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女王蜘蛛ナルボンヌ⑷

「意外に静かだな…」


洞窟内を進むラウル一行。


「…そうでもないみたいだ、足元を見ろ。」


ロイドの言葉にザックが足元の異変に気づいた。

まとわりつく紫黒い霧。


「瘴気⁈洞窟内にっ…」

「し、静かに。」


レンダーが、ザックの口を塞いだ。ラウル一行の先に広がる空間、そこに黒いローブで全身を包んだ人物が3人、上に手を掲げ何を唱えている。その天井には…


(瘴気の陣!!)


その陣の大きさに一行は驚いた。黒づくめの者達の周りにはブラッドウルフが待機している。


《魔物を手なづけているのか?》

《わからないが、地上で探している瘴気の陣、地下に存在している事をラインハルトに…》


ロイドとラウルが声を顰めて話している中、シュアがクシャミをしてしまった。


「誰だ⁈」


シュアは両手を合わせて〝ごめん”のポーズ。

黒づくめ3人の内、1人が瘴気の陣から外れ、残り2人に指示を出す。


「おまえ達は陣を崩さぬ様努めよ。」

「は!」


ラウルを岩の影に残し、ロイド達が姿を見せた。その間、ラウルはヨイチから預かったブローチに状況を報告する。


「こちらラウル、瘴気の陣と怪しい黒づくめの術者を3人見つけた。よろしくどうぞ。」


ロイド達に続き、ラウルが姿を見せる。


「フッ、冒険者か…どうやら聖属性魔法師団はいない様だな。邪魔はさせない、ブラッドウルフ達よ、喰らい尽くせ!」


黒づくめの術者が指示すると、30体程のブラッドウルフがラウル一行めがけて襲いかかってきた。すると、ロイドが一歩前に出て


「ここは俺が。」


そう言うと、クトネシリカを構え、襲ってくるブラッドウルフへ一振り、雷撃一閃を繰り出し一瞬で掃討した。クトネシリカを振り下ろすと、雷撃の残光が走っていた。


「ば…ばかなっ!!強化したウルフ達を一撃でっ…貴様ら一体…」


後退りする術者の様子を見た2人目の術者が陣の中から鷲の魔物、アードラを5体喚び寄せた。それを見逃さなかったザック。


「瘴気の陣から魔物…」

「今までの事件もおまえ達の仕業か?」


考察するラウルめがけて、アードラが大きく翼を広げ毒羽根で攻撃を仕掛けてきた。ロイドに続き今度はレンダーが防御障壁を展開、毒羽根を弾くと、すぐさまクアラが


〝リプカインフェルノ”


を詠唱。地獄の炎がアードラ達を焼き尽くした。その威力にレンダー達は拍手。


「すごーい、クアラさん」


瘴気の陣形成に残っていた術者が、残りの魔力を全て注ぎ込みヴンと音を立て、歪みなく天井に陣が維持された。その直後、術者は倒れ込み、灰となって消えていった。


「…すまない、荷を負わせすぎたが、よくやった。」


灰となって消えた仲間を見て、ブラッドウルフを操っていた術者が呟いた。


「灰になった…禁呪か何かか?」


シュアが口を手を覆う。


「貴様らが何者であろうが、我々は目的を達成した。この陣はそう簡単には消せまい。」

「ロイド、レンダー、ザック。コイツら生け捕るぞ。」


ラウルの合図と共に3人が瞬時に術者2人を囲い込み、レンダーがアードラを喚び寄せた1人を背後から手刀で気絶させた。


「おまえ達が何者かは、王都に連行して吐いてもらおう。」


ラウルが残り1人を追い詰める。


「ぐぬっ…」


術者が後退りをし、陣に右手を掲げた瞬間、紫黒い瘴気がラウル達を囲み30体程のブラッドウルフが再び現れた。ターゲットにされたのはクアラだった。ブラッドウルフ達がクアラめがけて襲いかかってきたが、クアラの前に立つラウルのクロス剣技により瞬時に全滅。その攻撃が術者のフードにも及び、術者の顔が露わになった。その術者ね性別は男、だが肌は死人の様に青白く、額には第3の目が開眼していた。


「ま…魔人…」


ラウルがその正体に驚き隙を見せた瞬間、魔人はフードを脱ぎ捨てナイフを片手にラウルの心臓めがけて一突き…


「ラウル!!」

「ラウルさん!!」


ロイド達がラウルの名を叫ぶ。しかし、ズルリと体勢を崩したのは魔人の方だった。


「がっ…は…」


ラウルは魔人が特攻してきた瞬間、衝撃波を魔人の胸に圧縮させ当て、ナイフは寸前に腕を捕らえ攻撃を防いでいた。

ただ、魔人のあまりの攻撃の速さ、力の強さに、ラウルの呼吸も乱れていた。


「き、貴様ら…これで終わりと…思うな…っげほ…す、全ては…ヴェルグ様の為に!!」


魔人はそう叫ぶと。舌を噛もうと口を大きく開いた。それを見逃さなかったラウルは、腰に携えていた鞘を魔人の口に噛ませ、手刀で首に一撃加え気絶させた。


「ヴェルグ様…?一体何者なんだコイツらは…」

「こっちは人間だ」


レンダーが気絶させた術者のフードを取る。2人を近くに寄せ、ラウルとレンダーが拘束魔法を唱えた。


「ラウル、魔人を知っていたのか?モルネード王国にはいないはずだが。」


ロイドが尋ねる。


「…ああ、俺も実際に見るのは初めてだが、ピーニャコルダ王国の一部にその棲家があるという話だ。魔人は人間が闇の力、第三の目が開眼し、支配された者と聞いている。」


ラウルの答えに空気が重くなる。


「な、なんか、ただの討伐じゃなくなってきた様な…」

「そうね…ギルド管轄の依頼規模じゃないよね…」


ラウルの話にザック達は自分達が立ち向かうものの、規模の大きさに萎縮してしまった。再びラウルはブローチを手に取り状況を報告。


「こちらラウル、事態は想定していたよりもかなり悪い。

瘴気の陣の術者を捕らえた。内1人は魔人だ。拘束魔法をかけてある、舌を噛み切って自殺も辞さない奴だ。口に含ませた布は絶対に取るな、以上。」


ラウルは報告を終えると、ブローチを外した。


「ここはラインハルトと聖属性魔法師団に任せて、俺達は聖女モモ殿の救出に向かおう。シヴ。」


ラウルが使役する大地の妖精の名を呼ぶ。すると、アッシュブラウンの髪に右肩を大きく出す黒のチューブトップ、プリーツレースのロング巻きスカート、スモーキークォーツの首飾りをつけた美しい女性が現れた。


「シヴ、ゴーレム3体頼む。ラインハルト達が来るまでコイツらを監視していて欲しい。」


シヴは頷くと、辺りの岩が纏まり、3体のゴーレムと化した。


「そして、ラインハルト達が来るまで、レンダー、ここを頼めるか?今は気絶しているがこの魔人、目覚めたら…」

「了解リーダー!コイツを抑えておけばいいんだろ?任せてくれ。」

「すまない。報告した場所がわかる様にこのブローチをつけておいてくれ。あと、シュア。」

「は、はい!」


名前を呼ばれて背筋を伸ばすシュア。


「レンダーと共にここに残って、レンダーを助けてくれ。」

「はい!レンダーさん、よろしくお願いします!」


シュアはレンダーに一礼する。


「おう!頼りにしてるぜ、シュア。」

「ラインハルト達と合流したら彼らに任せて、レンダー達はこっちに来てくれ。頼んだぞ、シヴ。」


ラウルとレンダーは拳を突き合わせた。


「ジュウトさんも頑張って下さい!!」


シュアの言葉にジュウトは涙を流す。


「ありがとうー。絶対追いついてねー。」


こうして、ラウル一行はレンダーとシュアを残し、洞窟の奥へ消えていった。



 一方その頃、地上では毒化変異を遂げた魔物達と王国騎士達との激戦が繰り広げられていた。今のところ五分五分といったところか。竜騎士団長カーティスと共に上空から戦況を見守るラインハルトの持つ伝波アイテムにヨイチから連絡が入る。


「どうしたヨイチ。ラウルから何か入ったか?」

〝はい殿下…”


ラインハルトがヨイチからの連絡を受けている時、ジャイアントバイゾン2体が炎の息を、続くアラネア達が毒糸で騎士達の自由を奪う連携攻撃を仕掛けてきた。


「ぐああああっ…!!」

「て、手足がっ…」

「い…い…きが…」


前衛騎士達が次々に倒れていき、陣形が崩れ一気にブラッドウルフ達が攻め込んで来た。五分五分だった戦況が魔物有利に傾く。その状況を見ていたカーティスも魔物達の連携に驚く。


「ば、馬鹿な、魔物達が連携など、この様な状況今までなかったぞ…」


この状況に騎士団長シズウェルも焦りを見せた。

毒に冒された騎士達をすぐさま聖属性魔法師団が浄化魔法をかける。炎の息に喉を灼かれた騎士には回復、治癒魔法を。

しかし、魔物達の連携攻撃は止まらない。


「このままでは防戦一方になります…殿下!」


カーティスは後ろに乗るラインハルトに指示を仰ぐ。


「ああ、わかっている。ダン!!出番だ、頼む!!」


上空からラインハルトが地上で待機していたダンに声を掛ける。


「よっし!!」


待ってましたと言わんばかりにダンは両脇にウェンティ、アクアを従え、ウェンティの風に乗り戦場へ突っ込んで行った。そして、初撃〝クリムゾンバースト”を上空から地上に降下しながら放った。ダンの放った炎の柱は地上で広がりL範囲内のアラネア、ブラッドウルフを焼き尽くした。しかしジャイアントバイゾンは炎の息で相殺。


「へぇ。相殺されるとは思ってなかったな。」


ダンの攻撃で地上L範囲は黒焦げになった。その破壊力に唖然、また恐怖すら覚える騎士もいた。


「す…すげぇ…」

「味方で…良かった…」


上空でその様子を見ていたカーティスも呆然。


「で、殿下、あのダンとか言う者、ラウル殿のペットでは…?」

「あ、まぁおまえはダンの戦闘を見るのは初めてだったか。あれは冒険者登録ではSランクの妖精2体を使役する私の友人の1人だ。」

「ゆ、ご友人…失礼しましたっ、ペットなどと…」


カーティスは慌てて非礼を詫びる。


「それよりカーティス、悪い報せだ。おまえはこの伝波アイテムを持ち、急ぎルークとダリアに合流しろ。」

「しかし、それでは殿下の御身が…」

「私の身など後だ。地下で瘴気の陣と…魔人が見つかった。」

「魔人⁈」

「そして、瘴気の陣が人為的なものである事がわかった。地上にも術者がいるかもしれん、そいつを見つけ敲け。大丈夫、私にはシズウェルもダンもいる。」


カーティスは地上にラインハルトを降ろした。


「承知致しました。殿下もご武運を。」


ラインハルトは頷いた。後方で待機していたヨイチがラインハルトに駆け寄る。


「殿下、此度の件、殿下お一人で抱えるには少々重いかと。私めも微力ながら最後までお供致します。」

「はは、心強いなヨイチ、騎士団の士気を下げたままにもいくまい。私が出る、おまえはラウル、カーティスの報告を引き続き待て。」

「承知致しました。」


ラインハルトは前線で戦うダンの勇姿を見、剣を抜くと側にいた竜騎士達と共にダンの元へ向かった。


「モルネード王国の騎士達よ!!日々の訓練の成果はこんなものか⁈自国と自国の民を守る誓いはどうした!私に続け!!」


ラインハルトはダンの範囲からこぼれたブラッドウルフを一刀両断。そしてL範囲で騎士達に攻撃力上昇魔法をかけた。この国の王位継承者であるラインハルトは冒険者ランクでいうと、Sランクの白魔法使いだった。

ラインハルトの声とフォローに一気に士気を高めた騎士達。


「殿下に遅れを取るな!!我々も一つとなり、このモルネード王国と民を守るのだ!!」


シズウェルの号令と共に、今再び湧き出る魔物達と衝突する。


 同じ頃、西の森を慎重に進む騎士と聖属性魔法師団。先頭を行く騎士達の足が止まった。すぐさま〝姿勢を低く”という合図が出され一行は茂みに身を隠す。


「ルーク師団長、ここからアシャラの方向に人影が…」


ルークが騎士の示す方向に目を向けると、黒づくめの怪しい者達が5人、その中心で胡座をかく、滅紫色のフードに身を包む者が何かを唱え終えた後の様だった。


「陣の儀は終えた。アラネアの巣があった事は想定外だったが、ここを陥落出来れば、サーリンゼルカ、妖精王そしてモルネードはヴェルグ様の手中に入るも同然…」


滅紫色のフードの唇の動きを見て、読唇術に長けた騎士が内容をルークに伝える。


「何⁈すると、奴等の狙いは…ヴェルグとは一体何者なんだ…?」

「わかりません、今はこれしか情報を得られませんでしたが、いかが致しますか、ルーク師団長。」


 すると、黒づくめの怪しい者達の足下から瘴気の陣が浮き出て来た、と共にブラッドウルフ、コウモリの魔物ピンフィー、アードラそして大型でピーコックブルーの硬い鱗に長い尾を持つトカゲの魔物、ナナハブイルが次々と陣の中きら湧き出てきた。それらは全てシュピツ村に向かって進んで行く。

そこへダリア近衛師団長率いる援軍部隊が合流した。


「遅くなってすまない、ルーク師団長、今どういう状況だ?」

「ダリア副団長!

心強いです、援軍ありがとうございます。実は…」


ルークが現状況を伝波アイテム報告も兼ねて説明した。


「では、ここのところ起きていた瘴気の陣はあいつらの仕業だったのか…。私もヴェルグの名は知らないが、このシュピツ村を拠点に聖地サーリンゼルカを堕とす計画か。」

「ええ、最終的にはこのモルネード王国だと。聖地サーリンゼルカは多くの妖精が住まい、貴重な薬草の宝庫、そしてこのモルネード王国の平和と繁栄を見守る妖精王がいらっしゃる。たとえ妖精王の結界があろうとも、この数の魔物に襲撃されては…」


ルークの言葉に頷くダリア。


「私達はあいつらと湧き出る魔物を片付ける。ルーク師団長は瘴気の陣の浄化に全力であたってくれ。」

「心得た。」


ダリアの指示にルークはすぐさま師団員達に合図を送る。

そしてダリア達、近衛師団は黒づくめ達に気づかれない様回り込む作戦を決行した。


 一方で、その真下にいたレンダーとシュアは、地下の天井にあった瘴気の陣が天井に吸い込まれていく様を目撃していた。


「…見たか、シュア」

「はい、陣が天井に消えましたね。」


すると気絶していた魔人が目を覚ました…が、口に布を含まされている為、何を言っているかわからない。シュアが口の布に触れようとした時、ゴーレムの手がシュアの視界を遮断した。ゴーレムを操ったのは、もちろんシヴだった。シヴはシュアの事を睨みつけている。


「シュア、魔人に近づくな。ラウルにも言われたろ、口の布は外すなと。」

「あ、は…はい、すみません!」

「シヴも悪かった。ラウルの命令には逆らわないから、そう怖い顔しないでくれ。」


レンダーが謝ると、シヴはゴーレムの手で魔人達を掴み上げた。

改めてレンダーが天井を見上げる。


「もしかして、地上の、この真上にも術者がいるのか?あくまで憶測だが、今まで突如として地上に現れる瘴気の陣は、地下で作られ、それを地上に…?」


するとシヴが魔人達を指差し、続けて天井を差した。


「え、それってコイツらの仲間が地上にいるって事か?」


コクコクとシヴは頷く。


「ありがとうシヴ。ここで待っていても仕方ない、事態は一刻を争う、一旦地上に出て…」


と、レンダーが言い終わる前に、天井に赤朽葉色の光が円を描き、次の瞬間天災級の地割れの音と共に天井が崩れ落ちて来た。


「ええーーーーっ!!」


レンダーとシュアは抱き合って叫ぶ。そんな2人の前でシヴは女神の様な微笑みを見せた。


(ラウルーーーーっ!!)


レンダーとシュアの心の叫びに洞窟内のラウルは〝?”


そして地上では、ルークとダリアの目の前で、赤朽葉色の筒状の光に黒づくめ達と瘴気の陣が包まれたかと思うと、一気に地面が崩れ落ちた。


「え?」


ルークとダリアが目を丸くして足を止める。

黒づくめ達5人は悲鳴を上げ地下に落下、しかし滅紫色のフードの者だけは、空中に浮いていた。地下と周囲に目をやり、そしてルークに気づくと、瞬時に移動しルークに正拳突きを喰らわせた。その衝撃でルークの肋骨は折れ体は大木に叩きつけられた。


「がはっ…っ」

「師団長!!」

「ルーク!!」


続いてダリアの位置を確認するとフードからナイフを4本取り出し、ダリア目掛けて投げつける。ダリアは鉄扇を構え3本を弾くも1本は肩をかすめてしまった。


「…っ」

「副団長!!」


更に滅紫色のフードは、瘴気の陣から巨大なニーヴスライムと、レスぺレンドラゴンを喚び寄せた。


「ニーヴスライムだ!!散開しろ!!触れたら全て溶かされぞ!!」


〝エリアピュリフィーン”

師団員達が浄化魔法を詠唱、しかしそこに怯む事なくニーヴスライムが津波の様に、浄化エリアを避ける様に変形し襲いかかってきた。


「うわぁぁぁ!!」


攻撃を交わしきれなかった騎士、師団員達が次々に倒れていく。手、足を溶かされる者、また、全身溶かされた者…


「ーーーっ!!」


騎士達の声にならない叫びと後退りするしかない姿が目に入ったルーク。


(まずい…このままではっ…)


 その時、後方から火炎の息がニーヴスライムを襲った。

ジュワァァと音を立てて蒸発していく。


「なんだっ、この魔物の数は!?」


振り返ると、そこには竜騎士団長カーティス率いる部隊の姿が、湧き出る魔物を殲滅していた。


「カ、カーティス竜騎士団長!!」


心強い援軍に歓喜に湧く騎士、師団員達。


「竜騎士達よ!魔物討伐班と、師団員護衛班に分かれ、瘴気の陣浄化に努めよ!!」

「は!!」


即座に命令に従う竜騎士達は魔物討伐を更に加速。その様子を静観していた滅紫色のフードは更に上空へ浮いた。


「…中々優秀な騎士どもだ。だが簡単には陣は浄化させない。」


それに対峙するカーティス。


「貴様、何者だ⁈目的は何だ!?」

「…応えるつもりはない、だが俺にも消していかねばならん仕事がある…」


滅紫色のフードは、チラリと瘴気の陣の下に空いた空間に目をやり、地上の様子を窺っていたレンダーに向かって急降下した。


「なっ…貴様にげるのか!?」

「たわけ、オマエの相手はコイツだ。」


降下しながらカーティスに体勢を向けると、瘴気の陣からレスぺレンドラゴンを喚び出し、凍てつく息でカーティスの竜に攻撃を仕掛け、そして竜の片翼に噛み付いた。噛みつかれたカーティスの竜もすかさず相手の頭に噛みつき、2頭は体勢を崩し、竜に乗っていたカーティスも地面に叩きつけられた。


「ぐっ…ザ、ザフィス!!」


カーティスが竜の名前を呼ぶ。ザフィスはレスぺレンドラゴンの頭に喰らい付いたまま、体勢を立て直し、息の根を止めた。すぐに師団員達がザフィスの片翼の治癒、回復にあたる。この場は師団員達に任せ、カーティスは大きく崩れ落ちた瘴気の陣の下を見下ろした。瓦礫の山と化した地下では、滅紫色のフードがレンダーと対峙していた。


「…キミ達が捕縛した魔人の始末をしたい、大人しく渡せば命は助けてやるが?」

「始末…?仲間じゃないのか?

アレは瘴気の陣を知る大切な情報だ、渡すわけにはいかないな。」


シュアはレンダーに攻撃力、防御力上昇、魔力消費軽減、状態異常耐性をかけた。


「フッ、賢明な判断とは言えないなっ!」


滅紫色のフードの右ストレートがレンダーを襲うも、受け身をとり直撃を回避。瞬時に繰り出された左上段蹴りも交わし続く手刀も防いだ。


「パラディンか。」


攻撃を交わし切ったレンダーだったが、余裕はなかった。


(ーーーっ、こいつ一つ一つの攻撃が重いっ…人間か…?)


一旦離れる2人。その時、滅紫色のフードが地下からの気流によってフードが飛ばされ顔が露わになった。その姿は…


「ま…魔人…」


捕縛した、魔人と同じ死人の様な青白い肌、額には黒い第3の目。シュアは息をのんだ。


「魔人を相手にするのは初めてか?今一度言う、ヤツらを渡せ。」

「断る!!」


レンダーの両脇にカーティスとルークが飛び降りて来た。カーティスがレンダーに問う。


「端的に状況を聞きたい。」

「魔人です。」

(えーーーっ)


あまりに端的すぎるレンダーの答えに、シュアが後方からフォローを入れた。


「地下と地上に瘴気の陣を形成していた術者が居て、地下にいた魔人を僕達が生け捕ってます!!」

「ありがとう、少年。」


ルークがシュアにお礼を言う。シュアはカーティスとルークにも補助魔法をかけた。魔人はフードを脱ぎ捨て


「人間が、一人、二人増えようとも、ただ死体が増えただけよ!!」


魔人は両腕を大きく広げ、魔力を腕全体に集中させると、クロスさせ、真空波をレンダー達に放った。レンダーは同じく真空波で相殺しようとしたが、魔人の攻撃は軌道を変え、狙われたのは白魔法使いのシュアだった。迫り来る2発の真空波に足が動かないシュア。


「ーーーっ」


そのシュアの前に立ったのはカーティスとルーク、二人は剣に風魔法を纏わせ、真空波を相殺した。その直後、レンダーはシュアに防御障壁を付与した。


「悪い、シュア。ありがとう騎士の方々、俺はパラディンのレンダー、そっちは白魔法使いのシュアだ。」


レンダーは二人のフォローに自己紹介も兼ねて礼を言う。

シュアも二人を見上げ一礼。


「ありがとうございます。」

「気にするな、即席パーティだがいい連携は出来そうだ。俺はカーティス、こっちはルークだ。」


カーティスはあえて役職は伏せた。ルークも軽く会釈する。


「悪いが、俺もそう遊んではいられない。3人まとめて相手をしよう、時間が省ける。」


魔人の言葉に頭にきた3人は、レンダー先頭に攻撃を仕掛けた。



 その頃、フォニュリアードの部屋から、ペルが小蜘蛛を操り部屋に穴を開け脱出したモモ達。


「モモ大丈夫?結構複雑な洞窟ね。」

「うん、大丈夫。本当、分かれ道ばかりだからペルがいてくれないと迷っちゃうね。」

「地下2層以降はみんな好き勝手に巣を作るから確かに複雑かもねー。ちなみにフォニュリアードの部屋は5層で今いるところは3層。もうすぐ、さっき言ってたラウル?達と合流出来るよ、今戦闘中みたいだけど。」

「そ、そんなに地下にいたんだ。サッコンに攫われた場所が一番下かと思ってた。…ラウル達は誰と闘ってるの?女王蜘蛛と?」


モモの言葉にペルの足が止まった。


「え?モモ達は女王ナルボンヌと闘うつもりなの?」

「う…ん。シュピツ村の地下にアラネアの巣があるのは人間にとって、とても脅威で不安だから…」

「そうよ、現に人間を攫っていたじゃない。」


モモとルキスの言葉に顔を顰めるペル。そして、先の道に蜘蛛の巣型の結界を張った。


「ちょっと、何のつもり、この結界!?」


ルキスの文句に、ペルは俯いたまま、モモの両肩をそっと掴んだ。


「ダメだよ、モモ。女王ナルボンヌにだけは手を出しちゃいけない。」


ペルの声が低くなった。


「何のつもりよ、ペル。今までお世話になったから…」

「違う…そうじゃないよ。

女王ナルボンヌは半年前に闇の力を得るために魔族と契約を交わして眠りについていたが、さっき目覚めてる。サッコンもフォニュリアードもいるけど、生きている感覚じゃない、何かあったんだ。覚醒した女王の気配も魔力も以前とは比べものにならないくらいだ…殺されるよ!?」

「…っ。でも、ラウル達はその使命を課せられてて、私も」

ペルの言葉に戸惑うモモ、けれど、聖蛇ナーガとこの世界の平和を約束した身として、アラネアの巣、掃討を投げ出す訳にはいかない。モモは意志を固めてペルを見上げる。

「私、行かなくちゃ。お願いペル、道を開けて!」

「…行かせられない、だったら俺が…」


 その時、モモの背後に青黒い影が現れたのを目にしたペルは、モモの手を強く引き、ルキスを鷲掴みにし、結界内に封じ込んだ。


「ちょっ、ペル…。モモ、あれ、あの青い蜘蛛って…」


モモ達の前に姿を現したのは青黒い瘴気を放つ蜘蛛。


「…サッコン…?なに、その額の目…」


ペルは変わり果てたサッコンの姿にたじろいだ。見た目は、もはや言葉も話せない下級のアラネア以下に、三つ目の蜘蛛に化してしまった。躰中から青黒い瘴気を放ち、息遣いも荒い、魔力をコントロール出来ていない様だった。第三の目がギョロリとペルを睨み闇の声を発する。


〝セイ…ジョ…ワ…タ…セ”


と、同時にサッコンが口から糸を吐き、ペルの左腕を捕え自分に引き寄せ、脚でペルの右手を刺した。


「いっ…!!ぎっ…っ」

「ペルっ!!」


モモ達が叫ぶも結界内に響くばかりで、外には届かなかった。第三の目がモモのいる結界を見ると目から黒い光線が発射されたが、ペルの結界に弾かれた。


〝ギギッ!!”


サッコンの下で仰向けのペルは複雑な糸を口から吐き、視界を奪い、右手の脚を抜かせ、穴の開いたその血だらけの右手で左腕に巻きつくサッコンの糸を断ち切った。更に蜘蛛の巣状の糸を張り、サッコンの自由を奪う。

しかし、動きを封じたのも僅か、青黒い瘴気がペルの張った糸の上を這う様に伸び溶かしていった。


「何なんだ、あの瘴気…」

(サッコンは躰をあの目に乗っ取られているのか?)

〝セイ…ジョ…ワタ…セ”〝セイ…ジョ…ワ…タ…セ”


聖女渡せの台詞と共に増していく青黒い瘴気。そして…


「…ウ…コ…タ…スケ…テ」

「!!」


結界内にいたモモ達にもはっきり聞こえた「ウッコン助けて」という言葉。ペルは左拳に力を入れると、サッコンの足下に広がる白い魔法陣


〝スティンガー・アタック!”


魔法陣内を無数の毒針が襲うも、青黒い瘴気が、第三の目を中心に守りを固め、弾かれた針がサッコンの脚に突き刺さる。サッコンの声にならない悲鳴が洞窟内に響き渡る。


「あの目を何とかしないと、これなら…」


ペルは左手に魔力を集中させ糸を硬化し刃を形成、それを第三の目めがけて投げた。しかし、青黒い瘴気に軌道を変えられ、僅かに的を外れ壁に突き刺さると、その衝撃で洞窟3層の一部が崩れ落ちた。

結界内で戦闘を見守るモモとルキス。


「あの第三の目がサッコンを操っているんだわ、そしてあの青黒い瘴気、あれが目を守りペルの攻撃を防いでる。」

「瘴気なら浄化出来ないかな、私は今武器何も持ってないけど、ペルが作った刃を使えば…上手くあの目に当てられるかわからないけど…」


モモの言葉にある事を閃いたルキス。


「そうよ!!モモはペルと隷属契約しているんだから、強く念じればモモの声がペルに届くはずよ、やってみてモモ!」


モモは頷くと、ペルの名を強く念じた。


《…ル…ペル!!》


頭に響くモモの声にハッとするペルはモモに視線を向けた。


《ペル聞いて!私の浄化魔法で瘴気を消せるかも、さっきペルが作った刃にも浄化魔法を付与して、何とかしてあの第三の目に一撃加えられたら…私にも戦わせて!!》


モモの話に耳を傾けているペルに攻撃を仕掛ける第三の目、あと少し交わすのが遅れていたら確実に瘴気にやられていたところだった。


(たしかに、あの第三の目と、纏う瘴気を…)

《わかった、やってみよう。けど、結界を解くのはモモの攻撃準備が整ってからだよ!》


ペルは刃を形成すると、結界内のモモに渡し、受け取ったモモは浄化魔法を付与、白い刃が黄色い輝きを放つ。深呼吸をし魔力を整えたモモはペルの名を呼ぶ。二人はアイコンタクトすると、同時にペルがサッコンに蜘蛛の巣状の糸を3重に掛け動きを封じると、モモ達の結界を解いた。

結界内から出たモモをギョロリと第三の目が確認する。


〝ギギッ…セイ…ジョ…”


再び青黒い瘴気がペルの張った糸を溶かそうとしている隙にモモが浄化魔法を詠唱。


〝セイクレッド・ジャッジ”


神聖なる裁きの光がサッコンを包み込む。サッコン、瘴気、第三の目は裁きの光によって自由を奪われ、更にルキスから浄化の刃を受け取ったペルが飛び上がりサッコンの頭部にヘッドシザーズすると、両手で握りしめた浄化の刃を第三の目に刺しこんだ。


〝ギギャーーーー!!”


第三の目が浄化され、青黒い瘴気も消えていく。

こうしてサッコンだけが残ったが、脚先から灰になっていた。

浄化に成功したモモはその場にペタンと座り込み安堵の表情。


「や…った。」

「やったね、モモ!!すごかったわ!!」


ルキスも大喜び、二人で手を取り合っていると、サッコンの側で俯くペルの姿が目に入った。


「…ウ…コッ…アリガ…ト…」


灰になって消えゆくサッコンの声がペルの頭に響く。


《ナルボンヌ様は変わられた。闇があの方を悪魔に変えてしまったんだ。ナルボンヌ様の呪印に気をつけろ、俺もフォニュリアードもあの魔族の目に操られ、なす術が無かった。お前だけでも逃げろ、我が弟分》


灰になっていく速度が加速する。


「待ってサッコン!闇ってなに!?」

《わからない…ただ、ヴェルグ様の為に…と…》


その声を最後にサッコンは灰となって消えた。灰を手にするペルは「…さようなら…兄貴…」と、モモ達にも聞こえない小さな声で呟いた。

モモとルキスがペルに駆け寄り、治癒、回復の魔法をかける。


「大丈夫、ペル?守ってくれてありがとう。」

「いや、ボクも、モモとルキス姉がいてくれて助かったよ、ありがとう。さて、向こうの道はボクが崩しちゃったから、こっちに行くしかないけど…」


ペルが洞窟内をサーチする。


(…!!この気配…)

「どうしたの、ペル?」

「…モモの仲間の所にフォニュリアードが出た。多分サッコンと同じ気配だから、もう自分の意思じゃない操り人形だ。」

「た、助けに行かないとっ」


モモがペルの胸に手をあてる。ルキスも、モモの肩に手を置いた。


「大丈夫よ、今みたいに倒せばいいんでしょ?」

「いや、フォニュリアードはサッコンとも、ボクともレベルが違うし気性も荒い。…本当に…」

「助けに行きたい!!」


モモがペルに詰め寄る。その真剣な眼差しに、ペルは諦めた様なため息をつき、モモにデコピンした。


「!?」

「絶対無理しないって約束出来る?」

「う、ん!!出来る!」


間の空いた返事に疑惑の目でモモを見るペルをルキスがフォロー。


「大丈夫!!私が見張ってるから!!」


やれやれな素振りのペルにモモとルキスはハイタッチ。


だが、ペルの言葉通り。ラウル一行はフォニュリアードの一撃の重さに全員倒れていた。





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