いつの間にか酒盛りが始まってしまった。

「お母さんー、お父さん達お酒飲み始めちゃったよ?」

見ていた子供達が母親に混ざりたそうに話す。

「ああなっちゃ、使い物にならないよったく。子供達、聖女様達へのご飯の用意、手伝っておくれ。」

「はーい!!」


「……あいつら…」

アドルフ第二騎士隊長が騎士達の姿に頭を抱えた。

「隊長はどういう教育してんだよ?」

ロイドの呆れ顔にアドルフは面目ないと平謝り。

「まぁまぁ、ロイドさん。モルフィムのお肉絶品らしいですよ、一杯してきたらどうですか?」

ヘラっと笑いながらロイドに話しかけるのは、あのモルフィムを倒したキーマン、ジュウトだ。この緩い立ち居振る舞いからは想像もつかない威力の炎魔法を繰り出した人物。そんなジュウトをジッと睨むロイド。

「あーっ…と、モモ様は?」

触れられたくないのか、ジュウトは目を泳がせて、モモに話題を変えた。

ロイドは一息ついて宿屋を指差した。

「あの例の妊婦のケアに行ってる。」

「そっか、じゃあぼくは修理屋に行ってくるよ。そろそろストール仕上がってるかも……」

ジュウトはそう言うと、修理屋に向かってそそくさとその場を後にしようと足を踏み出した。そんなジュウトの肩にロイドが触れた。

「なぁ、ジュウト。俺なんかより、お前の方が何か抱え込んでないか?俺で良かったから…」

そう声を掛けるロイドに、うまくポーカーフェイスが作れないジュウトが俯く。

「ありがとう、ロイドさん。……でも今はまだ…」

「そっか…。無理はするなよ。今回も助かった、ありがとな。」

そのロイドの言葉にジュウトは顔を上げると、いつもの様にヘラっと笑みをこぼした。


同じ頃、宿屋の一室でゆっくりとアザレアが目を覚ました。

部屋から雇女がホールに飛び出し、モモと産婆に声を掛ける。

「聖女様、アザレアさんが目を!!」

急いでホールからアザレアの部屋に移動するモモと産婆。

アザレアの側には薬師が付いており、目が覚めたばかりのあさが力なく口を開く。

「ここ…は…?」

薬師がその場を立ち、モモに席を譲る際こう耳打ちした。

「出血が止まりません…」

モモはその言葉に一瞬立ち止まるも、すぐに笑顔を作りアザレアの横に腰掛け、脇には産婆も立ち会った。

「ここは、モルネード王国南西にあるシュピツ村の宿屋です。」

モモはゆっくりと聞き取りやすく話しかける。

「わ…たしは…助か…た…?」

瞳に涙を溜めながら、一言一言を絞り出すアザレア、その手をモモは優しく取った。

「ええ、貴女は助かりました。もう大丈夫です。」

モモの言葉に涙を流すアザレアだったが。

「……赤ちゃん…流れて…逝って……」

本当なら声を上げて泣きたいはずなのに、そんな体力もまだない彼女の一言に産婆が優しく声を掛ける。

「貴女が無事に体力を回復させたら、また授かれますよ、今はまだ、ゆっくり身体を休めなさいませ。」

「ー……っ。」

何か言いかけたアザレアだったが、それを呑み込むと、また静かに目を閉じた。

「ありがとうございます、えっと…」

「あ、名乗るのが遅くなりました。私はこの村の産婆、テラと申します。聖女様は先程から周りの方々がモモ様と。」

「あ、はい。私こそ遅くなりすみません。どうぞ、モモとお呼び下さい。」

産婆のテラは小柄の優しい人柄が溢れた中年女性。

「では、お言葉に甘えて、モモ。こちらは薬師のキービスです。」

テラは白いローブに身を包む長身の40代くらいの男性、薬師キービスをモモに紹介した。キービスも穏やかな佇まいで、柔らかく微笑んだ。

「改めまして、薬師のキービスです。王都の薬師局からこの村に赴任して5年になります。モモ様にはアラネアの時も助けていただき、ありがとうございます。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。どうぞモモとお呼び下さい。それで早速ですが、アザレアさんの体調、どう診ますか?」

モモの質問に答える前にキービスが手を挙げると、雇女達が席を外した。


「あくまで私の所見ですが、テラと処置した際の状態は不全流産でした。手術で胎盤、胎児、卵膜は全て取り除きましたが、その後、今も出血が続いているので子宮内で他に何か別の症状が起きているとしか…。脱水症状も酷かったので、胎児には劣悪な状態だったと…。」

キービスは拳に力を入れ俯いた。テラも、口に手を当て横に目を背けた。

「わかりました、私が改めて診てみます。」

(キービスさんの話からすると、恐らく出血の原因は筋腫…。全身をスキャンして、血栓なども無いか診ないと。婦人科専攻では無かったけど、考えられる処置はしてみよう。)

モモはストールを外し、袖を捲った。テラがアザレアに掛かっていた毛布を静かに足元に避ける。

アザレアは眠っていたが痛みで起きない様にモモは麻酔をかけた。

〝アネスシージャ”

アザレアの身体が淡い緑色に包まれた。

モモは両手に魔力を集中させると、アザレアの全身が柔らかい光に包まれた。

〝スキャン”

アザレアの頭部から血栓などが無いか隈なく診ていく。しばらく黙ったままのモモだったが。

「あった!!」

(約10〜12㎝の筋腫…子宮腺で破裂してる、それと…下肢静脈血栓…これを除去さえすれば…)

するとルキスが妖精化してモモの肩にポンと腰を下ろした。

『いつでもいいわよ、モモ。』

ルキスの呼び掛けに頷くモモは、アザレアの全身を包んでいた光を患部2箇所に絞った。キービスやテラにはただ光っている様にしか見えていない状態だ。モモはそれらに手を掲げ、手早く処置を施す。

〝インスィジョン(切開)”

切開により流れ出る血液を空中一点に集める。

(筋腫、大きい…けど全て、血栓も…)

〝アブレーション(除去)”

キービスとテラの目の前に、アザレアの血液の塊と異物が現れた。

「こんな大きさの……」

キービスは額に手を当てて、一呼吸ついた。

「モモ、あんた…」

テラもその光景を奇跡でも見るかの様な眼差しで見守っていた。

〝ヒール”

モモがそう詠唱すると、空中に浮いていた血液がアザレアの体内に戻り、切開した患部も、先に手術した縫合部分も綺麗に治っていった。

再度モモがアザレアの全身をスキャンする。

「バイタル安定、これで本当に大丈夫ね。」

モモが肩の力を抜いた。

『お疲れ様、モモ!』

(ルキスのおかげだよ、ありがとう!)

モモとルキスはお互い笑顔を見せた。


一仕事終えたモモがホールに出ると、ペルがカウンターから手を振っていた。

「アザレアの処置終わったの?」

ペルがモモを隣の席へエスコートする。

「うん、ルキスも手伝ってくれて、身体はもう大丈夫。あとは心のケアかな。」

「はは、ルキス姉、さっき上機嫌でボクのトコに来て、ほら。」

ペルの肩でルキスが寝息をたてながら眠っていた。

「ルキスも疲れたのね、ペルは大丈夫?」

「大丈夫。今夜はここに泊まって、明朝に王都に戻るってアドルフが言ってた。にしてもさ、ジュウト凄かったね。あんなに緩いクセにあの威力の黒魔法なんて。何で白魔法使いしてるんだろう、まぁ、補助魔法も凄い効果あるけど。」

ペルがグラスを空にすると、モモもカウンターに両肘をかけ、顎を組んだ手の甲に乗せた。

「ね。あの時のジュウトさん、いつもと違ってしっかりしてたね。」

(モルフィムの討伐、ロイドさんとペルの攻撃は効かなかった。あの時のジュウトさん、何かを諦めた顔してた様な…)


ジュウトの様子を気にするモモにアドルフが声を掛けた。

「モモ様、アザレアの容態はその後いかがですか?」

「ええ、大丈夫。明朝、王都へ飛び、精神的に安定したらカロルの事を伝えるつもりです。」

「承知致しました。その様に殿下に報告致します。あと、殿下から言伝を預かっております、こちらを。」

アドルフはそう言うと、ペルに伝波アイテムを渡した。

「?」

モモとペルは顔を見合わせた。

そこへ、ロイドとジュウトが何やら気まずそうな空気でエントランスに入ってきた。

宿屋の主人が二人を出迎える。

「おかえりなさいませ、ロイド様、ジュウト様。本日のご宿泊ありがとうございます。前回と同様、同室となっておりますので。」

ロイドが主人から部屋の鍵を受け取った。

「ありがとう、ご主人。世話になる。行くぞ、ジュウト。」

「はーい。」

一見いつものやり取りの様だが、どこか重い表情のジュウトに気づいたモモ。

「ロイドさん、ジュウトさん。」

二人が声のする方に目をやると、カウンターに座るモモとペルが手を振っていた。

「今日はお疲れ様でした。どこかに寄っていたんですか?」

モモが二人にウェルカムドリンクを手渡す。

「あ、うん。ぼくのストール、修理に出していたのが仕上がったから、取ってきたんだー。」

「そうだったんですね、私も今さっき…」

モモはジュウトに声を掛けると共に、ペルにウインクして〝ロイド”と伝心した。

モモの意向を察知したペルが席を立つ。

「ロイドー、待ってたよ!一杯付き合ってよ!」

「ん?ああ、構わないが、モモ様はいいのか?」

「お酒の気分じゃないんだってー。」

ペルはロイドを連れてバーカウンターへ移動した。


「じゃあ、あの妊婦さんもう苦しまなくていいんだね、良かったぁ。」

ジュウトはモモの隣に座り、アザレアの無事を喜んだ。しかし、モモはジュウトの呼吸が乱れている事を見逃さなかった。

「ジュウト、どこか調子悪いの、大丈夫?」

モモがジュウトの肩に触れた。

(…あれ…?)

「あ、大丈夫だよ……って、うそ。……ちょっと、ごめ…」

ガタンと音を立てて、ジュウトがカウンターに倒れ込んだ。

「ちょっ、ジュウト!?」

すぐにバーテンダーが駆け寄る。

「聖女様、いかが致しましたか!?」

「ええ、ちょっと彼が体調を崩して…」

周囲にいた者達もざわついた。この騒ぎに気づいたロイドがカウンターへ戻ってきた。

「モモ様、ジュウト?どうした…」

「ロイドさん、ジュウトさんの様子が苦しそうだったので声を掛けたら倒れてしまって…ペルに部屋までって、ペルは…あ。」

ロイドを一杯誘ったはずのペルだったが、蜘蛛化して赤く湯気を発し、ロイドの左肩で酔っていた。

(…ペルー…)

因みに、ペルの肩で眠っていたルキスは、ロイドの右肩で小さなグラスを片手に上機嫌で呑んでいた。

「すみません、ロイドさん…ペルとルキスがご迷惑を…」

モモがなんとも言えない表情で謝る。

「いえ、大丈夫です。ジュウトを部屋に運びます。」

ロイドはモモにペルとルキスを渡し、ジュウトの腕を肩に回した。


宿屋3階、ロイド達の部屋。窓からは夕陽が差し込み、涼しく心地よい風が吹き込んでいた。

「ひっく…ちょっとぉ、ジュウトはどうしたのぉ?」

(ルキス、酒癖悪い…)

宿屋の1階、カウンターで倒れてから意識を失ったままのジュウト。

バーカウンターから飲み続けて今に至るルキスは、人型になり、ワインボトルを片手にモモの肩にもたれかかってきた。

「ルキスー、飲み過ぎよ、もうお水にしないと…」

「んー…ジュウトの魔力がぁ、2種類あるわぁ……。隠れてないで、出て来なさいよー…」

ルキスが眠るジュウトに話しかけた。すると、フッと部屋の明かりが消え、窓から差し込む夕陽に室内が染められ、足元にヒヤリと冷たい空気が流れ込んできた。モモがゴクリと唾を飲み込み、ルキスの腕を掴む。

「ちょっと、ルキス…私こういうの苦手なんだけど…っ。」

「ちがう、ちがう、そーゆーのじゃなくて。いらないから、こーゆー演出!テネ!!」

ルキスがボトルを片手に眠るジュウトに腕組みながら話す。

「テネ!?」

誰!?とモモとロイドが顔を見合わせると、ジュウトからまるで幽体離脱するかの様に、青みがかった黒い長髪に、ブルーグレーの瞳、透き通る様な白い肌、晴天の夜空に輝く星を模した様な柄のローブに身を包んだ美青年が現れた。

(わぁ…って、この世界の美形率の高さは何なんだろう…)

モモは一瞬見とれたものの、すぐに我に返った。

「酷いなルキス、20年振りの再会なのに。」

その美青年テネは、ルキスからボトルを自然に取り上げると、ルキスの腰に手を回した。

「なに、この手。」

ルキスがテネの手を叩く。

「久しぶりなのに、つれないな、二人きりで……ぶぅっ。」

ルキスが右手でテネの頬を鷲掴みにした。

そんな自分達を呆然と見ていたモモとロイドに気づいたルキスは慌てて姿勢を正した。

「あ、やだ、私ったら。紹介するわ。彼は闇の妖精テネブラールム、略してテネ。

テネ、私の初めてのご主人様、聖蛇ナーガ様の化身、聖女モモと、雷剣ロイドよ。貴方の主人は…?」

「ふむ、お初にお目に掛かる。私は闇、主に異空間を司る者。気軽にテネとお呼び下さい。」

テネは胸に手を当て、モモとロイドに会釈した。

「私の主人だが、正確には肉体はこの世に存在しない。そこに眠るジュウトの双子の兄、スィフルに仕えていた。…僅か3年余りだがな。」

「え…?」

一気に情報が増え、処理が追いつかないモモとロイド、そしてルキス。その頃、村は夕食時。どこからか風に乗って子供達と温かい食事を囲む笑い声が聞こえてきた。空には白い月が黄色く染まり始めていた。



「こちらが我が国、クローブナー侯爵家と、王立魔法学園及びギルドに残されていたジュウト殿の資料です。」

ヨイチが長机の上に資料を並べた。と、同時にラインハルトの部屋の窓際に伝波鳥が一羽やって来た。ソファで寝ていたダンが気づき、人化して伝波鳥に触れた。

机に並べられた資料を手に取るラインハルトとラウル。

「ジュウト=グローブナー、侯爵家の…双子の次男。双子の兄スィフルは5歳になる前に他界……トルチェの言う通り、学園を8歳から10歳の2年で卒業、専攻は黒魔法か…。」

ラインハルトが読み上げ、ラウルがギルド資料を続けた。

「11歳から16歳までの間は黒魔法使い、僅か6年でSSランク、魔道士の称号。2年空けて19歳から白魔法使いに転向。こっちも4年でSランクまで昇って来てる。

ラインハルトは知っていたのか?ジュウトの事。」

「いや、グローブナー侯爵家に男児がいるとは聞いていない。3姉妹としか…。ヨイチ、この情報はどこから?」


「はい、グローブナー侯爵夫人の出産履歴からでございます。我が国とピーニャコルダ王国が敵対していた頃、ピーニャコルダ王国では我が国が禁忌としていた魔術による胎児創造を受け、侯爵がオーナーを勤めるエディン病院で秘密裏に出産、しかし記録には死産と。こちらが病院側に隠されていた秘密文書でございます。」

ヨイチは脇に挟んでいた黒いファイルをラインハルトに手渡した。

「では、学園入学資料にも改ざんが?親の承諾が必要だろう?」

「ええ、その記載も含めてこちらに。」

ラインハルトとラウルが文書に目を通した。

「ジュウト=セクター?」

二人が声を揃えて読み上げた。

「はい、調べたところ、グローブナー侯爵家の使用人、セクター氏の養子として入学手続きを取っていた様です。」

ラウルがソファに腰掛けた。

「確かにピーニャコルダはインファータル・アシストに長けているが何を隠したかったんだ?グローブナー侯爵は…」

「そこだな。敵対当時からの行為だ…この事、陛下には?」

ラインハルトはファイルを閉じると、ヨイチに返しつつ尋ねる。

「いいえ、まだ…殿下、いかがされますか?」


そこへ、伝波鳥を手に乗せたダンが割って入った。

「なぁ、パロル村のカイドからヘルプ来てるぞ、ラウル。」

「ん?カイドから、急にどうした…」

ダンが伝波鳥を宙に放つと、伝波鳥は姿を消し、宙に文字が浮かび上がった。そこにはこう記されていた。

〝ラウルへ。

勇者ヴァン一行が、モルネガングア山に入山するも、未だ下山せず。行方捜索に協力依頼を要請する。

カイド。

追伸。モルモロの葉巻、よろしく。”


更に、ラインハルトの部屋を衛兵がノックし、ドアを開けた。

「殿下、ラッツィ宰相がお見えです。」

ドアの奥の深刻そうな様子に、入室をためらったラッツィ。

「ああ、どうかしたか?」

ラインハルトが声を掛けると、ラッツィは宙に浮き出ている文章に目をやった。

「殿下、お取り込み中失礼致します。私の要件も、勇者一行のものです。」

「!?」

たたみかける様にラインハルトの元に舞い込む案件に、ソファ裏に立っていたレンダーとザックは目を合わせ、ただただ頷き合った。

(王子って…大変なんだな…)



ジュウトは静かに目を開けた。その瞳に入って来たのは、心配そうに覗き込むモモ、ペル、妖精化して布団の上に乗るルキスと…。

「大丈夫?ジュウト!」

モモ達3人がハモる。そしてすぐに違和感を覚えたモモが、再度呼び掛ける。

「ジュウトさん…?」

ジュウトと思われるベッドに横になっていたその人物は、体を起こし、ルキスの隣にいたテネを摘みあげた。

「テネ、どう始末つけるんだ。ジュウトの奴、引っ込んでしまったぞ?」

「どうと言われても。私もルキスに会いたかったし、最初に助けを求めたのはジュウトではないか。しばらくスィフルが表にいても問題ないのでは?」

その様子を唖然と見ていたモモ達。ジュウトの顔つきも、声も違っていた。

「おまえ…っと、挨拶が遅れたね。僕はジュウトの双子の兄、スィフル。弟がいつもお世話になっています、聖女モモ様、ペル、ロイドさん。」

スィフルは優しく微笑みながら挨拶し、摘んでいたテネをパッと離した。

「あ、こちらこそ、ジュウトさんには助けて頂いて…」

モモが代表して、慌てて頭を下げた。

「聞きたい事が沢山あるって顔しているね、何から話そうか?」

いつもどこか自信無さげにヘラッと笑うジュウトとは異なる、どこか勝ち気で自信あふれるジュウトの表情。

(えっと…こちらはジュウトじゃなくて、ジュウトのお兄さんで…)

同一人物とは思えず戸惑うモモに変わって、ロイドが口を開いた。

「俺から質問したい事は一つ。ジュウトが、抱えているものは何だ?本当なら本人の口から聞きたいが、今は話したくないと断られてしまった。」

その質問に部屋が静まり返った。スィフルはロイドの目を逸らす事なく見つめる。

「ロイドさんは、弟の事心配してくれているんだね、ありがとう。けど、うまい言葉を使うね、抱えているものか…。

それはね、僕とテネと歩んできた全てなんだよ。」

「それはどういう…俺達が知っているのは、共にしていたのは、いつもゆるくて、怠そうで、甘いものに目がない白魔法使いのジュウトなんだ。」

ロイドの言葉にモモ達が頷く。

「…だよね。僕もそれには驚いているんだよ。あれはあるトラブルをきっかけにジュウトが創り出した人格で本来の彼じゃない。弟は、純粋で真っ直ぐ、期待されたら全て笑顔で抱えてしまうんだ……話すと長くなるけど、聞くかい?」

スィフルは、少し躊躇いつつもモモ達に問う。モモ達の応えはもちろん、二文字。

「はい!」


ー今から23年前ー

白魔法において、モルネード王国で3本の指に入り、病院経営を任されていたクローブナー侯爵に待望の子供が誕生した。





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