第四章之十八 ナライの夢
アザミ ……主人公兄妹の保護者。ええかっこしい。
ナライ ……真・主人公。兄。意外と気が利くときがある。
カヤ ……主人公。妹。内弁慶なせいで、出番が減っている。
トウカ ……津留崎のヒカズラの娘。人質として一路、京へ。ナライと相性がいいっぽい。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。兄妹の母の元へ手紙を届けに向かう。
鹿頭 ……名をアイナ。序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。
安賀多 ……氷見沢最寄りの港町。西にある。
小波間 ……京の海の玄関口。
京 ……秋津島の中心。朝廷が置かれる。
秋津島 ……物語の舞台となる島。
賀来礼 ……アザミの家がある所。
津留崎 ……津留崎家が差配する里。
陸国 ……秋津洲最北端に位置する律令国。今まで訪れた場所はすべて陸国内。
これは、小波間と京の中間にある小さな宿場町でのこと――
世界のすべてが夢の中の住人となっている丑三つ時。
「う……あ……うわぁっ!?」
旅の疲れですっかり夢世界の住人の一人となっていたはずのナライは、妙な夢にうなされ、がばっとその体を起こしていた。
「はっ……はっ……」
月明りにうっすらと照らされた二人部屋。
何をしたわけでもないのに息が上がっている。それに、暑いと言うわけでもないのに背中が汗でびっしょりだ。
「アテ……ルイ……?」
ナライはどこかで聞いたような単語を口に出していた。
――アテルイってなんだ? 何処で聞いたんだ? 夢? 夢の中で聞いた? けど、それが何を指す言葉なのかさっぱり思い出せない。
それにしても、変な夢だった。辛くて悲しい夢。
どんな夢だったっけ……?
あれ? それがどんなふうに辛くて悲しかったのか、まるで思い出せない。
「……アザミ?」
ナライは隣に寝ているはずの保護者兼師匠に目を向けた。
陽の光とは比べ物にならないぐらい弱い月の光の中、自分に背を向けたアザミは静かな寝息を立てている。
「アザ……いや。いっか」
一度の呼びかけでは起きそうにないアザミを、そのままにしておくことにしたナライ。
起こしたところで何か用事があるわけじゃない。
旅に次ぐ旅で、アザミだって疲れてるはず。船中じゃ碌に寝てもいなかったみたいだし、そっとしておく方がいいだろう。
「ふうう~……」
一度ゆっくりと息を吐いたナライ。そしてまた床に就く。
京まであと半日弱。気分よく京に入るには、ここでグダついて寝不足になるわけにはいかなかった。
翌日。
「ねえアザミ」
今日もまたトウカと一緒に馬上の人となっていたナライは、先頭を行くアザミに追いつくと、声をかけた。
「なんだ?」
「アテルイって何?」
昨日見た夢の中で、唯一憶えていた単語を口に出したナライ。
するとアザミ、ナライの質問にひどく驚いた様子で。
「アテ、ルイ……だと?」
「うん」
ナライは目を剝いて聞き返してきたアザミに、素直にうなずいた。
すると、
「あの。ナライ様」
と、アザミより先に口を開いたのは後ろで聞いていたトウカで。
「その言葉は少し、その……」
トウカは少しだけ悲しそうな表情で、ナライのことを咎めていた。
「あれ? もしかしてトウカさん、アテルイって何か知ってるの?」
「え? ええ。まあ……」
ナライの言葉に頷きはしたものの、どうしたものかと逡巡している様子のトウカだ。
すると今度はアザミの方が、そんなトウカを制してナライに言うのだ。
「お前、どうしたんだ急に?」
なんてことない疑問のように尋ねたアザミ。
「え? アザミなら知ってるかなって思ったんだけど」
「そうか……」
「で、アザミはアテルイって何か知ってる?」
「ああ」
ナライの質問に、アザミは昏い顔をしながら答えた。
「アザミ?」
立て続けに渋い反応を示す大人二人に、首をかしげたナライだ。
――二人とも一体なんなの、さっきから。もしかして、アテルイってあんまり良くない言葉だったのかも。
でもそれならそれで、良くない言葉だってちゃんと教えてくれれば、自分だってやたらと使ったりはしないのに。
大人二人にあまり信頼されていないらしいことで、ちょっとだけ傷付いたナライ。
しかしアザミ、しばらくの間閉じていた目を開いたかと思うと、重々しく口を開いて、
「人……の、名前……だな」
とだけ、告げたのだ。
「あ、そうなんだ」
アザミの回答にナライは返事した。
「ああ」
「でもオレ、そんな名前全然聞いたことないけど」
「まあ最近じゃ聞かなくなった名だからな」
「じゃあ昔はいっぱいいたんだ?」
「いっぱいってことはないが……まあ、いたな」
「ふうん」
あまりにも何でもなさすぎる答えに、拍子抜けしたナライだ。
――だったらなんでそんなに渋ってたのさ?
一つ、言葉の意味を知ったことでかえって疑問が湧いてくるナライだったが、そんな彼に、今度はアザミの方から質問が飛ぶ。
「でもお前、一体どこでそんな言葉聞いたんだ?」
「え?」
聞かれてちょっと戸惑ったナライ。
夢の中で聞いた。――なんて言えない。いや。勿論、言ったって別にいいはずなのだけど、深刻そうなアザミの顔を見ていると、それを言ってはいけないような気がしたのだ。
「えっと……さあ?」
ナライははぐらかした。
「は?」
「オレにもよく分かんないんだよ。たぶん、昔どっかで聞いたのを思い出した。とかなんだと思うんだけど」
「ハハ……なんだそりゃ?」
ナライのヘンテコな回答に、アザミは少しだけ笑ったようだった。
「なあナライ、カヤ」
と、アザミが二人に声をかけてきたのは、京へ続く最後の峠を越えようかと言う時になってのことだった。
ここを越えれば、京の全景が一望できる展望台がある。――そう聞かされて、気分が上がっていた二人。
『何?』
と、異口同音にアザミの方を見る。
「さっき、ナライが言ってた名前のことだがな」
アザミは切り出した。
「名前ってアテルイのこと?」
「ああ。もう人前で口に出したりするなよ」
「え? なんでさ?」
「なんでもだ。特に京にいる間は絶対に口にするな。約束してくれ。トウカさんも、お願いします」
「ええ。心得ております」
『???』
自分たちを差し置いて勝手に得心している大人二人に、ナライとカヤはお互いに目を合わせて首をかしげるのだった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。昔の話は嫌い。
ナライ ……真・主人公。兄。たまに変な夢を見る。
カヤ ……主人公。妹。内弁慶なせいで、いよいよ出番が減っている。
トウカ ……津留崎のヒカズラの娘。人質として一路、京へ。別れが近い。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。兄妹の母の元へ手紙を届けに向かう。
鹿頭 ……名をアイナ。序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。
安賀多 ……氷見沢最寄りの港町。西にある。
小波間 ……京の海の玄関口。
京 ……秋津島の中心。朝廷が置かれる。
秋津島 ……物語の舞台となる島。
賀来礼 ……アザミの家がある所。
津留崎 ……津留崎家が差配する里。
陸国 ……秋津洲最北端に位置する律令国。今まで訪れた場所はすべて陸国内。




