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北天のアリス  作者: 埼山一
第四章 深沢~京へ
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第四章之十六 船上

アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。トウカに頭が上がらない。

ナライ ……真・主人公。兄。トウカはアザミの客人だと思ってる。

カヤ  ……主人公。妹。トウカに警戒心。

トウカ ……津留崎のヒカズラの娘。人質として京へ向かいたい。アザミに不信感。

ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。

イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。兄妹の母の元へ手紙を届けに向かう。

鹿頭(しかあたま) ……名をアイナ。序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。


深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐(ぞくととうばつ)のために()めている村。

氷見沢(ひみさわ) ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。

安賀多(あがた) ……氷見沢最寄りの港町。西にある。

小波間(こばま) ……(みやこ)の海の玄関口。

(みやこ)   ……秋津島(あきつしま)の中心。朝廷が置かれる。

秋津島(あきつしま) ……物語の舞台となる島。

賀来礼(かくれ) ……アザミの家がある所。

津留崎(つるさき) ……津留崎家が差配する里。

陸国(りっこく)  ……秋津洲最北端に位置する律令国。今まで訪れた場所はすべて陸国内。


 二日後――




「うっわあ……すっげえ……」


 好天の下。全身に吹き付ける風の強さにナライはひどく感動していた。


「どうだいボウズ? オレの船の乗り心地はよ?」

「うん! もう最っ高!」


 船頭の問いに興奮気味に答えるナライ。

 今、ナライたち一行は小波間(こばま)行きの船上の人となっていたのだ。


「オレにもなんかやれることない? オレも船動かしてみたい!」


 興奮するとじっとしていられない性分のナライだ。何か体験させてもらえないかと申し出たのだが、


「ははは。その意気は買うが、素人に操れるほど船ってのぁ甘かぁねえのよ」


 ナライの申し出を船頭はきっぱりと断った。


「どうしても動かしたきゃあ、ちゃあんとした師匠に弟子入りして丁稚(でっち)から始めるこった。そうすりゃ、十年経つ頃にゃあボウズもいっぱしの船乗りになってこの広え海原を走り回ってるだろうよ」

「十年かあ……そんなには待てないかなあ」


 気の長すぎる話に、操船を諦めたナライ。そして今度は船首へと向かう。


「おいボウズ! あんまり走り回ってっと船から落っこっちまうぞ!」

「大丈夫だって――うわっ! とととっ……」


 よろけたナライ。慌てて手すりにしがみつく。


「ほれ言わんこっちゃねえ……おいボウズ! 船から落ちる時はちゃんと落ちるって言えよ! じゃねえと誰にも気付いてもらえねえで魚の餌になっちまうからな!」

「分かった! 落ちる時はちゃんと言うようにする!」

「ホントに分かってんのかねえ……」


 そもそも落ちてはいけない。――それでも走ることを止めようとしないナライを見て、船頭は苦笑するしかないのだった。




 その一方で。

 元気に走り回るナライの様子を羨望と呆れの目で見ていた者が一人。


「あいつ……何であんなに元気なんだ……?」


 それはアザミだった。アザミは手すりにもたれかかりながら、その様子を見ていたのだ。そして、


「……っう……」


 船から体を乗り出して胃の内容物を全部吐き出すアザミ。


「……っ……はぁ……はぁ……」


 もう腹の中には何も残っていないと言うのに、まだ気持ち悪い。

 この世の終わりを目の当たりにしているみたいに顔面が蒼白になっているアザミだ。


「ねえアザミ! 船ってこんなに速いんだな! オレ、知らなかった」


 船首から一転してアザミの元にやって来たナライがそんな感想を述べていた。


「そうか……それは良かったな……う……」

「……? アザミ、どうかしたの? なんか顔色悪いけど?」

「いや? なにもないが? ……それよりもナライ。お前、暇持て余してるならカヤの面倒を見ててくれないか……?」

「でもカヤにはトウカさんがいるじゃん」

「一人じゃ手が回らないこともあるだろう? いいから行ってくれ……」

「はあい」


 素直に船室に戻っていくナライを見送るアザミ。そしてナライが船室に消えたのを確認するとまた、


「う……」


 と、アザミはまた身を乗り出す。

 そしてもう何も出す物がないと分かっているのに嘔吐する。


 こうなることが分かっていたから陸路が良かったのだ。

 それが()()()()()()()()のせいで強行日程になってしまい、こんな目に。


「それもこれも全部あの野郎に出くわしちまったせいだ。くそ……」


 日程が狂った最大の要因、鹿頭(しかあたま)のことを思い浮かべて、胸のあたりが焼けてくる思いのアザミだった。




「トウカさん! なんか手伝えることある?」


 ナライが元気よく船室に入って行くと、トウカは無言で人差し指を口元に当てていた。


「今やっと落ち着いたところですから」

「あ。うん」


 自分の騒がしさに気付かされて声を抑えたナライ。

 トウカの前では、濡れ手拭いで目元を覆ったカヤが眠っていたのだ。


「トウカさん、なんかごめん。トウカさんはアザミのお客さんなのにオレの妹の面倒看てもらっちゃって」


 と、トウカの横に腰を下ろしたナライ。


「構いません。それにしても、カヤ様はとても気持ちの強い方なのですね。船酔いとは大変につらいものだと聞き及びましたが、泣き事ひとつ漏らされないなんて」

「そう? 単に強情なだけじゃない?」


 トウカが褒めてくれたカヤの長所をあっけらかんと短所に置き替えるナライ。


 カヤとは生まれた時から一緒にいるのだ。だから今さら、ここが良いだとか、ここが悪いだとか評されてもちっとも実感が湧かない。


「でさ。オレ、なにすれば()?」


 ナライは尋ねた。

 元々そのために戻って来たのだ。やることがないなら甲板に出て、どこまで続いてるのか分からない水平線とか、船員の作業とかを見ている方がずっと面白い。


「では少しだけ、カヤ様に付いていてあげてください。わたくし少々外しますので」


 トウカはカヤをナライに任せると船室を出たのだった。




「アザミ様」


 精も根も尽き果てたアザミが、手すりに背を預けてぐったりしていると、声をかけてきたのはトウカだった。


「おう……アンタか……」


 あまり相性の良くないトウカを相手にしても、気を張る余裕すらないアザミ。


「お加減はいかがですか?」


 トウカはアザミに寄り添った。

 一行の中で一番船酔いに悩まされていたのはアザミだと知っていたトウカだったが、子どもたちの手前、無理を押してでも平気を装うアザミに気を遣って、あえてカヤの看病に当たっていたのだ。


「お水。持ってきたのですが、飲めますか?」


 トウカは持ってきた水筒を手渡してから、彼の額にへばりついている汗を羽二重の布でぬぐい取った。


「悪いな……手をかける」

「そんなこと……」


 しおらしすぎるアザミに困惑気味のトウカ。


「こんなことでは、案内人などと、とても呼べませんわ。もし、今この瞬間にわたくしが暴漢にでも襲われたら貴方はどうなさるのです?」

「そん時は、その野郎を道連れに海にでも飛び込んでみるかな」


 喋るのもやっとのくせにそんな強がりを言って見せたアザミ。

 トウカはそんなアザミに、一度引き受けた仕事は必ず完遂すると言う彼の矜持を垣間見たのだった。


アザミ ……主人公兄妹(きょうだい)の保護者。船酔いチャンピオン。

ナライ ……真・主人公。兄。船上無双。

カヤ  ……主人公。妹。グロッキー。

トウカ ……津留崎のヒカズラの娘。人質として一路、京へ。アザミが頼りなさ過ぎてため息が出る。

ヤクト ……兄妹の父。深沢で一軍の将みたいなことやってる。アザミへの信頼が大きい。

イサル ……ヤクトの下で働く兵。ナライとカヤの友人。兄妹の母の元へ手紙を届けに向かう。

鹿頭(しかあたま) ……名をアイナ。序章に出てきた賊徒たちの元頭領。アザミと秘密同盟を結んだ。

黒雲(くろくも)  ……アザミの愛馬。黒い。賢い。

疾風(はやて)  ……ナライの愛馬。茶色い。

はるかぜ……カヤの愛馬。白い。


深沢(みさわ)  ……主人公兄妹の父・ヤクトが賊徒討伐(ぞくととうばつ)のために()めている村。

氷見沢(ひみさわ) ……主人公兄妹の故郷。近年の賊徒騒ぎで人が減っている。

安賀多(あがた) ……氷見沢最寄りの港町。西にある。

小波間(こばま) ……(みやこ)の海の玄関口。

(みやこ)   ……秋津島(あきつしま)の中心。朝廷が置かれる。

秋津島(あきつしま) ……物語の舞台となる島。

賀来礼(かくれ) ……アザミの家がある所。

津留崎(つるさき) ……津留崎家が差配する里。

陸国(りっこく)  ……秋津洲最北端に位置する律令国。今まで訪れた場所はすべて陸国内。


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