第四章之十七 道中 -小波間~京-
アザミ ……主人公兄妹の保護者。船酔いだけはどうしてもダメ。
ナライ ……真・主人公。兄。航海中まったく退屈していない。
カヤ ……主人公。妹。船中では一言も発せず。
トウカ ……津留崎のヒカズラの娘。人質として一路、京へ。実はちょっとだけ船酔いしてたけど、気丈に振舞っていた。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。兄妹の母の元へ手紙を届けに向かう。
鹿頭 ……名をアイナ。序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。
安賀多 ……氷見沢最寄りの港町。西にある。
小波間 ……京の海の玄関口。
京 ……秋津島の中心。朝廷が置かれる。
秋津島 ……物語の舞台となる島。
賀来礼 ……アザミの家がある所。
津留崎 ……津留崎家が差配する里。
陸国 ……秋津洲最北端に位置する律令国。今まで訪れた場所はすべて陸国内。
「それじゃ、世話になったな。帰りもまた頼むから、勝手に帰ったりするなよ?」
桟橋に降り立ったアザミは、船頭に船賃を手渡しながら言った。
「へい。無事のお帰り、お待ちしてやす」
と、渡された袋を受け取りながら答えた船頭。
――ここは小波間。
京の海の玄関口として栄える秋津島最大の港町だ。
ここから京までは徒歩でおよそ一日強の距離で、全国各地から運ばれてくる物の往来も盛んで実に賑やかしい町だった。
「でも旦那。冬の一日目までには戻ってきてくだせえよ? 船を北にやるにゃあ南西の風が欠かせねえんだ。もし木枯らしが吹いちまったらオレたち全員、春一番までここで立ち往生することになっちまう」
「勿論分かってる。もし秋の最後の日になってもオレたちが現れなかったら、その時は置いてってくれていいぞ」
念を押す船頭に、アザミはそれだけ告げると桟橋の向こうで待っていたナライたちの元に向かったのだった。
「終わった?」
「ああ。待たせたな。じゃ、行こう」
アザミはナライの腰のあたりをポンと叩くと、そのまま主を待っている黒雲の元へと向かった。
ナライは少しでも早く京が見たくて気が急いているのか、既に馬上の人だ。
そしてその様子を見ていたカヤも、はるかぜに跨る。
しかし、そうなると一つ問題が。
それは一行の人数と馬の数が合わないことで。
「なあトウカさん。悪いが、アンタはオレと一緒に黒雲に乗ることになるが、構わないよな?」
アザミは、このままでは一人だけ歩きになってしまうことになるトウカに尋ねた。
一行の中でトウカだけは、自身の馬を持っていなかったのだ。それどころか彼女、乗馬の心得すら満足に無いらしい。
しかしトウカは、アザミの問いにふるふると首を振ると、ちょっと申し訳なさそうに答える。
「いいえ。大変申し上げにくいのですが、アザミ様と同じ馬にと言うのは……さすがに、その……」
トウカにしては珍しく歯切れの悪い言い方だった。
どうやら彼女、津留崎家のご令嬢なだけあって、大人の男性であるアザミとの距離が近くなりすぎることを懸念している様子だった。
「あー、でも一人だけ歩きってわけにもいかないしなあ……」
提案を渋られたアザミは困った。
ナライたちに少しでも長く京見物の時間を確保してやりたいアザミにとって、京までの道中は全員が馬上の人になるのが最良の策なのだ。
トウカの意見は、個人のわがままと断じてしまえるほどに道理の通らない要求ではないが、さりとて「はいそうですか」と受け入れるにはちょっと都合が悪い。
するとトウカも、自分だけのために一行が不利を被るのは良しとしなかったようで、
「ではナライ様。貴方の御乗馬にわたくしを乗せて頂けますか?」
と、トウカはナライに尋ねていた。
「え? オレ?」
「はい。お願いできますか?」
微笑み、お願いするトウカ。
「……オレは別にいいけど、だったらカヤの方がいいんじゃない?」
トウカのお願いに困惑したナライはそう提案した。
ナライはトウカが黒雲に乗りたがらない理由をちゃんと理解していたのだ。
しかしそれを聞いて一番ギョッとしたのはカヤだ。
急に降って湧いた災難に「何言い出すの!?」と、驚きの表情でナライを睨みつけていたが、トウカはそんなカヤの気持ちを知ってか知らずか首を振って答える。
「いいえ。カヤ様の御乗馬はナライ様のそれに比べますと明らかに小柄のようです。そこに二人が乗ってしまっては御乗馬には少々酷と言うものですわ」
「ふーん……ねえアザミ! 別にいいよね?」
「ああ。お前と疾風が構わないって言うんなら、悪いがそうしてやってくれ」
トウカに説得されたナライは、アザミの了解を取った。
こうして割り振りの決まった一行は、京に向けて残り僅かな道のりを出発したのだ。
「ねえトウカさん」
と、ナライが自分の後ろに乗っているトウカに話しかけたのは、一行が峠を一つ越えた時のことだった。
「はい。なんでしょう?」
「アザミ、もう大丈夫なんだよね?」
「ええ。何の問題もございませんわ」
雑な尋ね方をしてきたナライに、同じように答えたトウカ。
今、アザミは一行の先頭に立っていて後ろ姿しか見ることができない。しかしその背中はぴんと伸びていて、誰かに心配されるような状態には見えなかった。
するとナライは言う。
「ならいいんだけどさ。船乗ってる間、アザミずっとキツそうだったから」
「あの病は地に足が着くとたちどころに治ると聞きます。ですからもう何も心配はいらないでしょう」
質問の意図を説明してきたナライに、同じように説明したトウカだ。
トウカは、ナライが何を知りたくてそんなことを聞いてきたのか、その意図を最初から分かっていた。
しかしアザミが船酔いのことをナライたちにひた隠しにしたいらしい以上、ナライが把握している以上のことを教える気はなかったのだ。
しかしナライの言い様を見ていると、どうやらアザミのやせ我慢も全くの徒労だったようで。
「ナライ様はアザミ様が船に負けて、気分が宜しくないことを気付いてらしたのですね」
これ以上の隠し立ては無用。と、悟ったトウカは逆にナライに尋ねた。
「え? そりゃ気付くでしょ?」
「ですがアザミ様は、ナライ様たちにはそのことを知られたくなくてひた隠しにしていたのですよ?」
「そうなの? なんで?」
「さあ? そこまでは存じ上げませんが、何かあの方なりの意地のようなものでもあったのではないでしょうか」
「ふーん」
トウカからアザミの暴露話を聞かされたナライは、少し考え込んだ。そして、
「……じゃ、オレがアザミが船に酔ってたって知ってたってこと、アザミには言わない方がいいかな?」
「でしょうね。このことは二人だけの秘密といたしましょう」
こうして、図らずも共通の秘密を持つことになった二人。
それは日の傾きが強くなり、今日はこの辺で一泊しようかと言う時分のことだった。
アザミ ……主人公兄妹の保護者。船酔いから生還。
ナライ ……真・主人公。兄。意外と目端が利いている。
カヤ ……主人公。妹。内弁慶なせいで、出番が減っている。
トウカ ……津留崎のヒカズラの娘。人質として一路、京へ。淑女らしく振舞う人。
ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。
イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。兄妹の母の元へ手紙を届けに向かう。
鹿頭 ……名をアイナ。序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。
黒雲 ……アザミの愛馬。黒い。賢い。
疾風 ……ナライの愛馬。茶色い。
はるかぜ……カヤの愛馬。白い。
深沢 ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐のために詰めている村。
氷見沢 ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。
安賀多 ……氷見沢最寄りの港町。西にある。
小波間 ……京の海の玄関口。
京 ……秋津島の中心。朝廷が置かれる。
秋津島 ……物語の舞台となる島。
賀来礼 ……アザミの家がある所。
津留崎 ……津留崎家が差配する里。
陸国 ……秋津洲最北端に位置する律令国。今まで訪れた場所はすべて陸国内。




