表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北天のアリス  作者: 埼山一
第五章 京
87/90

第五章之四 秋の雨

アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。青龍門が嫌いになった。

ナライ ……真・主人公。兄。とても楽しい。

カヤ  ……主人公。妹。とても楽しい。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。京見物中はお留守番。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。京見物中はお留守番。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。京見物中はお留守番。


小波間(こばま) ……(みやこ)の海の玄関口。

(みやこ)   ……秋津島(あきつしま)の中心。朝廷が置かれる。

秋津島(あきつしま) ……物語の舞台となる島。

津留崎(つるさき) ……陸国にある。津留崎家が差配する里。

陸国(りっこく)  ……秋津島最北端に位置する律令国。ナライたちの住む国。


「なあカヤ」

「なに、お兄ちゃん?」

「なんかアザミ、機嫌悪くね?」

「やっぱりお兄ちゃんもそう思う?」


 ナライとカヤが、周囲の気配に気を配りながらそんな話をしだしたのは、その日の夕食時のことだった。

黒雲(くろくも)もはるかぜも、お馬はみんな宿の人がちゃんと世話してくれてるんだから、ごはんぐらいゆっくり食べればいいのに」


 と、この場にいないアザミを訝しんだカヤ。

 今日のアザミは何を思ったのか二人に先んじて食事を済ませてしまうと、「ちょっと黒雲の様子を見てくる」とだけ告げてさっさと部屋を出て行ってしまったのだ。


「お兄ちゃん何かしたでしょ?」

「なんでオレを疑うんだよ?」

「だってお兄ちゃんだし」


 ムスッと聞いてくる兄に平然と言って退けるカヤだ。


 ナライは、最近人として成長しているのか少しは大人しくなったけれど、それでも四六時中一緒にいる妹の目からみれば、まだまだ悪ガキ。

 ナライの方も、そう見られても仕方がない心当たりでもあるのか、彼はそれ以上その件について反論する気はないようだった。


「先生がいつ頃からああなったのか、お兄ちゃん分かる?」

「さあ? カヤは?」

「ううーん?」


 朝は普通だったと思う。と、その程度の合意しかできない兄妹。

 なにしろ人生初の(みやこ)見物の真最中なのだ。

 宿で食事を取っている時でさえ、初めて口にする物ばかりで、舌鼓を打つのに忙しい。

 そんな状況下ではアザミの機嫌にまで気を回せるわけがない。

 ましては一度外に出てしまえば、そこは自分たちの生まれ育ったちとは全くの別世界。何をいわんや、だった。


「う~ん……ま、いっか。どうせアザミのことだし、明日には元に戻ってるんじゃないの?」

「その言い方はどうかと思うけど……まあ、そうね」


 アザミのことが気になりつつも、宿の美味なる食事の前には全くの無力だった二人。

 こうして、この日はつつがなく終わりを迎えたのだった。




 二日後の朝。

 さすがにいつまでも機嫌を悪くしてはいられないアザミは一番に目を覚ますと、宿の外にシトシトという雨の音を聞き取っていた。


「む……そろそろ潮時か」


 アザミは呟いた。

 この雨は秋も中ごろを過ぎたという証。そしてアザミはこの雨を、京を退去する期限として定めていたのだ。


「二人ともゴネるだろうな……」


 残念そうな、嬉しそうな笑みを浮かべて兄妹を見つめたアザミ。二人は未だ満足そうな表情で眠っている。

 連れてきた甲斐があった。――二人の寝顔にそう思うアザミだ。

 個人的には二度と足を踏み入れたくはなかった京の地だが、兄妹のこういう顔を見られたのであれば、それこそが本望。

 東門では予想外のことに抑えが利かなくて、少しばかり不快感を引きずってしまったアザミだが、そんなつまらない意地など、二人の満足に比べたらつまらないもの。

 そこら辺の犬に食わせたって何も惜しくはないというものだった。


 アザミは二人を起こさないよう静かに部屋を出た。そしてそうっとした足取りのまま宿の外に出る。

 アザミは黒雲の様子が気になっていたのだ。

 宿の主人は信用のおける人物で、馬の扱いも心得ている。

 だから今の時間には馬の世話をやってくれているはずではあるが、やはり自分の馬の世話ぐらいは自分でしておきたい。

 そうしないと落ち着かなくて仕方がなくなってしまうのは、もうアザミの性分と言っていいものだった。


 アザミが厩の異変に気付いたのは、黒雲の異様な嘶きが聞こえてきたからだった。


「黒雲! どうした?」


 まさか馬泥棒? 先制攻撃も厭わない覚悟で駆け出すアザミ。


 馬産地から遠い京の都では、馬は超が付くような高級贈答品として、貴族などに非常に喜ばれるのだ。

 それが分かっていたからこそ、入京時には同行のトウカの立場すらも利用して絶対に間違いが起こらないよう、あらゆる手を尽くしたアザミ。

 それでもこういうことが起こるのであれば、やはり京の治安は、良くなったと言ったところでたかが知れていると言うものだった。


「俺の馬に手を出して無事でいられると思うなよ!」


 勇ましく厩に飛び込んだアザミは、まだ見ぬ馬泥棒を牽制した。

 しかしそうして周囲の気配を探ってみても、それらしい人影は全く見当たらず……


「……勘違い、か?」


 アザミはゆっくりとした足取りで、黒雲の元へと向かった。

 すると――


「ん? うおっ!?」


 足に何かが当たって下を見たアザミ。そうして見てみると、そこに倒れていたのは宿の主人だった。


「どうしたおい!」


 馬泥棒にやられたか? そんな嫌な予感を抱きながら主人を抱え起したアザミ。すると主人が口を開く。


「これはアザミ様。お見苦しいところをお見せして……」

「そんなことはどうでもいい。それよりもどうした?」

「いえ。少しばかり熱を発してしまいましてね、ゴホッ」

「熱?」


 主人の言葉に、額に手を当てるアザミ。

 熱かった。

 少しばかりの熱? とんでもない。こんな高熱を出しておきながら馬の世話をしようだなんて、バカ正直にもほどがある。


「こんなに熱があるんなら休んだっていいんだよ」


 バカな奴だな。と、アザミ。

 そして半ば強引に主人に肩を貸すと、そのまま宿に連れて行こうとするのだが……


「ん?」


 主人の腕に何かが付いていると感じたアザミは、その腕を見た。


「――っ!!」


 言葉を失うアザミ。

 主人の腕に付いていたものとは発疹だったのだ。


アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。戦慄走る。

ナライ ……真・主人公。兄。知らぬが花。

カヤ  ……主人公。妹。知らぬが花。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。京見物中はお留守番。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。京見物中はお留守番。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。京見物中はお留守番。


小波間(こばま) ……(みやこ)の海の玄関口。

(みやこ)   ……秋津島(あきつしま)の中心。朝廷が置かれる。

秋津島(あきつしま) ……物語の舞台となる島。

津留崎(つるさき) ……陸国にある。津留崎家が差配する里。

陸国(りっこく)  ……秋津島最北端に位置する律令国。ナライたちの住む国。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ