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魔人の呪印⑵

モルネード王国、王妃マーガレット暗殺犯カロル。ピーニャコルダ王国、マナーマ州出身の28歳。元Sランク弓使い冒険者で、現在は家庭を持ち、妻アザレアが第一子を妊娠している矢先に事件は起きた。

その日、カロルはいつもの様に狩に出掛けていた。元Sランク弓使いということもあり、狩は順調、大物の魔物を次々に仕留め収納魔法へ納めていく。

「これだけあれば、しばらく保つな。アザレアの喜ぶ顔が楽しみだ。」

そう一息ついた時、強い殺気を感じ取り、その方向から飛んで来たナイフ数本を躱し、持っていた弓矢で反撃。一発で狙撃手を仕留めた。

しかし、カロルの背後には…。

「流石は元Sランク冒険者…家族は大事か?」

そう言われ振り返った時、首元に重い一撃を喰らい、更に何かを打たれ、その場で意識を失った。


カロルが目覚めた時、そこは湿気に満ちた冷たい洞窟だった。岩盤に両手足を鎖で繋がれ、首に何かを施術されていた最中だった。

「な、何をっ…ぐっ…」

「お目覚めか、音速の弓使いカロル。」

「何者だっ、俺に何の用だっ!?」

カロルが目にしたのは、死人の様な青白い肌、額には縦に第三の目がある男だった。その姿に息をのむカロル。

「なに、おまえの腕を見込んで一仕事頼みたいだけだ。」

「…断ると言ったら…?」

男は洞窟奥を指差した。

「あの女に見覚えは?」

カロルから離れた洞窟奥で、黒のフードに身を包んだ者達に支えられらた気を失っている女性。

「ア…アザレアっ!!」

「彼女は腹に子を宿しているみたいだなぁ。この意味がわかるか?」

カロルの顔から血の気が引いた。

「わ、わかった、何でも俺に出来る事はするっ。アザレアには、妻には手を出さないでくれっ!!」

必死に頼むカロルの姿に、男は笑う。

「ああ、いい返事を聞けて我々も一安心だ。鎖を外してやれ。」

カロルの、両手足の錠が外され、ドサっとその場に崩れ落ちた。

(なんだ?…力が入らない…)

「今、おまえの首に呪印を仕込んだところだ。しばらくは体が重く感じるかもな。」

その言葉にカロルは首を触る。表面上違和感は無かった。

「じゅ、呪印!?それは確か魔族がかつて…おまえ達は一体…」

「詮索にいい事は何一つないぞ、カロル。」

「…っ。それで、用件は?」

「話が早くて助かる、おまえに頼みたい事は…」

カロルは青ざめた。

「そんな…国家的犯罪…」

「我々は命令している訳ではない。あくまでお願いをしているのだ。」

男の言葉と共に、アザレアを支えていた手が離され、ぐったりとアザレアは横たわる。

「わ、わかった、やる!やるから…準備がいる、時間をくれっ。」

「いいだろう…実行する際はコレを使え。」

男はカロルに茶色い小瓶を手渡した。

「これは…?」

「一滴で致死に至る毒液だ。命中すれば確実に殺れる。」

カロルの小瓶を持つ手が震える。

「教えておこう、おまえに仕込んだ呪印だが、常に我々はおまえの位置を把握出来る。解除は仕込んだ術者か、死ぬかどちらかしか方法はないと伝えておこう。この世界に今、呪印を知る者、解除方法を知る人間などいないに等しい。変な動きをすれば遠隔で即死させられる代物だ。まぁ、そうなればあの女も後を追わせてやろう。」

高笑いする男達。カロルが妻アザレアを救う道は一つしかなかった。


「そして私はモルネード王国に侵入し、王妃マーガレットを狙い矢を放った。…それしか妻を救う方法がなかった…。だが、失敗に終わった今、妻の命はもうないでしょう。私が拷問に耐えたのは、脱走し妻の…亡骸でも構わない。最期に一目、妻に会い抱きしめたかった。

死刑は覚悟の上です。」

カロルの話に医務室は静まり返った。

口火を切ったのはラウルだった。

「カロルに呪印を施術したのは、魔人で間違いないだろう。

シュピツ村で会った奴と特徴が似ている、第三の目は横だったがな。」

「ああ、報告を受けているアレだな。…カロル一つ聞きたい、今ピーニャコルダの内情はどうなっている?」

ラインハルトがカロルに問うも、カロルは黙ったままだった。

「カロル、あちらはこのモルネード王国皇太子、ラインハルト殿下。そして、隣の銀髪の青年が、あなたの祖国ピーニャコルダの第二王子ラウル殿下よ。」

モモは丁寧に紹介した。すると、カロルは驚き、ラウルを見る。

「え…第二王子…?ピーニャコルダに王子は一人だけでは…」

「私もその辺は詳しく知らないのですが、ピーニャコルダの現状を教えて頂けませんか?」

「はい…。今ピーニャコルダでは南の地グアヤキラル州を中心に行方不明者が多発しています。又、王都ノイシュヴァンスタインでは、闇市と呼ばれる商売が存在し、国を挙げて闇の根を捜索している様ですが、未解決のまま、力がモノを言う社会になってしまっています。」

「…ピーニャコルダは軍事が支えている部分もあったはず。

空挺師団のマルフォス隊長はどうした?」

ラウルが尋ねる。

「マルフォス隊長…私は彼の下で一時期働いていました。ただ、今は大病を患い、原因も不明で伏せている状態。ここ最近表舞台には出ていません。代わりの者が隊長の任に就きましたがプライドの高い団員の集まる空挺師団を纏められず、結果、コラル王子殿下が隊長の座に就いていますが…」

「兄上が?」

「大病…原因がわからないという事は、魔法や薬草はすでに?」

モモが進んで会話に入る。

「ええ、ピーニャコルダは医療面において力を入れているのですが、出来得る事は全て、モルネード王国より輸入している聖水でも効果は無かったと聞いています。」

自国の情勢を国政に関わる人物に話す事はしたくなかったカロルだが、もはや死刑に値する身。話し終えると静かに肩を落とした。


(大病、原因不明、聖水も効果なしだから毒じゃない…もしかして…)

と、モモが考えていると、モモに視線が集中している事に気づいた。

(今こそ役に立つ時かも!)

モモはガッツポーズをすると立ち上がった。

「私、ピーニャコルダに行ってみます!」

モモの突然の発言に医務室内がパニックに陥った。

「え!?」

「は!?」

ラインハルトもラウルも目が点。

「いやいやいやいや、モモ、どうしてそういう結論に!?」

ラウルの問いに、モモは人差し指を立てて説明を始めた。

「だって、出番だと思ったし。」

「出番て…」

「どういう協定を二国間で交わしているのか知らないけれど、ラウルはそう簡単にはピーニャコルダに帰れないみたいだし、もちろんラインハルト殿下もピーニャコルダに行く事は、身分上そう易々とはいかないはず。

加えて、ピーニャコルダ自体、不安定な軍事情勢にあって、且つ治安が乱れている州がある。カロルさんは奥様の安否が不安。空挺師団の元隊長の大病を治癒出来たら、不安定な軍事は纏められ、魔人に繋がる何か糸口を掴めるかも知れない!…どうかな?」

ラインハルトもラウルも、その場にいた全員が納得の行く説明に驚くばかり。普段の様子からは窺い知れないモモの一面だった。

「いや、モモ殿の説明に異論はない…が、事はモルネードだけに留まっていない、もっと慎重に運ぶ必要がある。」

ラインハルトの説得にヨイチも加わる。

「そうですよ、モモ様。下手したら戦争に繋がりかねない事案が既に起きているのです。」

「だって、それは政治的に関与する人が動くからじゃない?私は一般人だもの。旅行がてらパッと行ってチャっと治しちゃえばいいんじゃない?」

「…パッと…?」

ラインハルト達が復唱する。

「…チャって…」

ヨイチが頭を抱えた。

「殿下、事態が起きている現地に行ってみないと、いくら机上の空論を並べていても、何も解決しませんよ?」

モモの言葉にラウルが何やら深く考え込んでから口を開いた。

「あー…モモ、コレが素か…?」

「え?」

「今まで猫被ってたな?」

「え…ええ⁇」

ラウルがモモに覆いかぶさる様に近づき、机に片手を置き詰め寄る。

(ち…近いっ…)

美形に、いや男性に免疫がないモモはたじろぎ、後退り。そして、壁まで追い詰められてしまった。

「ち…近いよ、ラウルっ」

「これくらいで萎縮してしまうお嬢さんが、何処にパッと行くって?」

「ち、違う…ちゃんと危なくなったら戦ったり…」

「どうやって?」

「私だって、弓矢、使えるんだから…それで、ガッと…」

「へー。敵の顔も見ずに、どうやって?」

(もーっ…ラウルってば何で急にこんな意地悪言うのっ)

ラウルに両手壁ドン状態のモモは、真っ赤になって上手く言葉が出てこない。見兼ねたラインハルトが助け船を出す。

「ラウル…その辺でやめてやれ。モモ殿が困ってるぞ。」

渋々ラウルはモモを解放する。

その時、モモは自分のある想いに気づく。

(…あれ…?ラウルだから…?)

俯いていた顔をあげ、恐る恐るラウルを見上げる。目が合った瞬間、恥ずかしさが爆発。モモは両手で顔を覆った。

医務室内の空気が、堅苦しい聴取から恋する乙女に当てられ、オンワーズ医務局長とヨイチが、甘酸っぱいですな、などと、自分達の若かりし頃を振り返っていた。



一方その頃、雷剣士ロイドと、白魔法使いジュウトが二人でシュピツ村より南に広がる海岸で、ギルドから受けたある依頼をこなしていた。依頼自体は大したことのない案件で、漁師達を襲う海の魔物、アロマノカリスを倒す事だった。

アロマノカリスは甲殻類で一見シャコに似ているハサミのない体型が細長い筒状の、脚がムカデの様に何本もあり、口にはサメの様に鋭い歯が並ぶ肉食の魔物だった。因みに、殻も歯も薬になり、焼いて食べると大変美味しいらしい。

「結構狩ったな。依頼以上になったか?」

「そうですねー。食べきれないですよー、この量…」

「殻剥くのも面倒だな…」

浜辺に大量に積み上がるアロマノカリス。そんな二人の姿を見ていた海で遊ぶ子供達が集まってきた。

「お兄ちゃん達スゴイね!お父さん達、アロマノカリスがいっぱいいて漁が出来なくて困っていたんだ。」

「倒してくれて、ありがとう!」

いつの間にか沢山の子供達に囲まれる二人。そこへ漁師達も寄ってきた。

「本当、助かったよ、兄ちゃん達。まさかあの報酬で片付けてくれる冒険者が現れてくれるとは、良かったのかい?」

「そうそう、ここ最近こいつらが大量発生して漁にも出れず商売あがったりでさ。」

ロイドが子供達に遊ばれている中、ジュウトがある事に気づく。

「けど、アロマノカリスってこんな浅瀬の魔物ではなかった様な…」

「そこなんだよ!深海までも行かなくとも、もっと沖の魔物だったし、他にも獰猛で巨大な海の魔物が出たり、急にどうなってしまったのか…」

うーん、と考え込むジュウトだったが、とりあえずこの狩ったアロマノカリスを処理する事の方が先決とまとまった。

そこで漁師達に提案した。

「実はぼく達も暇潰しに狩っていたから、処理の事考えてなくてー、アロマノカリスは殻も歯も高値で取引出来たはず。商売あがったりだったら、引き取ってもらっていいですかー?」

漁師達はジュウトの提案に顔を見合わせた。

「い、いいのかい?これだけの量なら、俺達は嬉しいが、君達が…」

「構わないですよねー?ロイドさん?」

「…っ全然いいからっ、助けろジュウトっ」

子供達に潰されて遊ばれているロイドが魔物より苦戦していた。

「ですから、後始末よろしくでーす。」

ジュウトはにっこり笑って、ロイドに回復魔法をかけた。

それを見た子供達、特に女児達のターゲットがジュウトに切り替わる。

「わー!お兄ちゃん白魔法使いなの!?」

「なんで、何にも唱えないで魔法が出せるの?」

「杖はいらないの?」

女児達の何で何で攻撃にたじろぐジュウト。

そんな二人の冒険者の姿に、海岸は笑いで包まれた。

その時、ロイドを潰していた子供達が海を指し

「あの小舟なんだろう?」

「ハゲワシが上空に集まってる!!」

子供達の声に反応した漁師達が望遠鏡で小舟を見ると、舟には一人の女性の姿が。しかも周りにはサメの背びれが目視出来た。

「大変だ!!小舟に女性が!遭難者か⁇」

「サメがあんなに…ケガでもしてるのか、転覆したら…」

漁師達の騒ぎに潰されていたロイドが子供達を下ろすと、クトネシリカを抜き縦一閃、一瞬海が小舟まで二つに割れ、サメやハゲワシ達が逃げて行った。

漁師達が力を合わせて小舟を浜辺に上げた。

ジュウトが、すぐに怪我の手当てに入ろうとしたが、その手が止まった。

「どうした?」

ロイドも女性の様子を見る。二人が真っ青になり漁師達が様子を見ると。

「た、大変だ!!この女妊娠してる!!出血してるぞ!!」

「誰か、産婆呼んできてくれ!!」

「子供達!!母さん達にお湯沸かす様言ってこい!!あと布!!」

「わかった!!」

漁師達のテキパキした動きを見ているだけしか出来ないロイドと、ジュウト。外傷でない以上回復魔法は効果が無い。

漁師達の声に、様子を見にきていた母親達が、すぐに火を興しお湯を準備する。

妊婦は20代前半くらいだろうか、長時間潮風に晒され何も口にしていなかったのか、肌はガサガサ、脱水症状を起こし意識は朦朧状態。母親達が布に水を含ませ妊婦の唇を濡らす。

「うっ…あっ…んうっ…ああ…っ」

妊婦がお腹を押さえ、縮こまり、呻き声を上げて苦しむ。

「産婆はまだなの?」

「どの位出血しているのかしら…」

ようやくシュピツ村から産婆が駆けつけた時には、もう赤子は手遅れの状態だったが、母体は何とか一命を取り留めた。


シュピツ村、宿屋。その一室から産婆と女性達が出て来た。妊婦を救助した漁師達、ロイド、ジュウトの前で手を拭きながら首を横に振る産婆。

「残念だが、母体だけでも無事だった事が唯一の救いだね、遭難したと聞いていたが?」

「ああ、あの小舟の材質はピーニャコルダのものだ。多分妊娠はピーニャコルダで何かに巻き込まれたんじゃないのか?」

「あるいは、亡命希望者か?何にせよ騎士団には報告しないとだな。」

漁師達がそう言う中で、宿屋の主人がロイドとジュウトの姿に気づいた。

「あれ?あなたがたは、アラネアの巣討伐に参加していた…?」

「その節は、どうもお世話になりましたー。」

ジュウトが挨拶し、ロイドも会釈した。

「やはり、またお会い出来るとは。今日はどうなさったのですか?あなたがたなら宿代はいりません、好きなだけ宿泊なさって下さい。」

主人の言葉に漁師達が驚く。

「どうりで強いわけだ。旦那、ロイドさんとジュウトさんは海辺でアロマノカリスを駆除して下さっていたんだ。」

「あと、たくさん遊んでくれたんだよ!!」

漁師達と子供達が主人に経緯を説明する。

「だから、こんなにたくさん…」

「今晩はアロマノカリス祭りだ!旦那よろしくだぜ!!」

盛り上がる漁師達。

「ははは、わかったよ。料理長に伝えておくよ、子供達は殻剥き手伝っておくれ。」

「はーい!!」

「さて、そしたら騎士団に…」

すると、ロイドが主人に話しかけた。

「騎士団ならすぐそこで復興支援してるんじゃ?」

「あ、ああ…そうなんだが…」

歯切れの悪い主人に変わって、宿屋のスタッフがコソッとフォローを入れた。

「実は、あのアラネア討伐以降、横柄な態度の騎士が増えて。俺らの活躍でお前たちの生活があるんだとか言って宿代を踏み倒していくんだよ。」

言った側から、噂の騎士達が宿屋に入ってきた。それは、あのアラネア討伐で陥没した地の再建をしているはずの騎士達だったが、団長達がいないのをいい事に、やりたい放題している一部の輩達だった。

「よぉ、宿屋の主人。今日は何かいい事あったのか?随分楽しそうじゃないか。俺達も混ぜてくれよ。」

漁師達が座っている席に近づき、席を空けろと言わんばかりに剣を鞘から出したり入れたりしていた。

「ま、またあんた達か、悪いが我々も商売なんだ。お代を戴かないと…」

主人が意見すると、体格のいい騎士がドンッと音を立ててカウンターに腰掛けた。

「よく聞こえなかったわ、誰のおかげでのんびり生活出来てるんだっけ?俺達は命懸けで守ってやったのになぁ!!」

萎縮してしまう主人達。ロイドが席を立ちあがろうとした時、まだ活きのあるアロマノカリスを回復させ、騎士達に投げつけた。

「あー。殻がうまく剥けないよー。」

(…ジュウト…棒読みだぞ…)

回復したアロマノカリスは騎士達に喰らい付いた。鋭い歯が深く刺さる。

「うぉ!?痛ぇ!!何しやがる、この…っ!!」

「こいつはアロマノカリス!?どっからっ!?」

「おい!!見ていないで助けろっ、腕に喰らい付いて離れねぇ!!」

「ぎゃあ!!顔にっ!!」

アロマノカリスが、そのムカデの様な脚を広げ、騎士達にくっついて離れない上に、脚には返しが付いており刺さると抜けなかった。

騎士とは名ばかりの醜態を晒す姿を見兼ねたロイドがクトネシリカであっさりアロマノカリス達を片付けた。

息が上がる騎士達が激昂し、主人達に詰め寄る。

「こんな事して、ただで済むと…」

「まだ懲りないのかなぁー。」

ジュウトが素知らぬ顔で声を上げた。

ジュウトのそばには子供達がしがみついて怯えている。

「なんだと!?誰だこのガキは!?」

騎士達の足と怒りがジュウトに向いた。

「誰のおかげでって、まずキミたちじゃないわー。」

体格のいい騎士がジュウトの胸ぐらを掴もうと手を伸ばした時、ジュウトはパシっと手を払った。

「誰に意見してるのか解ってんのか!?俺達はこの国の…」

「ダメ騎士だな。」

ロイドが続けた。

「ああ!?……っ」

血眼になってロイドを見た騎士達だったが、宿屋のフロア全体がロイドの威圧で満たされた。パリパリッと騎士達の背中に静電気が走る。クトネシリカもその怒りに共鳴している様だった。

「ひっ…なんだ、おまえっ」

腰を抜かし、後退りする騎士達。その姿は騎士のカケラもないお粗末なものだった。


《ーーーロイド殿、ジュウト殿、貴重な情報をかたじけない。》

どこからか、騎士団長シズウェルの声が響いた。

「シ、シズウェル団長!?」

「まさかっ。団長は王都に戻っているはずじゃ…」

狼狽える騎士達にジュウトは隠し持っていた伝波アイテムを見せた。それはコンパクト型で一方通行だが、登録してある相手に映像、音声を送伝する事が可能な物だった。

因みに、ヨイチ製である。

《そいつらは第5騎士団が手を焼いている奴らだ。これを機に平民に戻し騎士の位を剥奪する。》

シズウェルにそう言い渡されると、体格のいい騎士を始め、他の騎士達もその場に崩れ落ちた。

「そんな…」

と、同時に宿屋の扉が勢いよく開き、第5騎士団副隊長が供を連れ現れた。

「この恥晒し共が!!」

「ふっ、副隊長!!」

「連れ出せ。宿舎に送致し処分を下す!」

「はっ!」

問題を起こした騎士達は後ろ手に縛られ、連行された。

副隊長は深々と宿屋の主人、漁師達に頭を下げた。

「大変申し訳ない、騎士の誓いをした者が恥ずべき行為だ。」

その様子を見届けたロイドは子供達を連れて外へ出る。

「あ、シズウェル団長、実はもう一つ報告したい事が。」



モルネード城、医務室前。

「報告ありがとう、ジュウト殿!」

廊下にシズウェルの声が響いた。室内にいたモモ達が耳を傾ける。医務室内に勢いよくシズウェルが伝波アイテムを片手に戻ると、ラインハルトに耳打ちした。

「……!!」

ラインハルトがカロルに目をやり、シズウェルからアイテムを受け取るとカロルの前に置いた。

「カロル、妻の特徴を聞きたい。」

ラインハルトの問いにカロルとモモは目を合わせた。

「つ、妻は、緑の長い髪をいつも三つ編みに纏めている、右目下に黒子が、一つある標準体型の女性です…あのっ」

ラインハルトはアイテムの再生スイッチを押した。そこに映し出されたベッドに横たわる女性。カロルの言う特徴と一致した。

「ア…アザレア!!」

カロルは、アザレアの姿を目にすると瞳に輝きが戻り、口元を手で押さえ涙を零した。

モモもカロルの喜ぶ姿、生きる力を取り戻した表情を見てホッと胸を撫で下ろした。

しかし、それも束の間。シュピツ村にいたジュウトと産婆から騎士団に報告が入る。

《シュピツ村の海岸に漂着したこちらの女性ですが、漁師達の話ではピーニャコルダの材木で造られた小舟に手足を縛られた状態で発見しました。

この女性は妊娠していたが、脱水症状が酷く発見時すでに出血し、流産しました。手当は済ませたがまだ意識が戻っていない上に、うなされ続けている事を報告致します。

しばらくシュピツ村にいるので、この後の指示はジュウトまでお願いします。》


この残酷な現実に、医務室内は静まり返った。カロルは頭を抱え嗚咽する。誰もカロルに声を掛けられずにいた。

「…母体の命が無事だった事だけが唯一の救いか…」

オンワーズ医務局長が呟き、モモも頷いた。

「シズウェル、この連絡はシュピツ村の第5騎士隊からか?」

ラインハルトがアイテムを手にする。

「いえ、直接白魔法使いのジュウト殿より届いたものです。恥ずかしい話、第5騎士団の規律を乱す者に喝を入れてもらった次第で…」

「ジュウトが⁇」

ラウルが反応する。

(あのゆるいジュウトが騎士団に喝を入れる…?)

「あ、ロイド殿も一緒の様です。」

(ああ…ロイドの方だな。)


「そうか、シズウェル、第5騎士団の件については報告を。シュピツ村のカロルの妻については…」

ラインハルトが指示を出そうとした時、モモが手を挙げた。

「殿下、アザレアさんの件、私に任せて頂けませんか?」

「モモ殿が?」

モモがラウルを押し退けて前に出た。すると何かを読み取ったオンワーズ医務局長がラインハルトと目を合わせ頷く。

「…わかった、ではモモ殿にお願いしよう。アドルフ第2騎士隊長、モモ殿についてフォローを頼む。」

「承知致しました。」

アドルフはラインハルトとシズウェルに敬礼し、モモの前に立った。

「改めまして、モルネード王国騎士団第2隊長のアドルフです。聖蛇の化身の名を持つモモ様に仕える事が出来、光栄です。」

「殿下、ありがとうございます。アドルフ隊長、よろしくお願いします。」

モモの表情は一転、笑顔で挨拶を交わした。

ここで聴取は終了し、カロルはまた地下牢へ戻される。妻アザレアの命があった事を確認出来ただけでもとは口にしていたが、内心すぐにでもシュピツ村へ会いに行きたかったはず…。王妃暗殺の件も、妻と産まれてくるはずの命を人質に取られ、やむなく実行に至った経緯。けれど、大罪を犯した事実は消えない、何らかの処罰はして受けなければならない。言いたい事もいえず、気持ちを押し殺すカロルの背中を見たモモ。

「カロルさん!」

モモの呼び掛けに足を止めるカロル。その瞳に光はなくなっていた。

「私には権力とかはないけど、必ずアザレアさんの身体も心も私が癒すから、だからっ…」

モモの力になりたいという想いは伝わった様で、カロルは深く一礼した。

「妻を、よろしくお願いします。」

その様子を見ていたラインハルトがモモの肩に触れた。

「悪い様にはしないと、私も約束しよう。」

「…はい。」

涙ぐむ姿を見られまいと、俯くモモをラウルが腕の中に優しく包む。

「なによぉ、さっきは意地悪だった…」

腕の中から逃れようとするモモを更にギュッと抱きしめる。

「俺も一緒にいるから、カロルの事、助けような。」

「…ありがとう、ラウル…」



「ヨイチ、本件の報告書作成を頼む。」

「承知致しました。」

「モモ殿はどう動く予定だ?」

ラインハルトの問いにモモはカロルに見せたアイテムを指差した。

「殿下、もう一度、アザレアさんの映像見せてもらってもいいですか?」

「?構わないが。」

ラインハルトがアイテムの再生スイッチを押し、ベッドに横たわるアザレアがうなされている瞬間のところでモモが声を掛ける。

「ここ!今のところ、アザレアさんの胸元に紫色の呪印、見えませんか?」

「え、どこだ?」

すると、モモとラウルから妖精ルキスとシヴが現れた。

「たしかに呪印ね、何が仕掛けられているのかしら…」

シヴもコクコクと頷く。

「モモ達には見えるのか?」

「ええ、カロルと同じなら死神が仕掛けられているけど、アザレアさんはうなされているって言うから何か違うのかも、ラウルは見えないの?」

「あ、ああ、ただうなされているだけにしか…」

「人間の中でも呪印が見える者は限られるという事か、アドルフ第2騎士隊長は?」

「私にも見る事は出来ません。」

「この映像、聖属性魔法師団にも見せてみるか。」

ラインハルトがそう言うと、すぐに師団長ルークが駆けつけ、同じ映像を見せた。

「確かに、この女性の胸元に紫色の印影が見えますね。」

ルークの答えに、ラインハルトが相槌を打った。

「なるほど、では今のところ呪印が見えるのは、モモ殿と妖精達。聖属性魔力を持つ者と、魔物のペルか。施術者が闇の魔力を持つ者である事、解除可能者は、闇の魔力か聖属性魔力を持つ者に限られる様だな。」

ラインハルトの見解にオンワーズ医務局長が局長室から資料を手にし、モモ達の前に広げた。

「殿下の見解通りかもしれない症例が、ここ最近報告が挙がっています。北西の村カピルスで3件。患者の症例はどれも原因不明で苦しがったり、うなされたり、幻覚を見たりと様々です。報告は薬師からのものですから、もしかしたら…」

ラインハルト達が報告書に目を通す。どれも薬草、薬湯では効果が出ずとあった。

「この患者達は今もカピルス村に?」

「いえ、今は王都にあるエディン病院、ブレナム病院、フォンテーヌ病院へそれぞれ入院しています。」

ラインハルトはルーク師団長に告げた。

「ルーク師団長、直ちにこの3名に呪印があるか確認してもらいたい。確認出来次第、オンワーズ医務局長に報告を。呪印には何が仕掛けてあるかわからない、戦闘体制を整え解除を行う。ラウル、ダンとレンダー、ザックに協力要請を。」

「わかった。」

「承知致しました。」

慌ただしく、それぞれが任務遂行に動く。

「では殿下。私はアドルフ第2騎士隊長と共にシュピツ村へ向かいます。」

「ああ、容態次第では王都に連れてきて構わない。」

「はい。」

モモがアドルフと一緒に医務室を出ようとした時だった。

「モモ。」

ラウルが呼び止める。

「え?」

「ピアスと指輪、ちゃんと付けておくんだよ。」

ラウルはモモの耳元と指に触れ、甘い声で囁いた。真っ赤になって金魚の様に口をパクパクさせるモモ。

「返事は?」

ラウルの行動が更にエスカレート。指を絡ませ、耳にキスをした。

「ーーーっ…はい…。」

モモの反応がアドルフにも伝染。

そんなラウルの頭をベシっとラインハルトが叩いた。

「ラーウール!おまえはこっちで、ルーク師団長達と会議だ!来い。まったく…」

「ちょっ、ラインハルト、引っ張るなってっ。」

ラインハルトがラウルを連行すると、モモに〝行け”と手を振った。

(心臓の音が耳に響く、顔が熱い…けど、イヤじゃなかった…私ってなんなのー?)

モモはアドルフを置いて足早に医務室を後にした。









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