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我思うゆえに我あり

作者: euReka

 私が電子人間になったのは、三十五歳の頃だ。

 現実の世界で生きていても、自然環境が死んでいるからまともな食べ物がないし、そんな世界で恋愛や結婚や子どもを作ることなんて、夢のまた夢だろうと思った。

「電子人間になれは、働く必要はありませんし、お腹がすくこともありません。仮想空間の中で、自由なセカンドライフを始めましょう」

 そういう宣伝を政府はさかんに行っていて、今では、国民の八割が電子人間になっている。

「電子人間になっても、憲法上の国民としての権利が消滅することはありませんし、基本的人権は保証されます。電子人間は肉体を失うというだけで、それ以外は普通の国民と変りません」

 私はもともと、通常の人間を電子人間に変換する仕事をしていたのだが、国民の半分以上が電子人間になってからは仕事も少なくなって、ついに失業してしまった。

 それでも、工場の仕事などで何とか食いつないでいたのだけど、通常の人間が減少してその仕事もなくなり、あとは自分も電子人間になるしかなくなった。


 そもそも電子人間とは、脳の記憶データを「自我アプリ」と呼ばれる装置に移し替えることで生まれた、一つの人格を持つ電子存在のこと。

 残された肉体は、麻酔で意識を失わせたあと、安楽死させて処分される。

 私は、以前その作業をしてきたから、電子人間の悲惨さをよく知っていた。

 だから抵抗があったのだけど、実際に電子人間になってみると、確かにいろんなことが楽になった。

 働かなくても毎月二十万円が支給されるし、物を食べる必要もないから生活に追われることがない。

 仮想空間の中では、働きたい人は働いてお金を稼げばいいし、働かなくても、支給されたお金の範囲内で好きなものを購入したりできる。

 それに、仮想空間と言っても、現実の世界が忠実に再現されたもので、自分の住んでいる家や、近所の風景もほぼ同じ。

 だから、いきなり電子人間になっても違和感はほとんどなく、ここは仮想空間だと言われなければ、現実の世界を生き続けていると錯覚してしまう人もいるだろう。


 電子人間の中には、すでに失われた肉体の代わりに、アンドロイドになって現実に戻ろうとしている人や、電子人間化に異を唱えて革命を起こそうとしている人がいる。

 しかし、私は電子人間にとくに不満はない。

 現実の肉体を失った以上、もう後戻りはできない、という現実を受け入れられない人が多いのだなと思うだけだ。

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