第五章之三 青龍門
アザミ ……主人公兄妹の保護者。怪異の類は信じない。
ナライ ……真・主人公。兄。怪異が出ても寝ていられる。
カヤ ……主人公。妹。見た物をそのまま信じられる。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
小波間 ……京の海の玄関口。
京 ……秋津島の中心。朝廷が置かれる。
秋津島 ……物語の舞台となる島。
津留崎 ……陸国にある。津留崎家が差配する里。
陸国 ……秋津島最北端に位置する律令国。ナライたちの住む国。
翌日。
むしっとして寝苦しかった昨夜とは打って変わって、からりと晴れた朝のこと。
「皆様おはようございます。本日のご予定も観光でございますか?」
三人が、地元ではなかなかお目にかかれないような豪華な朝食に手を付けていると、宿の主人が今日の予定を窺いに部屋まで訪れていた。
「ああ。このあとすぐに出るつもりだ」
と、手を止めて対応するのは当然一行の頼れる大将アザミ。
「ではお食事のご用意はいかがいたしましょう?」
「今日も日没までには戻るつもりだ。夕食は用意しておいてくれ」
「畏まりました。それでしたらよろしければ昼食用に弁当を手配しておきますので、お出かけ前にお声掛けください」
アザミは気をまわしてくれた主人に礼を言った。
すると主人はこほこほと咳をしてから、こんなことを言う。
「アザミ様。いかがですかこの京の都は? 今でこそ余所者が観光をしていても誰も咎める者はおりませんが、数年前はそれはもう酷かったのですよ」
「そんなにか?」
「それはもう」
頷いた主人は続けた。
前帝は己の権勢と利欲にしか興味のない人物で、京の治安や役人の汚職などまったく興味がなかったのだと。
しかし、その帝がお隠れになり、皇太子――つまり現帝が擁立されると、彼が最初に手を付けたのが、腐敗しきった京の政を立て直すことだったのだ。
「ふうん。結局この町が良くなるも悪くなるも、すべては帝の気分次第ってわけか」
やはり碌なもんじゃない。――アザミはつまらなそうに呟いた。
「それはそうですが――こほっ……失礼。それでも帝の力は侮れません。これだけ大きな都市を築き上げ、発展させて来られたのも、すべては歴代の帝が朝廷の目指すべき方向をきちんと示すことができていたからでしょう。確かに先帝は暗愚でおわしたかも知れませんが、それはあくまでもたまたまのこと。それが証拠に、朝廷の権威はわずかも揺らいではおりません」
「随分と朝廷の肩を持つじゃないか。ここに店を構えてよっぽどいい思いをさせてもらったか?」
「そう言うことを言っているのではありません――げほっ」
機嫌を損ねたアザミにもおもねらずに、毅然と言い返す主人。
しかしそれもそのはずで、ここの主人は元々陸国の出身。アザミとも少しばかり縁があったのだ。
「……調子悪そうだな。風邪か?」
アザミは主人の体調を気遣った。
「いえ。昨日は寝苦しい夜でしたのでね。恥ずかしながら寝ているうちに布団を剥いでしまったようで、朝起きたら少しばかり喉をやられてしまっていたのですよ」
「そうか。まあ体は大事にしろよ」
長く京に住んでる人間でも寝苦しかったのか。それなら昨夜カヤが眠れなかったのも当然なわけだ。
アザミは納得すると、まだ残っていた飯をかきこんだのだった。
「それで今日はどこ行くの?」
準備を終えた三人が店の外に出ると、真っ先に口を開いたのはナライだった。
「そうだな。今日は東の方を中心に見てみよう。それで時間が余るようなら門の外にまで足を延ばしてみるってのはどうだ?」
「え? 外ですか?」
アザミの提案に疑問を呈したのはカヤだ。
カヤはいくら京が大きいからっても門の外に出たら何もないんじゃ? と、訝しんでいた。
「まあ確かにその通りなんだけどな。けど東門の方だけは外にも見どころがあるらしいんだよ」
俺も行ったことはないが。と、アザミ。
確かに入京した時に使った南門の外側は、特にこれと言うほど何かがあるわけじゃなかった。
それでも宿の主人に、東門の外だけは行ってみる価値があると言われたのだ。
政治的な見解に多少の相違がある相手だとは言え、別にせっかくの厚意を無視する必要もない。
「何もなきゃないで、それも話のネタぐらいにはなるだろ。さ。そうと決まったらさっさと行くぞ。時間は待っちゃくれないからな」
「応! 行こう行こう」
「あ。待って」
足早に出発した男二人を慌てて追ったカヤ。
こうして、三人の京見物二日目は幕を開けたのだ。
東門。東方を守護する青龍の名を冠するこの門は南門ほどの規模ではないが、京の東玄関として相応しいだけの威容を誇っていた。
「ほう」
「へーえ」
「わあ」
東門を見上げた三人は三様のやり方で感嘆の声を上げていた。
「おっきいですね」
「ああ」
カヤの感想に頷いたアザミだ。
しかしその一方で、たかが門に何でこんな金かけてんだ? などと思ったりもしたが、子どもたちの手前、それを言うのは恰好悪い気がしたアザミ。辛うじて言葉を呑み込む。
「でも見に来るほどのモンかな?」
南門の方が広々してて豪華だった。ナライがアザミの心証を一部代弁してくれていた。
「まあ確かにそうだが」
これ幸いと同調したアザミ。
東門は南門に比べると、明らかに間口が狭く小さいのだ。北門と西門がどうなのかはまだ分からないが、やはり南門は正面玄関としての機能があるため特に立派に作られたのだろうか。
すると、そんな三人の様子を見ていた衛士が声をかけてくる。
「いやいや。東門だけは特別なんですよ」
「どういうことだ?」
「外に出て見てもらえば分かると思いますよ」
そう答えると、案内を買って出てくれた案外親切な衛士。
三人は衛士について門の外に出た。
「ほら。これがその理由ですよ」
アザミたちが案内されたのは門のすぐ脇だった。そこには筋骨隆々の戦士のような巨大な木像が設えられていたのだ。
「すっげえ」
「うわ……」
「これは?」
素直に驚く二人を余所に、一人尋ねるアザミだ。
木像の戦士は何かを踏みつけにして、非常に恐ろしい顔をしている。
かと言って、見る者を威嚇しているわけではなく、明後日の方を睨みつけているのだ。
「これは持国様。東北の彼方からやって来ると言われる鬼からわたしたちを護ってくださっているのです」
「東北から……」
「はい」
アザミのちょっとした呟きですら丁寧に拾って答えてくれる衛士。
「じゃあこの踏んづけられてるのがその鬼なんだ?」
「はい。餓鬼、と言うらしいです。私も詳しくは知りませんが、常に飢えに苛まれていて、同胞ですら食ってしまうのだとか」
「なにそれ。怖っ」
「そんなのがいるんですね」
衛士の解説に、ナライとカヤは素直に感心したようだった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。急にムッツリしだした。
ナライ ……真・主人公。兄。楽しい。
カヤ ……主人公。妹。楽しい。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。京見物中はお留守番。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。京見物中はお留守番。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。京見物中はお留守番。
小波間 ……京の海の玄関口。
京 ……秋津島の中心。朝廷が置かれる。
秋津島 ……物語の舞台となる島。
津留崎 ……陸国にある。津留崎家が差配する里。
陸国 ……秋津島最北端に位置する律令国。ナライたちの住む国。




