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北天のアリス  作者: 埼山一
第五章 京
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第五章之二 百鬼夜行

アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。一応京には着いたが、まだ一息吐けていない。

ナライ ……真・主人公。兄。これでなかなか無自覚の気遣いができる。

カヤ  ……主人公。妹。トウカがいるとあまり喋らなくなる。

トウカ ……津留崎のヒカズラの娘。ナライに付いて来させたのは、人生最後の息抜きのつもり。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。


小波間(こばま) ……(みやこ)の海の玄関口。

(みやこ)   ……秋津島(あきつしま)の中心。朝廷が置かれる。

秋津島(あきつしま) ……物語の舞台となる島。

津留崎(つるさき) ……陸国にある。津留崎家が差配する里。

陸国(りっこく)  ……秋津島最北端に位置する律令国。ナライたちの住む国。


 元より一時的な合流だったとは言え、旅の仲間として馴染み始めていたトウカと別れることになった一行。

 彼らはトウカを(みやこ)の公卿・(たちばな)何某(なにがし)の屋敷へと送り届けると、その足で京見物に繰り出していた。


 初めて見る京の景色に、何でもない大路小路(おおじこうじ)にすら興奮を覚えるナライとカヤ。

 連れて来た甲斐があったと安堵するアザミ。

 そんなこんなで、京最初の一日が終わろうとしていたのだが、これはその日の夜。草木も眠る丑三つ時でのこと……




「あれ? ……先生?」


 不不意に目を覚ましたカヤは、窓辺に座って空を見上げるアザミを見つけると、そう声をかけていた。

 アザミはもうこんな時間だと言うのに、いまだに寝ようともせず、一人窓から月をぼうっと眺めていたのだ。


「お? なんだ。起こしたか?」

「いえ。ただちょっと寝苦しくって」


 暑いから水を飲みたいと、そんなことを言ったカヤ。


「ああ。今日はちょっと蒸し暑いもんな」


 その言葉にアザミは得心した。

 なるほど。ここよりはるか北の地からやって来たばかりのカヤたちなのだ。ナライみたいな図太い性格でもなければ、京の蒸し暑さに寝つきが悪くなっても無理はない。


「先生はどうして起きてるんです? あ。もしかして先生も暑くて眠れないとか?」


 カヤはアザミに尋ねた。

 そして彼女は予め枕元に置かれていた甕の水を、二つの椀に同じ量だけ注ぐと、そのうちの一つをアザミへと手渡したのだ。


「いや。ちょっと昔のことを思い出してな……」


 椀を受け取りながら少し寂しそうに答えたアザミ。


「昔?」


 カヤはキョトンとして聞き返していた。

 アザミの口から「昔」の話が出てくるのはとても珍しい事なのだ。


「ああ。お前たちが生まれるより前のことだな」


 そう答えるアザミ。そして彼は、どこか遠い目をして月を眺める。


「ねえ先生。先生って昔、京に来たことあるんですよね?」


 カヤは思い切って尋ねてみた。

 アザミにとって「昔」とは、あまり触れられたくないことらしいのは何となく分かっていたカヤだが、今この期を逃したらもう二度と聞けないのでは? と、そんな気がしたのだ。


「ああ。て言っても若い頃に一度だけ。それも二日と持たずに帰ってきたけどな」


 しかしアザミは案外普通に答えてくれていた。


「え? どうして?」

「さあてなあ。結局、俺には京の水は合わなかった――ってトコじゃないか?」

「はあ……」


 あまり「昔」のことを話したがらないアザミに、これ以上のことを聞いていいものか? ――迷ったカヤは、結局アザミと同じような目で月を眺めるしかないのだった。



「あれ?」


 カヤが不意にそんな声を上げたのは、見ていた月が叢雲に隠れた丁度その時だった。


「どうした?」

「先生。なんですかあれ?」


 アザミの問いに、窓の外、左のはるか遠くの方を指差したカヤ。

 この部屋は三階にある。何か物を見るには困らない高さだが、それにしたって、こんな夜中にそんなに遠くの方を指差されてはアザミだってすぐには見つけられないわけで。


「あれ……あースマン。どれだ?」


 カヤの見つけたものが見つけられないアザミはあらためて聞き直していた。


「ほら、あっちの、えと……向こうにおっきな横道があるじゃないですか」

「青龍大路のことか?」


「はい。たぶん。で、今それを東から西に進んでるんですけど……あ、朱雀大路に入りましたね。こっちに来るみたい」

「……?」


 アザミはカヤに言われた方をジィッと睨み据えていた。


 青龍から朱雀に入ってこっちに向かって来る? いや。しかしそれらしいものは何もないように見える。

 でもカヤはそんな冗談を言うような娘ではないし、そう言えばさっきから、何か騒がしいものがこっちの方にやって来るような気が……


「東から入って南に出て行こうとするだと?」

「あ。はい」

「――っ!? カヤ!」


 カヤの返事を聞いたアザミは、突然カヤに覆い被さっていた。


「きゃっ!? な、なに先生――」

「しっ! いいから! 動くな。音も立てるなよ」

「え? え?」


 訳も分からず成すがままのカヤ。

 アザミは、カヤを何かから匿うように覆い被さっている。

 アザミは限界まで息を殺しながら、外の気配を窺っていた。

 すると、カヤの言ったとおり、謎の一団が宿のすぐ外の大路を通過しているような気配がして……




「ふう……行ったか……」


 一団の気配が完全に去ったことを確認したアザミは、やっとのことでカヤの上から退いていた。


「な、なんですか急に?」

「ああスマン。ちょっと嫌な予感がしたもんでな」

「予感?」

「ああ。カヤが見た一団にちょっと心当たりがあってな」


 そう告げたアザミは汗をぬぐいながら続けた。


「たぶんあれは百鬼夜行だ」

「え? ひゃっき……なんです?」


 聞いたことのない単語に戸惑うカヤ。


「百鬼夜行。俺もなんて説明したらいいのか分からんが……まあとにかく災いの先触れみたいなもんだ」

「はあ……」

「それにしてもまさかあんな物が実在したとは……」

「てとこは、先生も見たのは初めてなんですか?」

「ああ。そもそも俺は、あんなの迷信か、さもなきゃおとぎ話だと思ってたからな」

「ふうん。じゃあやっぱり気のせいだったんじゃ……?」

「二人して同じ物を見たのにか? ハハ……だといいんだがな」


 カヤの言葉に、アザミはそうあって欲しいものだと笑ったのだった。


アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。現実主義者。

ナライ ……真・主人公。兄。よく寝てる。

カヤ  ……主人公。妹。感覚が鋭い。

トウカ ……津留崎のヒカズラの娘。無事目的の公家の所に収まった。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。


小波間(こばま) ……(みやこ)の海の玄関口。

(みやこ)   ……秋津島(あきつしま)の中心。朝廷が置かれる。

秋津島(あきつしま) ……物語の舞台となる島。

津留崎(つるさき) ……陸国にある。津留崎家が差配する里。

陸国(りっこく)  ……秋津島最北端に位置する律令国。ナライたちの住む国。


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